これは京(きょう)の都(みやこ)でのお話しだ。京ではいにしえから魑魅魍魎(ちみもうりょう)が闊歩(かっぽ)していたという。中でも、人を食(く)らう鬼(おに)は人々から恐(おそ)れられていた。それは、現代(げんだい)になっても――。
夜、京の街(まち)を歩いている男がいた。少し離(はな)れたところに別(べつ)の人影(ひとかげ)が…。男は、どうやらそれに気づいているようだ。男は人通りのない路地(ろじ)へ入って行く。そこは街灯(がいとう)もなく薄暗(うすぐら)かった。しばらく歩くと、男は立ち止まって振(ふ)り返った。後をつけていた人影は女だった。突然(とつぜん)のことに、女は身(み)を隠(かく)す間(ま)もなく立ちつくした。
男は言った。「誰(だれ)だ? 俺(おれ)に何か用(よう)でもあるのか?」
女はどうするか迷(まよ)っているようだ。男は女に近づきながら、
「俺のことを知ってるのか? 忘(わす)れろ、その方が身のためだ」
女は意(い)を決(けっ)してバッグからナイフを取り出した。そして、男めがけて突(つ)き進(すす)んだ。
女が目を開(あ)けると、ナイフは男の手の中に握(にぎ)られていた。女はナイフを引き抜(ぬ)こうとしたがびくともしない。男はナイフを強(つよ)く握りしめた。どういうわけか、男の手から血(ち)が流(なが)れることはなかった。女がナイフから手を放(はな)すと、男はそれを路地の暗(くら)がりに放(ほう)り投(な)げた。
「どういうつもりだ?」男は女を見つめて呟(つぶや)いた。「めんどくせぇなぁ…」
男の顔が赤黒(あかぐろ)くなって、頭から二つの角(つの)が現(あらわ)れた。そして、男の身体(からだ)が大きくなっていく。女は恐怖(きょうふ)で身動(みうご)きもできなくなっていた。大きな太(ふと)い手が女の身体をつかみあげると、大きな口の中へ押(お)し込んだ。後(あと)には何も残(のこ)らなかった。
<つぶやき>女は鬼の存在(そんざい)を知ってしまったようです。どうして一人で立ち向(む)かったのか?
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「大空に舞え、鯉のぼり」3
「こらっ!」突然、ゆかりが叫んだ。「高太郎、何してんの」窓から高太郎君が顔を出す。「さっきから、こそこそこそこそ」
「いいだろ別に何してても…。そっちこそ何してんだよ」
窓越しに言葉が飛び交う。
「私たちはいま大事な話をしてるの。邪魔しないでね」
「どうだか…。迷惑かけてるんじゃないの」
「そっちこそ、覗いてたくせに」
「…誰が覗くか。お前さ、その性格なおした方がいいよ。ちょっとはその子見習って…」
「その子って? 誰のことかなぁ?」
「誰って…。ほら、その、隣にいる…」
「あんたさ、さくらのこと好きなんでしょう」
<えっ? そんな!>私は慌てて…、「私は違うから、そんなこと…」なに言ってるんだろう、私…。
「さくら、ほんとにこんなんでいいの? こいつ性格悪いよ」
<もう、ゆかりったら…。>
「お前に言われたくないよ。だいたいな、昔っからそうなんだよなぁ。いつも人に責任押しつけて。作じいの柿、盗んだときだって…」作じい? どっかのおじいさん?
「えっ、何のこと? 忘れちゃった」ゆかり、何したんだろう?
「なんにも知らない俺に、これあげるって言って柿、渡しただろ。俺が盗んだって思われて、作じいにむちゃくちゃ怒られたんだからな」
「あんたが鈍くさいからよ」
<それ違うよ、盗んじゃだめ。>
「ねえ、さくら。いいこと教えてあげる」
<えっ?> 私、ついていけない。
「高太郎ね、木から下りられなくなってビーィビーィ泣いたことあるの。可笑しいでしょう」
<えっ、そうなんだ。>
「なに言ってるんだよ。あれは、お前が下りられなくなったから、助けに行ってやったんだろう。忘れたのかよ」優しいとこもあるんだ。
「あれ、そうだったっけ? でも、情けないよなぁ。下見て足がすくんじゃって…」
「お前が、あんなとこまで登るからだろ」そんなに高かったのかな?
「まったく、都合の悪いことはいつも忘れるんだよなぁ」
この二人、仲が良いのかな? 悪いのかな? いつも喧嘩ばかりしている。でも、二人とも楽しそうだ。相手のことが分かっているから、何でも言い合えるのかな? 私もこんな風になれるといいなぁ。二人の話には割り込めない。私はただ笑って見ているだけ。
<つぶやき>幼なじみっていいですよね。何でも言えるし。でも、近すぎるとかえって…。
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とある小国(しょうこく)から、宇宙船(うちゅうせん)を打(う)ち上げるというニュースが飛(と)び込んできた。このニュースで世界中(せかいじゅう)は大騒(おおさわ)ぎになった。今までこの国で宇宙計画(けいかく)が進(すす)められていたなんて誰(だれ)も知らなかったのだ。そこで、マスコミがこの国に殺到(さっとう)した。
でも、そう簡単(かんたん)には入国(にゅうこく)できない。なぜなら、この国は鎖国(さこく)をしているのだ。唯一(ゆいいつ)、隣国(りんごく)とわずかな交易(こうえき)をしているだけ。このニュースもここら辺(へん)から流(なが)れてきた噂(うわさ)のようだ。果(は)たして、信憑性(しんぴょうせい)があるのかどうか…。隣国で粘(ねば)っていた記者(きしゃ)たちの中からも<がせネタ>だろうと引き揚(あ)げて行く連中(れんちゅう)が出始(ではじ)めた。
そんな時、別(べつ)の噂が流れ始めた。それは、この小国の国境(こっきょう)近くでUFOが頻繁(ひんぱん)に目撃(もくげき)されているというのだ。しかも、この国が鎖国を始めるかなり前から…。だとすると、その頃(ころ)から宇宙人(うちゅうじん)がこの国にやって来ているのではないか。宇宙船というのも、裏(うら)で宇宙人が協力(きょうりょく)しているはずだ。さらには、この国の国民(こくみん)は他(ほか)の星(ほし)から移住(いじゅう)してきた宇宙人だ、とまで…。これもかなりの眉(まゆ)つばものだ。
残(のこ)っていた記者たちは何とか入国できないかと手をつくしていた。だが、国境の警備(けいび)が以前(いぜん)より厳(きび)しくなって、完全(かんぜん)に取材拒否(しゅざいきょひ)されてしまった。こうなってしまっては、国境近くで張(は)り込むしかない。小さな国なのでロケットが飛んで行く痕跡(こんせき)が撮影(さつえい)できるかもしれない。記者たちの努力(どりょく)は報(むく)われるのか? ここは気長(きなが)に待つしかなさそうだ。
<つぶやき>宇宙へのあこがれ…。ロマンですよね。でも、地上(ちじょう)の方が…私は好きです。
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