ちなみに今回のボツ救済ポイントはさりちゃんのご高説です。
彼女の言ってる10年前の仮面ライダーって、あれよあれ。うん。あれよ?
まあそんなわけで続きでどうぞ。
面倒臭い女
「なあ、繭子。お前クリスマスって予定あるか?」
「なによ、クリスマスって。クリスマスとかハロウィンとか小さい子供のためのものじゃないの?それこそ「カップルが浮かれさわぐ日」なんてバブル時代の人間?」
と、何気なく声をかけてきた円城くんに対してなんだか可愛くない対応をしてしまった私だった。
さすがの円城くんも少し押し黙って少しもごもごしながら言った。
「そんな大層なもんじゃなくって、ちょっとイルミネーション見て歩くとか…」
「イルミネーションって言っても、木に電気とかつけてたら木が痛むっていうし、それほど魅力は感じな…あ、ごめんなさい、私って面倒臭い?」
今更ながら赤くなってほおを押さえたが、円城くんは実にあっさりとして言った。
「まあ、繭子がめんどくさいのって今更だしなー」
………な、に、そ、れ…。
めんどくさくてごめんって言おうとしたのに言おうとしたのに!!
しかもいうだけ言ってさっさといなくなるんじゃないわよ、ばかっ。
自分が可愛くないなんて十分わかってるわよ!ああ、もう。
「って、ことが今朝あって…」
と、昼休みに中庭でお弁当広げながらうーさんやさりちゃんと話してそれとなく意見を聞いてみることにした。
「えー!それ、繭子さん悪くないですよ」と、お弁当を開けながら意外と熱気がこもる口調で、さりちゃん。またおにぎり弁当ね、この子は。
「私もそう思います。今の子供って本当に勉強ばっかり押し付けられて子供でいられる時間が短いじゃないですか。ハロウィンやクリスマスくらい子供のための行事でいいと思いますし…みんなが騒いでるからって同じように楽しまなきゃいけないっていうのもおかしいと思います」
いつもふわふわにこにこ聞き役に徹していると思ったうーさんもこの頃意外と言う娘である。
ちなみにお弁当は相変わらず緑な弁当。
私のお弁当はかやくご飯のオムライス弁当だった。
「楽しまなきゃ、ってのも同調圧力に近いものがあるわよね!なにが流行ってるのアレさせようのこれさせようの。本当そんなんばっかり!二人とも、10年前の仮面ライダー、知ってる?」
知らない、と首を振る私とうーさん。
「本当に脚本がわかりやすくって、ここで泣かせようのここで笑わせようの意図見え見え脚本でさ!また映画館で見てたらそのタイミングでみんな笑ったりするのよね。本当にあれが笑っちゃうレベルで。メッセージ出す側も受け取る側も今はわかりやすいが必須なんだなって子供心に身にしみたわ」
「でも確かにさりちゃんの言う通り、テレビやドラマとかもどんどんわかりやすい方向に行ってるし、それにだいたい今のドラマとか映画って少女漫画が元だったりして本当に視聴者の反応見ながら作ってる感じがするわよね」
「そう、本当に反応見ながらって感じよ。今はキャラものとかも平気で人気とか読者の反応で設定コロコロ変えたりするでしょ。やめてほしいわよね」
「まあ、確かにテレビは特にセリフでなんでもわかるようになんでもセリフで解説するしね」
あまりにも二人の会話が息があいすぎてなかなか入れないのだが、一言挟むとそうなんです、とさらに乗ってきたさりちゃんが言い、「あれって主婦が家事しながらテレビ見るからって言う前提があるからって言う話らしいですね」とうーさんがまとめた。
「そうなの?」
「そう、主婦は家事しながらだと画面見れないでしょ?だから画面見なきゃわからないような演技はしないようになってるらしいよ。だからセリフで解説」
「あー、だから仮面ライダーもあんなんになるんだ…みんなおきまりのセリフってのがしっかりあったもんね」
「まあでも暴れん坊将軍だってちゃんと終わり頃のチャンバラの曲とか決まってるし」
「それは様式美ってやつでしょ。」
「ほっほっほ。お主も悪よのう」
「いつもすまないねえ」
「おー、すまないねえ。乗ってるとこすまんが、ちょっと繭子拉致ってっていいかー?」
と、後ろから降ってきた声に思わず三人同時に振り向いた。
「円城くん(さん)!?」
「あ、えーと…どうぞ?」と、さりちゃん。って言うか二人がノリ良すぎて会話に入れなかったからまあそう言う展開にもなるのか、とちょっとの寂しさを感じる私。って言うか、ノリノリで会話してる二人はそんなにお弁当食べるのも進んでなかったけど、私だけしっかり完食してたタイミングだったし。もう。
「んじゃ、ちょっとだけな。」
「なによ、もう…」
中庭を抜けながら人気のない廊下で二人てくてくと歩いて、と言っても円城くんも珍しくそんなに喋らず、無言。
「あのな、繭子は確かにめんどくさいけどな、別に迷惑じゃないぞ」
ため息交じりに私を振り返りながら言うと、そんだけ、と言って去ろうとするから。
「あのね、それだけ言いにきたの?」
「ん?まあな。…あ、そうだ、それと、これいるか?」
気づかなかったけど、円城くんは小脇に紙の束みたいなものを抱えていた。
「ん、なにこれ、カレンダー?」
「工場の夜景カレンダー。渋ちんはこの季節になるといろんなとこ行ってカレンダーもらってくるのが趣味だからな。二つあるやつって注文してもらった。いいだろ、部屋に同じカレンダーがかかってるって言うのも」
でもね、貰い物の貰い物、のカレンダーよね、それ。
「随分と貧乏くさいロマンチック計画ね。それも渋谷くん発案じゃないのそれ」
「いいだろ、別に貧乏くさくっても。言うても苦学生だぞ、俺はっ。それに発案が誰だっていいじゃないか。自分発案の中だけで生きてたら世間狭くってやってられんぞ」
って言うか、と彼は少しだけ声の音量を上げて
「いらないんだったら別にいいんだぞ」
「別にいいわよ、もらったって」
花のカレンダーとかじゃなくって工場の夜景っていうところが妙に円城くんらしいし。
「少し一緒に歩いていい?」
「ん?いいのか、あの二人置いといて」
「あの二人はあれで息合ってるもの、私がいなくたって別に話弾んでそうだしね」
「ん。そっか。なら良かった。」
そっか、この人となら別に私、時々面倒臭くってもいいんだ。らしくていいんだ。とやっとそれらしいことに気づいて、私は小さく笑った。
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