公園の吸血鬼伝説は第4章のあの展開を書いた直後からずっと話として温めていたものでした。
そりゃ、噂にもなるよね、あれは…!
ってことで今日の二話目の更新なので読み忘れのないようにどうぞ。
ところで今日は別ブログの方にどこそこ大学の黒アリスの絵も投稿していますよ。元気になった途端に、元気!(当たり前か)
では続きでどうぞ。
とある演劇サークルの記第5章 「吸血鬼展開、入れる?」
小道具がどうにかなりそう、というアリスを演劇でやる際の一番の大きいハードルがなんとかなったので台本を色々煮詰めるために何回もミーティングを繰り返す一同である。なにせこの中にはアリスに詳しい人がいないのでみんな手探りなのであった。
「小道具としては、鏡を入れたいと思うのよね」という繭子意見。
「あとそれから谷山浩子のアリス構造のお話の中でミルクティーから梯子が出てきておりてきたみたいな演出を入れたい」などと彼女は色々と意見を出したのだが。
とどめに出て来た要望がこれだった。
「田中啓文さんのSFの黒アリスの話の中で吸血鬼がどうこういう話が出て来たじゃない。あれ、私たちの劇にも使えないかなあ、と思うんだけど…」
「吸血鬼?またなんだって」
「あ、もしかしてあれ?」円城の言葉を押しのけて、小夜香が嫌な含み笑いを見せる。「あの、大学の中で一部で噂になってる公園の吸血鬼…」
そのセリフに一部の者はニヤッと、一部の者はガクッと。
「そうそう、あの噂って完全に元ネタがシロさんとうーさんよね!」
と横から鏡花ちゃんが笑った。
「いいんじゃない、吸血鬼!私大好きー」
話は遡って実はここのところ戸在大学の周辺でとある演劇サークルの記、第4章のある部分の噂が拡大して、「大学近くの公園に吸血鬼が現れる」という伝説がまことしやかに伝えられているのだった。っていうかお巡りさんに見られたら完全に暴行容疑ですよ、あれは。軽く思い出して自分の首筋をよしよしするうーさんであった。
あああ、あの伝説を俺は公式の舞台で使われてしまうのかよ…!とシロは顔を覆った。
「まあこの演劇サークルの記念として、ね?」
と繭子はその覆った顔を覗き込むようにしてなだめようとする。その横でうーさんは低くボソリと「先輩が噛んだりするから…」とつぶやいた。
「俺は照明ですんで吸血鬼の演技は勘弁してください」
「でもあれね、円城くんや渋谷くんの吸血鬼じゃイマイチピンとこないわねえ…吸血鬼…んと、小夜香さんっていうのはどう?」
「ええ、私!?」
「そうだなあ、このメンツじゃあ…」と円城はぐるりと一同を見渡した。「被害者はさりちゃんかな」
変なところで息ぴったりの主将、台本コンビである。
「ええええ!!ちょ、ちょっと待ってくださいよ!小夜香さんと、百合って!」
こうなると悪ノリモードが止まらないのが大学生の悪いところである。
「ちょっと小夜香さん、さりちゃん噛んでみて」
「わかりました、さ、り、ちゃん。」
ちょ、ちょっと、わかりましたじゃないでしょ、あなたっ!何変に妖艶さ出してるのっ!!とさりちゃんは言葉に出さず後ずさる。
「ちょ、ちょちょちょっと待って待って…!!」
軽くマフラー巻いただけですぐ苦しいような感じやすい私の首がっ!!タートルネックだってとてもじゃないけど着れたもんじゃないこの首が!
「わわわわわ」
「さりちゃん、あなた女優でしょ?演技演技」
小夜香も悪ノリモードである。渋谷なんかはうっわこの絵面、とまた鼻を押さえかけていたりして。っていうか前の鼻血のタイミングといい、実は百合好きなのかしら、この人…とさりげなく気づかれないように藤村やうーさんは彼を睨めつけた。
「もももももうやめて…、さ、小夜香さん…!」
と、いうわけで割とギリギリまで首に噛み付くふりをした小夜香から解放されたさりちゃんは半分演技じゃなくて深いため息をつきながらへなへなと倒れ込んだ。
「あの、私これ本当に舞台でされちゃうんですか…?」
考えただけで倒れそう。助けて。というさりちゃんの耳に、渋谷の信じられないセリフが降りかかって来た。
「いいなあ、俺も噛まれたい…」
んっ!?と一瞬にして全員の視線を意図せずに集めてしまった渋谷は「あ、あれっ、俺声に出してた!?」などと言って慌てた。
「んー、そうねー、噛んであげてもいいけど…」
と悪ノリモードの治らない小夜香はもったいぶって答えようとしたが、言おうとしてたセリフを鏡花ちゃんに取られてしまった。
「百合を行ったならびいえるも行こう!元祖吸血鬼伝説の元ネタのシロさん、いけー!」
や、やだわたし鏡花さんということ被っちゃった!とみんなに気づかれないようにわたわたする小夜香である。
「女体盛りがあるなら男体盛りもある!これで男女平等だ!ここでびいえるもいっとけ!!」
っていうか森奈津子展開か、それは!!と声に出さずにさりちゃんは突っ込んだ。
「ん、まあ、いうことはわからんでもない。渋ちん」
なんとなく展開がついていけなくてぽかんとしてた渋谷が円城のこのセリフで現実が追いついて来たらしい。
「ちょちょちょちょちょ、お、俺、男に噛まれるのはちょっと…!!」
「あら?渋ちん。今の世の中なんでもできないと役者できないわよ?ゲイの役だって世の中たくさんあるわけだし、ここで修行積んどきなさい」
「ややややだ!っていうかお前が渋ちんいうな!!」
「シロさん」
「断固拒否。俺は照明だから。照明ですから。」
きっぱりとした態度だった。
「まあちょっとした遊び程度で…っていうか相手うーさんのつもりで」
「ダメったらダメ。これ以上のネタ提供は御免被る」
あんまりきっぱりした態度なのでまあこういう展開になったらみんなの期待もあるし、と気を利かせたうーさんがそっと声を掛ける。
「先輩、男らしくないですよ?」
恋人がこう言っても彼の態度は変わらない。
「なんで男が男らしさを発揮して男を襲わなならんのだ。おかしいだろ。君も鏡花さんに影響されてるんじゃないか?」
「LGBTを差別するんですか?」
「差別って言ったら言葉おかしいけど、俺の中にLGBTの人はいない。のでだめって言ったらだめ」
だって俺の周りにはそんなサンプルもいないしそんな願望は全くないから。まあいたら認めなくもないけど少なくとも俺の中にはない、というシロの意見であった。彼があまりにもきっぱりしているので渋谷が胸をなでおろしたところ。
「だったら俺が渋ちん襲ってみるか、ま、遊びということで」
「なんでそうなるんだ!!」
ガーン。となった渋谷があわあわと逃げ回る。それに対するみんなのヤジがこちらである。
「ちょっとー、円城さん吸血鬼なんだからもっと美しく襲ってよー耽美さが足りない」
「っていうかなんか小娘追いかけ回してる時代劇の悪い人みたい…」
「確かにそう言われてみると…良いかな良いかな?」
「吸血鬼がそんながっついちゃダメだってば」
「いけー!円城!そこだー!」
みんなの名誉のためにどれが誰のセリフなのかは解説しません。みんな滅多に見ない生びいえるごっこに多少テンションが違っちゃっています。
「美しく襲えって言われてもなあ…難しいな、渋ちん」
「いいからそんなもんにしておいて!!俺が悪かった!やめろー!」
というか、もうこの時点でだいぶ取り押さえられて顔も首に近づいているのだが、ここで繭子がパンパン、と手を打った。
「っていうかこれ。渋谷くんに対する集団セクハラみたいになってるからこんなもんにしときましょ。はいはい、みんな元に戻ってー」
「はああ…」
ため息をつく渋谷に、さりちゃんが嬉しそうさと困った感のある顔で「気持ちわかった?」と聞いた。「わかった…これは相当スリリングやわ」
「そうね、やっぱり小夜香さん吸血鬼の方がなんかきれいねえ。んじゃ吸血鬼は小夜香さんでいきましょ、どこそこ大学の黒アリスも吸血鬼ネタはなかったしv」
吸血鬼ネタをやたらと推していた本当の理由はそれか、と小夜香は心の中でこっそりと落胆した。
本当に繭子さん、どこそこ大学のわら人形とか作らないでよね…。
そんなわけで、戸在大学のアリスもちょっと黒くなるらしい。続く。
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