実は、プロローグにも扉が仕込めるよなーと思ってましたが、プロローグの扉はあとからとんでもないネタバレなのでなしにしました。
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では続きどうぞ。
あ、昼にあげた分に追加のエピソードがあります。っていうか、二話につける予定のエピソードだったんですが、この地味なエピソードのどこに絵をつけるの!っていうのと、一話ずつがあんまり短いといつまでたってもおわらんだろう、というのでつけたしました。
正直、自分の家系には疑問を抱いていた。
だが先日の貴志美の一件から、人を殺す仕事というのにも少なからず必要性を感じ始めていた。
そんな矢先、隣のクラスの皆月から、俺の従姉が君に用事があるから、家にきてほしいと言われたのだ。
「お前の従姉?って俺には何の関係もねーけど」
「君が月影だから、用事があるっていってた。最近の事件、知ってる?」
ここ最近、世間を騒がす事件があるのは知っている。
連続狂死事件だ。
被害者は、全員男で、脳の内側から殺されていた。
っていっても、この世界は普通に超能力がある世界だ。全ての物事には、ちゃんと犯人が存在する。
「ずいぶん、高く買われたもんだな。俺にそんな力あるってか」
皆月は皮肉には気づかなかったように、表情の読み取りづらい、いつもの顔で、そういうことみたいだよ、と答えた。
「まあ話だけはきいてやるけどな。」
そして、俺の家からやく五百メートル。学校からは三百くらいか。ようするに、俺の家とは逆方向の皆月の家へと二人で向かったのであった。
学校から近い割に、やけに人気のない道。
いや、町自体が他の町より人気がない。
皆月の家って、超能力集団の頭なだけあって、でかいはずなんだがなあ…と思っていると、突如、どこの時代劇だ、この屋敷は、という屋敷が出現した。
「…おい、皆月」
まさかとは思うが。
「まさか、この家ですよ。意外と部屋数はないけどね」
じゃりじゃりと玄関をくぐってじゃりを踏みしめて歩く。
「空斗さん、おかえりですー。って、その方がもしかして…」
小柄な女がやけににこにこして出迎えたが、俺の多分身長を見て、顔色が変わった。もう一人、似た女が見えたが、それも同じ顔をした。
「…あの、ちょっとそれはー…」
もごもごと言ってるが、ああ、どうせ言いたい事はわかってる。こいつらも大概小さいが、俺も男にしては小さい訳だ!
「悪かったな、チビで。」
ーーーったく。
158センチだから、絶望的なチビではない…?ものの、偏見にはなれっこだ。なれっこだとも。
「し、失礼しましたっ。では、当主のもとへお通しします」
双子は若干大げさな態度でぴしっ、と敬礼して、何事もなかったかのようにぞろぞろと歩いた。しかし、このメンツだとどうみても皆月が親分である。だって、こいつ身長187、5センチだぜ?人間とは思えないっての。
「魅厘様ー月影様が到着しました」
「ありがとう、李々、琉留」
丁度逆光で、当主の顔は見えづらい。が、白い着物に、髪の色か白か、銀か…。見た事のないような姿に、やっぱり超能力集団の親玉ってのはそれなりの容貌してんだな、と感心した。
が、…何故、お前がそこにいる?
と、彼女の膝の上をみて、俺はショックをうけた。
もふもふしたその巨体の猫。
…っていうか、ゴン太。
「まあすわれ、月影の」
………。ああ。
「ここ最近、町をにぎわせている事件があるだろう。あれが、どうやら皆月のものがやっているという噂がながれていてな。あまりにも非能力者がうるさいので、解決に動こうと思っているのだが。身内の能力者が犯人だと、やはりいろいろとよろしくないので、内密にと思ってな。皆月同士争うのも大概なので、他のを使う事も考えたが、月影の一族とはいろいろと確執もあるので、まともな月影のは使いたくない。そこで、お前なら、今まで仕事した話も聞いた事がない。なので、月影にも内密にで使われてくれるだろうとふんでいるのだが…」
「……って、月影?聞いてる?」
「お、おお、聞いてる事は聞いてるぞ」
内心が、女好きのゴン太への怒りでふつふつしてたので、うなずきもしなかったが、ようするに犯人捕まえろだろ。わかってるわかってる。
まあボス猫ってのは、人間にも優しいもんだ。
割とふてぶてしい顔して案外なつっこく、ちょっといじっても嫌な顔しない。
猫のテリトリーはだいたい半径三百メートルくらいっていうが、ボス猫だけやたらテリトリー広かったりする。
にしても、この長い話の間、飽きもせずによく膝にのってるこった。
「犯人が、文月のものだという可能性もある。言霊使いのあの家系には、時々強力な負の言霊を使うものも現れるらしい」
「文月…小夜香か?」
「知っているのか?」
「文月は皆月と同じクラスだよ。な」
「―――うん」
その時、急にゴン太がすんっと鼻を動かせて立ち上がった。
「お、どうしたボンボン」
なにがボンボンだ、てめーーーー!!
内心で叫ぶ俺に、どうしたの月影?とのんきな声がかかった。
どうしようもこうしようもねえよ。
「皆月、あの猫よ…」
「猫?魅厘さんの抱いてた?…いつもどっからか知らないけど、普通にあがってくるんだよね」
「お前の家防犯大丈夫か」
俺の声はまだ怒りを含んでいた。
「それより、なんでボンボンっていうんだ?」
「魅厘さんがウイスキーボンボン好きだから」
俺は思わずこけた。
「っていうかよ、文月を犯人って疑うなら、文月が犯人の線を消せばいいんじゃねえか?」
皆月は真顔で俺をみた。
「どういうこと?」
「皆月の親分てあれだろ、超能力を人にやったり、とりあげたり」
「文月の能力取り上げるって言うの」
「それでなお事件が起こるなら、文月は犯人じゃないってこった」
感心したように、なるほどなあ、と皆月はうなずいた。
「それに文月だって、そんな能力があったらいらない、だろ?ただでさえそれで女子らに絡まれたりしてんのに」
ふむふむとうなずく。
「文月のためにもいっぺんかけあってみるのもいいかと。じゃあ、一人被害者の身内でうちのクラスにいる子に話聞くのは後にしてみる?」
「別に同時でもいいだろ。どうせ明日また学校に行くんだし。そんな悠長な事言ってるから、事件がとまらねーんだよ。」
「まだ、四人…って、もう四人か。もっと騒ぐ前になんとかしないとね」
「だろ?事件が終わるのが早いにこしたことはないってこった。」
皆月が、黒い目を細めていった。
「案外月影って頼もしいね」
何か含みのある言い方だな…と思っていると、「あ。ボンボン」するっとゴン太が通って行った。…だから、ボンボンじゃねえっての。
「俺の従兄弟が?って、あんな奴のこと、どうでもいいよ。仇なんて、考えてもない。」
皆月の言う通り、被害者の従兄弟に話を聞くと、こんなことをいった。
「殺されて当たり前の奴なんだ。話す事なんてねえよ」
「―――って、言われても」
「事件っていったって、一部が騒いでるだけだ。すぐおさまる。」
「でも、他に被害が拡大したら?」
後藤の険しい顔に、一瞬隙が見えた。
「一つの犯罪に、似たような犯罪をくっつける人っているよね。連続じゃない、犯人が違ってても同じ事がおきる。そんなことがないように、事件自体を先におわらせないと」
皆月の台詞に、後藤は心を開きかけたような気がしたが。一瞬の逡巡のあと。
「いや、やっぱり…俺には力になれねえ。悪いけど」
「悪かったな、嫌な思いさせて」
文月にも話すと、文月はその大きな瞳をぱちくりとさせた。
「能力を取り上げたり、人にあげたり…そんな話、聞いた事…」
長いツインテールの髪の先を、まるで握りつぶすようにして、うつむいた。
「俺の一族じゃ、有名な話だぜ」
「…それが、本当ならそうしてほしいけど…でも…」
「いいから、魅厘さんにまかせてみて」
皆月の台詞で、文月は顔をあげる。
「そう、ね」
だが、魅厘の反応は俺たちが予想していたものと違っていた。
「文月さんの能力を?とんでもない」
「なんでだよ?お前の仕事だろ?」
「まだ文月さんが犯人と決まってないのに、なんて口約束をするんだ!能力の試行は、ちゃんと町の許可がいるんだぞ、それに、能力の移動には、私に負荷がかかる。能力が大きければ大きいほど、それは大きい。」
魅厘は文月の瞳をすえ。
「キラーワーズの能力なんて、巨大すぎて無理だ。」
「そんな…」
文月は、瞳をうるませた。
「そんな捨てられた子犬の瞳で見ても無理!」
「そんな…だって…」
「無理だって言ってるだろう。…わかった、なら」
割とあっさり根負けする魅厘である。
「まだ全校生徒の記憶を操作する方が楽だ。明日の朝礼でこれを流してもらえ。」
といって、まだ中身のはいっていないテープを魅厘はだした。
「これに洗脳の言葉を吹き込むから、これを流せば、全校生徒の文月さんの能力にかんする記憶が消える。…これが、邪とならなければいいが…」
文月の唇に、かすかな笑みがともった。(扉1)
文月が犯人の線が消えないのが、俺にとっては不満だが、多分これでいいのだろう。少なくとも、文月にとっては一歩前進だ。
俺は勝手に納得した。
…ってか、ボンボンって、本当にゴン太だよな?と疑っている俺の前に、さらなる衝撃がはしったのは、次の日のことだった。
「だから、体育にお前と組まされるのはどう考えたっておかしいだろうがっ」
体育の時間は二クラス合同である。
まあ、それはわかる。
「しょうがないじゃん、皆いやがるんだから」
「お前がいくらいい奴だって俺もお前とはやだぞ」
っていうか、身長違いすぎてプログラムほとんどできないに等しいくらいだ。
「それだけ、この町は皆月のネームバリューがおっきすぎるってことだよ。この町って名字に月があったらそれだけで結構な能力者ってことなんだから」
とはいえ、187、5センチの皆月と158センチの俺を組ますのはどう考えたっておかしいだろう。笑いをこらえきれない女子が何人いると思ってるんだ。ったく。
「んーじゃ、聞くけどお前能力あんのかよ。聞いた事ねーぞ」
皆月は一瞬きょと、としてへらっと笑った。
「俺の能力はあってもなくてもおんなじ能力だよ。一応あることはあるらしいけどね。…あれ、月影は…能力ないよね」
「ねーよ。」
「月影の一族ってもとは皆月と同じっぽいこと聞いてるんだけど」
「能力無いから「影」なんじゃねーの?」
ちょっとなっとくしてない様子で、皆月はふーん、そっか、と呟いた。
いやいや、月影の能力持ちって聞いた事ねえから。
「に、してもお前体かてーな」
もう、柔軟くらいしかできる事がないので、押すのも疲れるので足だ。
「あたたたたっていうか、足…ちょっと、それ逆だったらいじめにしかみえないよ」
「おう、お前はすんなよー」
「あ、そういえば、なんか後藤君、さっきふらっと教室出ていって体育の時間に戻ってきてないよ」
その台詞に、俺はかちーん、ときた。
「お前は結構重要なこと黙ってんなよっ!見てくるから待ってろ!」
ぎゃーん、と叫んで文月の黒いジャージの横をすり抜ける。
ん?あいつ、何にもしてないよな。
まさか、魅厘のテープ、効果なかったのか?
後藤後藤、っと。あいつどこいったんだ。
ジャージのまま校舎の中走り回ってたら教師につかまりそうなので、ダッシュで周りをみながら走る。っていうか、すでにちょこっと見つかってはいるが、「トイレです!いそいでるんです!」とアホみたいな嘘でごまかしているのであった。
って、いた。
皆月ほどではないにしても、なかなかの高身長。奴は敵だな。
物陰に隠れて、何かポケットからだしている。
…タバコか。
まあ確かにちょっと不良っぽいところはあるが、それ以上のものではなさそうな気配だ。なんだ、大したことじゃねえな。戻るか。
と、足下をするん、と何かが通り抜けた。
お、お前…。
「おー、きたー」
っていうか…学校に何猫のカリカリ持ってきてんだよてめーーーー!!
「ボーノ、ほら、餌だぞ」
………。もはや、頭痛ものの展開だ。お前、いくつ名前持ってんだ。っていうかお前攻略対象広すぎんぞ。
ゴン太だ。
「………おい、ボーノの意味、知ってるか?」
低い声で尋ねると、後藤は大げさにおどろいた。
「うわ!なんだ、お前、いつから?」
「驚くのはいいから、意味知ってるか?」
後藤はしどろもどろと口を動かした後、へらっと笑って、「イタリア語だろ?」といった。
「おう、イタリア語はあってるぞ。ただし、「美味い」だがな」
あー、マンガだったら、雷みたいな集中線の効果だ。という驚きっぷりだった。
一応無言ではあったので双方ともに助かったが。
「………俺、まただまされてたのか…」
へなへな、と後藤はくずれた。
「その悪い従兄弟か?」
聞くと、後藤はうなずいた。「まあ、アホでどうしようもない奴だったけどな。」
その後、後藤は従兄弟の解説をしてくれたが、まあ本当にどうしようもない奴だった。なんでも、幼い頃から超能力マニアで、嫁にするなら超能力者だろう☆とまあひたすらそれ系の女に声をかけていたらしい。
最初はちょっとした超能力者でも声をかけていたのだが、だんだんとビッグネームに手を出したくなってきたので、そこで若干やばい道にはいった。と。
半分ぐれてるか半分グレーかなんか知らんけどそんな感じのもんだ、と後藤はいった。あちこち壊して、大変なことになった。なんか怪しげな研究室にも通ったらしい。
で。
あんまりアホすぎるので真実を疑うのだが、殺される前には皆月の当主にも文月の叔父にも他の関係者にもそれぞれ別件でぼっこぼこにされたと言っていた。…っていうか、そんだけうっとおしかったらそうだろう…。
皆月に報告するのもあほらしいので、俺は皆月には後藤はみつからなかった、と報告した。
「そっか…後藤君、俺だったらかえって話してくれないだろうから、月影が行った方がいいかなーと思ったんだけどなあ…」
皆月は残念そうに呟いた。
後で聞くと、やはり後藤は皆月の一族にうかつに話して従兄弟の俺まで攻撃されたら嫌だし、と話すのをためらっていたのはそれだったようだ。
あちこち手を出したらそりゃー、恨みも買うわ…。
殺されて当たり前、とか言ってたのも、あくまで俺は関係ないから、というのを主張したかったんだろうな、と遠い目。
なら、連続狂死事件は、本当に全部接点があるのか、そこからまた調べ直さないといけないってことか。頼むから、なんか食べもんとかが犯人とか言わない事を祈る俺だった。