にざかな酒店

我が龍神8話

若干大変なことになってる、8話。
思ったよりさっくり話がすすみすぎて、次に挿絵をいれるはずだった箇所まで進んでしまいました…。うっかりです。ま、続きでどうぞ。
宿で一日過ごした後、彼らは研究所への道を急いでいた。
「クラウフに会いにいくのに服なんか必要ないと言ったのに」
「っていうけど、初対面の人に会うのにずっと着てる服って言うのも何だって…。」
と、言ってサラが服屋を見ていたからだった。
「一文無しが何言ってんだか」
結局見てただけで何も買ってないのだが、サラは軽く怒った。
「誰のせいで一文無しよーほんとに全部返さないんだからっ」
全部渡したのは誰なのか、そもそも。と言い返したい気持ちはあったが、ロッドは黙った。ここで甘やかしてはいけない。
「だからわしが見せ物になるっていったのにー」
龍神もそういうが、「龍神様はいいってば、珍しいとさらわれちゃうよ」とサラは龍神に甘かった。
だが、ふよふよと漂う龍神を狙うものがいた。
それは、ただの興味本位。
物珍しい獣だと思って、狩猟本能でもない、ただの武器を持った高揚がそれをさせた。かちりとひく引き金。飛び出す、矢。
「龍神様、危ない!!」
矢が空を切る音に気づいたサラが龍神をかばう。
そのサラの前に、手が、突き出された。
その手には、しっかりと矢が刺さっている。
光が少なく、暗いところが緑に見える路地裏に、鮮血が舞った。
かばった手は、ロッドの手だった。
「馬鹿、神をかばう奴がいるか」
息を荒くしてはいるが、平常心だ矢を軽く抜きながら、彼はいった。とはいえ、かばわれたサラは平常心とはほど遠い。
「………って、手………!!」
「大丈夫だ。」
それより、あいつら殺してくる。
声としては、優しく聞こえなくはなかった。
これも、計算外だ。とロッドは思った。自分で思ってるより、ずっと、俺はサラを気に入ってるらしい。
あっという間にいなくなったロッドを、ぽかんとしてみつめかけたサラは、我にかえった。
「ちょ、ちょっと、殺しちゃ駄目だよ!」
追いかけかけた彼女を、龍神が止めた。
「いや、これはロッドが正しい。どう考えたって、物珍しさで牙向く奴のが変」
いつものようにとらえどころのない、ふかふかと浮いた姿。
「龍神様…?」
「一緒にまとう」
笑みさえ浮かべる龍神を、サラはおかしい、と言った。
「おかしい?なんで?」
「だって、殺す、なんて…そんなの、駄目だよ」
「悪い奴、生かしといていいことある?」
「それは…だけど…」
だけど、自分たちの為に手を汚させるわけにもいかない。
「龍神様はここでまってて!私は追いかけるよ」
そのまま、彼女はかけていった。
龍神の、そのときの喪失感。我が巫女が、我が主旨を裏切ったのだ。
残された龍神は、クラウフに出会う。
悪魔のささやきに、龍神は女神フーリンカの育てた魔王の種のレプリカを口にした―――。
そして、あたりは緑に包まれた。

緑の剣でつきさされた、犯人たちの亡がらをみて、ロッドは立ち尽くした。
「なんだ、これは」
もう、死んでいるのは明らかだった。
それよりも、この薄暗さ、陽の光を完全に塞ぎ、のみこむ緑はわさわさと繁殖している。少し戻ったところで、サラに会う。
「こ、ころしちゃ、駄目だよ…」
「もう死んでるぞ。それよりも、だ…。これはなんだ」
「え?」
そこで、サラはやっと周りに目がむいたようだった。
なにこれ、という間に、足下をすくう、植物の根。
巻き付こうとするそれをロッドがさっと剣でそいだ。
「あ、ありがと…」
と、いう足下に、抜け殻が転がっていた。白い、蛇のような…。
「って、これ龍神様!?」
拾い上げたサラがすっとんきょうな声を出す。
「あう…」
「りゅーじんさま、大丈夫!?」
からっからになった龍神は、振るところころ音がしそうなほどだった。
しばらく声をかけると、少しだけ生気を取り戻し、「あれ、黒龍神なの…」といった。その言葉には、ロッドもサラも声を揃えて、「はあ!?」といった。
「わし、白龍神ははみだしてきたものなわけ…」
「つまり、あれの残りかすか」
「残りかすって、いわない」
サラはてい、と突っ込んだが、その形容はそのままだった。
つまり、魔王の種に力を吸い取られ、龍神の力は黒と白に別れたと。
「このさい、残りかすでもいいから、力を貸せ。あれをなんとかするぞ」
うるうる、と瞳に涙を溜めながら龍神は言う。
「でも本当にわし、残りかすなの…」
「良いって言ってるだろう、自分の巫女が守れなくて何が神だ、神であるからには残りかすでも力があるはずだ!」
龍神は、ロッドの叱咤に、思わず涙を止めた。
「ろったん…」
「行くぞ、龍神」
やる気をとりなおした龍神は、白い風になって、ロッドにまとわりついた。
守護の風だった。
切り込んでいくロッドに、サラの援護射撃。だが、緑のまとわりつく空間で、だんだん息がしづらくなる。
ドームのように覆う緑の中に、死の気配が充満する。
この緑がどのくらいの大きさなのか中からは解りづらい。だが、放っておけば、どこまでも浸食しそうな気配だった。
「龍神様!!」
サラは、叫んだ。この空間が黒とはいえ、龍神ならば、自分の声は届かないかと。
「こんなことしてないで、帰ろう!こんなことしてたら、好きなお酒も飲めないんだよ!!温泉だって、光無いから全然開放感無いし!!」
「なら、風穴を開けるか。大技、いけるか?」
サラの声に、ロッドは思いついたように言う。
龍神様、ともう一声かけ、二人は手をつないだ。
「お酒と温泉のためにっ」
「………そのかけ声は、いらん」
「白、龍神砲!」
白い光が、確かに風穴を開ける。ふたたび緑が塞がっていく中、遠く、豆のようにも見える建物の影に隠れかけたスノウが奇跡的に、あるものを下げて歩いていた。
「あ、あれは…!」
「どういうことなの、これは…」
彼女は戸惑っていた。ドーム上にはなっていたが、彼女は奇跡的に迷い込んだようになっていたのだ。その、下げて歩いていたもののために…。
「スノウさん!」
駆け寄るサラに、スノウは状況を聞くより先に、持ち物をぶんどられる。
「どういうことか解らないけど!使わせてもらいます」
この状況では、この液体は光り輝くように、白龍神に力をみなぎらせた。
そう、これは、酒。
「え、ええ、そうよ。龍神様、喜ぶと思って…」
彼女の挑戦もこもった好意は、そのまま力になった。
「よし、なら、もう一発、行くぞ」
『白、龍神砲!!』
そして、そのまま、力は光になって、あたりにあふれ―――。
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