にざかな酒店

とある演劇サークルの記第4章 キレる脚本書き

というわけで早々と第4章そのにー。
ただでさえ怖がりな人が地震テーマに物書けって言われてるもんだから大層困っております。というお話。
続きでどうぞ。
とある演劇サークルの記第4章 キレる脚本書き

さあ、怖いものの大嫌いな脚本書きの繭子である。もう地震ネタの脚本を書かされるということでもう頭の中は地震でいっぱいなのであった。災害の時の名言集をそっと思い出すだけでもゾッとする。「屋根と壁は偉大だ。」嫌だ、怖い。屋根も壁もないなんてどうすれば。「柱が残ってるだけでもあの家は羨ましい。」や、やめてーーーー!思い返しても普通に絶叫レベル。「飲めればいいのよジュースでも。」も、やめてください。普通に蛇口から水が出てこないだけでも現代では十分ホラーですよ。給水とかに走るのを考えただけで、というか普通にいつもお風呂に入れないと思っただけでもうだめモードが炸裂です。
………ぜはぜは。
頭の中では格好良く「雷で死ぬ確率はー」だの「隕石が降ってきて死ぬ確率はー」だのあっさりとのたまう自分がいるが現実ではこんなものだ。所詮宝くじの当たる確率だって交通事故の方が確率高いんだってば!
「も、もうやだ、怖いよう…」
もう軽く地震情報(ラジオとかでも流れる地震の時にあったコメントなども)を思うだけで身震いがする事態。っていうかタンスの下敷きになっても生きてるとかやめてー。人生観が変わったとか言わんといてー。
だがこの演劇サークル、自分が脚本を書くのをやめれば次に書くのは鏡花ちゃんだ。
それ、ちょっと待ってよ。とんでも少女漫画を演じなければいけないみなさんの気にもなって。
もう普通に部室にも幽霊とかいる気がしてる…。
「あのな、幽霊がいる気がしてる、じゃないぞ?うちのサークル、音響は幽霊だぞ」
そ、そうですよねー。円城の空耳が聞こえてきてとりあえず繭子はパソコンを閉じた。
今日はもうだめだ…も、寝ますよ…。

「で、繭子?脚本は全然進まないのか?」
朝に円城に声をかけられて、ぐさっ、と彼女は立ちすくむ。
「だ、だって…」
怖いんだもん怖いんですよ怖いんですのだ。
「なんか、俺悪いことしたか?」
ふるふる、と首を振る繭子。いやもう、脚本書きとして怖いのダメなんて致命的だからなんとか自分で脱出するしか仕方ない。と彼女は懸命にそう思っているのであった。
「あんまり難しいこと考えなくていいぞ?なんだかんだ言ってフィクションなんだからさ。もうなんだったらいきなり帰ってきた青年のおかげで冥界と世界が繋がっちゃったーとかでも。演劇なんだからあんまり暗くても困るし」
「そ、そう?でもやっぱり…それなりにリアリティとかないと、ねえ」
「あの照明室に残されてた台本だってそんなにリアリティあるとは思えないじゃないか。そんなに都合よく同級生がみんな死んでて帰ってきた青年をあったかく迎えるとかそんな展開もさ」
「う、うう…」
やっぱり地震があったくらいじゃみんな綺麗さっぱりなくならないんだー。
変に生きて苦労するのが普通の人なんだー。やっぱり給水とかいちいち走らなきゃダメなんだ。戦争とかなったら高野豆腐かじらなきゃダメなんだ。
繭子はもう涙目である。
「お前な、一体何に怯えてるんだよ」
円城はため息をついた。
「自然災害だの核だのなんだの、みーんなに怯えてたって仕方ないだろ。こういう世の中なんだからもう怯えるだけ損だって。いうほどこの辺は災害とかもないだろ?」
「災害のない地域がいきなり災害来たらその方がアウトよ…!」
「いつかは来るかもしれないけど今んとこ来てないだろ?っとにもう。っていうか下手に人間界で現実のことにしないでいっそ妖怪ワールドにするとかさ、脚本としては色々と手はあるだろ」
「う、うん…まあ、その…それもありね」
「ま、死ぬときゃみんな一気に死ぬとかそんなワールドの方が案外救いはあるかもな」
円城に明るく言われて、繭子は卒倒しそうになった。

そんなわけで、演劇サークル女子がわやわやとお弁当出してきて集まってる中である。
「円城さんって…ちょっと酷くないですか、それ」と、うーさん。
「本当にもう、男子は災害来たらころっと自分は死ぬもんだとかそんな思想多いよね!楽天家っていうか!」と、さりちゃん。
「でも実際災害が来たら変に生き延びてもあれだしコロッと死ねばいいけど何かの下敷きで一週間、とかなんとかそんなの考えたらね、確かにいても立ってもいられなくなることしきりだわ」と冷静に小夜香。
「何が何でも生き延びてやる派の思うことがわからないわ」と藤村。
「もうとにかくそんなこんなで災害で頭がいっぱいっていうか…もう助けてよ」と愚痴をこぼす繭子であった。
「っていうか、さりちゃんはこないだの地震で性格変わってたじゃない」とうーさんに突っ込まれてさりちゃんは赤く青くなった。
「こ、こないだのは…もう忘れてよう…」
「あれは忘れないわ」
にこ、と人の殺せる笑顔のうーさんだった。
「男子ってそんなに怖いこともないのかしらね…」
「でもどうかしら、怪談とか妖怪とかいうのって割と男子じゃない?だからほら、水木しげるの妖怪にも高女とかいるじゃない。こないだ盗まれた高女の像」
「高女?」
「のんきな妖怪よ。不倫現場を除く背の高い女の妖怪」
小夜香の言葉に、それってなにしたい妖怪なんだか、と一同が顔を見合わせる。しかもそれが盗まれるのだから余計に訳がわからない。
「小豆洗いとかも意味わかんない妖怪よね」
「小豆洗ってるだけでしょ?」
「しょうけらとか嫁がしょうけらだ、とかいうじゃない。天界からのスパイ虫」
「まあ、妖怪とかって結局人だから怖いことはないっていう話ですよ、繭子さん」
「怪獣文化だって妖怪から来てるとかっていう」
「まあそんなわけで、円城さんも妖怪とかでもいいって言ってるし、いっそそうすればいいんじゃないかしら。」と、繭子に対しては割と鶴の一声な藤村がそうまとめた。
「未曾有の大災害が来た、じゃなくて「故郷に帰ってきた彼が記憶を取り戻せばそれが防げる」的な話にするとか?」とうーさん。
「なんかちょっと倉阪鬼一郎さんのワンダーランド大青山に似てるような気もするけど…」
とちょっと良心の小夜香コメント。
「そ、そうよね。どのみち災害未経験者がどう書いても災害経験者ほどのものは書けないんだから、もう開き直るしかないわね!」
と、繭子がそう立ち直って、みんながパチパチ、と手を叩いた。
「それ、それで行こう!」
「そういえば、音響さんの三人さんって死因はなんだろうね」とうーさんがひとりごちた。
うーさん…とぼんやりと呟くさりちゃんが言った。「その三人が災害死だったら話変わると思う?」
「あ、やっぱり違うよね、多分」
「違うと思うな!」と全員の声がハモった。

と、中庭の向かいの方にいた渋谷が女子の集団を見ていて「あ、良かった、話まとまったみたいですよ?」と円城に報告した。
「こういうことまとめるのは女子はうまいよなーほんと。うんうん。」
「あの場に下手に男子が入るとまとまるもんもまとまらんもんな」とシロさん。
「良かった良かった、女子の不思議時空だ」
「お互いの話ちゃんと聞いてるとも思えないのにね」
「まあこれで三日後くらいにはちゃんと脚本もできていることだろ。ま、とりあえず困ったことはほっとくとしばらくしたらなんとかなってるのが集団行動のいいとこだな」
その考えは一体どうだろう…。とシロさんは心底突っ込みたくなったが、黙っておいた。
まあとりあえず脚本がこれでなんとかなったらいいけども。
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