時刻は午前0時頃か。
大学生だった俺はバイトを終え、コンビニに寄る。
酒はあまり好きではないが、今日は呑みたい気分だ。
とはいえ、ビールは美味いと思えない。
適当な酎ハイを3缶買い、つまみに菓子を少々。
ぶらぶらと誰も居ない夜の道を歩く。
帰り道にある公園には桜が咲いている。
今日は、空と花見をする約束だ。
花見をするのは駅のすぐ近くにある公園。
特に治安のいい場所だけあってとても静かだ。
昼間にはたくさんの子供達が遊び回っているアスレチックも、この時間なら独り占め出来る。
1番高い場所に登り、辺りを見回す。
月明かりと少しの街灯に照らされる桜は、とても綺麗だ。
妹には時代遅れだと言われるガラケーを取り出し、メールの内容を考える。
どんな話をしようか。
彼女との話題は、口下手な俺にとってかなりの難関だ。メールじゃなければ俺は、愛を伝えることも出来ないかもしれない。
桜が綺麗だよと、とりあえず。
送ってから短過ぎただろうかと思い悩むが、それは酎ハイで腹の奥に流す事にした。
すぐに返事が来る。
俺と花見が出来ることが嬉しいという内容だ。
空は、知っているだろうか。
お前が喜んでくれる度に、俺は嬉しくなる。
と同時に、途方もなく、苦しみも覚えるんだ。
ただ傍に居ることも出来ない。
ただメールをするだけなのに、それを幸せそうに語るお前を想う度に、この世界がどうしようもなく憎くなるんだ。
俺には当たり前に出来ることが、お前にとっては生死に直結する。
世の中の大半の人間が当たり前のように過ごす日々が、高く分厚い壁の先にある。
この憎しみを、一体俺はどうすればいい。
ふと我に返り、自分の顔を殴り付け、落ち着かせる。
そうじゃない。そうじゃないだろうと。
気付けば酎ハイは2缶目。
タバコを咥え、火を着ける。
煙と共に大きく息を吐き、落ち着かせる。
情緒不安定な自分が、弱い自分が、情けない。
桜は毎年、綺麗な花を咲かせる。
今年も空と桜を見れた事を喜ぶべきだ。
また1年。もう1年。いつまで生きられるか分からないんだ。
今この時を、大切にしよう。
なんてこともない雑談をそらとする。
それが出来るなら、まだ大丈夫な筈だ。
深夜の公園で花見をする男が1人。
そこに在るのは、咸と空と、夜の桜と。