咸と空

空宛の手紙だったり独白だったり色々。

2日目 電子の海

2020-07-21 20:17:48 | 日記
俺には学校に通っている記憶がほとんど無い。
それは別に記憶喪失という訳じゃ無いと思う。
卒アルも、写真もない。当時の友人とも関わっていない。思い出す切っ掛けがあまりに無さすぎて、引き出しの奥にでも仕舞ってあるんだろう。
俺の学生時代の記憶のほとんどはネットで埋まってる。
学生時代、電子の海と呼ばれるネットの世界にずっと、俺は居たんだ。

中学時代、ガラケーが流行りだした。
持った当初はまだ電子メールと電話、ちょっとしたゲームくらいしか出来なかったが、携帯は凄まじい勢いで進化し、高校に入る頃にはインターネット掲示板の全盛期が始まっていた。

咸という名は当時俺が使っていた固定ハンドルネーム。
今で言うゲームアカウントの名前みたいな感じだな。どのゲームで遊ぶ時も固定ネームでやっていたら別のゲームで別のゲームの仲間に会ったなんて事があると思うが、そんな感じで沢山の掲示板を巡り、様々な人達と話して過ごすのが好きだった。
年代も、性格も様々。名無しと呼ばれる名もない住人がほとんどで、基本的にはその日その場限りの関係。気を遣う必要もなく、互いに言いたいことを言い合うだけの時間が、それはそれで楽しかった。

そんな日々を過ごす中、メインで過ごしていた掲示板にひとつのスレッドが立った。
タイトルはセックスってなんですか?

でっかい釣り針だなおいと思いながら、スレッドを開く。

そのスレッドには俺以外のコテハン達も何人か居るようだった。
この掲示板はコテハンが多く、名無しvsコテハンだったりコテハンvsコテハンという喧嘩がしょっちゅう起こる。
喧嘩と言っても格闘技のようなものでその後も引きづるようなものではなく、どちらかというと喧嘩自体を楽しんでる感じで、そんな空気が好きだった。
この日もこの釣りを餌にどう盛り上がるのか楽しみにしていたが、雲行きが怪しい。どうやら釣りではないようだ。
スレ主からは掲示板に慣れている印象を受けなかったし、対応はしどろもどろ。
盛大に食い付いてやろうと集った猛者達も困惑気味。
なんだろうな。雰囲気的には地下格闘技の会場に何も知らない子供が迷い混んだみたいな感じだ。
日々口喧嘩ばかりの荒んだ掲示板生活を送っていた俺はたまには善行を積んでみるのもいいかとスレ主に声を掛け、遠隔投稿で別の掲示板のURLを載せそこに誘導する。
不思議なもので掲示板には掲示板事に特徴があり、その特徴に合った住人が集まる。そして基本的に掲示板の住人は住処が決まっていてあまり流動しない。流動しあちらこちらの掲示板に顔を出すのは基本的に俺のように荒らしと呼ばれる存在位だ。
リンク先の掲示板は女性が管理人で平和な場所。
そこでじっくり話を聞いてみることにした。
話辛いようならと、また遠隔投稿でメールアドレスを載せる。

この時既に俺はそらに惹かれていたように思える。
そらの文章からは透き通ったものを感じた。
他とは違うなにかを感じたんだ。
それはきっと、色んな意味での予感。
そして俺は、想像以上の壁とぶつかる事になる訳だ。

これがそらとの出会い。
俺の人生を変えた、大切な人との出会いだ。