「ウルトラマン」伝説の全39話<前篇>
1966年7月17日に本放送を開始した国民的特撮番組『ウルトラマン』。
特撮シーンの撮影遅れで制作スケジュールが切迫し、スタッフの疲労も限界を超えていたため、高視聴率だったにも関わらず39話で放送を終えました。
本日7月10日は“ウルトラマンの日”ということで、制作の裏話とともに全話 (まずは19話まで) を振り返ります――。
第1話「ウルトラ作戦第1号」
科学特捜隊のハヤタ隊員は、小型ビートルでパトロール中に謎の青い球体を発見。
追跡を開始した矢先、続いて出現した赤い球体と衝突して森に落下。ビートルは大破し、ハヤタは命を落としてしまう。
しかし、M78星雲から来た宇宙人に命をもらって生き返り、ウルトラマンと一心同体となったハヤタにベータカプセルが託され、宇宙怪獣ベムラーとの闘いが始まった――。
【制作裏話】
ベムラーの回は第1話となっているが、1966年3月16日のクランクインから2か月後の制作第5話として撮影された。
また、第1話の最終脚本は、金城哲夫氏が1966年5月11日から13日にかけて祖師ヶ谷大蔵にあった旅館はなぶさに泊まり込んで書き上げた。
著名な脚本家に依頼した脚本が不評で、ほとんどを書き直すことになったためで、最終的には共同脚本という形になった。
水のシーンは美センのプールのあるステージで撮影しており、普段は水を抜いてその上に平台を置いて使っていた。
ベムラーがいる所だけ水深が1.8m位で、ベムラーが潜る時に浮いてしまうため、スタッフ総出で押し込んだという。
第2話「侵略者を撃て」
宇宙から強烈な怪電波を発する物体が飛来し、科学センターの上空でレーダーから消えた。
科学センターに調査に向かった科特隊の前に宇宙忍者バルタン星人が現れ、スーパーガンで応戦するが攻撃が効かないため、一旦退却することになった。
さっそく防衛会議が開かれ、ムラマツキャップの発案でバルタン星人と話し合いを行うことになり、交渉役のハタヤ隊員とイデ隊員が夜の科学センターに向かうが――。
【制作裏話】
ウルトラマンは、本作と『ミロガンダの秘密』『科特隊出撃せよ』の3本持ちで、飯島敏弘監督によってクランクインした。
バルタン星人は、飯島監督から「ウルトラQに出てきたセミ人間に角をつけてハサミを持たせてくれ」という注文を受けて成田亨氏がデザインした。
造形の経費節約の苦肉の策だったという。
ちなみに、ハサミに窓の様なものがついているのは、ハサミのままだとただの蟹になってしまうため、宇宙人らしくするためにつけたという。
クランクイン直後の飯島監督の最初の3本は、本編も特撮も同じ1班体制だったが、日程的に1班では無理だとわかり、次の組から本編と特撮が別になった。
作品中に出てくる科学センターの建物は、川崎にある長沢浄水場が使用された。
光学撮影の中野稔氏によると、バルタン星人の分身は正面の映像を重ねて複数に見せ、その間を歩く姿を白黒フィルムで何回も重ねたとのこと。
カラーの上に白黒の映像を何回も重ねたことで全体が青くなり、幻想的な映像に仕上がった。
アフレコ時に初めてこの映像を見た科特隊のメンバーが感動し、「この素晴らしい合成技術に負けない演技をしよう」と誓い合ったという。
第3話「科特隊出撃せよ」
城の古井戸から恐ろしい音が聞こえるという通報が科特隊に寄せられ、フジ隊員とホシノ少年が調査に向かった。
調査中に突然、山崩れが起きて水力発電所が破壊され、発電所の職員は消えていく怪獣を見たという。さらに、近くの送電所で送電事故が発生。
それは、電気を吸い取ってエネルギーにする透明怪獣ネロンガの仕業だった――。
【制作裏話】
ホシノ少年が井戸の底から見上げた井戸の内壁は描いた絵を合成している。
ネロンガの名前は“皇帝ネロ”から名付けられており、怪獣スーツは東宝怪獣のバラゴンを改造して使われた。
ネロンガに入っているのはゴジラを演じた中島春雄氏で、中島氏が動きの段取りを組んだ。
ウルトラマンとネロンガの戦うシーンは数百カット撮ったが、実際に放送されたのは60カットほどだったという。
また、古谷氏は一度ネロンガの中に入ってみたが重すぎて立てず、接着剤やゴム、ウレタンなどの臭いで気持ち悪くなり、自分の声も外に伝わらず恐怖を感じたとのこと。
「怪獣に入って颯爽と演技している中島春雄さんは本当に凄いと思った」と自著『ウルトラマンになった男』で述べている。
また、フジ隊員役の桜井氏が撮影の空き時間に特撮ステージで初めてウルトラマンと怪獣の格闘シーンの撮影を見たのはこの回だった。
休憩時間に、体全体から湯気を出しながらガックリと木箱に座る古谷氏の姿とウルトラマンの長靴から「ザァーッ!」と大量の汗が捨てられる光景に驚いたという。
古谷氏と中島氏の姿は桜井氏の気持ちを打つものがあり、「主役はこの人たちだわ」とはっきりと思ったという。
なお、冒頭の城は小田原城天守閣 、水力発電所は静岡の須川発電所 、洞窟内は伊豆シャボテン公園がロケ地になっている。
第4話「大爆発五秒前」
木星開発用ロケットが打ち上げに失敗して太平洋に墜落した。
ロケットに搭載されていた水爆の一つが海底で爆発し、放射能を浴びた海底原人ラゴンが巨大化し、巡視艇を襲った。
行方不明だった水爆を肩にぶらさげたラゴンは海上を北上し、休暇を楽しんでいたフジ隊員らが宿泊する千葉の葉山アリーナに上陸したーー。
【制作裏話】
『ウルトラQ』第20話で海底原人ラゴンを演じたのは古谷敏氏だが、今回の巨大化したラゴンを演じたのはガメラ役の泉梅之助氏。
身長と恰幅がある体形に合わせて、高山良策氏によってスーツを造形し直したとのこと。
第5話「ミロガンダの秘密」
都内で新聞記者と地質学者が次々と窒息死する事件が起き、死因の特殊性から科特隊に調査が依頼された。
事件現場には緑色の謎の液体が残されており、地質学者の温室からはオイリス島から持ち帰ったミロガンダが消えていた。
調査の結果、放射線による品種改良の実験中にミロガンダが幼年期の巨大食虫植物に姿を変え、人間を襲っていることが判明し、科特隊にも魔の手が迫る。
【制作裏話】
この回は、古谷敏氏が初めてウルトラマンを演じた撮影だった。
マスクが顔に密着していて空気が口の周りくらいしか無かったため、最初の頃は息をするだけで精一杯で、演技プランまで頭が回らなかったという。
また、光線を出すのは決まっていたが、形やどこから出すかが決まっていなかったため、古谷氏と飯島監督、中野氏、高野氏で話し合ってポーズを決めた。
それから、古谷氏は三面鏡の前でスペシウム光線のポーズの練習を毎日300回行うようになったという。
作品中に出てくるミロガンダが植えられていた地質学者の研究室の温室は、伊豆コスモランドの地球儀大温室が使用された。
また、この回の科特隊の指令室でのシーンが飯島組の本編の初撮影だった。
イデが台本に書かれていた「兎に角(とにかく)」の読み方がわからず、アラシに聞いたところ、冗談で「ウサギにツノ」と教えた。
すると、リハーサルと本番でも「ウサギにツノ」と言うので、ふざけていると勘違いした飯島監督が怒ってスタジオを出ていってしまったという(笑)
第6話「沿岸警備命令」
横浜沖で体長20mもあるサメが噛み傷を負って浮かんでいるという通報が科特隊に入った。
東京湾でもよく船が沈んでおり、何かの事件の前触れではないかとハヤタが心配するのをよそに、ホシノ少年は横浜に遊びに行っていた。
港で怪獣を目撃したホシノ少年たちだったが、密輸犯に囚われてしまい、科特隊が救出に向かった先で海獣ゲスラが襲ってきた――。
【制作裏話】
ゲスラは『ウルトラQ』のピーターの改造。
ゲスラは元々毛虫の怪獣という設定で、モスラの幼虫を改造する予定だったが、ウルトラマンと格闘しずらいという理由でトカゲの怪獣に変更された。
ゲスラに詳しい船員は『ウルトラQ』の「2020年の挑戦」の宇田川刑事役、「あけてくれ!」では沢村を演じた柳谷寛氏。
ウルトラマンのスーツアクター・古谷敏氏は、初めて仮面をつけて水中に入ったが、目の穴から水が仮面の中に入ってきて苦しくて恐ろしかったと話す。
劇中でも、口から大量の水を吐き出していたり、頭が全て水の中に沈んだりしていて、観ている側も心配になるほどの格闘シーンになっている。
第7話「バラージの青い石」
中近東に巨大隕石が落下して以来、不思議な事件が次々と起こり、科特隊パリ本部から日本支部に出動要請が来た。
隕石が落下した謎の街バラージがあるといわれている場所にジェットビートルで向かった科特隊は、強力な磁力線に襲われ墜落。
バラ―ジに向かう途中で遭遇した磁力怪獣アントラーから逃げた科特隊一行は、ウルトラマンの姿をしたノアの神と青い石に守られるバラ―ジに到着した――。
【制作裏話】
川崎の生田に作られた東宝映画「奇厳城の冒険」のオープンセットで撮影が行われ、このセットを基にストーリーが考案された。
スペシウム光線が効かない神出鬼没の強敵だけに、ジェームス・ディーンを参考にしたというウルトラマンのファイティングポーズから緊張感が伝わってくる。
フジ隊員役の桜井浩子氏は「奇厳城の冒険」に出演していたため、この回には出演していない。
なお、アントラーは高山良策氏が最初に手掛けた怪獣で、蟻地獄を意味するアントリオンが由来となっている。
第8話「怪獣無法地帯」
火山噴火により無人島になっていたタタラ島で2年半ぶりに定点観測所が再開され、4人の先発隊が島に向かったが、音信不通になった。
気象庁から測候所員の救出を要請された科特隊はタタラ島に向かったが、レッドキングやチャンドラーなどが暴れ回る無法地帯になっていた。
また、測候所は何者かに破壊されて無人になっており、ジャングルや天然の洞穴の捜索をすることになった科特隊の前に怪獣や怪奇植物が立ちはだかる――。
【制作裏話】
レッドキングとスフランのみ新造怪獣で、チャンドラーはぺギラ、ピグモンはガラモン、マグラーはネロンガの改造。
レッドキングは高山良策氏が手掛けた2体目の怪獣。レッドキングとの戦いではスペシウム光線ではなく、背負い投げで倒している。
スフランをスパイダーの炎で焼くシーンは、アラシの下にLPガスのボンベを用意し、ガスの管を衣装の内側に通して本物の炎を撃っているという。
しかし、スフランに引火した炎が上へ上へと燃え広がったため、助監督の東條昭平氏が慌てて自分の着ていたジャンバーを被せて火を消したとか(笑)
第9話「電光石火作戦」
猛烈な勢力の台風13号が伊豆半島に上陸した。
台風の翌日、復旧作業中に地中からウラン怪獣ガボラが現れ、鉱物のウラン235が貯蔵されている隣町へ向かった。
戦車による火炎放射で進行方向を変えることに成功した科特隊だったが、ガボラが向かった先にはキャンプ中の高原少年団のバンガローがあった――。
【制作裏話】
ガボラはマグラーのボディからトゲのついた外皮をはがし、ネロンガの角と背びれを外し、新規造形のヒレを付け加えられている。
ガボラは初代ゴジラのスーツアクターの中島春雄氏が演じており、ダイナミックな動きを見せている。
第10話「謎の恐竜基地」
ある山奥のふだん人が来ない湖で魚が異常発生し、釣り人が大勢訪れるようになった。
それは、湖のほとりに住んでいるモンスター博士が湖で育てていた襟巻怪獣ジラースに餌として大量の魚を与えていたためであった。
科特隊が調査に訪れる中、魚をたくさん獲ろうとした釣り人が魚が死ぬ薬剤を湖に流したことで暴れ出したジラースと科特隊、ウルトラマンの闘いが始まった――。
【制作裏話】
怪獣の着ぐるみ制作の費用を抑えるために、円谷英二監督が東宝から借りてきたゴジラに襟巻をつけることになった。
そして、脚本担当だった金城氏が高田馬場にある沖縄料理の店「次郎亭」で飲んでいる時、南極に置き去りにされた犬、タロとジロのことが話題に上った。
「ゴジラを太郎とすれば、エリマキをつけた今度の怪獣は次郎ってところかな」
ということで、沖縄方言で“次郎叔父さん”を意味するジラースーに絡めて、怪獣の名前はジラースになったという。
また、ジラースの闘いでは、西部劇をモチーフとしたコミカルなやりとりが繰り広げられる。
ブルース・リーが監督・主演を務めた『ドラゴンへの道』(1972年)では、このジラース戦のラストの演出がオマージュとして捧げられている。
「ウルトラマン不滅の10大決戦」で明らかになったもので、敗者にも敬意も捧げる武士道が描かれていると衝撃を受けたという。
この回ではホテルのボーイ役で古谷敏氏、釣り人役でウルトラQの西条康彦氏が出演。また、エキストラとして高野宏一氏も出演している。
ロケ地は伊東の一碧湖で、ロケ日が1966年7月17日だったため、スタッフと出演者が揃ってウルトラマン第1話をホテルのロビーで鑑賞した。
放送終了後には拍手が沸き起こったという。
なお、この回から、特技監督というクレジットが特殊技術に変更になっている。東宝から「特技監督は円谷英二だけのもの」というクレームが入ったためだった。
第11話「宇宙から来た暴れん坊」
空き地で友だちと遊んでいたホシノ少年の前に、“欲しいと思ったものに姿を変える不思議な石”が空から落ちてきた。
その石は科学センターで分析され、地球上に存在しない元素でできている生きている石であることが判明したが、謎の男にその石が盗まれてしまう。
その男は、石をギャンゴと名付けた怪獣に変身させて人々を驚かせて楽しんでいたが、「もっと大きなギャンゴになれ」と言ったとたん巨大化してしまう――。
【制作裏話】
ギャンゴはベムラーの改造で、尻尾を取り、腕とアンテナ状の耳を付けた。
腹部のカラフルでインパクトのあるデザインは、満田監督の「トテームポールみたいなデザイン」というアイディアから生まれた。
水中からウルトラマンが飛び出すシーンで、仮面に水が入ってきて死にそうになった古谷敏氏。
Aタイプのマスクは口が開く仕様だったため、口から水がどんどん入ってきてマスクの中に溜まって、マスクの中で溺れてしまう恐怖を感じたそうです。
撮影後に高野監督に、「息ができなくなって死にそうになって恐ろしいので、水のシーンを減らしてくれ」とお願いしたとのこと。
第12話「ミイラの叫び」
洞窟から7000年前のものと思われる人間のミイラが発見され、科学センターに運ばれた。
研究室に安置したその夜、装置の電源がひとりでに作動し、電気ショックを受けたミイラは蘇生し、行方をくらました。
ミイラのテレパシーによって洞窟に眠っていたミイラ怪獣ドドンゴが目を覚まして暴れ始めたため、科特隊とウルトラマンが立ち向かう――。
【制作裏話】
小さなステージでの撮影だったため、ホリゾントの見切れ防止でステージの土の床をショベルカーで2、3mほど掘って床を低くした。
下に降りる時、はしごを何本も使って降りるほど深かったせいで空気が薄く、古谷氏は息苦しく、倒れそうになりながら撮影を行った。
ドドンゴは前後の二人の演者が入る仕組みになっており、鳴き声はモスラを加工して作られた。
第13話「オイルSOS」
中近東の国々で原因不明の油田火事が起こり 航行中のタンカーが炎上、爆発する事件が相次いで起こった。
数週間後、東京湾でもタンクローリーの爆発炎上事故が発生。現場検証中にタンカーが爆発炎上し、油獣ペスターが現れて船を沈めて海中に姿を消した。
科特隊がペスターを東京湾からおびき出そうとしたところ、イデが誤って湾内で発砲し、怒り狂ったペスターの火炎でコンビナートは火の海に――。
【制作裏話】
本作は、ガソリンと火薬を使った非常に危険な撮影となった。
ペスターのスーツアクターを務めた荒垣氏と清野氏は、「水と火が同時に襲いかかってきた。苦しくなって怖くなって、もうだめかと思った」と話す。
古谷氏も、熱風が覗き穴から入ってきて目が熱くなり、周りが炎だらけで体も熱くなってきて息苦しくなってきたが、夢中で演技したという。
天井付近でカメラを構えていた佐川和夫氏は、熱で溶けて上から垂れてきた照明用部材によって火傷を負い、飛んできたブリキの蓋で火傷をしたスタッフもいた。
爆発する石油タンクを真俯瞰で撮るために天井付近でカメラを構えていたスタッフは、爆発時の熱風で眉毛や髪の毛がチリチリになってしまったとか。
ちなみに、ウルトラ水流のシーンでウルトラマンの右足にホースが映ってしまっており、DVD版にはそのまま収録されているが、ブルーレイ版では消されている。
低予算だったため、スタッフやキャストはいつも醤油がかかっていない同じおかずのロケ弁当を朝昼晩、深夜にも食べさせられて、うんざりしていたとか。
ロケ弁を作っていた増田屋食堂の入り口に大きな赤ちょうちんがぶら下がっていたため“赤チン弁当”と呼ばれていたという。
なお、冒頭に出てくる酔っ払いが持っているのが赤チン弁当。
第14話「真珠貝防衛指令」
科特隊の給料日に、イデ隊員を連れて宝石店にやってきたフジ隊員。
しかし、今年に入って突然、養殖真珠が全滅に近い打撃を受けて真珠が値上がりしていて、ネックレスは買えそうにない。
「海流や気候は例年と同じなのにおかしい」と疑問を感じたフジ隊員。女の意地とプライドを懸けた戦いが始まる――。
【制作裏話】
冒頭の宝石店は銀座にある「宝石専門店ミワ」で、実相寺昭雄監督がウルトラマンの監督になって初めての撮影場所だった。
また、ラストシーンでフジ隊員とイデ隊員が銀座の街を歩くシーンは、三愛ビル3階からの隠し撮りで撮影された。
実相寺監督は銀座を歩く度に、「自分の“ウルトラ”はこの辺りから始まったんだ」と微笑んでしまうらしい。
三浦半島の剣崎での撮影の休憩時間に喉の渇きを癒すために近くの売店へ向かった科特隊一行。
清涼飲料水を買うつもりがキャップの「おっ!冷えた缶ビールあるぞ!」の一言で、スタッフに内緒で全員で冷え冷えの缶ビールを飲みほした。
しかし、焚火のシーンでアルコールがアラシとイデの舌を直撃し、呂律は回らないは顔は茹でダコのように赤くなるわで、監督がセリフを短くしたとか(笑)
ちなみに、ガマクジラとウルトラマンが戦うシーンも撮影されたが実相寺監督によってカットされてしまったという。
なお、この回からウルトラマンのマスクとスーツがBタイプに変わった。
第15話「恐怖の宇宙線」
少年が土管に描いた怪獣ガヴァドンが特殊な宇宙線と太陽光線を浴びて、実体化した。
しかし、寝てるばかりの姿に失望した子供たちは、太陽が沈んで土管に戻った怪獣をもっと強そうな姿に描き直した。
日の出とともに実体化するガヴァドンだったが、またいびきをかいで寝てばかり。科特隊は経済生活の邪魔になっているガヴァドンとの決戦に挑むが――。
【制作裏話】
ガヴァドンAの足音には、ガラス板に太いマジック・インキを擦らせた音が使われている。
また、ウルトラマンとガヴァドンBが戦ったのは多摩川緑地公園グラウンドから和泉自動車教習所辺りで、特撮のミニチュアもその付近を再現しているとのこと。
ハヤタが流された宿川原堰堤も健在で、子供たちが星になったガヴァドンを見上げるシーンも多摩川河川敷の川崎側の土手で撮影された。
この回のラストシーンは、月島第二児童公園で撮影が行われ、子供たちに集まってもらって好き勝手に落書きをしてもらったという。
しかし、あとから制作や美術のスタッフたちに「落書きを消すのが大変だった」と文句を言われたとか(笑)
第16話「科特隊宇宙へ」
人類最初の金星探検を目指して、宇宙開発研究所の毛利博士が乗った宇宙ロケット「オオトリ」が打ち上げられた。
万一の事故に備えて救助体制をとっていた科特隊だったが、オオトリから送られてきた映像が乱れ、バルタン星人が画面に登場した。
ウルトラマンによって全滅したと思われていたが、生き残りが地球征服を狙っていたのだ――。
【制作裏話】
初代バルタン星人を造形した東宝の佐藤保氏に代わり、二代目は佐々木明氏が造形。地球を襲うバルタン星人の大群は、マルサン製ソフビ人形と鉛製の人形を使用。
第17話「無限へのパスポート」
探検家のイエスタディ氏が砂漠から持ち帰った青い隕石を研究中に、隕石とともに行方不明になって1週間が経った。
科特隊の事情聴取中に地震が起き、青い隕石とともにイエスタディ氏が屋外の草むらに現れた。もう一つの赤い隕石は親友の福井氏に預けたという。
福井氏の赤い隕石と川口研究所で預かっていた青い隕石を科特隊で保管、調査することになったが、二つの隕石が融合し、四次元怪獣ブルトンが誕生してしまう――。
【制作裏話】
この回の脚本を書いた藤川佳介氏によるとブルトンのイメージはテトラポットだったそうだが、成田氏はイソギンチャクをイメージしてデザインしたという。
第18話「遊星から来た兄弟」
東京に放射能を含んだ霧が発生し、人々は次々に倒れた。それは地球征服を企む第8銀河系のザラブ星人の仕業だった。
地球と友好関係を築くと見せかけて科特隊と宇宙局を懐柔しつつあったが、拠点にしていた土星探検ロケットの偵察に来たハヤタに本性を暴かれる。
怒ったザラブ星人はハヤタを監禁してウルトラマンに変身できなくさせ、にせウルトラマンとなって街を破壊し始めた――。
【制作裏話】
古谷敏氏は、にせウルトラマンの頭に軽くチョップをするシーンで、距離感を間違えて思い切り仮面に手刀を当ててしまった。
小指を骨折したと思ったほどの痛さで、右手を振って全力で痛みを堪える人間的な動きになってしまったが、高野監督の意向でそのまま使われている。
ザラブ星人のスーツは、ラゴンで使われたものを改造して使用。
宇宙局での会議のシーンで画面左端に座っているのは、円谷プロの企画文芸室長で、ウルトラマンのメインライターの金城哲夫である。
また、作品の冒頭の霧に覆われる東京の街は、東宝撮影所の北側にあったオープンセットで撮影されたという。
第19話「悪魔はふたたび」
東京のビル工事現場から金属製のカプセルが発見され、中には金属板と青い液体が入っていた。
金属板と青い液体は研究所で検査が行われ、金属板の古代文字を解読すると「3億5000万年前にカプセルに怪獣を封じ込めた」と書かれていた。
そんな中、工事現場に埋められていたもう一つの赤い液体が入ったカプセルからバニラ、鉱物試験場からアボラスが出現し、暴れ始めた――。
【制作裏話】
アボラスはレッドキングの頭を挿げ替えて造形された。バニラはタツノオトシゴを怪獣にしたという。
クライマックスシーンは国立競技場とその周辺でロケが行われた。
国立競技場のセットの図面は池谷仙克氏が作成。当時は国立競技場の資料が無かったので、自分でロケハンして写真をとって図面をひいたとのこと。
18話・19話 裏話
番組制作が放送に間に合わなくなり、円谷英二監督が自ら特撮班を編成し、特撮の指揮をとったのが第18話と第19話。
しかし、当時は「ゴジラ・エビラ・モスラ南海の大決闘」の特技監修、「キングコングの逆襲」の特技監督として準備段階に入るという極めて多忙な時期だった。
にも関らず、円谷監督は朝9時には撮影所に来て、スタッフに自分で描いた撮影コンテを渡して指示をしていたという。
編集後記
今回、記事を作成するために、久しぶりに『ウルトラマン』を観返しました。
その結果、子供時代は「カッコいい」「面白い」「楽しい」「怖い」といった表面的で単純な感じ方しかできていなかったことに気付きました。
大人になってから、ストーリーや台詞に込められたメッセージ、出演者の演技、美術、造形、制作裏話などを含めて多面的に観ると、作品の素晴らしさをより深く感じます。
半世紀以上前の作品にも関わらず、古さをあまり感じず、大人の鑑賞にも十分に耐え得る作品であることも再認識しました。
喜怒哀楽に富んだ脚本、卓抜した演出や音楽、特撮、美術、造形、そして俳優の演技力の高さと人間的魅力などが相まって、時代を超えて支持される作品になっているのでしょう。
他のウルトラ作品と見比べることで、作品の根底に沖縄の太陽の様な力強い明るさも流れていることにも気付きました。
8頭身の古谷敏氏がマスクをつけて人間の体で一番美しいプロポーションである7頭身になり、ウルトラマンのカッコ良さに芸術性が加わったことも大きかったといえます。
また、ホシノ少年が怪我で後半から出演しなくなり、シリアス路線に移行したことで、大人の視聴者も巻き込んで盛り上がっていったんだと思います。
初回から最終話まで安定した高視聴率が続いたため、視聴者に媚びたり迎合する必要性がなく、監督の思い描く演出が出来たともいえます。
“特撮の神様”円谷英二の名の下に、予算をオーバーして赤字になることも厭わず、ミニチュアセットや映像合成に徹底的に拘ることができたこともあるでしょう。
ただ、やはり一番大きいのはCGを一切使わないことで撮影現場の空気感、物体の重量感がリアリティとなって画面から伝わり、子供心を捉えたのではないでしょうか。
ウルトラマン放送当時は、テレビは“電気紙芝居”と呼ばれて馬鹿にされていたため、「偏見を見返してやる」という反骨精神もありました。
主題歌のクレジットの一番最初に“監修・円谷英二”と表示されるため、「オヤジに恥をかかせるわけにはいかない」というスタッフの責任感もありました。
円谷プロダクションとTBS、東宝の才能のぶつかり合いによる化学反応もありました。
つまり、キャスト、スタッフ、責任者が「良い作品を作ろう」と同じ方向を向いて仕事をしたことが、一つ一つの小さな川の流れを大河にしていったんだと思います。
ウルトラマンは、庵野秀明氏が評しているように「あらゆる才能の集合体で作られた奇跡の番組」なのですーー。
⇒ ウルトラマン再考<後編>はこちら
【出典】「ウルトラマン研究読本」「大人のウルトラマン大図鑑」「ウルトラマンの現場」
「ウルトラマンになった男」「ウルトラマン誕生」「ウルトラマンの東京」
「ウルトラマンの飛翔」「ウルトラマン1966+ -Special Edition-」
「特撮と怪獣」「ウルトラマン創世記」「ウルトラマン青春記 フジ隊員の929日」
「写真集 特技監督・円谷英二」「ウルトラマンはなぜシュワッチと叫ぶのか」
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