20.悪夢がふたたび
アーリーン、シモネット、トレバーはテレビでプロレス中継を見ていました。
プロレスが好きなトレバーは大はしゃぎでレスラーのパフォーマンスを演じます。
安全基地があると人はその居心地の充実感から様々な活動を繰り広げていきます。
小さな喜びの表現から大きな創作活動まで。
”エジプトはナイルの賜物”
幸せ、絶頂のトレバーのシーンでした。
そこに突如アーリーンの夫、トレバーの父親がやってきました。
ジョン・ボン・ジョヴィが演じる夫です。
幸せの時間が崩れ去ります。
退散するシモネットをトレバーは窓からじっと見つめていました。
トレバーはとても不安げな表情をしていました。
トレバーは自室にこもり、憂鬱としするようになります。
シモネットは日課のアイロンかけに没頭して気持ちを落ち着かせていました。
アーリーンはシモネットに会いにきました。
夫を迎え入れたことを説明します。
アーリーン:「ごめんなさい、許して」
シモネット:「今さら何の用だ?」
アーリーン:「分かってほしい」
シモネット:「説明なんか必要ないよ」
アーリーン:
「そんなふうに言わないで」
「一緒に13年暮らして初めて2人ともシラフになったわ」
シモネット:「それはおめでとう」
アーリーン:「だから彼にチャンスをあげたいの」
シモネット:
「チャンス?」
「何のための?」
アーリーン:「生まれ変わってやり直すためよ」
シモネット:「トレバーと野球に行ったり父親らしく?」
アーリーン:「ええ、努力するって約束してくれたの」
シモネット:「目を覚ませよ」
アーリーン:「彼はトレバーの父親よ」
シモネット:
「君を妊娠させただけだ」
「父親とは言えない」
「暴力を振るうのが父親か?」
アーリーン:「トレバーには暴力はないわ」
シモネット:
「そうとも、君にだけにね」
「殴るのは君だけ。ずっとマシだよな」
アーリーン:「トレバーに何を聞いたの?」
シモネット:
「十分すぎるほど聞いたさ」
「やり直すなんてトレバーが哀れだ」
アーリーン:「夫は酔ってたからなの」
シモネットは何かを思い出し、込み上げた怒りが放たれます。
シモネット:
「自分への言い訳か?」
「”私を殴るのならトレバーは安心だ”と?」
「あの子はトイレにこもり、息もできず”早く終わって”と祈る」
アーリーン:「違うわ」
シモネットは買い物袋を放り出して涙を浮かべて、何かを思い出していました。
シモネット:
「君に何が分かる!」
「君の次にトレバーが殴られない保証でもあるか?」
「僕は散々見た」
「僕の父はひざまずいて母に懇願し、母はいつも父を受け入れてた」
僕はあえて「依存」という言葉は使いません。
この言葉を使うとあなたが勇気を出して人に愛をもらう行動ができなくなるからです。
アーリーンには夫しか頼る者がいなかった。
現実を冷静に考える心が疲弊しており、心の中は不安感でいっぱいでした。
周囲には”藁(わら)”しかすがるものが無かった。
シモネット:
「理解できなかった」
「母は傷だらけで父を許してた」
「父が泣いて頼んだからだ」
この父親は5歳の幼児なんですね。
体だけ大人に成長してしまった。
愛する能力のない人間です。
妻を母代わりとして甘え尽くしていました。
駄々をこねる方法が泣くことから暴力へと変わっただけ。
別れを切り出されると泣いて懇願する幼児。
妻も彼なしには生きていけない無価値感を宿した人間。
二人とも、離れられない関係です。
シモネット:
「どうなったか私に聞けよ」
「なぜ僕がこんな体になったかを」
アーリーン:「やめて」
シモネット:「”暴力を振るわれたの?”って聞けよ!」
アーリーンは同情した表情でシモネットに言われるまま尋ねました。
アーリーン:「暴力を?」
シモネット:
「長い間じゃない」
「13歳になる前に家出したよ」
「でも母が懐かしくなると会いに戻った」
「そんなある晩...」
「聞けよ。”何が起きたの?ユージーン”って」
アーリーン:「何が?」
シモネット:
「父がいた。相変わらず酔ってた」
「だが僕はもう16歳になっていて父など怖くなかった」
「僕は父を見据え”母を殴ったら殺す”と言ったんだ」
「父には分かった。僕の中にもう父は存在しないと」
「僕は家の前に立ち、母に叫んだ」
「”我慢する必要はない”」
「僕と一緒によそへ行こう”と」
妻を奪われると思ったのでしょう。
法を破り、阻止しにきました。
シモネット:
「その時、父が木材で殴りかかり、耳から血を流す僕をガレージへ引きずっていった」
「そして水を持ってくると僕にぶちまけた」
「濡れながら思った」
「”なぜだろう、どうして水が臭いのだろう”と」
「なぜか分からなかった。その時見たんだ」
「そこにはガソリンの缶が...」
「あいつのトラックのガソリンの缶」
「あいつはゆっくり僕を見て、マッチをすった」
「僕が覚えているのは忘れもしない、あいつの目だ」
「あの目にみなぎっていたのは...果てしない...満足感だった」
アーリーン:「気の毒に...」
シモネット:
「やめろ!僕に同情などするな!」
「トレバーを悲劇から守れ」
アーリーン:「リッキーはそこまでしないわ」
シモネット:
「暴力を振るわなくても同じだ...」
「...愛情がなければ」
家に居座るようになったアーリーンの夫は仕事を探さず、また酒を飲み始めました。
懐かない息子に罵声を浴びせます。
アーリーンと夫の口論にトレバーは自室に閉じこもりきりでした。
トレバーの部屋に逃げ込んだアーリーン。
おびえたトレバーの表情を見て悟りました。
アーリーン:「選択ミスね」
トレバー:「だれでもミスはあるよ」
その頃、クリスはカリフォルニアから終にはラスベガスにまで辿り着きます。
21.選択ミス
放課後トレバーは一人教室に残り、シモネットと話します。
シモネット:「トレバー、どうしたんだ?」
トレバー:
「”次へ渡す”のはやめたの?」
「先生はやる義務はないよ」
「どうせ失敗したし」
「でも、先生ならやるかと...」
シモネット:
「君のために喜んでやるつもりだよ」
「...その時が来ればね」
トレバー:「待ってる人がいるよ」
シモネット:「その話は...」
トレバー:「だれか分かるでしょ?」
シモネット:
「いいかい...」
「君に理解できないこともあるんだ」
「だからムリを言うな」
トレバー:「もう一度チャンスをあげてよ」
シモネット:
「...必ず次へ渡すよ」
「でもそればかりはムリなんだ」
トレバー:
「だからこそやるんだよ」
「難しいことが条件だもの」
「怒ってるだろうけど、ママを助けてあげて」
シモネット:「ママに頼まれたのか?」
アーリーン:
「ママはあきらめてる...」
「でも僕はできると思う」
「先生が本当にやりたいなら...」
トレバーは理解していました。
それが本当に’可能’かどうか。
手を伸ばせば届くのか。
当人が欲しているものなのかどうか。
トレバーは涙ながらに説得します。
トレバー:
「だれかのため、僕の課題のため...」
「僕のために」
ジェリーも女性を救うために言いました。
「おれを救うために」と。
それは渡す者が条件を達成させるためだけではありません。
渡す者が「ペイ・バック」してもらうためにです。
「ペイ・フォワード」とは「ペイ・バック」されることによって2度受け取ることができる「優しさ」なのです。
3人なので4回受け取ることができる幸せの法則です。
シモネット:「彼女の決断なんだ」
アーリーン:「ママはミスだったって」
シモネット:「あとから何とでも言えるよ」
トレバー:「先生は ’次へ渡す’ なんてどうでもいいんでしょ?」
シモネット:
「そうじゃない」
「君のことはいつも気にかけているとも」
トレバー:「教師だもの、それが仕事だしね」
トレバーはシモネットに失望し、教室をあとにしました。
22.母と娘
ラスベガスに着いたクリスはシドニーに渡した老女を探し当てます。
老女:「お酒は?」
クリスはウイスキーの瓶を老女に渡しました。
老女:「話が聞きたけりゃもう1本くれないかい?」
クリス:「きっとそう言うと思ってましたよ」
クリスは懐に隠してあるもう1本を見せました。
老女は震えた手を伸ばします。
クリス:「ダメです、後で」
老女:
「私には”場所”があるのよ...」
「朝まで車を止めて寝る場所や生活する場所がある」
「私に会いたい人はそのどこかを探せばいい」
どうしてこのような言い方をするのでしょうか?
いつも自分は待っている。誰かが来てくれるのを。
暖を取りながら、誰かが渡してくれるのを。
希望を持ちながら、待っている。
そして過去のシーンに遡ります。
路上で焚き火をして暖をとる老女。
老女に会いに来たのは何とアーリーンでした。
老女はアーリーンの母だったのです。
グレイスという女性です。
アーリーン:「ママ...」
グレイスは驚いた表情で言いました。
グレイス:「何の用なの?」
アーリーン:「会いにきたの」
グレイス:「3年も来ないで...」
アーリーン:「ママのこんな生活見てられなくて」
グレイス:「車で家の前を通ったわ...」
アーリーン:「知ってるわ」
グレイス:
「あの子、あんなに大きくなって」
「何しにきたの? まさか...」
「私を施設に入れる気?」
アーリーン:「いいえ」
グレイス:「じゃ何なの?」
アーリーン:
「やらなきゃならないことがあって」
「私が子供の頃のいろいろな出来事...」
「お酒や...それに男や...ママに隠れてされた事...」
アーリーンはすべてを受け入れるように言います。
アーリーン:「人は弱いわ」
グレイス:「あんたは違う」
アーリーン:
「いいえ、弱い人間だったわ」
「私が今日来たのは...」
「ママを許すわ」
一時も目を外さずに話す娘を、その母は黙って受け入れました。
どちらも「勇気」が要ることだったでしょう。
グレイスは話す内容を変えました。
グレイス:「その髪嫌いよ」
アーリーン:「でも変えないわ」
何気ない会話の中に「こんな私でも受け入れてくれる?」
「私も昔と変わらないわよ」と2人の会話が聞こえてきそうです。
アーリーン:「たまには会いたいわ。構わない?」
グレイス:「ええ」
アーリーン:「一緒に住めない?」
グレイス:
「ムリよ」
「あんたじゃ(私は荷が重いと思うわ)」
「あの子に会ってもいい?」
アーリーン:
「シラフならね」
「せめて2時間だけでもシラフでいられる?」
グレイス:「大丈夫よ」
アーリーン:
「いいわ」
「じゃあその時は迎えに来るわね」
グレイス:「なぜこんなことをするの?」
シーンはクリスとの会話に戻りました。
グレイス:
「アーリーンはその理由を話してくれた」
「3人の人間に善い行いをしなければならないって」
23.誕生日プレゼント
シーンが変わり、トレバーの誕生日パーティーが開催されています。
アーリーン:
「♫ ハッピバースディ・トゥ・ユー ♫ ハッピバースディ・トゥ・ユー ♫ ハッピバースディ・ディア・トレバー ♫ ハッピバースディ・トゥ・ユー」
「♫ アンド・メニー・モア」(これからもたくさんの幸せを!)
このような続きの歌詞があるのは知らなかったですね。
おばあちゃんのグレイスが綺麗な服を着て、そっと参加しています。
考えてみると、誕生日会というのは巨大な「善意」そのものですよね。
訪問者がドアをノックする音が聞こえてきました。
シモネットではないかと思い、トレバーは玄関のドアを開けました。
それはやっと発案者の元にたどり着いたクリスでした。
トレバーは残念そうな顔をします。
トレバーはアーリーンと交代しました。
クリス:「マッキニーさん、記者のクリスです。お話を」
アーリーン:「なぜ?話すことなんかないわ」
クリス:
「お母様があなたのことを教えてくれました」
「”次へ渡せ”について記事にしたくて」
アーリーン:
「ダメよ、それは個人的なことよ」
「息子の社会科の課題だけど、失敗したの」
クリス:「社会科の課題?」
アーリーン:
「そっとしておいて。中学1年だし」
「悪いけど誕生パーティーだから」
クリス:
「はるばるロサンゼルスから取材しにやって来たんです」
「このムーブメントは今やロサンゼルスまで」
アーリーン:「ムーブメント?」
クリス:「息子さんは何を?」
そこには泡の出るスプレー缶で無邪気に遊ぶ12歳の少年がふざけていました。
24.決意
トレバーは学校の教室でインタビューを受けることになります。
クリス:「感謝します」
アーリーン:「息子が自分で決めたのよ」
クリス:
「準備OK?」
「インタビューは初めて?」
「いい顔してね」
シモネットも教室に現れ、アーリーンと顔を合わせます。
クリス:
「じゃあ、スタート」
「ユニークな中学生を紹介します」
「トレバー・マッケニー君です」
「自分が誇らしいだろ?」
トレバー:「別に」
トレバーは笑顔で答えます。
クリス:「自慢に思わない?」
トレバー:「よくわからない」
クリス:「”次へ渡せ”のムーブメントを起こしたのに?」
トレバー:
「まあね。社会科で”A”をもらったけど」
「努力が評価されただけだ」
「結果は失敗だったよ」
クリス:「でも注目をあびたね」
トレバー:
「うん、でも...」
「一生懸命、努力したけど僕は何もできなかったんだ」
「ママはできたよ」
「おばあちゃんとの仲直りは大変だったはずだ」
「僕の誕生日に来てくれてうれしかった」
「会えなくて寂しかったから」
「”次へ渡せ”が広まったのはママのお陰だよ」
「ママは勇気があった」
じっと聞いていたシモネットは目を閉じます。
トレバー:
「でも中にはとても臆病な人たちもいる」
「”変化”が怖いんだ」
シモネットはメガネを外しうつむきました。
トレバー:
「本当は世界は...思ったほどクソじゃない」
「だけど日々の暮らしに慣れ切った人たちは良くない事もなかなか変えられない」
「だから、あきらめる」
「でも、あきらめたら...負けなんだ」
インタビューののち、息子の言葉を考えながらアーリーンは外の景色を眺めていました。
シモネットが決意の表情でやって来ます。
シモネット:
「アーリーン...」
「あの子が言ってたような人間に、僕はなってしまってた」
「無意味な人生は...もう嫌だ」
「暗闇に見捨てないでくれ」
アーリーン:「もちろんよ」
シモネット:「君なしでは生きられない」
トレバーのインタビューにシモネットが勇気をもらった瞬間でした。
捨て身でアーリーンに助けを求めました。
そんな人間を誰が拒否できるでしょうか?
25.ともしび
友人のアダムがまたいじめられていました。
トレバーは今度こそ「勇気」を振り絞って自転車で体当たりしました。
一人がナイフを取り出し、トレバーは刺されてしまいました。
トレバーのインタビューが全米に流されました。
ニュースの声:
「悲しいお知らせがあります」
「この少年は今夜7時35分亡くなりました」
「”次へ渡せ”はロサンゼルスを始め、今や全米各地に...」
別のニュースの声:
「親のない子供たちにパソコンが届いた件も関連性を調べています」
トレバーのインタビュー:
「すごく難しいことなんだ」
「周りの人がどういう状況か...もっとよく見る努力をしなきゃ」
「守ってあげるために」
「心の声を聞くんだ」
「直してあげるチャンスだ」
「自転車とかじゃなく...」
「”人”を立ち直らせる」
クリス:「誕生日の願いは”次へ渡せ”の広がり?」
トレバー:「叶わないよ」
クリス:「どうして?」
トレバー:「もう遅いよ」
クリス:「なぜ?」
トレバー:「ローソクは吹き消したから」
アーリーンはトレバーの死を悲しみ、気力をなくし、薄暗い部屋でろうそくを灯し、やがて眠りにつきます。
シモネットは窓の外を眺めました。
シモネットは眠るアーリーンをそっと起こして、外の様子を見ました。
そこにはたくさんの人々が続々と明かりの灯ったろうそくを持って献花に訪れてきていました。
キャメラは上空に引いていきます。
無数のろうそく、その後ろには丘の上にやってくる弔問の車のランプの光りが、ラスベガスの夜景まで連なっていました。
26.世界を救うためにできること
今一度、「ペイ・フォワード」のしくみを考えてみましょう。
まとめてみます。
ルール1:自分ができることの範囲内で他の誰か(3人)に何かをしてあげる。
ルール2:贈られた人はルール1を次の人へする
3の21乗=3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3
10,460,353,203
地球の人口は70億人なので21番目で達成できるという計算です。
でもそこには障害があります。
障害1:中には守らない人がいるでしょう。
障害2:守ることが不可能な人もいるでしょう。
障害3:親切にする人が重なってしまう。
↑一時的に停滞するだけなので、やがてすべての人に「善意」が行き渡ると思います。
次は「ペイ・フォワード」をする目的や意義についてです。
目的1:世界をよくしたい(人のため)
目的2:自分が良い世界に住みたい(自分のため)
目的3:恩を返したい(自分のため)
意義1:世界平和
意義2:幸福を平等に
意義3:自己肯定感を得たり、自己実現の達成ができる
意義4:ボランティア精神の育み
意義5:世界と関わりを持てる。コスモポリタンなのだと感じる
ではその難易度を見てみましょう。
難易度1:他人の悩みを見つけることができるのか?
→その人を本当に理解することが必要。
難易度2:悩みを解決することができるのか?
→自分ができることに限られる。
→お金で解決できることもたくさんある。
→☆受け取る「勇気」、贈る「勇気」が必要。変化が伴う。☆
この時、人を幸せにするには?
大きく分けて3つだと思います。
「心理的解決」ーーー貧困者や幼い子供でも可能。
「金銭的解決」ーーー富のある者が可能。
「専門的解決」ーーー技術、知識ある者が可能。
この作品は「世界と関わること」と「勇気」がテーマだと思います。
自分の「能力」と「勇気」をどれだけ人のために使うことができるか?...です。
「返報性の法則」というものがあります。
友人や近所の人に何かをしてもらった時や物をいただいた時に何か違う形でお返しをしなければいけないという心情です。
本心からお返しをしてあげたいと思う人、
相手が見返りを求めているだろうと想像する人、
慣習だから仕方がないと思う人、
恩の返し方は様々で、心に善意がない場合もあります。
それでも、誰もが世界をよくしたい。
皆さんそう思われています。
一人ひとりが心の底で願っています。
災害、貧困者、戦争被害者、難治性の病人への募金。
献血。
街の清掃。
世界には「優しい」方々がたくさんおられます。
しかし、達成の難しさを私たちは知っています。
不足する物資、資金、技術、心理的ケア、セーフティーネット。
では、難しくしているのは何なのでしょうか?
自分自身がまず一番に救われたいという切迫した状況があります。
健康な人であれ、お金持ちであれ、著名人であれ、誰もが心に不幸を宿しています。
「不安常住」
救いたいという前に救われたいという欲望との葛藤がいつも繰り広げられています。
そしてもう一つ、救いたいけれど傷つきたくないという葛藤があります。
チャンスは一瞬なんです。
救われた瞬間に誰かを救うことです。
感謝の心があるうちに...。
多幸感があるうちに...。
心のろうそくの火が燃え盛っているうちに...。
「ペイフォワード」が優れているのは、心が冷めないうちに「先へ贈る」というタイミングでもあります。
贈る者は「勇気」が必要です。
ジェリーはトレバーのお小遣いで服を買い、食事をし、生きる意欲を一時的に取り戻します。
ですが薬物依存という強敵が立ちはだかります。
それに打ち勝たないと誰かに「ペイ・フォワード」できないのです。
貰ったものは「きっかけ」なのだと思います。
希望の「種火」です。
心の救いを贈られたと同時に、「勇気」を捧げることを強いられる聖なる条件です。
車のバッテリーが消耗し、他の車に電気を流してもらう。
ですが、エンジンをかけるのは自分です。
ギアをあげるのも自分です。
他力からやがて自力へ。
最初からこの「勇気」を自分を救う力として使用すれば、他人に救いを贈られる必要はないと思われるかもしれません。
ですが、打ちひしがれた人の「勇気」のロウソクは風前のともし火です。
消えかかっているのです。
人は億人億色です。
人によって境遇が違います。
貧困、病気、事故、家庭環境、別離。
必要としているものが異なります。
不足している能力や知識、技術、考え方。
求めるものが違います。
だから多様な何本もの「ろうそく」の火が必要なのです。
「ろうそく」の火を他人に分けることで、自分の火が弱まるでしょうか?
消えてなくなるでしょうか?
心の火はそのような性質のものではありません。
もし消えてしまうとすれば、それは「自己犠牲」です。
ルール違反なのです。自分が精一杯できることが条件です。
「善意」「親切心」「勇気」...「優しさ」は無限大です。
広がる、伝播するという性質があるのです。
自身の心の中で自己肯定感が増し、どんどん燃え上がります。
心の火は消費し尽くすものではないのです。
自分の心の中にある絶えず燃えているもの、「生の欲望」がある限り命とともに燃え続けてくれます。
アーリーンは母グレイスに幼少期の過ちを許しました。
その心の火はどこから来たのかわかるでしょうか?
それは息子のトレバーが気づかせてくれたことです。
トレバーのつらい気持ちを共感し、そばに居てくれることへの感謝し、その「優しさ」がアーリーンの心の底にあった母への思いのドアをノックして、母を許すことを「ペイ・フォワード」に選んだのだと思います。
もう一つ、シモネットの感情を探ってみます。
「防衛単純化」という言葉があります。
彼にとっての「とらわれ」は家族に愛されなかったことです。
心無い父親から身体にガソリンをかけられ火を付けられたことです。
体のやけどが消えることのない焼け痕となりました。
同時に彼の心にも消火できない、親への愛と憎しみが生まれます。
シモネットはやけどの傷痕に執着することで、すべての世の憂いをそのせいにしてしまいます。
杭に繋がれている犬が杭の周りを回ります。
次第に紐の半径が短くなり、杭に絡みついて身動きが取れなくなります。
シモネットはそういう状態でした。
他人との心のふれあいを避け、毎日決まった規則正しい生活を課し、他を寄せ付けない文語口調で我が心を触れさせぬように自身を守ります。
彼にもまた「勇気」が必要でした。
「生の欲望」を心の奥底から掘り出してくれたのはトレバーでした。
シモネットには克服しなくてはならないものがありました。
彼に必要なのはただただ「行動」することです。
浮かんでくる不安、恐怖、怒りに「あるがまま」耐えて行動することです。
「先に贈る」ためには何ができるのでしょうか?
ホームレスのジェリー自身はドラッグを断つ「勇気」。
次の相手の自殺志願女性に対してできることは、
彼女の心に共感すること。
それでも生きた方がいいという理由を心から彼女に示すこと。
ジェリーはジェリー自身のために彼女に生きてほしいと言いました。
コーヒーという何気ない幸せ。
人との触れ合いを提案することができました。
ホームレスのジェリーにもこれだけのことができるのです。
いいえ、人より多く傷ついた者だからこそ、他人により共感できます。
「優しさ」を贈ることが彼には可能でした。
シドニーには何ができたか?
彼は救急病院で負傷の痛みを我慢し、弁護士の娘の命を救いました。
自身のダメージと眼の前の他人のダメージを比べ、臨機応変に順番を譲ります。
彼の機転と少々の横暴性のおかげで、弁護士の娘に順番が回されました。
トレバーは自ら考案した「ペイ・フォワード」の実現可能性について悩みます。
友人のアダムがいじめられているのを助けることができませんでした。
「勇気」が出せないのです。
世界をよくしたい、よい世界に住みたいと思ってはいましたが、彼は発案者なので、誰からも贈られてませんでした。
母、父、ジェリー、シモネットへの「諦め」、そして世界への「諦め」。
勇気が出せない自分への「諦め」。
すべてクソな世界。
しかし母親、祖母、友人たちに囲まれて祝ってもらった誕生日会。
母が「勇気」を出して祖母を許したと知ります。
アーリーンは母グレイスとの仲直りすることで、知らない内にトレバーに「贈って」いました。
トレバーに「勇気」の炎が灯り、アダムを助けに行きました。
結果はとても残酷で悲しいものになりました。
しかし「ペイ・フォワード」するのに必要なものは決して「自己犠牲」ではありません。
「優しさ」を贈ることに「自己犠牲」は必要ありません。
そこに「自己犠牲」があったとすれば、自分の無価値感から来るものです。
存在価値を他人に認めさせる行為です。
それは「優しさ」ではありません。
必要なものはトレバーがインタビューで言った「変化を恐れない心」です。
救われるというのは同時に「変化」を強いられることなのです。
今、自分は悲惨な世界の中にいる。
それでも、これ以上の不幸は来てほしくないという「恐れ」がまだあります。
現状が地獄なのにそれ以上の地獄に堕ちるかもしれないという不安。
なので人は「変化」を拒みます。
全身が震えてしまい、その一歩が出せません。
「優しさ」は自分が相手のために「能力」と「勇気」を使って精一杯することです。
私はそれを「感謝」の気持ちから来るものだと思っています。
人は満ち足りた気分に「感謝」した時、誰かに分け与えたいと自然に思います。
そういう人間本来の性質として「優しさは無限大」なのです。
お気づきかと思いますが、この「感謝」は人から贈られるだけのものではありません。
自然の美しさを見て感謝する。
植物の生命を感じて感謝する。
動物のまなざしを受け止めて感謝する。
一杯のコーヒーやお茶を楽しめることに感謝する。
出会えた本に感謝する。
手足が動くことに感謝する。
仕事がうまく行ったことに感謝する。
身近な人の笑顔に感謝する。
なにげない些細な幸せでも「感謝」することでろうそくの種火となりボワッと燃え広がります。
他人の人生に関わること。
おせっかい?
大きなお世話?
他人の人生を背負うな?
ではなぜ人は他人に共感する力を持つのでしょうか?
「誰でも不幸を背負ってるんだ。お前だけじゃない。我慢しろよ。」と言うためでしょうか?
「優しさ」を受けると嬉しいし、「優しさ」を贈ることも嬉しいし、二人の間で「優しさ」が無限に跳ね返り続け、3人、4人、5人と伝播して心地よい暖かな世界になるからではないのでしょうか?
自分と他人との境界はとても大事です。
恩着せがましくなったり、贈り物が間違っていたり、相手の時間を奪ってしまったり。
見返りを求めたり、贈り物にケチをつけたり、自分の時間を削りすぎてしまったり。
「ペイ・フォワード」は自己犠牲せず、自分の価値を押し付けず、相手の気持ちになって、勇気を出せば、きっと成し遂げられる行為だと信じます。
長文をお付き合いくださり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
今の世の中、各種SNSで人の心を比較的簡単に知ることができます。
もしあなたがこれから出会う人の思いに共感することができたならば、その思いに”いいね”を押すことで次に渡すことができるのではないでしょうか?
今回もお読みくださり大変ありがとうございました。
また次に作品でもお会いしたいです。
いつもだれかに「ペイ・フォワード」。
それでは、また。
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