『ギルバート・グレイプ』PART2
12.情事の行方
ギルバートは浮気のことを責められることを恐れながら、ベティの夫のオフィスを訪ねました。
ベティの夫:
「落ち着かないか?」
「それは、よくわかるよ」
「俺が君ならパニックを起こす」
「君のことを調べた」
「医療保険にも入ってない」
「災害保険も生命保険も」
「ギルバート、万一の用意は?」
「思いもかけぬ災難に見舞われたら?」
ギルバートはかかってきた電話の音にビクつきました。
ベティの夫:
「残された君の家族はどうなる?」
「それを考えた事が?」
「自分より家族の事を」
「路頭に迷わせたいかね」
浮気の事を責められると思っていましたが、保険の勧誘でした。
その電話はベティからの電話でした。
ギルバートはベティが腹いせに浮気をバラしたのではないかと恐れました。
ギルバートとベティの夫は家に向かいます。
ギルバートに出ていかれたショックで、オーブンの火を止めず、家中煙が充満していました。
ヒステリーを起こしたベティの夫は、中々懐かない子供に焦げたクッキーを無理やり食べさせます。
この可笑しげでジョークの効いた修羅場を、ギルバートは一刻も早く逃げ出そうと車のエンジンをかけますが、中々かかりません。
そこにベティーが近づいて来ました。
ベティー:
「どんな男でも選べたのよ」
「だけど私はあんたを選んだ」
ギルバート:「なぜ、俺を?」
ベティ:「それは、あなたならこの町から出ていかないから」
ギルバートにとってこの一言は苦しい言葉でした。
「あなたは一生あの家族の犠牲になってこの町で生きていくんだ」と言われたようなものです。
ベティの夫はすごい癇癪持ちですぐにキレるんですね。
ベティーの浮気の理由や子供たちが懐かない理由がわかって面白いですね。
そして、その晩に興奮しすぎたベティの夫は心臓発作で倒れ、倒れた所が運悪く子供用のビニールプールだったため、その浅さでも溺死してしまいました。
子供用ビニールプールの周りは刑事事件現場の立ち入り禁止テープで四角に区切られていました。
その内容をギルバートとタッカーともう一人の葬儀屋の友人ボビーがカフェで話します。
ボビーはスプーンをベティの夫に見立てて、ヒザと首を折り曲げて、灰皿に顔を浸け溺死の状況を説明します。
スティーブン・キングのホラーコメディ小説のようですね。
タッカーはベティが殺したのではないかと邪推します。
ギルバート:「分からない。可能だとは思うけど...」
ギルバートにはベティに対する愛情は少しもないのですね。
13.ベッキーのカウンセリング
ギルバートとアーニー、そしてベッキーは川のほとりでくつろいでいました。
世間の常識に捕らわれないベッキーは川に入り、安らぎを感じているようでした。
アーニーはそばで大好きな木登りをして、小躍りしています。
アーニー:
「僕はいないよ。どこにもいない」
「”アーニーはどこ?”って言って」
ベッキー:「川に入りなさいよ」
アーニー:「”アーニーはどこ?”って言ってよ」
ベッキー:「アーニーはどこ?」
アーニー:
「僕はいないよ!」
「もう一度言って」
「そう言って僕を探して」
ベッキー:「一緒に泳ぎましょうよ」
ギルバート:「無理だよ。水を怖がってて絶対に入らない」
アーニー:「水には入らない」
ベッキー:「あなたはどう?」
ギルバート:「イヤだ」
ベッキー:
「どうして?」
「あなたも水が怖いの?」
「入らない?」
アーニー:「怖いのさ」
ギルバート:「こうすればいいのか?」
ギルバートは静やかに足だけ川に浸しました。
ギルバート:「派手に?」
ベッキー:「もっと」
ギルバート:「こうかい?」
ギルバートは怒涛のごとく大股で川を闊歩して、ベッキーのそばまで水しぶきを上げながら近づいてきました。
ギルバート:「これでどう?満足かい?」
何かにチャレンジするには勇気が必要です。
そして行動することによって、その行為に意味を感じはじめるのです。
川に飛び込む行為を ”そんなことはくだらない” と人は考えがちです。
最初から意味のないことだと考えてしまうのです。
何かをやる前に無意味だ、ナンセンスだと考えてしまうとそれはニヒリズムに結び付けられてしまいます。
とうとう最後には ”生きることは意味がない” という考えに行き着いてしまいます。
しかし楽しかった、体が軽くなった、感動した、普段とは違った感情を得られたなど、行動を通してのみ、心の中に変化が現れます。
最初に意味を考え付くのではなくて、人はその行為の中から段々と ”意味を感じて” 、生きるためのエネルギーを体の中に取り込んでいくのです。
行動の後に自分だけの意味付けが行われるのだと思います。
ベッキー:
「あなたの望みを思い浮かべて」
「あなたの望みは?」
「早く」
ギルバート:
「新しいものを。新しい家を僕の家族に」
「それから、お袋にエアロビクスを」
「妹が大人になること」
「アーニーに新しい脳を」
「それから...」
ベッキー:
「自分には?」
「自分の望みは?」
ギルバート:
「いい人間になりたい」
「こういう事、苦手だな」
ギルバートは自分の願望や希望は持ってはいけないと思って生きてきたのだと思います。
どこかで自分の欲求を無意識の深くに抑圧してきたのだと思います。
14.母ボニー、外に出る
ギルバートはベッキーとの心地よい時間を過ごしリラックスしていて、アーニーのことを忘れてしまっていました。
アーニーはまた給水塔の鉄塔に登ってしまいます。
ギルバートはその場に間に合わず、高所作業車が出てきてアーニーを引きずり降ろしました。
ギルバートは警官に懇願するも受け入れられず、アーニーは留置所に入れられてしまいました。
母のボニーはアーニーを溺愛していました。
母ボニー:
「上着を」
「早く!」
ボニーの巨体は町でも笑い者になっており、彼女はその事をとても気にして、長年の間外出していませんでした。
それでもアーニーのために勇気を出して、警察署に連れ戻しに行きます。
過食症ということはうつ病も同時に患っていたことでしょう。
外の社会が普通の人の何倍も怖かったに違いありません。
かつては町一番の美人だったというボニー。
警察署長に大声で叫びます。
母ボニー:「ジェリー!ジェリー!」
ボニー:「ジェリー、私の息子を返して」
署長ジェリー:「手続きがある」
母ボニー:
「イヤよ、返して!」
「息子を返して!」
「私の息子よ!返して!」
警察署長と顔見知りだったらしく、ボニーの剣幕に押されて、アーニーを釈放しました。
もしかしたら、かつての恋人だったのかもしれません。
母ボニー:
「わたしの太陽!よかった!」
「もうどこへも行かないで。いいわね?」
「大丈夫よ、帰りましょう」
釈放されて警察署から出た時、ボニーが家から出てきているということで見物人が周りに集まっていました。
指を差す者、写真を撮る老人、嘲笑する子供。
その中を、家族寄り添いながら、母親を守るように堂々と歩くギルバート、エミー、エレンはとても誇らしく、思わず涙してしまうシーンです。
町の人に嘲笑を受け家に帰ってきた母ボニーは気落ちしていました。
アーニーの楽しい声だけが響きいっそうもの悲しさが増す家族の夕食でした。
15.ベティとの別れ
ベティの夫のお葬式が終わり、ベティは雑貨屋に別れの挨拶をしに来ました。
ベティ:
「セントルイスへ」
「あの家は出るわ」
ギルバート:「ご主人のことは本当に...」
ベティ:
「皆私が殺したと」
「そう思う?」
ギルバート:「いいや」
ベティ:
「いい夫だった」
「悲しいけど、悲しくないの」
ベティは手が震えてタバコに火をつけることが出来ませんでした。
ギルバートは愛情を込めてそっとマッチに火を灯しました。
ベティ:
「ギルバート、あなたはどうするの?」
「考えてない?」
「かわいそうにここにいて、自分を捨てて皆の世話?」
「時々思うの。うちの子たちもいつかあなたのようにと」
「あなたのように育ってくれたらうれしいわ」
そこにベッキーが買い物に店に入ってきました。
ベティは別れを惜しみながらギルバートの頬に最後のキスをしました。
ベティはベッキーに言いました。
ベティ:「譲るわ」
ベティはたばこをくわえ凛とした雰囲気を持って店を出て去っていきました。
ベッキー:「彼女を忘れない?」
ギルバート:「ああ」
ベッキー:「よかった」
ベッキーはギルバートに自身の経験を消さないで大切に持っていてほしかったんだと思います。
16.小さな町の地殻変動
何もない田舎町アイオワのエンドーラにバーガー・バーンというハンバーガーチェーンが来ました。
移動式の店舗で、トレーラーでやってきました。
ギルバートの閉ざされた心をノックするかのように、キャンピングカーや移動式店舗が訪問してきます。
オープニングセールで皆にハンバーガーやシェイクなどを振る舞います。
タッカーはそこに就職して店員として働きます。
司会:
「皆さん、ご来店を感謝します」
「エンドーラの新しい時代が始まります」
「”バーガー・バーン”と皆さんに反映が訪れる事を」
「我々のチェーンはお客様と末永いお付き合いを望んでいます」
「不景気と言われていますが、この町は我々を受け入れて歓迎してくれました」
何も変わらないこの町にも少しずつ変化が現れ始めているという雰囲気を出す良い演出です。
ベッキー:
「直ったわ、トレーラーよ」
「明日出発するの」
アーニー:「明日の僕のパーティーへ来て」
ベッキー:「招待されたわ」
ギルバート:「いいよ」
ベッキーは涙を堪らえながら言いました。
ベッキー:「私を引き止めてたい?」
ギルバート:「いいや、行くなら行けよ」
ベッキー:「それじゃ、これでお別れ?」
ギルバート:
「行かなきゃ」
「気をつけて」
ギルバートは無関心を装い、心を押し殺してしまうんですね。
アーニーはベッキーに抱きつきました。
ベッキー:「さよなら、アーニー」
あれ以来風呂に入るのを嫌がるアーニーはギルバートから走って部屋中を逃げ回ります。
ケーキを運ぼうとしている姉エミーにぶつかり、ケーキが床に落ちてぐちゃぐちゃになってしまいました。
姉エミーは2度と作らないと泣き叫びます。
ギルバートは決心を決めてライバルのスーパーマーケットにケーキを買いに行きます。
運悪く店を出てきた瞬間に雑貨屋のオーナーと鉢合わせして、気まずい雰囲気になりました。
17.兄弟けんか
家族総出で誕生パーティーの準備をします。
母ボニーは人前に出るのを拒否してしまいます。
アーニーは冷蔵庫に入れて置いたケーキを食べてしまいました。
ギルバート:
「あのケーキにいくら払ったのか知ってるのか?」
「風呂に入れ」
「風呂に入るんだ。ふざけてないで服を脱げ」
「服を脱ぐんだ、さあ!」
「動くな」
嫌がるアーニーを無理やり服を脱がします。
アーニーはギルバートの髪を引っ張りました。
ギルバートは逆上して思わずアーニーを何度も殴りました。
我に返ったギルバートはその場にいられなくなり、感情のまま車で町外れまで飛び出しました。
今考えるとベティの夫のヒステリックな性格の描写などは、ギルバートの抑圧されたものを爆発させる要因となるものだったのかもしれません。
今のギルバートには自分でも忘れてしまっている閉じ込めた感情を吐き出すということが必要だったのだと思います。
ギルバートに生まれて初めて殴られたアーニーはとてもショックを受け、家を飛び出しました。
姉エミーと妹エレンは車でアーニーを探しに行きます。
アーニーはベッキーの所に泣きついてやってきました。
ギルバートは町外れで気持ちを落ち着かせた後、気持ちを整理して再び戻ります。
そしてギルバートはベッキーの所に立ち寄ります。
ベッキー:
「大丈夫、怖がらないで」
「アーニー、怖くないわよ」
アーニー:「歌を歌おう」
ベッキー:
「ほらね?大丈夫でしょ?」
「偉いわ、怖くないでしょ?」
何と水を怖がっていたアーニーはベッキーの優しい手ほどきで川に飛び込みます。
大好きな兄に嫌われたことがとても辛かったのでしょう。
兄にいつまでもそばにいてもらいたくて、アーニーは必死だったのかもしれません。
木に隠れて見ていたギルバートはその光景を見て微笑み、安心しました。
ベッキーに力を貰ったアーニーはすっかり元気になりました。
アーニー:「僕、溺れただろ?そうだろ?」
ベッキー:「きれいになったわ」
そこに姉エミーが迎えにきました。
ベッキーは隠れていたギルバートを発見しました。
ギルバート:
「殴った」
「あいつを本気で...」
ベッキー:「気にしないで」
ギルバート:
「あいつを殴るなんて...」
「帰らなきゃ」
ベッキーはギルバートを包み込むようにそっと抱きしめました。
18.父への愛憎
ギルバートはキャンピングカーに乗り込み、ベッキーといっしょにこの町を出て行きたかったんですね。
ギルバート:
「僕は行けない」
「ママの食費を稼がねば」
ベッキー:「あなたのせい?」
ギルバート:
「ママは何年もショック状態だった」
「おやじが別れも言わず、ある日突然消えた」
「地下室で首を吊ってた」
「ママはそれから...」
「昔は美人だった」
「とても美人だった」
「陽気で」
ベッキー:「じゃあ、お父さんのせい?」
ギルバート:
「いいや」
「おやじは何を考えてたのか」
「感情を表した事がない」
「子供と一緒に遊んだ事もなく、笑ったりうれしそうな顔もせず、怒りもせず、無表情」
「最初から死んでいるようだった」
ベッキーは笑って言いました。
ベッキー:「そういう人知ってるわ」
ギルバートも笑い返します。
自分が父アルバートとそっくりなことをギルバートはよく知っているんですね。
ギルバートは自分たちを置いて行って死んだ父親が憎かった。
でも同時に愛しているのではないかと思うんです。
理由は、自分と父が似ていると言われた時に強く否定しなかった。
もう一つはあの家が父の形見であり、父そのものだったから離れたくなかったのだと思います。
なので無意識の内に父の喋り方や表情を真似ているんだと思います。
ギルバートも母同様に父が恋しかったのだと思います。
父親のせいかと聞かれた時、違うと言ったのはそれでも父が好きだったからだと思うし、自分の考え方次第でどうにでも環境を変えることができたと気づいたからだと思います。
もっと自分と正面から向き合うことができていたら、家族を幸せにできたことに気づいたからだと思います。
自分の弱さに気づいた時、父や母の弱さを愛せるようになったからだと思います。
自分のいやな所が相手にも見えると、人はその人を憎みます。
自己嫌悪や劣等感で抑圧したものを相手の中に見てしまうからです。
ベッキーや雑貨屋のオーナーに父親とそっくりだと言われた時、自分のことを落ち着いて客観的に見ることができたのだと思います。
自分がどんな人間かが分かった時、人は自分を受け入れ、蘇生しはじめます。
無意識に抑圧されていたものが意識下に現れることで、人はよりいっそう強くなります。
ギルバートとベッキーはそのまま一夜をともにしました。
ギルバート:
「今日はアーニーの誕生日だ」
「帰らなきゃ」
19.人を結びつける誕生パーティー
庭には色とりどりの風船をたくさん準備してあり、招待客たちは楽しく語らったり、遊んだりしています。
その中で主賓のアーニーもきちんとネクタイをして楽しく遊んでいました。
雑貨屋のオーナー夫妻は姉エミーにお母さんは元気かと気にかけます。
ギルバートが帰ってきた時、妹エレンは皮肉を込めて言いました。
妹エレン:「エミー、お客様よ」
タッカー:「どうした、大丈夫か?」
ボビー:「生きてたか?」
アーニーはギルバートを見つけると、少しうつむいた後、姿を消しました。
ギルバート:
「エミー、アーニーは?」
「エミー、言ってくれ」
「様子は?」
姉エミー「本人に尋ねたら?」
ギルバート:「どこに?」
姉のエミーもギルバートに対して腹をたてていました。
しかし、アーニーが木の上に登りギルバートに分からないようにかくれんぼをし始めます。
それを見て、エミーはギルバートを許したんだなと悟りました。
そして、ギルバートに笑って言います。
姉エミー:「どこかしら?」
ギルバートは姉エミーが演技をしているのを知って微笑みます。
ギルバートは困った表情を作り、アーニーに聞こえるように大声で叫びます。
ギルバート:「エミー、アーニーはどこにいる?」
姉エミー:「一緒じゃなかったの?」
ギルバート:「違うよ」
アーニーはとてもうれしそうに木の上ではしゃぎました。
ギルバート:
「アーニー!」
「誰かアーニーを見たかい?」
「弟を見た?」
アーニーはギルバートをびっくりさせるように、木からジャンプして降りてきました。
目を合わせた二人はしばらく目線を外し、沈黙します。
ギルバートとアーニーは強く抱きしめ合いました。
ギルバート:
「驚かすな」
「驚かすな、いいな」
アーニー:「驚かさないよ」
アーニーはギルバートを押し倒し、軽く何度もビンタしました。
姉エミーはそばで微笑みました。
妹エレンはカメラで二人を撮り、母ボニーはカーテンを少し開けて、二人の様子を温かく見守っていました。
ギルバートは母ボニーの所へ行きました。
ギルバート:「ママ」
母ボニー:
「何て事を」
「かわいそうな子なのよ」
「その上消えたりして」
「ひどい子」
「本当にひどい子」
「家を出ていったのかと」
「この上お前まで」
「でも戻ってきてくれた」
「どうして?」
「なぜ戻ったの?」
ギルバート:「分からない」
二人だけの空間で、ギルバートは母ボニーに甘えるように寄り添いました。
ギルバート:
「でも、戻った」
「戻った」
母ボニー:
「戻ってくれた、パーティーに」
「ギルバート、あんたたちには本当につらい思いを」
「こんな重荷の母親を」
ギルバート:「やめて」
母ボニー:
「本当よ」
「母親を恥と思ってる」
ギルバート:「ママ」
母ボニー:
「こんな風になるつもりはなかったのよ」
「人の笑いものになるつもりは」
ギルバート:「そんな事...」
母ボニー:「そんなつもりは...」
ギルバート:「笑いものじゃないよ」
母ボニー:「ギルバート、お願いよ、黙って姿を消さないで」
ボニーは泣きながらギルバートを強く抱きしめました。
ベッキーがパーティーにプレゼントを持って来ました。
ギルバート:「いいかい、ある人に合わせたい」
母親を恥だと思っていたギルバート。
自分の運命を受け入れ、己の憎しみも愛情も受容して、母を紹介できるまでに成長しました。
ベッキー:「いいわ」
ギルバートにとって、ベッキーは家族と同じく大切な存在です。
ギルバート:
「ママ」
「紹介したい人が...」
母ボニー:「イヤよ」
ギルバート:
「お願い」
「僕のために」
ベッキー:「いいのよ、次の機会に」
ギルバート:
「会わせたい」
「僕のために」
「彼女は笑わないよ」
「僕は二度とママを傷つけたりしない」
「お願い」
母ボニー:「いいわ」
ギルバート:
「ベッキー」
「ベッキーだよ」
母ボニー:「昔からこんなでは...」
ベッキー:「私も昔はこんなでは」
二人は微笑みました。
20.それぞれの別れ
ベッキーとの別れの時が来ました。
ベッキー:「楽しかったわ」
ギルバート:
「分かってる」
「何て言えばいいのか」
アーニー:「”ありがとう”と言うんだよ」
ギルバートとベッキーは涙を拭いて、アーニーの言葉に笑いました。
ギルバート:「ありがとう」
アーニー:「さよなら」
ベッキー:「”さよなら”じゃないわ」
アーニー:
「じゃあ、”お休み”」
「僕はまだ”お休み”じゃないよ」
ベッキーは光あふれるキャンピングトレーラーに乗って去って行きました。
勇気を振り絞って、息子のためにベッキーと顔を合わせたボニー。
それから彼女は自ら歩いて2階の寝室へ階段を懸命に登りました。
彼女は家族のために変わろうとしたかったのだと思います。
母ボニーはギルバートに言いました。
ボニー:
「お前は光輝く甲冑を着た王子様よ」
「お前は光り輝いている」
「まぶしく光り輝いている」
ギルバート:「休んで、眠るんだよ」
しばらくしてアーニーは母の寝室に行きました。
しかし、母親は静かに亡くなっていました。
アーニー:
「ママ」
「ママ!ママ!目を覚まして!」
「隠れてるの?」
「分かってるぞ」
「目を開けて!」
「ママ!目を覚まして!」
「ママ、やめてよ!」
「ママ、やめて!」
そして死んでしまったと悟ったアーニーは泣きながら2階から降りてきて、自分の頭を叩き庭で暴れました。
そのシーンのキャメラは遠くの方からアーニーを優しく撮影しているんですね。
とても気の利いた優しい演出です。
私達にもアーニーに共感してほしいという気持ちがわかります。
夕陽につつまれたせつなくも美しいシーンです。
ギルバート:「クレーンが必要かな」
妹エレン:
「人が集まるわ」
「見物人が大勢...」
ギルバートは決して入らなかった地下室へ行き、柱を力の限り、なぎ倒しました。
ギルバートは初めて感情をだして、運命を呪ったのだと思います。
母のために抑圧していた父への恨みを力の限り、父親がつくったこの家にぶつけました。
姉エミー:「いい顔だわ」
エミーは妹エレンに微笑みました。
21.自由そして新しい世界へ
ギルバート:
「笑いものにはさせないぞ」
「笑いものにはさせない」
「アーニー、お前も手伝え」
そして、グレイプ一家は家を母親ごと燃やす決断をします。
家財道具を皆で運び出し、火をつけます。
家族は庭で家が燃え尽きるまでその様子をじっと見つめ続けました。
家族を取り込んでいた亡霊から解き放たれた瞬間でした。
彼らは自由になりました。
ギルバートはアーニーに ”これからはどこにでも行けるよ” と言いました。
あくる年、二人は冒頭シーンのようにキャンピングトレーラーが来るのを待っていました。
アーニー:「ギルバート、あれ?」
ギルバート:「まだだよ、もう少し待て」
アーニー:「いつ来るの?」
ギルバート:「すぐ来るよ、もう少し待て」
アーニー:「ギルバート、見て」
ギルバートの心の中:
「アーニーは19歳になる」
「19歳だ」
「エミーは町のパン屋の店長」
「エレンも一緒に転校」
「アーニーは ”僕らはどこへ?” と」
「僕は言った、”どこへでも” と」
アーニー:
「ベッキー!」
「ベッキーが来る」
ギルバート:「そうだよ、じき会える」
アーニー:
「ベッキー!」
「ギルバート、迎えに行こう!」
ベッキーが窓から顔を出し、懐かしそうな笑顔で手を振っています。
ベッキーの髪は少し長くなっていました。
そして、ギルバートとアーニーはベッキーのキャンピングトレーラーに乗り込み、旅に出ました。
22.おわりに
この作品は次男ギルバートの心の成長の物語です。
好対照な2つの家がよかったですね。
ひとつは自由でキラキラしたしっかりした作りのキャンピングトレーラー。
もうひとつは屋根は錆びて、木材の柱は朽ちて暗い洞窟のような今にも壊れそうな古い家。
未来と過去とも読み取れます。
希望と現実とも思えます。
動と静、軽いと重い、流れと淀みなどいろいろ連想できます。
ギルバートは自分の家を遠くから見て言いました。
ギルバート:「驚いたな、遠くで見るとあんなに小さいんだな」
小さな頃から背負ってきた責任が大きかったんでしょう。
ふと気が抜けた時、小さな家だということに気づかされたんですね。
次男は母を食べさせなければならない。
母をこれ以上悲しませてはいけない。
母を笑い者にさせてはいけない。
妹を立派な大人にしなくてはならない。
姉にも負担をかけてはいけない。
弟の面倒を一生面倒見なくてはいけない。
弟が周りの人に迷惑をかけさせてはいけない。
これらすべての責任がまだ若い青年ギルバートを背に乗っかっていました。
素晴らしいのは周りの人達がギルバートの人柄を感じ取っていて、優しく助けてくれるんですね。
振り返って見ると、登場人物には誰一人、悪人はいませんでした。
こころ優しい美しい作品でした。
泣きながら笑うことのできる映画です。
さまざまな小道具が意味を持ち、映像言語の役割をしっかり果たしています。
☆人生のような長い長い坂道
☆キラキラしたエアストリーム
☆細いフレームの軽い自転車
☆癒やしの川
☆別れを告げる自動車部品
☆生気ある新鮮なスイカ
☆幼児性を表す子供プール
☆身体を模したスプーン
☆死の灰皿
☆人間の悩みなんて小さいと感じさせてくれる夕焼け
☆セックスシンボル的なアイスクリーム
☆弾けだしそうな心の不安定さを感じるトランポリン
☆情事の終わりを告げるオーブン
☆心の安定の必需品であるタバコ
☆終焉を告げる喪服
☆過去と現在を分かつ立ち入り禁止テープ
☆細々と暮らす一家の郵便受け
☆抑圧しきれない心を表す軋む床
☆父の寝床である地下室
☆墓の主のいない父の墓
☆ひと目を隠す毛布
☆現実逃避のテレビ
☆人生には逃げれない場面があることを教えてくれる、かからないエンジン
☆苦悩を消滅させるマッチ
☆生き物ははかないことを想起させるバッタ
☆形が変わってしまう買い物袋
☆アーニーが決してたどり着けない健常性を示す給水塔
☆事件とオモチャ、見る者によって思いが異なるパトカー
☆命を確認するための誕生日ケーキ
☆家族が息を吹き込んだ風船
☆兄弟の愛情を確かめ合う木登り
☆吊るされたタイヤのブランコ
☆心の自由を印すバーガー・バーンの移動式店舗
☆いつでも死が近くにあるよと告げる霊柩車
☆ささいなアイテムで幸せになれるバーガー・バーンの帽子
☆雑貨屋のオーナーの憎きスーパーマーケットのロブスター
あなたは何を連想しますか?
映画は自分を写す鏡だと思います。
あるものを見ても、人によって捉え方が違います。
そこに自分だけの癒やしの効果が映画にはあると思うのです。
アップルパイを見て、母親を思い出す。(私の心の中です)
釣り竿を見て父親を思い出す。
青いシャーペンを見て、恋人を思い出す。
線路を見て小2を思い出す。
これらのアイテムが物語に紡がれて、過去に旅したりできると思うのです。
過去の喜びや悲しみ、寂しさ、嫉妬、妬み、心地よさなど追体験できます。
そして俯瞰的視点で自分を見つめて、現在の自分と比較したり、未来に向けて良い計画を立てることができます。
また、今の悩みの小ささに笑ってしまうかもしれません。
自分だけでなく、年が離れた親の気持ち、性別がちがう友人やパートナーの気持ちに共感できます。
段々と自分の気持ちが整理されて、いい結論が出てくれることがあるかもしれません。
今回は特にそういった映画の役割が十分に出ている作品です。
よろしければ、是非とも観ていただけると幸いです。
のちにビッグスターとなるディカプリオ、ジョニー・デップ、ジュリエット・ルイスの若き年代の作品ですので、彼ら目当てでも見る価値は十分にありますよ。
それでは、またの作品で。
さよなら。
23.関連作品
『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』 ラッセ・ハルストレム監督