14.修道院
ザンパノたちは旅の途中で修道女に出会い、修道院で宿を取ることとなりました。
修道女:「許可が出ました。あちらの納屋でお休みを」
ザンパノ:
「ありがとう、院長様。感謝します」
「早く毛布を持って来い」
修道女は純真なジェルソミーナに好意を持ちます。
ザンパノたちは食事をもらいました。
修道女:「まだ少しありました」
ザンパノ:「ありがとう。美味い」
修道女:「もう一杯いかが?」
ザンパノ:「いただくんだ」
修道女:「彼女もご一緒にお仕事を?」
ザンパノ:
「少し手伝っています。太鼓とラッパをやります」
「ラッパを聞かせてあげろ」
ジェルソミーナはイルマットに教えてもらった、あの物悲しい曲を吹きました。
ザンパノはあまりの上手さに食事の手を止めて、聞き続けました。
修道女:「まあ、上手ね」
ザンパノ:「もういい、これを洗え」
修道女:「私が洗います」
ザンパノ:「洗いますよ」
修道女:
「では一緒に」
「彼女はラッパがお上手ですね。何という曲ですの」
ジェルソミーナ:「知りません」
修道女はジェルソミーナに話しかけます。
修道女:「いつも車の中で寝るの?」
ジェルソミーナ:「中が広いのでお鍋もランプもそろってるの」
修道女:「ステキね。あちこちへ巡業するのはお好き?」
ジェルソミーナ:「あなたはここばかり?」
修道女:
「私たちも移るのよ。2年ごとに僧院を変わるの」
「ここは2つ目なの」
ジェルソミーナ:「どうして?」
修道女:
「同じ所に長くいると、どうしても離れなれなくなるから」
「住む土地に愛情が湧いて、一番大切な神様を忘れる危険があるの」
「私は神様と二人連れで方々を回るわけなの」
ジェルソミーナ:「人によって色々あるのね」
修道女:
「僧院の中を見たい?」
「案内するわ。千年以上もたつ古い僧院なのよ」
納屋の中での就寝前の二人の会話です。
ジェルソミーナ:「ザンパノ、なぜ私と一緒なの?私は不細工だし、料理も何もできないのに」
ザンパノ:「何を言ってるんだ。早く寝ろ。おかしなことを言う女だ」
ジェルソミーナ:
「雨だわ。泊まってよかった」
「ザンパノ、私が死んだら悲しい?」
ザンパノ:「お前、死ぬのか?」
ジェルソミーナ:
「前にはこんな生活なら死にたいと思ってたわ。今は二人が夫婦みたいね」
「小石でも役に立つなら一緒に暮らせばいいわ」
「よく考える必要があるわ。あんたは考えない?」
ザンパノ:「考えることはねえ」
ジェルソミーナ:「本当に?」
ザンパノ:
「何を考えてるんだ。こんなバカげた話はいいかげんにやめろ!」
「早く寝ろ!眠い」
ジェルソミーナ:「ザンパノ、少しは私を好き?」
ザンパノは何も答えなくなりました。
ジェルソミーナはトランペットを吹きます。
ザンパノ:「やめて寝ろ」
ノースポール
15.窃盗の罪
夜中に起きるとザンパノは起きて何かをしていました。
ザンパノ:「あそこに銀のハートがある。お前は手が小さいから入る」
ジェルソミーナ:「いやよ」
ザンパノ:「何が嫌だ。誰に言ってる!」
ザンパノはジェルソミーナをブチます。
ジェルソミーナ:「いやよ。悪いことだわ」
ザンパノ:「うるさい!」
あくる朝、ザンパノたちは僧院を出る準備をしています。
ジェルソミーナの暗い表情に、修道女は話しかけました。
修道女:「どうしたの?ここにいたいの?院長に頼んであげるわ」
ザンパノ:
「ありがとうございました。皆さんの温かいおもてなしは、貧しい芸人には大助かりでした」
「押せ!」
ジェルソミーナは泣きながら僧院を後にしました。
ここでのシーンはジェルソミーナが神のもとに行く未来を予告しているようですね。
ジェルソミーナの汚れなさとザンパノの罪の深さが際立ったシーンです。
牧場、湖を抜けて旅は続きます。
16.殺人の罪
道端に見慣れた車が止まっていました。
そこではイルマットが車の修理をしていました。
ザンパノとイルマットが鉢合わせをします。
イルマット:「 ”ペッポウ” 手伝ってくれ。俺もいつか手伝うぜ」
ザンパノはイルマットの車の修理道具を蹴散らしました。
足だけが見えるのみでザンパノの顔が写っていないところが不気味で恐ろしいですね。
イルマット:「 ”ペッポウ” 」
ザンパノがイルマットに襲いかかります。
この前の喧嘩での怒りが治まらないザンパノはイルマットを殴ります。
ザンパノ:「くたばれ!」
ジェルソミーナ:「ザンパノ、やめて!」
ザンパノは殴り続けました。
イルマット:「殺すつもりか」
ザンパノ:
「お礼だ。”ペッポウ” のな」
「この次は覚悟しろよ」
イルマットはふらふら歩いた後、そのままその場にひれ伏してしまいました。
ジェルソミーナがあわてて駆け寄ります。
ジェルソミーナ:
「ザンパノ、早く!」
「様子が変よ、おかしいのよ!」
「様子が変よ」
ザンパノが近寄ってきて、イルマットの足を蹴って様子を確認します。
ザンパノ:「起きろ、冗談はよせ」
ジェルソミーナ:「死ぬわ」
ザンパノ:
「静かにしろ!」
「おい!」
ザンパノはイルマットのうなだれた指先を見て、死んだと分かりました。
頭の打ちどころが悪く、イルマットは後頭部を車にぶつけて死んでしまいました。
ジェルソミーナが気が狂いそうになり叫び出します。
ザンパノ:
「静かにしろ!」
「静かにしろったら!」
「まずいことになった」
ザンパノは狼狽しながら周囲を確認します。
ザンパノはイルマットの両足を持ち、遺体をひきずって、橋の下に隠します。
その様子を息を飲んでジェルソミーナがじっと見つめます。
ジェルソミーナの身体が段々と震えてきました。
そしてイルマットの車を橋の下に突き落とし、車は炎上します。
ザンパノはジェルソミーナの腕を引っ張って車に乗せて、逃げるように去っていきました。
ザンパノは警察に捕まるのを恐れて、遺体を橋の下に放置して車の事故に見せかけてその場を立ち去ったのです。
カトレア
17.心の崩壊
その間の車から見える風景は葉が枯れて落ちた朽ちた木ばかりです。
黒い木枝がおぞましさを増幅させます。
ザンパノたちは食うために芸をしながら旅を続けました。
季節は冬。道の隅には溶けないで残っている雪が鬱蒼と暗在しています。
ザンパノ:
「気の弱い方は見ないで下さい」
「肉が破れて血が出るかも知れん」
「では太鼓を合図に。ジェルソミーナさん、どうぞ」
ザンパノの口上には笑顔はなく、淡々としゃべっています。
ザンパノ:「ジェルソミーナさん、太鼓だ」
思い詰める時間が多くなっているジェルソミーナ。
ザンパノの言葉にはっと気が付き言葉を発します。
ジェルソミーナ:
「彼の様子が変よ。ザンパノ!」
「ザンパノ、彼が死にそうよ!」
ジェルソミーナは精神が崩壊していました。
道化の化粧で発するこのジェルソミーナの言葉に、事件の凄みが感じられます。
ザンパノは事件以降、周囲を確認する癖がついていました。
車を止めて、ジェルソミーナに話しかけます。
ザンパノ:
「どうしたんだ、何があった?」
「誰も見てなかったんだ。大丈夫だ。誰も知っちゃいねえ」
「腹が減った、ここに居ろ。俺が作る」
ジェルソミーナはザンパノが車から離れた隙に、ふらふらとどこかへ行こうとしていました。
ザンパノ:
「おい!どこへ行く!。おい、いったいどこへ行くつもりだ?」
「どこへ行く気だ?。へい、家へ帰りたいのか?」
ジェルソミーナは穢らわしくザンパノを拒絶していました。。
その間の雑用、看病をザンパノはしていました。
ザンパノ:
「食え」
「泣くのはよせ!やめろ!泣くなったら!」
「寒い、もう寝るぞ」
ジェルソミーナ:「いや、いや 入らないでちょうだい!」
ザンパノ:「好きにしろ!」
ザンパノたちの移動が続きます。
18.遺棄の罪
塀があって風除けになる場所でザンパノが火を起こしていました。
ジェルソミーナが久しぶりに荷台から起き上がってきました。
ジェルソミーナ:「ここがいいわ」
ザンパノ:「寒いぞ」
ザンパノのジェルソミーナへの態度の冷たさが明らかに変わってきているんですね。
ジェルソミーナへの思いやりが少しずつにじみ出ています。
ザンパノ:「座って陽にあたれ」
ジェルソミーナの気分の波が一段と激しくなっているんですね。
今は少し晴れやかな気分のようです。
ザンパノ:「スープを飲むか?」
ザンパノは火に焚べていた鍋を味見をします。
ザンパノ:「何か足りんな」
ジェルソミーナ:「よこして、私がする」
ザンパノ:
「久しぶりだ。10日ぶりに口をきいたな」
「殺す気はなかった。たった2発食らわしただけだ。何てことなかった」
「鼻血が少し出ただけで、放したら倒れやがった。2発ぐらいで刑務所はごめんだ」
「人並みに働きたい。生きる権利はある!」
ジェルソミーナは食事の味を整えて、ザンパノに皿を渡します。
ザンパノ:
「悪くない。さあ、もう行こう」
「村でお祭りがある。5、6キロだ。稼げるかも知れんぞ」
急にジェルソミーナの様子が豹変しました。
ザンパノ:「どうした、どうしたんだ?」
ジェルソミーナ:「彼の様子が変よ」
ザンパノはジェルソミーナが病気になったと分かりました。
ザンパノ:
「お前の家へ帰ろう。お袋さんの所へ」
「お袋さんの所へ帰りたくねえのか?」
ジェルソミーナ:「私がいないとあんたは一人よ」
ザンパノ:「俺は遊んでられん!飯のタネを稼ぐんだ。お前は病気だ!ここがな!」
そう言ってザンパノは頭を指さします。
ジェルソミーナはそのまま外で寝ようとして横になります。
ザンパノ:
「来い、何してる。寒いぞ、車に乗れ」
「乗れ」
ジェルソミーナ:
「あんたが彼を殺したのよ。もういやだわ」
「逃げたかったの。彼が言ったのよ。一緒にいろって」
「薪が足りないわ。火が消えるわ」
少し時間が経ち、ジェルソミーナは眠りにつきました。
ザンパノはジェルソミーナの服と毛布を外で寝ているジェルソミーナのそばに置きました。
毛布を優しくかけてやります。
ポケットにあったお金をジェルソミーナの手に握りしめさせました。
そして荷台の幌を閉めようとした時、トランペットに目が止まります。
ザンパノはジェルソミーナが起きないようにトランペットをそばに置いて立ち去ります。
車を押して公道に移動する時、カメラはザンパノがジェルソミーナを見つめる目線になり、ジェルソミーナの姿は段々と小さくなっていきました。
クレマチス
19.精霊の声
それから何年が経ったのでしょうか。
とある町のサーカス団でザンパノは相変わらずの ”鋼鉄の肺男” の芸をしていました。
白髪まじりのザンパノは声も少しかすれて年を取っていました。
サーカスの出番の合間にその町を散歩します。
歌声:「♪ラ~ララララ~♪」
ふと、精霊のような歌声が一瞬の間だけ聞こえてきました。
ザンパノはすぐに振り返りました。
それはザンパノが聴いたことのある曲でした。
気のせいかと思い、また前を向いて歩き始めます。
歌声:「♫ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♫」
するとまた、ザンパノを呼び止めるかのように今度ははっきりとその声が聞こえてきます。
ザンパノはまた後ろを振り返ります。
声の方に行ってみると、娘が洗濯物を干しながら、その曲を口ずさんでいました。
そのまわりにはちいさな子供が輪をつくって、スキップしながら回っていました。
真っ白な純白のシーツを大きく広げながら、娘が歌っています。
歌声:「♫ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♫」
ザンパノ:「ヘイ、その歌はどこで覚えたんだ?」
洗濯娘:「歌って何なの?」
ザンパノ:「今のやつさ。唄った歌だ」
洗濯娘:
「ああ、この歌?」
「♫ラ~ララララ~♫」
ザンパノ:「それだ」
洗濯娘:「ずっと昔、ここにいた娘が歌ってたの」
ザンパノ:「どれくらい前だ?」
洗濯娘:「ずっと昔よ。4年か5年前だわ。ラッパで吹いてたわ。それで覚えたのよ」
ザンパノ:「その娘は?」
洗濯娘:
「死んだわ、かわいそうに」
「あんたはサーカスの人ね。あの娘も旅回りの芸人だったわ」
「ここでは知り合いもなく、口数も少なかった」
「変わった子でね。ある夜、私の父があそこの海辺で見つけて、連れて帰ったの」
「熱が高かった。それで私たちの家へ。何も言わず、何も食べずに泣いてた」
「具合がいいと、日光浴してた。そしてラッパを吹いた」
「ある朝冷たくなっていたの」
「町長さんがあとの面倒を見てくれた。町長さんに聞けば分かるかも・・・」
ザンパノは心が動揺して黙って立ち去ります。
ザンパノの前に横たわる有刺鉄線がザンパノの罪を示すような茨のムチに見えてきます。
20.ザンパノの贖罪
サーカス会場ではザンパノの出番が始まりました。
司会:
「ザンパノに盛大な拍手を」
「鋼鉄の肺の男です」
「どうかご期待下さい」
「では音楽を」
ザンパノがうつむき加減で入場してきました。
年老いた体つきになったザンパノ。
ザンパノ:
「さて、皆さん!」
「太さ5ミリの鎖と大きなフックがあります」
「鋼鉄より硬い粗鉄製です」
「今から胸をふくらませて、つまり胸の筋肉だけで、このフックを壊します」
「この布は血が出た時の万一の用意です」
「血が出る時もあります」
「気の弱い人は見ないで下さい」
「フックが肉に食い込むことがあります」
「ご忠告しときます。どうぞ」
この口上は作品中に何度も繰り返されて出てきます。
ですが、その都度感じる意味合いが違うんですね。
同じ口上を言うことで、効果があります。
それは職業として「食べていかねばならない」ことを語っています。
そして「時の変遷」です。
口上は同じですが、場所、相棒そして老いの変遷がはっきり現れます。
悲しいほどに。
「タイム イズ グレート アーサー」(時は偉大な作家だ)
チャップリンの「ライムライト」でのセリフです。
そしてその繰り返しはリフレイン効果です。
音楽や詩は「流れ」を想起させるんですね。
物語に「普遍性」と「形式美」を観るものに植え付けます。
イルマットの歌「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」
ジェルソミーナのラッパ「♪ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♪」
の繰り返しもリフレイン効果です。
出番を終えたザンパノは酒場で酒をあおり、荒れに荒れました。
そして男たちに突っかかり、喧嘩をします。
ザンパノ:
「友達などいらん。なんで逃げるんだ。誰もいなくても平気だ」
「俺はひとりで居たいんだ」
そこにはザンパノの意思はなく、気分のまま、荒波に弄ばれているようでした。
ザンパノに突然襲いかかってきたのは、空虚感ですね。
突風、寒さ、どうしようもない孤独感です。
これまでどこかでジェルソミーナが生きていると信じていたのだと思います。
なので今までザンパノは正気で生きてこられた。心は保たれていたんです。
ですが、ジェルソミーナはもうこの世にいないと知りました。
「後悔の念」
ただ、ただ、自分への「怒り」。
「淋しさ」が容赦なく襲いかかってくる。
ジェルソミーナを無くして「生きる意味」を知り、そしてその希望を無くしたと知った。
酔っ払ったザンパノはふらふらと海岸へ向かいます。
ジェルソミーナの故郷のような海岸です。
夜の海岸。黒い液体のような波が何度も何度もザンパノに押し寄せてきます。
ジェルソミーナがザンパノと生きていくと決めた、あの光が無数に反射し輝く海岸とは対照的なものでした。
あの時、ジェルソミーナはザンパノに言いました。
ジェルソミーナ:
「前には家に帰りたくてしかたがなかった」
「でも今ではどうでもよくなったわ」
「あんたといるところが私の家だわ」
ジェルソミーナが死んでいたという浜辺にザンパノは腰を下ろします。
そしてジェルソミーナを想い、夜空を見上げます。
「もう天国に行ってしまったんだな、俺を置いて...」
そんな言葉が聞こえてきそうです。
そして、自分はもうこの世では独りなのだと気付きます。
息遣いが荒くなり、周囲を見渡し、怯え、そしてザンパノは浜辺に泣き崩れました。
砂を掴んだその手に本当に掴みたかったものは、時という月日が消し去っていました。
カメラは大きく写した泣き崩れるザンパノから、徐々に引いていき、フレームには優しい小波と少し明るい月がザンパノを慰めるように入ってきました。
そして、ザンパノとジェルソミーナの物語は終わりました。
ツバキ
21.男女関係とは
凹凸という漢字があります。
凹+凸で▢
どんな能力、生活、境遇の人でも、その長所や短所は、ピースが会えばこのように綺麗にくっつくことができるんですね。
男女の関係というのは分からないものですね。
お互いに話さないでも心が通じている男女もいます。
ザンパノは旅芸人で出会いと別れが日常茶飯事。
情を持っても仕方がないのできっとドライなのでしょう。
ですが、人間だれしも「孤独」が付きまといます。
普段は日々の追われる生活や一時のコミュニケーションで紛らしているだけです。
ザンパノはそういった感情についてあまり考えたり、言葉にすることはなかったのでしょう。
毎日連れ添ったローザと死に別れて、助手がほしかったのと同時に、自身も淋しかったのだと思います。
ジェルソミーナを引き取った後も、行きずりの女性との関係は相手を変えて続きます。
もう、悪習慣になっているんですね。
ジェルソミーナに家出をされたり、イルマットと芸の練習をするのを見て、少しずつですが、淋しさや嫉妬が見えてきます。
淋しさは誰かと一緒の時は感じませんが、近くにいなくなると、出てくる感情ですね。
イルマットへの怒りの原因はこのことかもしれません。
そしてジェルソミーナへの暴言、暴力の原因は、自分のモノが意のままにならない苛立ちから、大事な人が離れて行ってしまう恐れからに変わっていっています。
一方のジェルソミーナ。
はじめは何とも思っていなかったザンパノ。
いつからか、ザンパノの役に立ちたいと思い始めるんですね。
ジェルソミーナは強制された雑用を自分の「役割」に変えていった。
役割を積極的にこなすことで「自己肯定」していったんですね。
最後には料理のできなかったジェルソミーナがザンパノの料理の味付けを整えることができるまで成長します。
ザンパノが惚れ聞くほどまでに、ラッパの演奏が上達します。
そして自分の存在を愛し始めます。
その温かさがザンパノにも影響し、しっかりとザンパノの支えになっていきました。
ジェルソミーナは純粋な娘です。
楽しい時はパントマイムで表現し、笑顔をみせ、悲しい時はつぶらな瞳が涙でキラキラしています。
淋しい時ははっきりと言動に出します。
そんなザンパノには皆無な感情表現に、彼女の豊かな心に、彼は惹かれていったのだと思います。
心理学者や精神科医は男女関係を「恋愛と依存」に分けます。
悲惨な境遇で過ごした人間のそれは「依存」であると両断します。
ですが、過去も今も将来も困難で辛いことの多い彼の人生に、自分の持ち合わせていない武器を持っている人に頼り切ることを誰が責めることができるでしょうか。
気持ちのままに、心の平穏を求めるその行為を悪いことだと本当に言い切れるでしょうか。
責任は二人だけで背負えばいいのだと思います。
二人で苦しみを分かち合い、受け入れればいいのだと思います。
他人に善悪を判断する権利はないと思います。
22.罪と贖罪
作品の解釈は人それぞれでいいと思います。
それが芸術作品の特徴であって、象徴的な理由だと思います。
ザンパノはどれほどひどい男なんだと言ってしまうくらいに罪を犯します。
「人身売買、強姦、暴言、暴力、窃盗、殺人未遂、殺人、遺棄」
ここまでザンパノに罪を犯させている所に、フェリーニ監督は彼に人間の業をシンボル化させています。
当然そこには神の存在が見えてきます。
ザンパノという罪だらけな孤独な男に対して、神はジェルソミーナという天使を遣わしました。
貧しい放浪生活の中に光を与えました。
そして、罪を犯していく人間から、神はジェルソミーナという安らぎを取り上げて、贖罪を求めます。懺悔を促します。
神は許しを与えて、また新たなジェルソミーナを違う形で遣わしてくれるでしょう。
23.人の存在意義
人は皆、神の子です。天使だと思います。
それは私の宗教観からではなく、思いつきからです。
人間が人との関係を断てないようになっているのは、あなたがご自身のことで感じる通りだと思います。
孤独の中では生きていけないようになっています。
コメントを下さった方で、「孤独な人は早死しやすい」と教えていただきました。
どうしたら人と関係を持つことができるのか。
それは相手の「役に立つ」ことです。
「役に立つ」ことで相手は受け入れてくれます。
私たちも相手に役に立ってもらえば、受け入れると思います。
相手の役に立つこと、それが相手にとっては救いとなり、「感謝」するようになります。
相手に「感謝」して、万物に「感謝」して、神様に「感謝」する。
感謝の対象。その人が天使でなくて、何なのでしょう。
役に立つということは、技術のみではありません。
技術のみで心が無ければ、感謝が持続しないからです。
役に立つの原型は「存在してくれること」です。
そばにいるだけで「感謝」が生まれる。
そんな単純なことができれば、相手は感謝してくれるのです。
「人の存在意義」はただ「生きている」ことなのです。
生きてさえいれば、どんな小石でも光を放つことができ、明かりを照らすことができ、誰かに気づいてもらえます。
あなたはこの作品でジェルソミーナにそのことを教えてもらったことでしょう。
悲劇的なエンディングではありますが、ジェルソミーナの命が消えたことで、それまで温かかった小石が際立ち、きらびやかなトランペットが奏でる美しい音色が存在したことをはっきりと私達に示したのだと思います。
24.さいごに
ここまでお読みくださって、本当にありがとうございます。
世界中の誰もが認める名作「道」を真に理解して、皆様に伝えることができるのか、正直不安でしたし、今もまだお伝えできたとは思いませんが、私の拙い人生を省みて今の記述が精一杯でした。
ですが、皆さんに何かしら感じていただけたとは思います。
ぜひとも、本作品を観ていただいて、私の感想を貴方独自のご経験から、塗り替えていってほしいと思います。
それでは、次の作品もよろしければお付き合いくださいませ。
ありがとうございました。
25.関連作品
『ライムライト』チャールズ・チャップリン監督
『フェリーニの道化師』フェデリコ・フェリーニ監督