31.もっと知りたくて...
アメリはニノにカバンを返しに勤め先に行きました。
ニノは不在でしたが同僚の友達にニノのことを色々と聞きます。
・水曜は遊園地のお化け屋敷で働いていること。
・以前はコンクリートが固まるまえの足跡を写真に撮って集めていたこと。
・デパートのサンタになって働いていたこと。
・録音機で人の笑い声を録音して集めていたこと。
・そして女の子が苦手で恋人は今いないということ。
人に対して苦手だったり、収集癖があったりしてアメリは自分と似たところを感じたのかもしれません。
ニノの人柄を聞いているアメリはずっと笑顔でした。
アメリはニノのいる遊園地のお化け屋敷に直接アルバムを渡しに行きました。
ニノは19時までは ”お化け” の仕事のようです。
アメリはお客としてお化け屋敷に入ります。
鬱蒼とする屋敷内です。
人口の霧が立ち籠め、トロッコで移動するアメリを妖怪が待ち構えます。
髑髏(しゃれこうべ)のコスチュームを着た男が唸り声をあげてアメリの顔の真横まで近づいてきました。
ガイコツはアメリの顎から耳元にかけて指でなぞります。
ガイコツのマスクから男の生身の目が見えます。
アメリは恍惚として、ニノを全感覚を開いて受け止めます。
アメリはニノと一言も話せず、アルバムを渡せませんでした。
仕事終わりのニノはアルバムの写真の裏に書いたメモを見つけます。
アメリのメモ:「明日17時モンマルトルの公園にて。5フラン銀貨を忘れずに」
帰宅してベッドにまどろむニノに写真の中の男たちが話しかけます。
写真の中の男たち:「彼女のこと、知りたい?」
ニノ:「見たのか?」
写真の中の男たち:
「もちろんさ。僕らはブラウスの胸ポケットに入ってたんだ」
「オッパイの上に。へへへ」
ニノ:「可愛い?」
写真の中の男たち:「悪くない。美人だ。可愛い。いや、美人だ。可愛い」
4つ区切りの証明写真のそれぞれが言い合います。
ニノ:「僕に何の用があるのかな?」
写真の中の男たち:
「きっとアルバムの報奨金が欲しいんだ」
「彼女も写真収集家かも」
「そうさ。俺たちとハゲの写真を交換したいんだ。ムフフフフフフ」
男たちは急に真剣になりニノに気づかせます。
写真の中の男たち:
「バカだな。お前が好きなんだよ」
ニノ:「知らない娘だ」
写真の中の男たち:「知ってるとも」
ニノ:「いつから?」
写真の中の男たち:「ずっと昔から。夢の中で」
普通の中年のおじさんたちなのですが、なんてひょうきんなんでしょう!
中年以降になると容姿は老化していき、醜くなるばかりでそれが見知らぬ人となるととたんに近づくのを遠慮しがちになります。
私たち観客は不思議とこういった老男、老女、神経質な人たち、扱いづらい人たちを好きになっています。
私たち観客はアメリやニノになって感情移入しています。
主人公になりきり共感します。
そしてアメリを通して別の登場人物たちの中にも入っていけます。
”私”自身にも戻ると、自分を俯瞰した客観的な世界を見渡せます。
現実の世界にも気づきを得ます。
”私”の課題としても考えることができるのですね。
映画が”私”を映してくれる”鏡”のチカラです。
誰の気持ちにも入っていける。
それが映画の良さだと思います。
たくさんの”視点”を得られる。
多くの視点を持つことが人生においてどれだけ大切なことか。
相手の心を想像することを想像し、行き詰まった問題をあらゆる視点から紐解き、未来を想像できる。
トライ&エラーが何度でもできる。
本作品では他の人のコーピング(遊び心、ストレス回避)を真似できる。
自分一人の世界でないことを知ることができる。
”わたし”のように自我を持った人たちが一斉に暮らしている世の中が想像できる。
これこそ、アメリが求めた”世界と関わる”ということだと思います。
ある人と握手をしたとします。
相手は左手を出してきた。
それを「無礼なやつだ」と思うのか、「右手を怪我しているのかな」と事情を想像できるのか。
それこそが多くの視点を持つことの大切さだと思います。
アメリはアルバムを渡すため、ニノと出逢うために面倒な方法を取り続けます。
ひとえにアメリの人との付き合いの葛藤であり、懸命に越えようとしている自らが閉ざしてきた心の壁です。
32.アメリの作戦
アメリは手を変え品を変え、アルバムを渡すまでニノを誘導します。
見知らぬ人、公衆電話、矢印、鳩、坂、階段、ブロンズ像、子ども、望遠鏡。
アメリの心の苦悩が見えていじらしくもあり物悲しくもある、微笑ましいシーンです。
公衆電話の声(アメリ):
「写真の謎の男の正体はね、幽霊なの。誰の目にも見えない。フィルムの表面にしか現れない。」
「若い娘が写真を撮るとき耳元にウーっと息を吹き込んでうなじをそっと撫でる。その時だけ写真に写るのよ」
ニノ:「君は誰?」
公衆電話の声(アメリ):「51ページ!」
アルバムの51ページには『あなたは』『私に』『会いたい』『?』と写真を使ってコラージュのメッセージが書いてありました。
33.恋愛とは
恋愛中のジョゼフとジョルジェットは上機嫌です。
時折二人は目配せして愛の確認をします。
ジョゼフ:「聞いて。6歳の少年がおもちゃの自動車で夜中に家を出た。ドイツで警察に保護され、家出の理由はただ星を見たかったと新聞に書いてある」
ジョルジェット:「人生って素敵ね。そうでしょ?」
これを書いている時素敵なニュースを目にしました。
それは10万匹に1匹の確率で生まれる黄金色のカエルを2歳の子が散歩中に見つけたという話です。
嬉しさや感動に理屈なんていらないですね。
店主シュザンヌ:「ひとめ惚れ。なぜ私たちには出来ないの?」
売れない小説家:「いつだって出来るさ」
ジーナ:「恋は休憩」
店主シュザンヌ:「恋は健康にはいいわ」
カフェでなされる恋愛談義がとてもいいですね。
そう言えば、『源氏物語~帚木(ははきぎ)~』にも女性の品定めの談義がありました。
プライベートな恋愛というものを熱心に語る時、その人の体験がにじみ出ていて楽しめますね。
その人の喜怒哀楽の過去を想起させてくれます。
フランスのカフェではこのような自由な議論が店内やテラスでさかんに行われているのでしょうね。
『愛』『人生』『生きがい』『熱情』がフランス文化が得意とするところですね。
ひとりの男とひとりの女が惹かれ合っている感情をとても崇高に考えています。
ニノはアメリと会った同僚にアメリのことをしきりに訊きます。
ニノ:「背は高かった?低かった?金髪?それとも黒髪?」
同僚の女性:
「そうね。背は高からず低からず、チビでもなくキリンでもない。まあ、可愛い方ね」
「金髪か黒髪がといえば...難しいわね。少なくとも赤髪じゃないわ」
ニノ:「ありがとう」
同僚の女性:「でもあんたに恋人がいるかすごく知りたがっていて、女に興味ないって言っといたわ」
ニノ:「本当に言ったの?」
同僚の女性:「知らない娘に興味があるの?」
ニノ:「秘密に惹かれるんだ」
同僚の女性:「ここは秘密のない所よね」
そうなんです、二人の働いているこの場所はおとなのおもちゃの販売店なんですね。
寂しがり屋の人たちがたくさん来るところです。笑
人の能力のひとつに人に興味を持てるかどうかが大切になってきます。
責任感のありすぎる人、自分への理想が高い人など、不安を過去や将来に不安を持ちやすい人は意識がいつでも自分にあります。
自分の心に問題を抱えていると我慢している感情がオーバーフローを起こしたり、決して変わることがないことに悲観して何もかも無感動になってしまいます。
とくに食事が楽しめなくなってきた方は要注意です。
人生の方向や歩むスピードを変える必要があります。
ある心理学者も言っています。
『人生に行き詰まった時、常に逆が正しい』
どこかブレーキをかけながら走っているから行き詰まるのだと思います。
34.再び復讐
リュシアンは感情を出せるようになり、自分からドンドンと喋るようになりました。
リュシアン:「こっちのほうが質がいいですよ」
コリニョン:
「こいつは喰わせ者ですよ。2週間前から売れ残りをどこかへ持っていってる」
「縁日でブタでも当たったかと思ったら、絵のお勉強だと言う」
「朝はネギを売り、夜はカブを描く。とんだピーマン頭だよ」
アメリはコリニョンのいじめにまたしても怒り心頭です。
次はどんな仕返しをするのでしょう。
ナレーション:「街の排水溝にはプロンプターが隠れていて、気の弱い人が言葉に詰まると台詞を教えてくれる」
プロンプターの男:「あなたは野菜以下ね。野菜には芯(ハート)があるもの」
プロンプターの教え通り、アメリはコリニョンに向かって勇気を持って言い放ちました。
アメリ:「あなたは野菜以下ね。野菜には芯(ハート)があるもの」
プロンプター・・・
プロンプター、テレプロンプターとは、放送・講演・演説・コンサートなどの際に、電子的に原稿や歌詞などを表示し、読み手や演者を補助するための装置・システムを指す。
アメリはコリニョンの部屋に入り、仕返しの第2段を仕掛けます。
それをレイモンはじっと観察しています。
このアメリの仕返しやいたづらに対して批判的な感想があります。
人の感じ方はもちろんそれぞれですが、そういった善悪や倫理観の視点から映画を見てしまうとつまらないものになってしまいます。
そもそもが映画は非現実の世界です。
こうしたいたづらは言葉ではっきりと言うことができないアメリらしい屈折した行動です。
神経症的な『衝動性』や『固執・執着』、『幼児性』を作品に醸し出す効果もあります。
特に愛情を与えられなかった子どもというのは世間に対して甘える傾向があります。
現実に非行に走ることも多々あります。
振り向いて欲しいという欲求があります。
「わたしに気づいて!」と。
本作品はそういった社会との距離の掴み方も同時に教えてくれているんだと思います。
35.思い出に生きる人
先に出てきた、主人を飛行機事故でなくしたウォラスを慰めようと、アメリは偽の手紙をウォラスに届けます。
ウォラスの夫の手紙1:「
君に会えなくて寂しい。
周囲は絶望的にカーキ色だらけだ。
食欲もなく眠れない。
5週間もの研修を引き受けたのは僕の人生で最大の過ちだった。
いつも君を想っている。
アドリアンより
」
ウォラスの夫の手紙2:「
最後の給料は放棄する。
急に退職する埋め合わせだ。
いつか幸せが来る日を夢見ている。
あのオレンジ色の日を覚えているだろ?
誰より君を愛する
アドリアンより
」
ウォラスの夫の手紙3:「
いい知らせだ。
もうすぐ車を買う金が貯まる。
これで毎日家に帰れる。
次の金曜に会いにきてくれ。
一緒に出かけよう。
アドリアンより
」
アメリのコリニョンに対する仕返しに成功します。
ボンドを塗ったスリッパでつまづき、灯りをつけると電気がショートして火花が出ます。
たまらず母親に短縮番号で電話すると心理カウンセラーにつながっていました。
心を落ち着かせようとコニャックを飲むとひどい味がして吐き出します。
妄想、幻聴、味覚障害へと誘導して心が病んだのではないかと錯覚させることに成功しました。
36.どうしよう、現実が迫ってくる!
アメリが駅を通るとそこら中に張り紙が書いてありました。
ニノの張り紙:「いつ?どこで?会える?」
アメリは慌てて張り紙すべてを回収します。
現実と非現実(空想)が曖昧なまま育ったアメリは突然の相手からの接近に驚きを隠せませんでした。
会う勇気をふり絞れないアメリ。
現実と向き合う時を回避してきたアメリが戦わなければならない時がきています。
こうしたアメリの「生きづらさ」が分からないという人はきっと、アメリとは別の「生きづらさ」を持つ人か、幸せに幼少期を過ごした人だと思います。
アメリに共感できない人がいて当然だと思います。
思春期時代にいわゆる「イケてるグループ」、人見知りとは無縁の社交的なグループに属していたのかもしれませんね。
そうした人はそれはそれで素晴らしいことです。
とても幸運なことだと思います。
ついに写真機の謎の正体の男が判明します!
ナレーション:
「アメリはパーティー用品の店へ。同じ時ルクールブ街で男が自宅を後にした」
「26分後、アメリは東駅の写真機の前へ。同じ時赤い運動靴の男が駅に到着。11時40分ちょうどのことだった」
「その歴史的瞬間、アメリは秘密を知った。謎の男の正体を」
そのスキンヘッドの男はスター・トレックのピカード艦長のように恒星の光を背に威厳に満ちていました。
37.大幅な遅配
ウォレスにアメリの手作りの手紙が再度届きます。
郵便局員:
「ウォラス夫人へ。69年10月の飛行機事故で行方不明となった郵便袋がアルプス山中で発見されました。」
「その中にあった奥様宛の手紙を同封します。この大幅な遅配を心よりお詫びいたします。郵便局広報部 J・グロジャン」
この郵便局の『大幅な遅配』という言葉に胸がつまりますね。
時の変遷と人々の心の変遷と変わらぬ想いが滲んでいます。
ウォラスの夫の手紙:「
愛するマド
食欲もなく眠れない
君と想っている
僕の人生で最大の過ちだった
あの女の金は放棄する
順調にいけばもうすぐ家を買う金が貯まる
すぐに幸せな日が来ると夢見ている
君が僕を赦し会いに来てくれる日、オレンジ色の日を
誰より君を愛するアドリアンより
」
ウォラス夫人は涙ぐみます。
そして夫の写真に何度もキスをしました。
ユーモラスな温かさがあるシーンです。
人のすごい所は過去に生きることができることです。
心を過去に置いて、体だけ現在に生きることができるのですね。
それは昔の幸せから力を貰いながら生き、過去の恨みをチカラにして今を生きるエネルギーにしている人もいます。
人は別離、虐待、悲劇的な事故に心が耐えられないと判断すれば、脳は思い出すことができないようにします。
心に蓋をするのです。
心の抑圧、解離のように心を守ろうと体や脳が作用します。
でもそれは一時的なものや部分的なもので、身体や気分に影響が出てきます。
フラッシュバック、発達障害、頭痛、肩こり、不安症、不眠、摂食障害、依存症、ホルモン異常、高血圧、心臓疾患、その他の精神疾患。
そうすると感情が閉ざされ何をするにも無気力になり、空虚になります。
アメリの手紙は一見いたずらのように見えます。
催眠療法やトラウマ療法では過去に遡って、痛みの原因である過去の出来事の認知を書き換えることで、今の悩みを取り除きます。
過去の自分に再会すること。
和解すること。
分裂した自分、取り残された自分と和解したり慰めてあげることで心は落ち着きを取り戻します。
今のあなたがイライラしたり生きる意味を失っていると感じているとすれば、過去の出来事の『心の整理』が必要なのかもしれません。
38.リュシアンとレイモン
リュシアンはレイモンのために電球の交換をしてあげます。
日用の雑事をいつもしてあげているのでしょうね。
とても仲の良い二人です。
心優しい青年です。
感情を出すことができるようになったリュシアンはとても幸せそうです。
とてもおしゃべりになりますね。
リュシアン:
「また小包がありましたよ」
「あの...」
レイモン:「何だ」
リュシアン:「新聞にもうじき新しい星が生まれるって書いてあった」
レイモン:「今度は星に興味が出たのか」
リュシアン:
「ママの家でテレビを見たからちょっと興味があるんだ」
「でも本当かな。アメリカでは金持ちは遺体を灰にして人工衛星に乗せて宇宙に飛ばすんだって」
「宇宙で星になって永遠に輝くんだと」
「ダイアナ妃も宇宙の星になるのかな」
このような優しい空想をいつまでも持っていられる『心の余白』が欲しいものですね。
純真な子供心と優しさに溢れた空想。
原作者は作品を通してダイアナ妃を追悼しているのだと思います。
なんと原作者はイポリト・ベルナールという人。
売れない小説家の名前だったのですね。
絵に集中できないレイモンはリュシアンを家から追い出します。
39.幸せのテープ集
レイモンはアメリからの2本めのビデオテープを見ました。
お母さんが赤ん坊を水中に入れての泳ぎの練習なのか、水の心地よさを体験させているようなシーンが映し出されます。
1メートル先にはお父さんがしっかりと待っていて、赤ん坊が泳ぎ切ると抱っこしてあげます。
スロー映像でとても微笑ましい美しいシーンです。
これだけでも本作品を見る価値がありますよ。
レイモンは優しいほほえみを浮かべながらそれを見ています。
次の映像は義足でトボトボと歩く太っちょの男がいました。
すると急に男はタップを踏み出して、義足の木の音を地面に響かせました。
テロップにはこう書いてありました。
”わしは不幸を背負って生まれた。13日の金曜日生まれさ。最悪の日だよ。”
逆なんですね。
不幸を逆手(逆足?)にとっているんです。
皆さんにここで感じて欲しいです。
足が片足なのは ”普通に” 歩ける人から見れば、それはとても不幸なことです。
その困難は、夢見た将来をたくさん諦めなければならないでしょう。
付ける職業も限られてくるでしょう。
人に助けを求めることも必要になってくるでしょう。
普通の人を羨み、足を失ったことを悔い、お金があればと渇望するでしょう。
トボトボ歩きと陽気なタップの間にそれが現実だとすれば、どのような変化があったのでしょうか。
それは義足の自分を『受け入れ』たということです。
過去に持っていたものを心のなかで『捨てた』ということです。
それまでの健康を、それまで考えていた夢を、それまでの可能性を。
わたしの大好きなアニメのワンピースで、義兄を殺され泣き崩れる日々の主人公ルフィに友人のジンベエは言います。
船長でもあるルフィは仲間も守れず、義兄を殺され、自分の非力さと無力さに打ちひしがれ、もはや海賊王はおろか自分の存在意義すら失い始めてしまう。
そんな、やさぐれた姿を見かねたジンベエはルフィを力技で押さえつけ、一喝します。
ジンベエ:
「今は辛かろうがルフィ、それらを押し殺せ!失った物ばかり数えるな!」
「無いものは無い!確認せい!お前にまだ残っておるものは何じゃ!」
その言葉が心に響いたルフィの脳裏にあるものが浮かび上がります。
それはこれまでの航海で苦楽を共に歩み、共に支え合い続けた自分の仲間達の光景です。
それを見たルフィは我に返り、
ルフィ:「仲間が…仲間がいるよ! 俺には仲間がいる!! アイツらに会いてェよォオ!」
ようやく自分を取り戻す事ができます。
自分の運命を時間をかけて受け入れること。
そこには他人は介在できませんし、視野に入れてはいけません。
自分がどうあるべきかの問題だけです。
無いものはもうありません。
心のなかで選択して捨て去ることです。
今の自分がこれから何ができて何ができないのかをよくよく考える。
そうすれば誰にでも『再スタート』が切れます。
40.卑怯
アメリは証明写真機で覆面姿の自分の写真を撮り、パズルのように断片に切って機械の下に置きました。
ニノへの手紙です。
”16時にドゥ・ムーラン(カフェ)で...”
おしゃれなカフェの時計が16時10分を指してもニノは来ていませんでした。
そこからアメリのネガティブ思考の空想が始まります。
ここは個人的に好きなところで、アメリの妄想癖な所がコミカルに描かれています。
ナレーション:
「ニノが来ない。考えられる理由は3つ」
「1.写真が見つからない」
「2.写真を復元する時間がない」
「なぜなら銀行を襲った強盗犯の人質になり、警察に追われ強盗は逃げたが彼は交通事故に遭い、すべての記憶を喪失しトラックに拾われたが、脱走した囚人と間違われイスタンブールへ...」
「アフガン人と出会いソ連から核弾頭を盗む計画に参加、だが国境でトラックが地雷で大破」
「生き残った彼は山岳部族に会い、聖戦の闘士となる」
「アメリには理解できないが、彼は一生ボルシチを食べ、変テコな帽子を被るのだ」
ニノは突然店内に様子で入ってきました。
可愛い赤の水玉模様の服を着たアメリ。
アメリは慌てて仕事をするフリをします。
ジーナがコーヒーの注文を取ってくれ、アメリはコーヒーを作りました。
ニノは落ち着かない様子でテーブルに座り辺りを見渡します。
ジーナはニノのテーブルにコーヒーを置き、立ち去り姿が消えるとニノの背後にガラス越しからアメリがニノを見つめています。
アメリの不安な心を表したような薄いガラスです。
先日のお化け屋敷での立ち位置とちょうど反対なんですね。
後ろからニノを見つめるアメリの眼差しは恋を求める少女そのものでした。
ニノが急に後ろを振り向きます。
アメリはガラスに ”本日のおすすめメニュー” と描いて、ニノと目を合わそうとしませんでした。
自分の勇気のなさに思わずため息をつくアメリ。
アメリは希望を込めてニノの行動を予想します。
アメリの心の中:「今、ピンと来る。スプーンを置く。テーブルの上の砂糖を集めゆっくり振り返り私に話しかける」
ニノは写真を取り出してアメリに尋ねます。
ニノ:「すみません。これ、君?」
アメリは思わず首を振ってしまいます。
ニノ:「そうだ、君だ」
アメリは手のひらを上に向け、何を言っているのというジェスチャーをしてその場から逃げ出してしまいます。
立ち去るアメリの顔は泣いていました。
アメリはジーナにメモを託してニノに渡してもらいます。
ジーナは隠れてニノのポケットにメモを入れました。
ニノは写真の女性に会えずに立ち去りました。
レイモンの家でアメリは語ります。
レイモン:「では、娘が好きなのは片手をあげてる青年かな?」
アメリ:「ええ...」
レイモン:「本気で好きなのか」
アメリ:「ええ」
レイモン:「ならば娘は今こそ本当の危険を冒さねばならないね」
アメリ:「娘もそう思ってるわ。今、作戦を練って...」
レイモン:「それが好きらしいな。作戦が...」
アメリ:「ええ」
レイモン:「だがちょっと卑怯だ。だから娘の視線がつかみにくいんだな」
年老いたレイモンからの優しい忠告ですね。
まっすぐに彼を見なさいということですね。
アメリにとってそれはとても厳しい言葉だと思います。
人は誰しも不安な時は自分のことしか視野に入りません。
自分を守ることで精一杯です。
考えているのでなく悩みが堂々めぐりしているのです。
『回避行動』をしながらも、希求する気持ちが前を向いているので、傷つかずに偶然を装おうとして、こういったアメリの遠回りの『作戦』になってしまうのだと思います。
レイモンは自分の大切な気持ちを優先させることと相手の気持ちも考えてあげることを伝えたかったのだと思います。
レイモンに責められたと思ったアメリは心の中の防御システムが作動します。
それが映像としてコミカルに表出されます。
TVの中に独裁者スターリンのようなヒゲの男が怒り狂っています。
ヒゲ男:
「不当な干渉だ!赦し難い!デュファイエル(レイモンの本名)の奴!」
「アメリの自由だ!夢の世界に閉じこもり内気なまま暮らすのも彼女の権利だ」
「人間には失敗する権利がある!」
41.謎の男
ニノはアメリの手紙をポケットから見つけます。
アメリの手紙:「火曜17時、東駅構内の写真機前にて」
よく考えると何度も姿を現さない相手に愛想を尽かして、関わらないほうが普通ですね。
ニノの中にも自分の殻を破り捨てたいという思いがあるのでしょう。
写真機の謎の男の登場です!
ニノが写真機の前で待っていると赤のコンバースを履いた男が中で何枚も写真を撮っていました。
ニノは写真機の外でできあがった写真を手に取りました。
そこには例のスキンヘッドの謎の男が写っていました。
ニノは中に入っている男を確認しようとそっとカーテンを開けます。
スキンヘッドの男:「すぐに終わります」
ナレーション:「謎の男とは、死の恐怖症男ではなくただの修理屋で故障を直していただけだった」
ニノは男の正体が分かり笑顔で喜びます。
不安や恐怖は受け取ったひとそれぞれの認知の違いです。
不安や恐怖は自分が創り出したものです。
死の恐怖男とはただの修理屋なのです。
不幸にもこうした認知の歪み(ゆがみ)にその人の人生が左右されます。
不安症、うつ病や強迫症の病気から来るものもすべて含めてです。
これこそがこの作品のテーマのひとつです。
ジョゼフの神経症が今度はジョルジェットに向かいます。
ジョルジェットは気が変になり、身体に湿疹が出来てカフェを早退してしまいました。
店主シュザンヌ:「あれじゃ、息もできないわ。空気が必要よ」
ジョゼフ:「最初は空気、次は何で気分転換をするんだ?」
売れない小説家:「気分転換は健康的だ」
ジョゼフ:「黙れ!売れない小説家」
売れない小説家:
「その通りだ。小説も失敗、人生も失敗、好きな言葉だ。『失敗』」
「運命の暗示だよ。失敗につぐ失敗、永遠に書いては消し、人生は果てしなく書き直す未完の小説だ」
ジョゼフ:「どうせ誰かの言葉だろ」
売れない小説家:
「僕にだって自分の言葉はあるさ。ただつい盗んでしまう」
「君の覗き見と同じさ」
ジョゼフ:「何が言いたい?」
売れない小説家:「分別を持てっていうことだ」
ジョゼフ:「何だと、お前なんか!」
売れない小説家:「何だ、言ってみろ!」
二人は取っ組み合いのケンカを始めます。
ジョゼフのストーカー行為も、売れない小説家の盗作も、アメリの『作戦』も大きく眺めれば人生の『失敗』に入ってしまう行為かもしれません。
この売れない小説家が言うように、『失敗』を素敵な言葉と言えるように肯定をしたいものですね。
失敗は成功への過程と考えて、それに気づき良くしていけば人生だって面白いやりがいのあるゲームなのかもしれません。
そしてジョゼフやコリニョンのような距離間のない人間関係。
アメリやニノのように回避したり遠回りしたりする遠すぎる距離間の人間関係。
どちらも人間くさい行動であり、これらの愛すべき失敗を認めて、何度も何度も書き直すことが人生の永遠の課題だし、追い求めることが生きがいとなってくるのだと思います。
42.後悔と自責
二人のケンカの最中にアメリがカフェに入ってきます。
アメリ:「何なの?」
店主シュザンヌ:「何でもない、ちょっとした気分転換よ」
ジョゼフ:「気分転換ね」
少し前にアメリを探しにカフェに来たニノはジーナに居所を尋ねていました。
その様子をジョゼフがしっかりと目撃していて、ニノとジーナが会っているとアメリに告げてしまいます。
ジョゼフ:
「ジーナもそうさ。誰とかわかるか?袋を持った若い男さ」
「俺の目はごまかせないぜ。まず紙切れをポケットへ。16時8分。店に現れ二人してどこかで気分転換さ」
ジーナはアメリのために外でニノと会いました。
ジーナ:「あなたがいい人なんで心配なの」
ニノ:「つまり、どういうこと?」
ジーナ:「私の経験では外見がいいほど中身がダメ。あなたのこと教えてちょうだい」
ニノ:「何でも質問して下さい」
ジーナ:「”つばめは何にあらず”?」
ニノ:「つばめ?”春のしるし”」
ジーナ:「”馬子にも”?」
ニノ:「”衣装”」
ジーナ:「”猫に”?」
ニノ:「”小判”」
ジーナ:「”千里の道も”?」
ニノ:「”一歩から”」
ジーナ:「”転石”?」
ニノ:「”苔(こけ)を生ぜず”」
ジーナ:「”嘘つきは”」
ニノ:「”盗人の始まり”」
ジーナ:「”火のないところに”?」
ニノ:「”煙は立たない”」
ジーナ:「悪くないわ。うちの家訓なの。ことわざを知る者に悪人はいないって」
アメリは激しい嫉妬に打ちひしがれ、ウォラス夫人の手紙の感動さえも受け止めることができませんでした。
アメリは早く告白しなかったことを心底後悔します。
アメリはお菓子づくりを始め、気を落ち着かせます。
ストレスを抱えた時の心を休めるためのコーピングなのですね。
バニラビーンズを切らしていることに気が付き、空想が頭に浮かびます。
それは雨の中、ニノがリュシアンのところにバニラビーンズを買いに行く空想でした。
ニノ:「バニラビーンズを1袋くれ」
リュシアン:
「アメリだろ?彼女の菓子は美味いね」
「コリニョン、早く配達へ行け!」
ニノはアメリの家に戻り、珠のれん(ビーズカーテン)をそっとなでてアメリに驚かせ気づかせます。
そんな理想の恋人ライフを夢見ています。
ふと現実に戻ったアメリは涙が止まらずどうしようもありません。
~PART④ へ続く~
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