『キャスト・アウェイ』
~独り無人島生活。生きるための3要素。「食べること、話すこと、役だつこと」~
01.はじめに
今回の作品は、主人公の男性が飛行機事故で独り無人島生活を強いられるという物語です。
突如、現代人がポツンと一人だけ何もない自然の中に放り出されてしまいます。
恋人と生き別れ、水も食料も用意されていない場所。
植物が生育する条件がありますよね。
「光、空気、温度、水分、養分」
これらが一つでも欠けると最後まで発育しません。
では、人間にとって生きていくのに必要なものは何でしょう。
この作品では文明社会の複雑さを取り除き、生き残ることに特化した無人島生活を通して、そのようなテーマを考えていくことができます。
私たちは人生のあらゆる困難や事件のなかに不安、心配を抱きます。
そんな複雑で絡み合った心の中でも、人にとって本当に必要な要素が分かれば、重要ではない悩みを捨てることができます。
背負っているものを幾分か軽くすることができると思います。
些細なこだわりやとらわれを上手に捨てることができれば、目的はシンプルに「生き抜く」ことになります。
ではどうやって生き抜くのかこの作品を通して一緒に観てみましょう。
~主な登場人物~
チャック...国際運送会社Fedexのシステムエンジニア、
時短がすべての仕事人間、
ケリー...チャックの婚約者、
ウィルソン...Wilson製のバレーボール
スタン...チャックの友人、癌の妻を持つ
ベティーナ...芸術家、小包の届け先の住人
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~《誰かに伝えたい名セリフ》~
☆チャック:「忙しいぞ、時間がない。我々は時間に縛られて生きている。 ”時” に背を向けることは大罪だ」☆
背景:船の帆となるような移動式トイレの壁が漂着します。チャックはイカダをつくり大波から脱出して沖に救助を求めに出ることを決意します。生きる希望が出てきて、イカダの制作作業に没頭するチャックの独り言。
1:23:00~1:26:25
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~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~
☆イカダの帆が流れ着き、希望に燃えるチャック。今までの無人島暮らしのくだらなさをバレーボールのウィルソンにぶつけます。「僕は海に出ていくぞ、それに賭ける。こんなクソッタレ島でバレーボールを話し相手に一生を送るよりはな!」
チャックはウィルソンを海に投げ捨てた瞬間、一気に孤独が押し寄せてきます。
泣きながら、許しを求めてウィルソンを探しに行くチャック。月明かりの下、海でポツンと独りバレーボール相手に泣きじゃくるチャックに孤独の怖さを感じずにはいられません。☆
1:28:45~1:31:40
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02.時の支配者
作品の冒頭、だだっ広い十字路。
その先が全くわからないほど先に広がる4本の道の十字路を一台のトラックが右折します。
一軒のアトリエから宅配人が荷物を受け取ります。
カメラの視線が荷物の目に変わります。
トラックの扉が閉まり、真っ暗になります。
そして次に扉が開いた時、白い息を吐いたロシア人が荷物を持ち出しました。
荷物が人から人へ。場所から場所へ。カメラも右から左へ。左から右へ。動く動く。
一人の少年ニコライが荷物を受け取り、通りを走り、橋の上を走り、どんどんどんどん情景を変えながら移動します。
着いた先はモスクワのFedExの荷物の集積場です。
この集積場で一人の男が、唯一と信じるイデオロギーを演説する革命家のごとく、”宅配思想” を語っています。
この男は ”時” の貴重さを聴衆の前で語っています。
チャック:
「 ”時” は誰にも非情だ。」
「病気の人間、空腹な者、酒に酔った者」
「ロシア人、アメリカ人、火星人」
「 ”時” は炎のように我々を滅ぼすか、温めてくれる」
「我々は時間に縛られて生きている」
「 ”時” に背を向けたり、”時” の観念を忘れることは、この商売では大罪だ!」
「今は午後1時56分」
「今日の荷物の仕分けをあと3時間4分で完了させるってことだ」
「猶予時間はそれだけ」
「守らねば ”時” という容赦のない主人は我々の職を奪う」
ニコライ少年がチャックに荷物を渡しました。
チャック:
「この荷物はメンフィスをたつ前に、僕が自分宛てに送った荷物だ」
「中身が知りたいだろ?」
「建物の設計図?図面?」
「洗面所に貼る新しい壁紙?」
「中身はタイマーだ」
「ゼロからスタートさせ、87時間と22分17秒が経過した」
「メンフィスからロシアのニコライ君まで87時間」
「87時間だぞ、恥ずかしいと思わんか」
「タイマーでなく、他のものなら?」
「給料小切手、生のフルーツ、養子縁組の書類」
「87時間ありゃ宇宙だって創造できる」
「戦争で国家が倒れ、人は富を築き、それを使い果たす」
通訳が自転車を漕ぐマネをして通訳したので、チャックは聞きます。
チャック:「何?僕のことを何と?」
通訳:「 ”トラックが故障した時、子供の自転車を盗み配達した人” だと」
チャック:
「借りたんだよ、荷物を運ぶためにね」
「そうするのがこの仕事だ」
「ここの荷物を3時間2分以内にトラックに積み、空港に送り込むんだ」
この主人公の壮年男性のチャックは国際運送会社FedExのシステムエンジニアです。
世界中を飛び回り、運送関係の諸問題の解決に奔走していました。
モスクワのクレムリンの赤の広場での車の立ち往生。
トラックから荷物を取り出し、積み替えて急いで空港に向かいます。
”時間” が命の職業なんですね。
シンビジウム
03.つかの間の休暇
メンフィスに帰り、恋人のケリーと夜を過ごします。
キャメラは家に飾られているセーリングの免許状をそれとなく写して、これから起こる災難を予感させていますね。
そしてクリスマス、豪勢な食事とにぎやかな親類との食事。
漂流生活との対比の準備でもあるシーンですね。
虫歯の痛みを堪えながら、時間を節約し、クリスマスを親族と過ごしたその夜にはまた、問題が生じたマレーシアに飛び立ちます。
チャック:
「忘れてた、もう1つプレゼントが」
「車の中で開けるようなプレゼントじゃない」
「おふざけのタオルとは違う」
ケリー:「怖いわ」
チャック:「大みそかに開けてもいいよ」
「愛してるよ」
「すぐ戻るよ!」
マレーシア行きの飛行機に乗り込む直前に、チャックは恋人のケリーに婚約指輪を渡します。
ケリーは祖父の形見の懐中時計に自身の写真をはめ込んでチャックにプレゼントしました。
04.飛行機事故
乗り込む飛行機はFedExの荷物を積んだ社用機です。
ケリーの写った懐中時計を傍に置きながら、チャックは機内でしばし眠っていました。
飛行機の異常な揺れを感じて、突然チャックは起こされます。
チャック:「アル、今どの辺だ?」
アル:「太平洋の上だよ」
チャック:「そんなの分かってる」
パイロット:「タヒチ管制塔へ、こちらフェデクス88便J1526」
チャック:「サンタのそりのせいで揺れが?」
パイロットは手振りでチャックの会話を遮りました。
パイロット:
「座標T1620に接近中、燃料ゲージの読みは95.5」
「針路が南にズレてる。チャートに記入を」
「タヒチ管制塔、こちら88便。現在位置J1526、フライトレベル350」
「予定の針路から南へ200マイルずれてる」
「緊急事態の手順確認を」
「タヒチ管制塔、視界悪く計器飛行中、応答を」
「通じない」」
アル:「極超短波もダメか?」
パイロット:「タヒチ管制塔、応答を」
アル:「ベルトを締めろ、揺れるぞ」
パイロットたちのあせりの表情から状況の深刻さを知るチャック。
突然機体に穴が空き、機内に圧力が高まります。
必死で酸素マスクをする乗員たち。
チャックは救命胴衣とベルトの着用を命じられてそれに従います。
度重なる異常な揺れで、そばに置いてあったケリーの懐中時計が通路の手の届かない所に転げてしまいます。
チャックはどうしようかと悩んだあげく、ベルトを外して懐中時計を取りに行きます。
懐中時計を拾った瞬間に機体は真っ二つに割れ、海に不時着してしまいました。
機内に海水が一気に入り込んできます。
そして一瞬の内に飛行機は海中へと沈んで行きました。
救命ボートを広げてチャックは海上に浮遊し、ボートに乗り込んだ所で気絶してしまいました。
金のなる木
05.漂着
目を覚まし、起きたところは浜辺でした。
さざなみの音だけが響き渡る、無人島に漂着していました。
打ち寄せられた小包を拾いあげ、誰かいないか確認します。
チャック:「ハロー!ハロー!誰か?誰かいるか!?助けてくれ!」
チャックの声だけが虚しくこだまします。
砂浜に「HELP」の文字を大きく描きますが、潮が満ちてきて翌朝には消えてしまいました。
視界には何もない水平線だけが見渡せます。
時折、チャックは物音を聞いて「誰かいるのか」と叫びます。
それは実った重みで落ちるココナッツの実の音でした。
ココナッツの実は固く、岩に投げつけても、石のとがった所に叩きつけても割れてくれません。
偶然に石が割れて、ナイフのように鋭利になった部分を使い、ようやくココナッツを切リ目を入れて、中の少ない果汁をすすりました。
杖をつきながら島中を歩き回りますが、人らしき気配は全くありません。
裸足で歩いていたので、岩で足を切ってしまいます。
尖った石で衣服を切り、ひもで縛って靴を作りました。
チャックは島の一番高いところの岩場に登り、島の周囲を360度見渡します。
そこに見える景色は島に打ち寄せる大きな波が無数にあって、ただ地平線が広がっているだけでした。
チャックの絶望感がにじみ出るような巧みなシーンですね。
チャックは今度は潮の満ちてこない高所に流木を置き「HELP」と文字にしました。
向こうの海に何かが浮かんでいるのをチャックは発見します。
それは遭難の直前まで会話していた同僚アルの遺体でした。
チャックはアルの顔を確認し、その悲惨な姿を見て口を押さえて嘆きます。
墓穴を掘って、パイロットを丁重に弔います。
蒼白な顔、穴に入れるために足の関節をくの字に折りたたむシーンは痛々しさを感じます。
傍の大きな石に墓石として刻みました。
「アルバート・ミラー 1950-1995」
魚を木の枝で突きますが逃げられてしまい、カニを獲りますが身が少なく、生で食べれるものではありません。
06.脱出を阻む大波
チャックがある日の晩に用を足していると、海の沖の彼方に船舶の光が点滅しているのを発見しました。
チャック:
「船だ!待て!おーい!」
「止まれ、ここだよ!」
「止まれ、ここだよ!」
「待ってくれ!」
チャックは懐中電灯を振り回したり、点滅させたりして、必死に居場所を知らせます。
チャック:
「ここだ、止まれ!」
「助けてくれ、ここだ!」
「ここだよ、見てくれ!」
「S...O...S...」
「お願いだ、助けてくれ!ここだよ!」
「助けてくれ!」
こんなところで死ぬのは嫌だと、チャックはゴムボートに乗って沖に出て船までいこうとします。
大きな波がチャックの船の進行を阻みます。
その度に高波に阻まれて島に追いやられてしまうのでした。
ゴムボートは破れ、チャックの身体は投げ出されて、硬い岩場にこすり、大怪我をします。
作中では登場人物が1人だけですが、ナレーションを採用していないんですね。
観客を映像に集中させて臨場感を感じさせ、チャックのカメラ目線を多様することで、追体験させているかのような感覚をもたらします。
暗い夜や雨の日は洞窟に身を潜めます。
懐中時計のケリーの写真を眺めては、パイロットの遺品の懐中電灯を心そぞろに、灯したり消したりして、寂しさを紛らわせます。
やがて懐中電灯の電池が切れて、チャックは光を奪われるのでした。
遭難の日数を刻んだり、ウィルソンやケリーの似顔絵を岩に掘って、退屈をしのぎます。
カランコエ
07.小包の中身
浜辺にはFedExの荷物が数個打ち上げられて、チャックはそれらを大事に保管していました。
漂着当初、チャックはお客の郵便物に手をつけませんでした。
何日か経って、助けが来ないのが分かり開封します。
アイススケート、パーティードレス、ビデオテープ、バレーボール。
チャックの現在の原始的な生活と現代の消費社会がうまく対比されています。
天使の羽が描かれた小包が一つありましたが、なぜだかチャックはそれを開封しませんでした。
アイススケートの刃はナイフとして使用しました。
ココナッツの実に切れ目を入れ、漁のための銛の先を削り、寒さをしのぐための枝の伐採に巧みに利用します。
ドレスのスケスケのスカートの部分で、魚をすくう大きな網を作りました。
これらの道具を使用して、とりあえず食料の確保はできました。
こういった小道具の使い方は昔からあるドタバタ喜劇の時代から、アメリカ映画はとても上手いんですね。
ユーモアたっぷりです。
バレーボールを何に利用するか想像がつきますか?
08.表情豊かな友人
ある日、チャックは火を起こそうと小枝をこすり合わせますが、全く点きません。
チャック:「つけ!つけ!つけ!」
だんだんとチャックは虫歯が痛み始めます。
勢いが余って手が滑り、手のひらに枝が刺さり怪我をします。
チャックのこれまでの溜まっていた怒りが爆発し、あたりの物を蹴散らし、バレーボールを手にとって岩壁に激しく打ち当てました。
転がって静かに止まるバレーボール。
手のひらの形に血痕がついたバレーボールをチャックはじっと見つめます。
そうすると段々とバレーボールが人の顔のように見えてくるんですね。
チャックはボールを手に取り、目と口と鼻を描きます。
チャックはそのボールをウィルソンと名付けました。
Wilson社製のバレーボールだったからです。
監督のロバート・ゼメキスはこういった企業名を巧みに使う遊び心があります。
「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などでも企業名を文字った、たくさんのユーモアのあるシーンが出てきています。
架空の映画なのですが、実在する企業名で観客とのつながりが意識されるんですね。
思いがけず、にんまりしてしまいます。
頑張って火を起こそうとするチャック。
ウィルソンの視線を感じて、ウィルソンの顔をじっと見つめます。
チャック:「マッチを持ってないだろうな」
少し煙が出ました。
チャックはすかさずウィルソンの顔の反応を見ます。
小枝の割れ目が酸素を通して煙が出たと推測しました。
チャック:
「空気だ」
「空気が要るんだ!」
チャックは火起こしに成功しました。
チャック:「火だぁ!」
小枝からもっと大枝に、火はたいまつのように大きくなりました。
チャック:
「燃えろ!もっと燃えろ!」
「♫ ためらいの時は過ぎた」
「♫ 泥沼から抜け出そう」
「♫ 前途には敗北が?」
「♫ ハイの頂点を極めたから、ベイビーおれに火をつけろ!」
「♫ 燃えろもっと燃えろ」
「♫ 目じるしの火だ!」
「誰か見てくれ!SOSだ!」
「流星雨だ」
「飛べ、ホタルたち!」
「自由に飛べ!」
「僕が創ったんだ!」
「僕が火を創った」
「僕がこの火を創った」
得意げなチャックは横になって、焼きカニを堪能しながらウィルソンに話しかけます。
チャック:
「カニは最高だ」
「限界だったんだ」
「もうココナッツはうんざりだ」
「ココナッツ・ミルクは下剤だ」
「冒険ドラマじゃ学べない」
「火だぞ、ウィルソン」
「聞け、ウィルソン」
チャックは岩壁に空路を描きました。
チャック:
「僕たちはメンフィスを出て、11時間半飛んだ」
「時速約475マイルで飛んでいたから、普通ならこの辺だ」
「だが無線が途絶えて、嵐の中を約1時間さまよった」
「距離にして約400マイルかな?」
「400マイルの2乗、16万に円周率...3.14を掛けて...50万2400...」
「捜索範囲の広さは50万平方マイルだ」
「テキサス州の2倍だ」
「見つからない...」
いよいよ虫歯の痛みに限界が来ていました。
チャックはウィルソンに話しかけます。
チャック:
「最初はものを噛むと痛かったが、今は絶え間なく痛む、絶え間なく」
「食い物がなくて幸いだ」
「きっと噛めない」
「ココナッツとカニをしゃぶっていよう」
「バカだな、歯医者に行くのが大嫌いだった」
「歯医者通いを避けてた」
「今は何でも差し出す」
「医者をここに呼べたらね」
「お前が歯医者なら...ドクター・ウィルソン」
「笑える話を」
「メンフィスの歯医者、名前は何とスポルディング」
スポーツ競技用ボールのメーカーのもう一つが ”スポルディング社” です。
壁にはウィルソンの似顔絵がたくさん描かれていました。
チャックはケリーの似顔絵を壁画します。
チャック:「本物はもっと美人だ」
チャックはスケート靴を鏡にして、もう片方の靴のブレードを口の中に入れて、自力で歯を抜きました。
チャックは痛さのあまり、そのまま気絶してしまいます。
センリョウ
09.希望の翼
それから4年の年月が経ちました。
遠くから泳いでいる魚に銛を突き刺す、モーゼのような姿のチャックが岩場に立っていて、自信たっぷりにポーズを取っています。
チャックは半分野生化しており、少しの物音に敏感になっていました。
小枝をウィルソンの頭部にたくさん突き刺して、髪の毛を作っていました。
チャックはもうボロボロになっていたウィルソンに言いました。
チャック:「うるさい!」
チャックは音の方へ挙動不審に警戒しながら近づきます。
それは簡易トイレの壁が流れ着き、波で岩場に何度も当たる音でした。
チャック:
「ベイカーズフィールド社?」
「ベイカーズフィールド!」
立てたそのトイレの壁が風に当たって倒れたのを見て、チャックは思いつきます。
ウィルソンの方をちらっと見て、
チャック:
「使えるぞ」
「使える」
チャックはそれをいかだの帆にすれば、あの大波を乗り越えてその先の沖に行けるのではないかと考えました。
ウィルソンを見つめながら話しかけます。
チャック:
「22本...」
「ロープが44本」
「ロープが44本」
「ロープを編まなきゃ」
「それも山ほど必要だ」
「各々にロープが8本、1つのパートだけで24本」
「合計すると必要なロープは160本」
「まだ1ヶ月半ある」
「4月に波と風が強まったら脱出のチャンスがある」
「それまでに丈夫なロープを130メートル編むんだ」
「万一のために予備を15メートル」
「つまり合計145メートル」
「1日で編めるロープは大体5メートル」
「もちろんイカダも組み立てて、食料を蓄えイカダを海に浮かべる」
「忙しいぞ」
「時間がない」
「我々は時間に縛られて生きている」
「 ”時” に背を向けることは大罪だ」
会社員の時の信念を思い出します。
生きる気力がみなぎってきました。
漂流して4年も経って、”時に背を向けている” のに皮肉な言葉です。
チャック:「口癖だった、僕のね」
チャックは作ったロープを使ってイカダを作りました。
チャック:
「最後だ、もうない」
「島中歩いたがこれだけだ、とても足りない」
「足りない」
「ビデオテープを使わなきゃ」
「大丈夫、時間はまだある」
「風はまだ西から吹いてる」
10.喧嘩と孤独
チャックはウィルソンと真剣に口論します。
面白いですね。
チャック:
「言うな!」
「10メートルのあのロープだろ?」
「あそこへは行かないぞ」
チャックは例の島の岩場の高いところで首を吊って死のうとしたことがありました。
”あそこ”とはその場所のことで、死ぬために用意していたロープがそこにはあります。
チャックはいやな思い出の場所でしたが、そのロープを取りに行きました。
死ぬために用意したロープが皮肉にも生きるための希望のロープとなりました。
チャック:
「どうだ?」
「持ってきた、満足か?」
「あのことは言うな、忘れろ」
「そう、テストしてよかった」
「でなきゃ、もがき死んでた」
「岩に叩きつけられ、脚か背か首を折ってた」
「血を流してね、でもあの時は ”いっそ” と」
「もう1年前だ」
「もう忘れろ」
「文句があるのか?」
「今度は成功するかも、そうだろ?」
「僕は海に出ていくぞ、それに賭ける」
「こんなクソッタレ島でバレーボールを話し相手に一生を送るよりはな!」
チャックの一方的な口論の末、ウィルソンを海に投げ捨ててしまいます。
チャック:「ザマ見ろ」
ですがチャックは一瞬のうちに自分が孤独になったことを悟りました。
チャックは必死で海に探しに行きます。
チャック:
「ウィルソン!」
「ウィルソン!」
「ウィルソン!」
「ウィルソン!」
「ウィルソン!」
「ウィルソン!」
「ウィルソン!」
ウィルソンの姿が見つかりません。
明るい月明かりに照らされながら、チャックは泣き出します。
チャック:「ウィルソン!」
岩場の影でウィルソンは波に揺られていました。
チャックはウィルソンに飛びつき寄り添います。
ウィルソンに許しを請いながら、
チャック:
「悪かった、二度としないよ」
「大丈夫か?悪かった」
チャックはお詫びに自らの血の絵の具でウィルソンの顔を濃くしてやります。
チャック:
「覚えてるさ」
「お前の顔は覚えてる」
「これで、仲直り?」
「いいね?」
滑稽な中にも涙があって、チャックの心情に感動してしまいます。
人は孤独の中では生きられないんですね。
自然と空想上に人を作り、自分を励まし始めます。
幼い子供はお人形やぬいぐるみに話しかけます。
独り遊びの中で一人で何役もこなし、たくさんの友人と遊びます。
キャラクターグッズで周りを埋め尽くします。
海外の人は特に家庭や仕事場、財布の中に家族の写真をたくさん飾りますね。
人には心の安定が必要です。
将来の不安や現在の寂しさに対して。
プリムラ・ポリアンサ
11.出航の時
チャックはイカダの帆に最後の小包に描かれていた天使の羽を描きました。
希望の羽です。
チャック:
「眠れない?」
「僕もだ」
「不安かい?」
「僕もだ」
立てた流木を身体がわりにして、ウィルソンにポーズを取らせています。
出港の日、チャックは岩に記します。
「チャック・ノーランド
この島で1500日を過ごす
メンフィスのケリー・フリアーズに僕の愛を」
チャック:
「よし、出発だぞ」
「お前は心配するな」
「僕が漕ぐ」
「落ちるなよ」
大波に4年ぶりに挑みます。
チャック:
「まだだ、帆はまだだ」
「まだだ」
「待て!」
チャックは一番大きな波を待っていました。
チャック:
「あの波だ!」
「行くぞ!」
「落ちるなよ、ウィルソン!」
タイミングよく天使の翼の描かれた帆を開くと、イカダは風を捉えました。
ついには大波を乗り越えました。
チャック:
「やった!やったぞ!」
「ウィルソン!成功だ!」
チャックの視界から4年間過ごした無人島がどんどんと消えていきます。
チャックは涙を浮かべながら、力強くオールを漕ぎます。
~PART1へ続く~
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