映画から自己実現を!

映画を通して 人間性の回復、嫌いな自分からの大脱走、自己実現まで。 命をかけて筆をとります。

④『アメリ』〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

2024-07-21 09:47:54 | 日記

 

 

 

 

43.アメリの勇気、ニノの勇気

 

 

そこで突然玄関のベルが鳴りました。

 


男:「アメリ!アメリ!」


 

アメリは玄関のドアにそっと頬を寄せて男の気配を探ります。

ドアの向こうで同じようにニノもまた頬を寄せてアメリに語りかけます。

まったく応答しないアメリにニノは紙の切れ端に「また来ます」と書き残して階段を降りて去っていきました。

アメリは上の窓からニノが去るのを見つめます。

そこに突然電話がかかってきます。

レイモンの声でした。

 


レイモン:「寝室へ行きなさい」


 

アメリが寝室に行くと、TVモニターのそばでろうそくが揺れていました。

アメリはビデオデッキを再生させます。

するとレイモンが映像に現れました。

 


レイモン:
「わしだよ、可愛いアメリや」

「お前の骨はガラスじゃない。人生にぶつかっても大丈夫だ」

「もしお前が今このチャンスを逃したら、やがてはお前の心はわしの骨のように乾いて脆(もろ)くなってしまうだろう」


 

アメリは映像に写しだされたレイモンを食い入るように見つめます。

 


レイモン:「彼を捕まえるんだ」


 

アメリは慌てて窓辺からニノの姿を見つけようとしますが、もうそこにはいませんでした。

レイモンの背中を押す言葉が、アメリの居心地の良すぎる部屋の扉を勢いよく開けてくれました。

するとニノがもう一度そこに来てくれていました。

 


ニノ:「僕...」


 

アメリはニノの言葉を遮るように唇に人差し指と中指をあてました。

そしてアメリは唇をそっとニノの唇の際に置きました。

ニノのうなじにキスをします。

まるで今まで失っていた幸運をとり戻すかのように。

やっと自分のことを好きになれたのだと言っているように。

ニノの眉毛にもキスをしました。

アメリは自分の唇の際を指さします。

するとニノはアメリが指さした所に同じようにキスをします。

ベットの上で満足そうにニノを抱くアメリが印象的です。

 

 

 

 

 

44.エンディング

 

物語はこの勢いに乗ってエンディングに向かいます。

売れない小説家のイポリトが住宅街を歩いていると壁に落書きを見つけました。

 


落書き:「君がいないと僕の心は抜け殻。byイポリト」


 

イポリトは自分の言葉が書かれているのを喜んで紐で仕切られた柵を陽気にジャンプしました。

プルトドーは勇気を出して孫と会い、自分が好きなチキンの腰肉を孫に食べさせていました。

相変わらずルノワール研究に没頭するレイモン。

ひきこもりだったアメリの父親は決意して、白雪姫の小人の謎を解きに外国へ旅立ちます。

大量の水飴をこねる機械が飴の陳列場の空間でグルグルと回っています。

『人生楽しんで!』というメッセージなのかもしれません。

大きく伸ばされるピンクの飴は地球上の人々の数の回数ほど絶え間なくこね続けています。

華やかさ、軽やかさ、遠心力。

人に備わった本来の能力であるかのようです。

伸びては縮む動きはまるで人生の喜怒哀楽に呼応し続ける心臓です。

 


ナレーション:
「1997年9月28日11時ちょうど、モンマルトルの遊園地では機械が水飴をこねていた」

「その時、広場のベンチでレルプ氏は人間の脳細胞の数が全宇宙の原子より多いと知った」

「同じ時、サクレ・クールでは修道士が瞑想をしていた。気温24度、湿度70%、気圧は990ヘクトパスカルだった」


 

途切れ途切れのコマ送りで、アメリはバイクの背中で運転するニノを抱きしめながら、モンマルトルの街を走り抜けました。

幸せいっぱいの笑顔でした。

それは『幸福のフラッシュバック』のようでした。

 

 

 

 

 

45.『アメリ』をもっと知るために

 

ここでこの作品の特徴について語らせてください。

この作品は正直なところ、どこか分かりづらさがあります。

物語は山あり谷ありのジェットコースターなのが普通なのですが、その『谷』の部分や主人公に共感する部分が少し気薄なのですね。

「生きることの喜びを伝える」というテーマなのですが、対比となる不幸を観客に感情的に浸ることをさせなかったからだと思います。

ここまで不幸なんだというところまで深堀りせず、むしろコミカルに描いています。

アメリの生い立ちは母親の神経質、無関心、ヒステリックそして死別。

父親との冷淡な関係。

これは愛着障がいの典型です。

十分なコミュニケーションなく育ったアメリ。

当然自己否定して生きてきたと思います。

アメリが取った自分を守る方法は人を避け、空想に浸るという『回避』です。

ですが本作品の制作者は過去より現在、未来の生き方を選びました。

不幸はほとんどナレーションの客観的な言葉のみです。

そして空想の表現の奇抜さやユーモア、色彩豊かな画面色、インテリアなども関係していると思います。

ですから観客はアメリが自分を変えていった行為の大変さや苦悩、まどろっこしい作戦に共感しづらかったと思います。

ですがその分、大事なことに注目できたと思っています。

無気力な生き方を変える方法を全面に押し出してくれています。

それは『感覚をフルに使え!』です。

登場人物の紹介の仕方が変わっているなと思われたのではないでしょうか。

終始、好きなことと嫌いなことの紹介です。

人は今現在、何を感じながら生きているかがその人の幸せを左右するのではないかと思います。

好きなことと嫌いなことだけでその人がどんな人なのか分かります。

豆に手を入れたり、水切りが好きなアメリに私も!という方もたくさんいるでしょう。

もうこれだけで友達になった気がしませんでしょうか?

愛着障がいのアメリと紹介されても、私たちは同情することができてもお友達とまでは行かないと思います。

 

 

 

 

 

46.心の急停止から抜け出そう!

 

それでは本作品の無気力、無感動から抜け出す方法を見てみましょう。

無気力、無感動の原因はやはり『あきらめ』から来ています。

どれだけ努力しても上手く行かない人間関係。

苦しさが増すばかりの生きるための仕事。

そして何よりも自分に自信を持てないことから来る未来の見通しの暗さ。

『変えられない』ことから来る無力感やむなしさがいつしか芽生え始めてどんどん大きくなってしまった。

いま一度、子供の頃に帰って欲しいと思います。

子どもにとって『遊び』はすべて自分で決定していた。

誰に強制されたものでもなく、楽しいからやっていた。

一人で出来る指あそびから集団でする草サッカーまで。

それはアドラー心理学の言うところの『自己決定』です。

あなたがやりたいからやろうと決めた!

目標を立ててそれに努力すると決めたのもあなたなら、やめたいからやめるのもあなたの自己決定です。

人は心の中が『自己一致』していないと苦しくなります。

抑圧して、歪曲して、うそをつきながら生きているのと同じです。

今苦しいけど、嫌だけど頑張らなきゃというのは自己一致ではありません。

嫌嫌努力するのは、心にブレーキをかけながらアクセルを踏んでいる車と同じです。

必ずエンジンやタイヤから炎が出てきます。

その職業を選んだのはあなたです。

誰も強制していません。

入社してこれほど辛いとは思わなかったと言うかもしれません。

ならばそこでまた再考して自己決定すればいいと思います。

そのパートナーを選んだのはあなたです。

寂しさからでないのなら、好きでいっしょにいるのだと思います。

自分や相手の心変わり、他の環境が変わったのならそこで自己決定すればいいと思います。

何より大切なのは自分の気持ちです。

自分の気持ちに反して、我慢して、努力をしている。

ですが既に本心は『あきらめ』ているのです。

ブレーキをかけながらアクセルを踏んでいては前に進むわけはありません。

まずはブレーキを外さないといけない。

それが欲求に従うということだと思います。

遊びも仕事も、家族の役割もすべて同じです。

皆さんには誰しも変わるための『スイッチ』を持っています。

嫌々ながらもそれをし続けているのは、変わりたくない、心が動きたくないからであり、変容した行動しようと思えば不安が次々と出てくるからです。

誰かに従っている方が安定していて楽なのです。

人は本来変わらずにそこに維持する防衛本能があるのだと思います。

しかし変化しないこと、それ自体が困難を引き寄せると言います。

今こそ勇気を持って『スイッチ』するのです。

『行動』すること、それは別の部屋の明かりをつけるスイッチです。

暗くて見えない部屋の明かりを付ける。

好奇心を持って別の世界に行けば、そこにあなたのやりたいことが見つかります。

また私たちは決して機能集団ではありません。

道具ではありません。

心があります。

同じハンマーでもそれを使って家を建てるのが『機能』ならば、けん玉遊びや楽器として音を鳴らすのは『欲求』だと思います。

子どもって道具本来の使い方とは違う方法でよく考えつくなという遊びをしますよね。

傘を逆さに持ってゴルフのドライバーとして遊んだ記憶はないですか?

次に本作品の魅力の一つにアコーディオンの主題曲があります。

遊び心が湧いてくるような、ダンスをしませんかと誘われているような、別世界にいざなってくれるような大きな躍動のリズムが聞こえます。

再度アニメのワンピースを出して恐縮なのですが、主人公のルフィがチョッパーを仲間に誘う有名なシーンがあります。

トナカイで人間の言葉を喋るのけもの扱いされて育ってきたチョッパー。

彼は恥ずかしがり屋で劣等感の塊で本当はとっても冒険がしたいのに島から出ようとしません。

勇気がでないのです。

アメリと同じかもしれませんね。

一緒に冒険できない言い訳をたくさん並べるチョッパーに対して主人公のルフィは、

 


ルフィ:「うるせえ、行こう!」


 

と冒険の扉を開いてくれます。

まさに行動への勇気のスイッチを押すことを促してくれました。

本作品では老画家のレイモンがスイッチを押してくれました。

私は過去はどうでもいいと思うのです。

初めて人間をやっているのだから、失敗だらけは当然です。

人はすべて平等ではないから、生まれた所の親が悪かったり、貧しかったり、不運な事故に遭ったり、病気になったりします。

「普通」なんていう人は最初からいない。

レールなんて言うものはない。

自己の『絶対化』、『相対化』、そしてまた再度の『絶対化』が大切です。

幼少期、王子さまのように愛情ある人たちに守られながら、自信を育みます。

何をしても許して貰いえるという安心感が、無条件の愛情、無条件の存在価値を与えてくれます。

これが最初の『自己絶対化』。

そして次に、自分もまた他の人たちの中の一人だということ。

自分と同じように他の人も「欲求」があり、「不安であり」、「優しさ」を持っている。

ここで他の人を「認める」ということを学びます。

その人間の中の一人に自分も存在することを強く意識する。

これが『自己相対化』です。

ここで人は他人の考えに従いすぎて、他人軸で考えたり行動してしまいます。

なので『自己絶対化』が再度必要になってきます。

『自分軸』で生きるということです。

自我の確立であったり、『アイデンティティー』を持つと言ったりします。

つまり『自分の道』を歩くということです。

自分の花を好きな場所で咲かせるということです。

そして過去、現在、未来の中でどれが大切なのか。

それは現在、今です。

今、何を感じているか。

今何を見て、何を食べて、何を話して、誰といたいか。

今、今、今 です!

人は関係ありません。

過去や今の環境は関係ありません。

脳は身体を、感覚器を使って欲しいのです。

脳は純粋で正直で賢い子どもです。

どれだけ自己否定しても、最後には救ってあげないと心の奥の部屋で一人ぼっちで泣いていて、その人は最後には立てなくなります。

これは例えで言っているのではありません。

トラウマ処理や解離性障害、多重人格などの治療で、彼ら彼女らを呼ぶと本当に出てくる存在なのです。

嫌なことをするたびに、起きるたびにあなたは『欲求』を切り離しています。

別人格をつくり続けているのです。

彼ら、彼女らと会話が出来るのは本当のことです。

皆さん誰しも多かれ少なかれ、意識下に小さな子どもがいるのです。

心の中でにこやかに笑ってくれているか、泣いて閉じこもって苦しい声をあげているかをあなたは実は知っているはずです。

欧米の人たちはよくハグをします。

それは小さな子どもの存在を自分の中に、相手の中に認めているからだと思います。

遊び心、弱さ、不安、寂しさを人に当然にあるものとして受け入れているから彼らは自信があり、自己があるのです。

人生の楽しみ方は明快単純です。

この小さな子どもを可愛がってあげること、すなわち自分の欲求に正直に生きることです。

人はうまいことできています。

この小さなこどもは寂しがり屋なので人といい人間関係を保ちたいといつも思っています。

自分勝手な人にはなれないので安心して下さい。

人生というのは冒険だと思います。

でなけりゃつまらないです。

どんな人でも主人公になれる。

病気でも、過去につらい目にあっていたとしても、身体が不自由でも。

どうしてそう言い切れるか。

それは世界、自分、他人のイメージを『私(一人称)』が考え出しているからです。

「不安」「普通」「世間」「一般」「健常」「障害者」「まともな人」

このような言葉に飲み込まれてはいけません。

このような言葉を材料にして世界をイメージしてはいけません。

何よりも退屈な世界ができあがるからです。

自分で階級をつくり、底辺に住み続けるのです。

自分を受け入れること。

それは「生まれ変わってももう一度自分になりたい!」と思うくらい自分との親和性を育むことです。

やりたい事も失敗した自分も切り離さないで下さい。

見捨てないで下さい。

そうすればあなたはシャンパンタワーの一番上になります。

与える人になるくらい意欲にあふれるはずです。

哲学してたくさんの視点を持ちましょう!

別の銀河を想像してみましょう。

時も空間も物質も次元の数も、全く違う世界をあなたの頭なら創り出せます。

 



~『未来は僕らの手の中』~ by THE BLUE HEARTS

 

♫ 月が空にはりついてら 銀紙の星が揺れてら

誰もがポケットの中に 孤独を隠しもっている

♫ あまりにも突然に 昨日は砕けてゆく

それならば今ここで 僕等何かを始めよう

 

♫ 生きてる事が大好きで 意味もなくコーフンしてる

一度に全てをのぞんで マッハ50で駆け抜ける

♫ くだらない世の中だ ションベンかけてやろう

打ちのめされる前に 僕等打ちのめしてやろう

 

♫ 未来は僕等の手の中!!

 

 ♫ 誰かのルールはいらない 誰かのモラルはいらない

♫ 学校もジュクもいらない 真実を握りしめたい

♫ 僕等は泣くために 生まれたわけじゃないよ

♫ 僕等は負けるために 生まれてきたわけじゃないよ

 

https://www.youtube.com/watch?v=FvpHM5lX2g0

 



ここまでお読みいただきありがとうございます。

この作品は何度見ても楽しいシーンがいっぱいあります。

ほっこりするシーン、奇抜な空想シーン、芸術性豊かな調度品、そして人生に勇気をくれるチカラをくれます。

不幸なシーンがないので、まさにコーピングのように心が停滞した時に観ていただきたい作品です。

この作品からエネルギーをたくさん貰って欲しいです。

ありがとうございました。

次回またお会いしましょう。

 

 

47.参考作品

 

 

『ベルリン・天使の詩』 ヴィム・ヴェンダース監督

『楽しいムーミン一家 お隣さんは教育ママ』 原作者トーベ・ヤンソン

『未来は僕らの手の中』1stアルバム「THE BLUE HEARTS」より ザ・ブルーハーツ

 

 


③『アメリ』〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

2024-07-21 09:12:40 | 日記

 

 

 

 

31.もっと知りたくて...

 

 

 

アメリはニノにカバンを返しに勤め先に行きました。

ニノは不在でしたが同僚の友達にニノのことを色々と聞きます。

 

・水曜は遊園地のお化け屋敷で働いていること。

・以前はコンクリートが固まるまえの足跡を写真に撮って集めていたこと。

・デパートのサンタになって働いていたこと。

・録音機で人の笑い声を録音して集めていたこと。

・そして女の子が苦手で恋人は今いないということ。

 

人に対して苦手だったり、収集癖があったりしてアメリは自分と似たところを感じたのかもしれません。

ニノの人柄を聞いているアメリはずっと笑顔でした。

アメリはニノのいる遊園地のお化け屋敷に直接アルバムを渡しに行きました。

ニノは19時までは ”お化け” の仕事のようです。

アメリはお客としてお化け屋敷に入ります。

鬱蒼とする屋敷内です。

人口の霧が立ち籠め、トロッコで移動するアメリを妖怪が待ち構えます。

髑髏(しゃれこうべ)のコスチュームを着た男が唸り声をあげてアメリの顔の真横まで近づいてきました。

ガイコツはアメリの顎から耳元にかけて指でなぞります。

ガイコツのマスクから男の生身の目が見えます。

アメリは恍惚として、ニノを全感覚を開いて受け止めます。

アメリはニノと一言も話せず、アルバムを渡せませんでした。

仕事終わりのニノはアルバムの写真の裏に書いたメモを見つけます。

 


アメリのメモ:「明日17時モンマルトルの公園にて。5フラン銀貨を忘れずに」


 

帰宅してベッドにまどろむニノに写真の中の男たちが話しかけます。

 


写真の中の男たち:「彼女のこと、知りたい?」

ニノ:「見たのか?」

写真の中の男たち:
「もちろんさ。僕らはブラウスの胸ポケットに入ってたんだ」

「オッパイの上に。へへへ」

ニノ:「可愛い?」

写真の中の男たち:「悪くない。美人だ。可愛い。いや、美人だ。可愛い」


 

4つ区切りの証明写真のそれぞれが言い合います。

 


ニノ:「僕に何の用があるのかな?」

写真の中の男たち:
「きっとアルバムの報奨金が欲しいんだ」

「彼女も写真収集家かも」

「そうさ。俺たちとハゲの写真を交換したいんだ。ムフフフフフフ」


 

男たちは急に真剣になりニノに気づかせます。

 


写真の中の男たち:
「バカだな。お前が好きなんだよ」

ニノ:「知らない娘だ」

写真の中の男たち:「知ってるとも」

ニノ:「いつから?」

写真の中の男たち:「ずっと昔から。夢の中で」


 

普通の中年のおじさんたちなのですが、なんてひょうきんなんでしょう!

中年以降になると容姿は老化していき、醜くなるばかりでそれが見知らぬ人となるととたんに近づくのを遠慮しがちになります。

私たち観客は不思議とこういった老男、老女、神経質な人たち、扱いづらい人たちを好きになっています。

私たち観客はアメリやニノになって感情移入しています。

主人公になりきり共感します。

そしてアメリを通して別の登場人物たちの中にも入っていけます。

”私”自身にも戻ると、自分を俯瞰した客観的な世界を見渡せます。

現実の世界にも気づきを得ます。

”私”の課題としても考えることができるのですね。

映画が”私”を映してくれる”鏡”のチカラです。

誰の気持ちにも入っていける。

それが映画の良さだと思います。

たくさんの”視点”を得られる。

多くの視点を持つことが人生においてどれだけ大切なことか。

相手の心を想像することを想像し、行き詰まった問題をあらゆる視点から紐解き、未来を想像できる。

トライ&エラーが何度でもできる。

本作品では他の人のコーピング(遊び心、ストレス回避)を真似できる。

自分一人の世界でないことを知ることができる。

”わたし”のように自我を持った人たちが一斉に暮らしている世の中が想像できる。

これこそ、アメリが求めた”世界と関わる”ということだと思います。

ある人と握手をしたとします。

相手は左手を出してきた。

それを「無礼なやつだ」と思うのか、「右手を怪我しているのかな」と事情を想像できるのか。

それこそが多くの視点を持つことの大切さだと思います。

アメリはアルバムを渡すため、ニノと出逢うために面倒な方法を取り続けます。

ひとえにアメリの人との付き合いの葛藤であり、懸命に越えようとしている自らが閉ざしてきた心の壁です。

 

 

 

 

32.アメリの作戦

 

 

アメリは手を変え品を変え、アルバムを渡すまでニノを誘導します。

見知らぬ人、公衆電話、矢印、鳩、坂、階段、ブロンズ像、子ども、望遠鏡。

アメリの心の苦悩が見えていじらしくもあり物悲しくもある、微笑ましいシーンです。

 


公衆電話の声(アメリ):

「写真の謎の男の正体はね、幽霊なの。誰の目にも見えない。フィルムの表面にしか現れない。」

「若い娘が写真を撮るとき耳元にウーっと息を吹き込んでうなじをそっと撫でる。その時だけ写真に写るのよ」

ニノ:「君は誰?」

公衆電話の声(アメリ):「51ページ!」


 

アルバムの51ページには『あなたは』『私に』『会いたい』『?』と写真を使ってコラージュのメッセージが書いてありました。

 

 

 

 

 

33.恋愛とは

 

 

恋愛中のジョゼフとジョルジェットは上機嫌です。

時折二人は目配せして愛の確認をします。

 


ジョゼフ:「聞いて。6歳の少年がおもちゃの自動車で夜中に家を出た。ドイツで警察に保護され、家出の理由はただ星を見たかったと新聞に書いてある」

ジョルジェット:「人生って素敵ね。そうでしょ?」


 

これを書いている時素敵なニュースを目にしました。

それは10万匹に1匹の確率で生まれる黄金色のカエルを2歳の子が散歩中に見つけたという話です。

嬉しさや感動に理屈なんていらないですね。

 


店主シュザンヌ:「ひとめ惚れ。なぜ私たちには出来ないの?」

売れない小説家:「いつだって出来るさ」

ジーナ:「恋は休憩」

店主シュザンヌ:「恋は健康にはいいわ」


 

カフェでなされる恋愛談義がとてもいいですね。

そう言えば、『源氏物語~帚木(ははきぎ)~』にも女性の品定めの談義がありました。

プライベートな恋愛というものを熱心に語る時、その人の体験がにじみ出ていて楽しめますね。

その人の喜怒哀楽の過去を想起させてくれます。

フランスのカフェではこのような自由な議論が店内やテラスでさかんに行われているのでしょうね。

『愛』『人生』『生きがい』『熱情』がフランス文化が得意とするところですね。

ひとりの男とひとりの女が惹かれ合っている感情をとても崇高に考えています。

ニノはアメリと会った同僚にアメリのことをしきりに訊きます。

 


ニノ:「背は高かった?低かった?金髪?それとも黒髪?」

同僚の女性:
「そうね。背は高からず低からず、チビでもなくキリンでもない。まあ、可愛い方ね」

「金髪か黒髪がといえば...難しいわね。少なくとも赤髪じゃないわ」

ニノ:「ありがとう」

同僚の女性:「でもあんたに恋人がいるかすごく知りたがっていて、女に興味ないって言っといたわ」

ニノ:「本当に言ったの?」

同僚の女性:「知らない娘に興味があるの?」

ニノ:「秘密に惹かれるんだ」

同僚の女性:「ここは秘密のない所よね」


 

そうなんです、二人の働いているこの場所はおとなのおもちゃの販売店なんですね。

寂しがり屋の人たちがたくさん来るところです。笑

人の能力のひとつに人に興味を持てるかどうかが大切になってきます。

責任感のありすぎる人、自分への理想が高い人など、不安を過去や将来に不安を持ちやすい人は意識がいつでも自分にあります。

自分の心に問題を抱えていると我慢している感情がオーバーフローを起こしたり、決して変わることがないことに悲観して何もかも無感動になってしまいます。

とくに食事が楽しめなくなってきた方は要注意です。

人生の方向や歩むスピードを変える必要があります。

ある心理学者も言っています。

『人生に行き詰まった時、常に逆が正しい』

どこかブレーキをかけながら走っているから行き詰まるのだと思います。

 

 

 

 

 

34.再び復讐

 

 

リュシアンは感情を出せるようになり、自分からドンドンと喋るようになりました。

 


リュシアン:「こっちのほうが質がいいですよ」

コリニョン:
「こいつは喰わせ者ですよ。2週間前から売れ残りをどこかへ持っていってる」

「縁日でブタでも当たったかと思ったら、絵のお勉強だと言う」

「朝はネギを売り、夜はカブを描く。とんだピーマン頭だよ」


 

アメリはコリニョンのいじめにまたしても怒り心頭です。

次はどんな仕返しをするのでしょう。

 


ナレーション:「街の排水溝にはプロンプターが隠れていて、気の弱い人が言葉に詰まると台詞を教えてくれる」

プロンプターの男:「あなたは野菜以下ね。野菜には芯(ハート)があるもの」


 

プロンプターの教え通り、アメリはコリニョンに向かって勇気を持って言い放ちました。

 


アメリ:「あなたは野菜以下ね。野菜には芯(ハート)があるもの」


 

プロンプター・・・
プロンプター、テレプロンプターとは、放送・講演・演説・コンサートなどの際に、電子的に原稿や歌詞などを表示し、読み手や演者を補助するための装置・システムを指す。

 

 

アメリはコリニョンの部屋に入り、仕返しの第2段を仕掛けます。

それをレイモンはじっと観察しています。

このアメリの仕返しやいたづらに対して批判的な感想があります。

人の感じ方はもちろんそれぞれですが、そういった善悪や倫理観の視点から映画を見てしまうとつまらないものになってしまいます。

そもそもが映画は非現実の世界です。

こうしたいたづらは言葉ではっきりと言うことができないアメリらしい屈折した行動です。

神経症的な『衝動性』や『固執・執着』、『幼児性』を作品に醸し出す効果もあります。

特に愛情を与えられなかった子どもというのは世間に対して甘える傾向があります。

現実に非行に走ることも多々あります。

振り向いて欲しいという欲求があります。

「わたしに気づいて!」と。

本作品はそういった社会との距離の掴み方も同時に教えてくれているんだと思います。

 

 

 

 

 

35.思い出に生きる人

 

 

先に出てきた、主人を飛行機事故でなくしたウォラスを慰めようと、アメリは偽の手紙をウォラスに届けます。

 


ウォラスの夫の手紙1:「

君に会えなくて寂しい。
周囲は絶望的にカーキ色だらけだ。
食欲もなく眠れない。
5週間もの研修を引き受けたのは僕の人生で最大の過ちだった。
いつも君を想っている。
アドリアンより

 

ウォラスの夫の手紙2:「

最後の給料は放棄する。
急に退職する埋め合わせだ。
いつか幸せが来る日を夢見ている。
あのオレンジ色の日を覚えているだろ?
誰より君を愛する
アドリアンより

 

ウォラスの夫の手紙3:「

いい知らせだ。
もうすぐ車を買う金が貯まる。
これで毎日家に帰れる。
次の金曜に会いにきてくれ。
一緒に出かけよう。
アドリアンより


 

アメリのコリニョンに対する仕返しに成功します。

ボンドを塗ったスリッパでつまづき、灯りをつけると電気がショートして火花が出ます。

たまらず母親に短縮番号で電話すると心理カウンセラーにつながっていました。

心を落ち着かせようとコニャックを飲むとひどい味がして吐き出します。

妄想、幻聴、味覚障害へと誘導して心が病んだのではないかと錯覚させることに成功しました。

 

 

 

 

 

36.どうしよう、現実が迫ってくる!

 

 

アメリが駅を通るとそこら中に張り紙が書いてありました。

 


ニノの張り紙:「いつ?どこで?会える?」


 

アメリは慌てて張り紙すべてを回収します。

現実と非現実(空想)が曖昧なまま育ったアメリは突然の相手からの接近に驚きを隠せませんでした。

会う勇気をふり絞れないアメリ。

現実と向き合う時を回避してきたアメリが戦わなければならない時がきています。

こうしたアメリの「生きづらさ」が分からないという人はきっと、アメリとは別の「生きづらさ」を持つ人か、幸せに幼少期を過ごした人だと思います。

アメリに共感できない人がいて当然だと思います。

思春期時代にいわゆる「イケてるグループ」、人見知りとは無縁の社交的なグループに属していたのかもしれませんね。

そうした人はそれはそれで素晴らしいことです。

とても幸運なことだと思います。

ついに写真機の謎の正体の男が判明します!

 


ナレーション:
「アメリはパーティー用品の店へ。同じ時ルクールブ街で男が自宅を後にした」

「26分後、アメリは東駅の写真機の前へ。同じ時赤い運動靴の男が駅に到着。11時40分ちょうどのことだった」

「その歴史的瞬間、アメリは秘密を知った。謎の男の正体を」


 

そのスキンヘッドの男はスター・トレックのピカード艦長のように恒星の光を背に威厳に満ちていました。

 

 

 

 

 

37.大幅な遅配

 

 

ウォレスにアメリの手作りの手紙が再度届きます。

 


郵便局員:
「ウォラス夫人へ。69年10月の飛行機事故で行方不明となった郵便袋がアルプス山中で発見されました。」

「その中にあった奥様宛の手紙を同封します。この大幅な遅配を心よりお詫びいたします。郵便局広報部 J・グロジャン」


 

この郵便局の『大幅な遅配』という言葉に胸がつまりますね。

時の変遷と人々の心の変遷と変わらぬ想いが滲んでいます。

 


ウォラスの夫の手紙:「

愛するマド

食欲もなく眠れない

君と想っている

僕の人生で最大の過ちだった

あの女の金は放棄する

順調にいけばもうすぐ家を買う金が貯まる

すぐに幸せな日が来ると夢見ている

君が僕を赦し会いに来てくれる日、オレンジ色の日を

誰より君を愛するアドリアンより


 

ウォラス夫人は涙ぐみます。

そして夫の写真に何度もキスをしました。

ユーモラスな温かさがあるシーンです。

人のすごい所は過去に生きることができることです。

心を過去に置いて、体だけ現在に生きることができるのですね。

それは昔の幸せから力を貰いながら生き、過去の恨みをチカラにして今を生きるエネルギーにしている人もいます。

人は別離、虐待、悲劇的な事故に心が耐えられないと判断すれば、脳は思い出すことができないようにします。

心に蓋をするのです。

心の抑圧、解離のように心を守ろうと体や脳が作用します。

でもそれは一時的なものや部分的なもので、身体や気分に影響が出てきます。

フラッシュバック、発達障害、頭痛、肩こり、不安症、不眠、摂食障害、依存症、ホルモン異常、高血圧、心臓疾患、その他の精神疾患。

そうすると感情が閉ざされ何をするにも無気力になり、空虚になります。

アメリの手紙は一見いたずらのように見えます。

催眠療法やトラウマ療法では過去に遡って、痛みの原因である過去の出来事の認知を書き換えることで、今の悩みを取り除きます。

過去の自分に再会すること。

和解すること。

分裂した自分、取り残された自分と和解したり慰めてあげることで心は落ち着きを取り戻します。

今のあなたがイライラしたり生きる意味を失っていると感じているとすれば、過去の出来事の『心の整理』が必要なのかもしれません。

 

 

 

 

 

38.リュシアンとレイモン

 

 

リュシアンはレイモンのために電球の交換をしてあげます。

日用の雑事をいつもしてあげているのでしょうね。

とても仲の良い二人です。

心優しい青年です。

感情を出すことができるようになったリュシアンはとても幸せそうです。

とてもおしゃべりになりますね。

 


リュシアン:
「また小包がありましたよ」

「あの...」

レイモン:「何だ」

リュシアン:「新聞にもうじき新しい星が生まれるって書いてあった」

レイモン:「今度は星に興味が出たのか」

リュシアン:
「ママの家でテレビを見たからちょっと興味があるんだ」

「でも本当かな。アメリカでは金持ちは遺体を灰にして人工衛星に乗せて宇宙に飛ばすんだって」

「宇宙で星になって永遠に輝くんだと」

「ダイアナ妃も宇宙の星になるのかな」


 

このような優しい空想をいつまでも持っていられる『心の余白』が欲しいものですね。

純真な子供心と優しさに溢れた空想。

原作者は作品を通してダイアナ妃を追悼しているのだと思います。

なんと原作者はイポリト・ベルナールという人。

売れない小説家の名前だったのですね。

絵に集中できないレイモンはリュシアンを家から追い出します。

 

 

 

 

 

39.幸せのテープ集

 

 

レイモンはアメリからの2本めのビデオテープを見ました。

お母さんが赤ん坊を水中に入れての泳ぎの練習なのか、水の心地よさを体験させているようなシーンが映し出されます。

1メートル先にはお父さんがしっかりと待っていて、赤ん坊が泳ぎ切ると抱っこしてあげます。

スロー映像でとても微笑ましい美しいシーンです。

これだけでも本作品を見る価値がありますよ。

レイモンは優しいほほえみを浮かべながらそれを見ています。

次の映像は義足でトボトボと歩く太っちょの男がいました。

すると急に男はタップを踏み出して、義足の木の音を地面に響かせました。

テロップにはこう書いてありました。

”わしは不幸を背負って生まれた。13日の金曜日生まれさ。最悪の日だよ。”

逆なんですね。

不幸を逆手(逆足?)にとっているんです。

皆さんにここで感じて欲しいです。

足が片足なのは ”普通に” 歩ける人から見れば、それはとても不幸なことです。

その困難は、夢見た将来をたくさん諦めなければならないでしょう。

付ける職業も限られてくるでしょう。

人に助けを求めることも必要になってくるでしょう。

普通の人を羨み、足を失ったことを悔い、お金があればと渇望するでしょう。

トボトボ歩きと陽気なタップの間にそれが現実だとすれば、どのような変化があったのでしょうか。

それは義足の自分を『受け入れ』たということです。

過去に持っていたものを心のなかで『捨てた』ということです。

それまでの健康を、それまで考えていた夢を、それまでの可能性を。

わたしの大好きなアニメのワンピースで、義兄を殺され泣き崩れる日々の主人公ルフィに友人のジンベエは言います。

船長でもあるルフィは仲間も守れず、義兄を殺され、自分の非力さと無力さに打ちひしがれ、もはや海賊王はおろか自分の存在意義すら失い始めてしまう。

そんな、やさぐれた姿を見かねたジンベエはルフィを力技で押さえつけ、一喝します。

 


ジンベエ:
「今は辛かろうがルフィ、それらを押し殺せ!失った物ばかり数えるな!」

「無いものは無い!確認せい!お前にまだ残っておるものは何じゃ!」


 

その言葉が心に響いたルフィの脳裏にあるものが浮かび上がります。

それはこれまでの航海で苦楽を共に歩み、共に支え合い続けた自分の仲間達の光景です。

それを見たルフィは我に返り、

 


ルフィ:「仲間が…仲間がいるよ! 俺には仲間がいる!! アイツらに会いてェよォオ!」


 

ようやく自分を取り戻す事ができます。

自分の運命を時間をかけて受け入れること。

そこには他人は介在できませんし、視野に入れてはいけません。

自分がどうあるべきかの問題だけです。

無いものはもうありません。

心のなかで選択して捨て去ることです。

今の自分がこれから何ができて何ができないのかをよくよく考える。

そうすれば誰にでも『再スタート』が切れます。

 

 

 

 

40.卑怯

 

 

アメリは証明写真機で覆面姿の自分の写真を撮り、パズルのように断片に切って機械の下に置きました。

ニノへの手紙です。

”16時にドゥ・ムーラン(カフェ)で...”

おしゃれなカフェの時計が16時10分を指してもニノは来ていませんでした。

そこからアメリのネガティブ思考の空想が始まります。

ここは個人的に好きなところで、アメリの妄想癖な所がコミカルに描かれています。

 


ナレーション:
「ニノが来ない。考えられる理由は3つ」

「1.写真が見つからない」

「2.写真を復元する時間がない」

「なぜなら銀行を襲った強盗犯の人質になり、警察に追われ強盗は逃げたが彼は交通事故に遭い、すべての記憶を喪失しトラックに拾われたが、脱走した囚人と間違われイスタンブールへ...」

「アフガン人と出会いソ連から核弾頭を盗む計画に参加、だが国境でトラックが地雷で大破」

「生き残った彼は山岳部族に会い、聖戦の闘士となる」

「アメリには理解できないが、彼は一生ボルシチを食べ、変テコな帽子を被るのだ」


 

ニノは突然店内に様子で入ってきました。

可愛い赤の水玉模様の服を着たアメリ。

アメリは慌てて仕事をするフリをします。

ジーナがコーヒーの注文を取ってくれ、アメリはコーヒーを作りました。

ニノは落ち着かない様子でテーブルに座り辺りを見渡します。

ジーナはニノのテーブルにコーヒーを置き、立ち去り姿が消えるとニノの背後にガラス越しからアメリがニノを見つめています。

アメリの不安な心を表したような薄いガラスです。

先日のお化け屋敷での立ち位置とちょうど反対なんですね。

後ろからニノを見つめるアメリの眼差しは恋を求める少女そのものでした。

ニノが急に後ろを振り向きます。

アメリはガラスに ”本日のおすすめメニュー” と描いて、ニノと目を合わそうとしませんでした。

自分の勇気のなさに思わずため息をつくアメリ。

アメリは希望を込めてニノの行動を予想します。

 


アメリの心の中:「今、ピンと来る。スプーンを置く。テーブルの上の砂糖を集めゆっくり振り返り私に話しかける」


 

ニノは写真を取り出してアメリに尋ねます。

 


ニノ:「すみません。これ、君?」


 

アメリは思わず首を振ってしまいます。

 


ニノ:「そうだ、君だ」


 

アメリは手のひらを上に向け、何を言っているのというジェスチャーをしてその場から逃げ出してしまいます。

立ち去るアメリの顔は泣いていました。

アメリはジーナにメモを託してニノに渡してもらいます。

ジーナは隠れてニノのポケットにメモを入れました。

ニノは写真の女性に会えずに立ち去りました。

レイモンの家でアメリは語ります。

 


レイモン:「では、娘が好きなのは片手をあげてる青年かな?」

アメリ:「ええ...」

レイモン:「本気で好きなのか」

アメリ:「ええ」

レイモン:「ならば娘は今こそ本当の危険を冒さねばならないね」

アメリ:「娘もそう思ってるわ。今、作戦を練って...」

レイモン:「それが好きらしいな。作戦が...」

アメリ:「ええ」

レイモン:「だがちょっと卑怯だ。だから娘の視線がつかみにくいんだな」


 

年老いたレイモンからの優しい忠告ですね。

まっすぐに彼を見なさいということですね。

アメリにとってそれはとても厳しい言葉だと思います。

人は誰しも不安な時は自分のことしか視野に入りません。

自分を守ることで精一杯です。

考えているのでなく悩みが堂々めぐりしているのです。

『回避行動』をしながらも、希求する気持ちが前を向いているので、傷つかずに偶然を装おうとして、こういったアメリの遠回りの『作戦』になってしまうのだと思います。

レイモンは自分の大切な気持ちを優先させることと相手の気持ちも考えてあげることを伝えたかったのだと思います。

レイモンに責められたと思ったアメリは心の中の防御システムが作動します。

それが映像としてコミカルに表出されます。

TVの中に独裁者スターリンのようなヒゲの男が怒り狂っています。

 


ヒゲ男:
「不当な干渉だ!赦し難い!デュファイエル(レイモンの本名)の奴!」

「アメリの自由だ!夢の世界に閉じこもり内気なまま暮らすのも彼女の権利だ」

「人間には失敗する権利がある!」


 

 

 

 

 

41.謎の男

 

 

ニノはアメリの手紙をポケットから見つけます。

 


アメリの手紙:「火曜17時、東駅構内の写真機前にて」


 

よく考えると何度も姿を現さない相手に愛想を尽かして、関わらないほうが普通ですね。

ニノの中にも自分の殻を破り捨てたいという思いがあるのでしょう。

写真機の謎の男の登場です!

ニノが写真機の前で待っていると赤のコンバースを履いた男が中で何枚も写真を撮っていました。

ニノは写真機の外でできあがった写真を手に取りました。

そこには例のスキンヘッドの謎の男が写っていました。

ニノは中に入っている男を確認しようとそっとカーテンを開けます。

 


スキンヘッドの男:「すぐに終わります」

ナレーション:「謎の男とは、死の恐怖症男ではなくただの修理屋で故障を直していただけだった」


 

ニノは男の正体が分かり笑顔で喜びます。

不安や恐怖は受け取ったひとそれぞれの認知の違いです。

不安や恐怖は自分が創り出したものです。

死の恐怖男とはただの修理屋なのです。

不幸にもこうした認知の歪み(ゆがみ)にその人の人生が左右されます。

不安症、うつ病や強迫症の病気から来るものもすべて含めてです。

これこそがこの作品のテーマのひとつです。

ジョゼフの神経症が今度はジョルジェットに向かいます。

ジョルジェットは気が変になり、身体に湿疹が出来てカフェを早退してしまいました。

 


店主シュザンヌ:「あれじゃ、息もできないわ。空気が必要よ」

ジョゼフ:「最初は空気、次は何で気分転換をするんだ?」

売れない小説家:「気分転換は健康的だ」

ジョゼフ:「黙れ!売れない小説家」

売れない小説家:
「その通りだ。小説も失敗、人生も失敗、好きな言葉だ。『失敗』」

「運命の暗示だよ。失敗につぐ失敗、永遠に書いては消し、人生は果てしなく書き直す未完の小説だ」

ジョゼフ:「どうせ誰かの言葉だろ」

売れない小説家:
「僕にだって自分の言葉はあるさ。ただつい盗んでしまう」

「君の覗き見と同じさ」

ジョゼフ:「何が言いたい?」

売れない小説家:「分別を持てっていうことだ」

ジョゼフ:「何だと、お前なんか!」

売れない小説家:「何だ、言ってみろ!」


 

二人は取っ組み合いのケンカを始めます。

ジョゼフのストーカー行為も、売れない小説家の盗作も、アメリの『作戦』も大きく眺めれば人生の『失敗』に入ってしまう行為かもしれません。

この売れない小説家が言うように、『失敗』を素敵な言葉と言えるように肯定をしたいものですね。

失敗は成功への過程と考えて、それに気づき良くしていけば人生だって面白いやりがいのあるゲームなのかもしれません。

そしてジョゼフやコリニョンのような距離間のない人間関係。

アメリやニノのように回避したり遠回りしたりする遠すぎる距離間の人間関係。

どちらも人間くさい行動であり、これらの愛すべき失敗を認めて、何度も何度も書き直すことが人生の永遠の課題だし、追い求めることが生きがいとなってくるのだと思います。

 

 

 

 

 

 

42.後悔と自責

 

 

二人のケンカの最中にアメリがカフェに入ってきます。

 


アメリ:「何なの?」

店主シュザンヌ:「何でもない、ちょっとした気分転換よ」

ジョゼフ:「気分転換ね」


 

少し前にアメリを探しにカフェに来たニノはジーナに居所を尋ねていました。

その様子をジョゼフがしっかりと目撃していて、ニノとジーナが会っているとアメリに告げてしまいます。

 


ジョゼフ:
「ジーナもそうさ。誰とかわかるか?袋を持った若い男さ」

「俺の目はごまかせないぜ。まず紙切れをポケットへ。16時8分。店に現れ二人してどこかで気分転換さ」


 

ジーナはアメリのために外でニノと会いました。

 


ジーナ:「あなたがいい人なんで心配なの」

ニノ:「つまり、どういうこと?」

ジーナ:「私の経験では外見がいいほど中身がダメ。あなたのこと教えてちょうだい」

ニノ:「何でも質問して下さい」

ジーナ:「”つばめは何にあらず”?」

ニノ:「つばめ?”春のしるし”」

ジーナ:「”馬子にも”?」

ニノ:「”衣装”」

ジーナ:「”猫に”?」

ニノ:「”小判”」

ジーナ:「”千里の道も”?」

ニノ:「”一歩から”」

ジーナ:「”転石”?」

ニノ:「”苔(こけ)を生ぜず”」

ジーナ:「”嘘つきは”」

ニノ:「”盗人の始まり”」

ジーナ:「”火のないところに”?」

ニノ:「”煙は立たない”」

ジーナ:「悪くないわ。うちの家訓なの。ことわざを知る者に悪人はいないって」


 

アメリは激しい嫉妬に打ちひしがれ、ウォラス夫人の手紙の感動さえも受け止めることができませんでした。

アメリは早く告白しなかったことを心底後悔します。

アメリはお菓子づくりを始め、気を落ち着かせます。

ストレスを抱えた時の心を休めるためのコーピングなのですね。

バニラビーンズを切らしていることに気が付き、空想が頭に浮かびます。

それは雨の中、ニノがリュシアンのところにバニラビーンズを買いに行く空想でした。

 


ニノ:「バニラビーンズを1袋くれ」

リュシアン:
「アメリだろ?彼女の菓子は美味いね」

「コリニョン、早く配達へ行け!」


 

ニノはアメリの家に戻り、珠のれん(ビーズカーテン)をそっとなでてアメリに驚かせ気づかせます。

そんな理想の恋人ライフを夢見ています。

ふと現実に戻ったアメリは涙が止まらずどうしようもありません。

 

 

 

~PART④  へ続く~

 


②『アメリ』〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

2024-07-21 08:26:37 | 日記

 

 

 

 

16.引きこもりな老画家

 

リストにあげた3人にはおらず、意気消沈して自室に戻ろうとするアメリに話しかけてきたのはガラスの手の老画家でした。

 


レイモン:
「プルドトーじゃない。プルトドーだよ」

「ひどい顔だ。シナモン入りの熱いワインを飲ましてあげるよ、おいで。」


 

ヴァン・ショー・・・
ヴァンは(VIN=ワイン)ショーは(CHAUD=ホット)という意味合いを持つ、HOTサングリアの”ヴァンショー”。つまりホットワインのこと。柑橘系の果物やスパイス
を入れて煮詰めたもの。

 


アメリ:「ここに来て5年だけど初めて顔を見たわ」

レイモン:
「わしは絶対に外に出んし、会う人間は自分で選びたいからね」

「ろくな人間がいない」


 

人との付き合い方は人それぞれですが、幼い頃、若い頃人間関係で苦労をした人は傷つきやすかったり、そもそも人は悪人だと信じて生きています。

人の性格や行動が病気かどうかというのは、「日常生活に著しく影響が出ているかどうか」です。

生活への支障と心の平静の兼ね合いだと思います。

心の安寧を選ぶか、好奇心や刺激を好むかの生き方や気質によって色々とあっていいと思います。

その人の個性として尊重したり、受け入れることが気分や感情に振り回されないで生きる良い方法だと思います。

 


レイモン:
「さあ、入って」

「わしは ”ガラス男” と呼ばれてる」

「本名はレイモン・デュファイエルだ」

アメリ:「アメリよ、仕事は...」

レイモン:
「ドゥ・ムーランだろ。知ってるよ」

「今日は無駄足だったな。プルドトー捜索は失敗した」

「”ド”じゃない、”と”なんだ。トトの ”ト”」

アメリ:「ありがとう」


 

アメリは好きな人だと少しはにかんだ笑顔になり、とてもわかり易いです。

女性は特に表情に好き嫌いが出るように思います。

子供に愛情を伝えるためのオキシトシンというホルモンが関係しているようです。

 

 

 

 

 

17.ルノワールの少女

 

 


アメリ:「素敵な絵ね」

レイモン:「ルノワールの ”舟遊びの昼食” だ」


 

レイモンは部屋の仕切りのカーテンを開けました。

するとたくさんの ”舟遊びの昼食” が置かれてありました」

 


レイモン:
「年に1枚ずつ描いてる。20年前からね」

「難しいのは視線だ。ときどき皆で見つめ合ってる。わしの目を盗んでね」

アメリ:「幸せそうな顔です」

レイモン:
「ご馳走だからね。野ウサギの編み笠茸風味だ」

「子供たちにはジャムつきゴーフル」


 

ゴーフル
ゴーフルは、専用の型で作る凹凸模様の平たい菓子。英語でワッフル 、フランス語でゴーフル と呼ばれる。「浮き出し模様を付ける」という意味の “gaufrer” から、「ゴーフル」と呼ばれるようになった。日本では、薄焼き煎餅にクリームを挟んだ焼き菓子が「ゴーフル」「ゴーフレット」等の名前で販売されている。

 


レイモン:
「どこへ仕舞ったかな、あの紙切れは...」

「それは隣を映すためのビデオカメラだ。義妹からのプレゼントさ」

「隣の看板を映しておけば掛け時計がいらないだろ」

「20年描き続けていてもまだ描ききれない人物がいる」

「この水を飲む娘だ」

「絵の中心にいるのによそにいるみたいだ」

アメリ:「彼女は人と違うのよ」

レイモン:「どこが違う?」


 

レイモンは座っていたイスから立ち上がってアメリの意見を熱心に聞きます。

 


アメリ:「さあ...」

レイモン:「子供の頃、友達と遊んだことがなかったのかな。おそらく1度も」


 

レイモンは絵の中の少女をアメリの気持ちや境遇と同じように類推します。

驚くくらいアメリの心情を言い当てますね。

 


レイモン:「これをあげるよ。ドミニク・プルトドー。ムフタール街27番地。この男だよ」


 

 

 

 

 

18.プルトドー

 

 


ナレーション:
「毎週火曜の朝、プルトドーは市場でチキンを買いオーブンで丸焼きにする」

「まずはもも肉、胸肉を切り分け、湯気の出ている骨の間に指を入れ腰骨の肉を取って食べる」

「ところが今日はそうできなかった。なぜなら公衆電話が彼を呼び止めたから」


 

初老のプルトドーは恐る恐る電話を取りますが、すぐに電話は切れます。

公衆電話の電話帳置きのところにアメリは宝箱をそっと置いていました。

プルトドーはいぶかしげに箱の外観を見ます。

そして宝箱のフタを開けた瞬間、自分の幼き頃の写真を目にしたプルトドーは目に涙を浮かべました。

 


ナレーション:
「一瞬のうちに記憶が蘇った」

「59年のツール・ド・フランス。叔母さんのシュミーズ。特にあの人生最悪の日。級友からビー玉を勝ち取った日を...」


 

過去のプルトドー。

整列に遅れたプルトドーは先生に耳をつままれて怒られます。

大事なビー玉がポケットの穴からすり抜けてあたりに散乱しました。

プルトドーにとっての屈辱の記憶です。

誰にも悲しい記憶がありますね。

わたしもみんなの前でおしりのズボンが思いっきり破けたことがあります。

プルトドーは感激の気持ちを携えてバーに向かいカウンターに腰掛けます。

 


プルトドー:
「コニャックをくれ」

「奇跡が起こった。天使が奇跡を起こしてくれた」

「公衆電話が俺を呼んだんだ」

バーテンダー:「電子レンジがお呼びだ」


 

店員がプルトドーを冷やかします。

 


プルトドー:
「コニャックをもう一杯くれ」

「人生って不思議だな。昔は時間が永遠にあったのに気がつけば50歳」

「思い出がこんな小さな古ぼけた箱の中に...」


 

プルトドーは隣に座っているアメリに話しかけます。

 


プルトドー:
「娘さん、子供はいるかい?」

「俺にはあんたくらいの娘がいるんだ」

「もう何年も会ってない」

「孫が産まれたそうだ。男の子で名前はリュカ」

「会いに行ってやろう。自分が ”宝箱” に入る前に」

「そうでしょ?」


 

プルトドーは宝箱を開けて子供の頃にタイムスリップしたことで「時」のはかなさを感じたのかもしれません。

たぶん今、彼は幸せではないのでしょう。

ひとり孤独を背負っているのかもしれません。

自分の人生を高いところ、異次元のところから俯瞰した時、むなしさが込み上げてきたのかもしれません。

昔の希望に満ちた楽しかった日々と今の暮らしを比べたのかもしれません。

無くしてしまったもの、置いてきてしまったもの、捨ててしまったものを思い出したのでしょう。

そして何かしなくてはいけないと思ったのでしょう。

外界とのふれあい

 


ナレーション:
「アメリは突然、世界と調和がとれたと感じた」

「すべてが完璧」

「柔らかな日の光、空気の香り、街のざわめき」

「人生とは何とシンプルで優しいことだろう」

「突然、愛の衝動が体に満ち溢れた」


 

アメリは生まれて初めて世界と関わりをもったのだと思います。

通じ合う感覚を得たのだと思います。

アメリは盲目の老人が通りを渡るのを寄り添って歩いてあげます。

 


アメリ:
「道案内をするわ。車道を降りてさあ、出発よ」

「ご主人の制服を着た楽隊員の未亡人」

「ほら舗道よ。気をつけて」

「看板の馬には耳がないわ」

「花屋のご主人の笑い声、笑うと目にシワができるのよ」

「お菓子屋の店先に飴細工があるわ」

「この匂いわかる?果物屋さんがメロンの試食をおこなってるわ」

「美味しそうなアイスクリーム。惣菜屋さんの前よ」

「ハム79フラン、ベーコン45フラン、チーズはアルデーシュ産が12フラン90」

「赤ちゃんが犬を見てる。犬がチキンを見てる」

「新聞売り場に着いたわ。地下鉄の駅よ。ここでお別れ。さよなら」


 

アメリは楽しそうに階段を駆け上がり、盲目の老人はキラキラと光りました。

アメリはプルトドーの役に立てたことで多幸感が心に生まれたのですね。

そしてその幸せをもっと分けてあげたいと感じました。

アドラーの言う『共同体感覚』です。

アメリが言うようにプルトドーとの精神的つながりが世界との調和として感じることができた。

人は何かを与えることで幸せを得ることができる動物です。

それは人とのつながりを持てたからです。

その時、私たちの体には「オキシトシン」というホルモンが生成されます。

これが「つながりの幸せ」をもたらす幸せの物質です。

気づくことだけで幸せを認識することができます。

幸せはあなたのすぐ近くにあるのです。

そう、あの幸せの青い鳥です。

そして自分のグラスに幸せのワインを満たすと、おせっかいにも人に分けてあげたくなります。

人の親切とは何も打算からだけではありません。

こういう性質が人の中には本能的にあるのです。

協力して厳しい生活を生き抜くための、人間の社会的な本能でしょう。

ギブ&テイクや返報性の法則などもこういった本能が習慣化や儀式化したものだと言えます。

そうしてギバー(与える人)はますます幸せ感を得るんですね。

もちろんそれが相手に良いか悪いかは別問題ですよ。

これまたアドラーの言う『課題の分離』です。

受け取った相手がどう感じるかはその人の領域です。

人の心や本能、愛着、欲求を論じる時に、善悪や倫理観はひとまず置いておくことです。

まずは自分のグラスを最初に満たすのが健康的なのです。

 

 

 

 

19.空想癖と葬式

 

 

その夜、陽気に夕食の用意をするアメリはレイモンの部屋が目に映ります。

独り寂しく夕食を食べているレイモンにアメリは心を痛めます。

それはまた自分にも跳ね返って来るのでした。

自分もまた外出を何十年もしていない老画家と同じように孤独なのだとアメリは悟ります。

 


アメリ:
「他人と関係を結ぶことができない」

「子どもの頃から孤独だった」


 

そこからアメリはダークな自己否定的な気持ちに変わってしまいます。

その気分がイメージ化されて、映像に映し出されます。

暗い色調で女性が黒猫を抱いてこちらを恨めしそうに見ている絵。

TVに映る仮想のアメリの国葬。

 


ナレーション:
「きらめく7月の太陽が傾き、浜辺ではまだ避暑客が無邪気に水と戯れる頃、またパリでは熱気の残る夜空に花火が輝き歓声があがる頃、アメリ・プーランまたは売れ残りの女王、縁遠いマドンナが静かに息を絶えたのです」

「パリの街に悲しみが広がり、数万の無名の庶民が無言で葬列に加わり哀悼の意を表しつつ、残された者の無限の悲しみに耐えていました」

「彼女の不思議な運命。不運な人生。しかし彼女は細やかな感受性の持ち主でした」

「まるでドン・キホーテのように人類の苦難という風車に立ち向かったのです」

「負けの決まった闘いが早すぎる死を招きました」

「アメリ・プーランは23歳の若さでその短い人生を世界の困窮の中で閉じたのです」

「死してなお、彼女の心を苦しめるのは父親が息を詰まらせて死に瀕したとき、ただ手をこまねいて死に至らしめたことです」


 

自己嫌悪な人、抑うつ症状の人はよく自分の葬式を思い描いたり、夢に見たりします。

叶えられない願望。

空想の中でも人々に愛され悲しまれることを切に願っているのです。

父親に対しての思いやりのなさでさえ、自分に責任を感じて責めてしまいます。

自分を嫌いになりすぎて、「解離性障害」のように自分を自己から切り離してしまいたい気持ちでいっぱいです。

そうした人はついには依存症、自傷、摂食障害、果ては自死企図にまで追い込まれます。

夜、アメリは父親の家の庭にある七人の小人の1体を持ち出し、地下鉄で夜を過ごします。

父親の愛を小人から奪い取りたかったのか、または父親の自閉症を治してあげたかったのか。

 

 

 

 

 

20.ニノという青年

 

駅構内で再びアメリは以前会った青年、ニノ・カンカンポワと出くわします。

まだ面識はありません。

ニノは一人の男をアメリのそばを通り過ぎて追いかけて行きました。

途中でアメリはニノのカバンを拾います。

中にはアルバムが入っていました。

 


ナレーション:「証明写真のアルバム、丸めたり破ったりした失敗写真をきれいに復元し分類してあった。家族のアルバムのように」

 

 

 

 

 

 

21.恋愛談義

 

 

アメリの仕事場のカフェです。

ジーナが一人の男の客の注文を取りました。

それを見たジョゼフはジーナに言います。

 


ジョゼフ:「あの客とは交渉前か、それとも後?」

ジーナ:「先天的なバカね」

ジョゼフはまた録音機に記録します。

ジョゼフ:「交渉前だ」


 

カウンターの常連客の老人がジーナを慰めます。

 


老人:
「機嫌を直しなさい。今にいい男に出会える」

「女の幸せは男に抱かれて眠ることだ」

店主シュザンヌ:「でも男っていびきをかくでしょ。私、音に敏感なのよ」

老人:「わしは手術で喉を直した」

店主シュザンヌ:「あら、ロマンチストなのね」

老人:「大恋愛の経験がないらしいな」


 

老紳士がカフェで恋愛を語る。なんて素敵なんでしょう!

さすが、フランスですね。

 


店主シュザンヌ:「あるから足を悪くしたのよ」

ジーナ:「サーカスの事故かと思ったわ」

店主シュザンヌ:
「ええ、そうよ。相手は空中ブランコ乗り」

「空中ブランコは直前に手を離すけど、私も演技の直前に別れ話をしたの」

「私は動転して馬も動転し、運悪く私の上に馬が...」

老人:「ともあれ、一目惚れはあるよ」

店主シュザンヌ:
「でもこの商売を30年もやるとわかるのよ」

「一目惚れにもレシピがあるのよ」

「材料は顔見知りの二人。互いの好意を絡めてよく混ぜる。一丁あがり」

 

 

 

 

 

22.恋のキューピット

 

 

アメリはその言葉を聞いて、ジョゼフとジョルジェットを結びつけることを思いつきます。

 


ジョゼフ:「すまんが、お代わりを頼む」


 

アメリはコーヒーのお代わりを持っていった際、ジョゼフにささやきます。

 


アメリ:「誰かさんが心を痛めてるわよ」

ジョゼフ:「ジーナなら大丈夫さ」

アメリ:「ジーナじゃないわ。ジョルジェットよ」

ジョゼフ:「彼女が俺のことを?」

アメリ:
「自分に気づいて欲しいのにあなたはジーナばかり。可哀想に」

「あなたの関心を惹こうと必死なのに、その目は節穴ね」


 

閉店後、アメリはジョルジェットにも話します。

 


ジョルジェット:「ジーナの今の彼氏、あの録音機の変人よりきっとマシな男ね」

アメリ:「ジョゼフなら変人じゃないわ。悩みが深いのよ」

ジョルジェット:「でも2ヶ月も前に別れたのにまだ毎日通ってくるのよ」

アメリ:「その理由をあなたが知らないはずないわ」

ジョルジェット:「理由?」

アメリ:「いつもこの席よね」

ジョルジェット:「ええ」

アメリ:
「座って。座ってみて」

「何が見える?」

ジョルジェット:「煙草売り場よ」

アメリ:「何が足りないかわかる?」

ジョルジェット:「何も」

アメリ:「よく見て」

ジョルジェット:「何も見えないわ」

アメリ:「よく考えといて。おやすみ」


 

アメリはあなたの姿よと言いたかったのですね。

 

 

 

 

 

23.アメリの悲観

 

 

アメリはプルトドーの件以来レイモンと仲良くなり、彼の部屋を訪れます。

アメリとレイモンはニノの残したアルバムを眺め、思いをめぐらしました。

 


アメリ:「ここにもいるわ」

レイモン:「確かに変だな」

アメリ:「ここにも」

レイモン:「同じ男だ。リヨン駅だね」

アメリ:「ここにも。オーステルリッツ駅ね」

レイモン:「顔もまったく同じだ。無表情だ」

アメリ:「全部で12枚よ。数えたの。定期的にあちこちで写真を撮ってすぐに捨てるなんて」

レイモン:「ちゃんと撮れた写真を捨てている」

アメリ:「何かの儀式かな?」

レイモン:「何かに取り憑かれているな。例えば老いることの恐怖とか」

アメリ:「死だわ」

レイモン:「死?」

アメリ:「死んで忘れ去られること。それで自分の顔をこの世に送ったのよ。あの世からのFAXなのよ」

レイモン:「死んだ人間が忘れられたくない...。絵の中の彼らは勝利者だ。彼らは大昔に死んだが絶対に忘れ去られることはない」


 

レイモンの絵の人物に対する意見は面白いですね。

家族の写真や遺影を絵で飾るのも温もりがあっていいアイデアかもしれませんね。

 


アメリ:「あの絵の水を飲む娘だけど、誰かのことを想ってるんじゃない?」

レイモン:「絵の中の誰か?」

アメリ:「いいえ。街のどこかで出会った人で同じ匂いを持った人を想っている」

レイモン:「つまり、今そこにいない人間との関係を想像する方がよくて、今いる人間との関係はどうでもいいということかな?」

アメリ:「逆に他人の人生を軌道修正してるのかもしれない」


 

レイモンの鋭い指摘ですね。

でもアメリは ”同じ匂いを持った人” との関わりが増えています。

世界とつながりはじめているのですね。

レイモンはアメリが自分のことを言っていると見抜き、さり気なくアドバイスを贈ります。

 


レイモン:「だが彼女、自分の人生の軌道修正はやってるのかな?」

アメリ:「少なくとも ”ドワーフ” でなくて人間を相手にしているわ」


 

映画や絵画、あらゆる芸術作品は自分を写す鏡だと思います。

自動証明写真機に写る男の気持ちを類推するアメリは次第に自分をその男に『投影』『外化』します。

 


投影・・・
心理学における投影とは、自己のとある衝動や資質を認めたくないとき、自分自身を守るためそれを認める代わりに、他の人間にその悪い面を押し付けてしまうような心の働きをいう。

 

外化・・・

外化とは自分の中にある問題を外にある他人や状況の問題だと認識することで心を守ろうとすること。


 

世界とつながりたいけれど、つながる勇気を持てないアメリはこのまま自分の存在を知られずに死んでいくことを恐れています。

アメリはニノのことを想うことや近しい人を幸福にすることに世界とのつながりを感じはじめています。

ここでこの作品の主題曲が悲しみの曲調で流れてきます。

人のこれまでの生きてきた姿を転写する証明写真にアメリは自身の過去をたどり、未来を思案します。

世界の地に根を張って生きるということ、それは『自我』『アイデンティティ』『実存』を持つということです。

愛を貰いたくて、褒められたくて、そんな存在を求めて自分を否定しながら生きてきたのではないか。

衝突や傷つくことを恐れて世界を『回避』しながら生きてきたのではないか。

今まで自分を守ってきた方法ではもうこれ以上前に進めないと気づいたのではないか。

どうすればその世界と繋がることができる勇気を手にいれることができるのか。

これから自分は何をすればいいのか。

アメリはニノのアルバムを自分の末路のように恐れながらまどろみました。

TVの映像に世界とのつながりを表すような映像が流れます。

ツール・ド・フランスの先頭が三角形の頂点となす美しい自転車の群れ。

小魚の群れのように光り輝いています。

そこに一頭の馬が颯爽と走り駆けていきます。

馬独特の飛び跳ねるような走りに純真な希望を感じます。

 

 

 

 

 

24.不快

 

 

食料品店主のコリニョンがまたリュシアンをいじめています。

 


コリニョン:
「とっておきの話がある」

「リュシアンの奴、警察のネズミ捕りに引っかかった。そうだな?」


 

コリニョンはリュシアンの後頭部を小突きました。

 


客の夫人:「でもコリニョンさん、彼の責任ではないわ...」

コリニョン:
「確かに奴の責任じゃないよ、マダム。ダイアナ妃のせいなんだ」

「運転席に何があったと思います?」

「女性下着のカタログでモデルの顔がダイアナ妃になってた」


 

コリニョンはアメリに注文を尋ねますが、アメリはリュシアンをいじめるコリニョンへの嫌悪感でいっぱいです。

アメリはコリニョンを睨みつけて、その場を立ち去ります。

 


アメリ:「結構よ」

 

 

 

 

 

25.イポリトの人生観

 

 

通りの売店の馴染の店員がジョルジェットに声をかけます。

 


売店の店員:「今朝はすごく顔色がいいわ。愛のない女は太陽のない花。すぐに枯れるわ」


 

愛は生きるために必要な養分なんですね!

女性の活き活きした表情を思い浮かべると、思わず納得ですね。

カフェで常連の売れない小説家イポリトがしゃべっています。

 


アメリ:「それであなたの書いたお話って恋愛小説なの?」

売れない小説家:「いや、日記を書く男の話だ。起こったことじゃなく起こりそうな災難を書くんだ。それで憂鬱になり何もできない」

ジーナ:「つまり何もしない人ね」


 

考えるだけで行動できない人というのはこういった人のことです。

頭の中だけでグルグルと思考が廻っているのですね。

行動すること。それは新世界へのスイッチです。

行動だけがその状況から自分を抜け出させてくれるのです。

人は臆病でどうしてもブレーキをかけてしまう。

危険予知は身を守る方法なのですが、悩むだけで今のままが幸せに繋がらないことが多くあります。

アメリの策略は功を奏し、ジョゼフとジョルジェットは流し目でお互いを少しずつ意識し始めます。

 

 

 

 

 

26.復讐

 

 

コリニョンのリュシアンに対するいじめを許せないアメリはコリニョンの家に侵入して、手ひどいいじわるを仕掛けます。

・部屋履きのスリッパにボンドをつけて床に貼り付ける

・靴紐を切って短くする

・歯磨き粉と足用クリームを入れ替える

・ドアノブの表と裏を入れ替える

・コニャックに薬品を混ぜる

・目覚まし時計の時間を遅らせる

そんなアメリの行動を自室の窓からレイモンはじっと見ています。

父親との食事の場面ですが、相変わらず自分のことにしか関心がない父親です。

アメリは友人のCAに父親のドワーフを預けて、海外から小人の写真を父に送ってもらうといういたずらをずっと続けていました。

 


アメリ:「庭のドワーフはどこ?物置に仕舞ったの?」

父親:「モスクワさ、ご覧。何も書いてない」


 

アメリにモスクワで撮られた小人の写真を見せます。

 


アメリ:「旅がしたくなったのかも」

父親:「わからん。訳がわからん」

 

 

 

 

 

27.ニノからの行動

 

 

ニノは駅の掲示板になくしたカバンを見つけるための掲示を張り出していました。

アメリはその掲示を読みます。

 


ナレーション:
「普通の娘ならすぐ電話するだろう。テラスで待ち合わせて相手をよく吟味する」

「まさに現実との対決。アメリはそれが苦手だった」


 

部屋の絵画にエリザベスカラーをした犬と白い鳥が描かれています。

空想の中でこれらがおしゃべりをします。

 


絵の中の鳥:「アメリは恋をしてるのかな?」

 

 

 

 

 

28.リュシアン

 

 

アメリのいたずらが成功して、コリニョンは不可思議な出来事に遭遇したショックで仕事を休んでしまいます。

リュシアンは一人で悠々と仕事をします。

 


客の女性:「ご主人は?」

リュシアン:「カリフラワーの中。そこで寝てるんです」


 

ジョゼフとジョルジェットはいっしょにスクラッチをして仲を深めていきます。

リュシアンはレイモンのところに配達にやってきました。

 


リュシアン:「こんにちは、レイモンさん」

レイモン:「リュシアンか」

リュシアン:「注文の品です」

レイモン:「何だ、アーティチョークは嫌いだ」

リュシアン:
「違いますよ、よく見て下さい」

「葉を取って見て下さい。ジャラーン!」


 

葉を取るとキャビアの瓶詰めがありました!

 


アーティチョーク・・・
アーティチョークは、キク科チョウセンアザミ属の多年草。和名はチョウセンアザミ。形態的には大型アザミである。若いつぼみを食用とするヨーロッパの春野菜。地中海沿岸原産。


 

リュシアンはとても嬉しそうです。

ツナの缶詰に似せたフォアグラの缶詰

そしてサラダ油に似せたワイン。

 


レイモン:「お前は魔法使いだよ」

リュシアン:「ムッシュのおごりです」

レイモン:「何?ムッシュ・コリニョン?」


 

ムッシュ・・・
ムッシュ(フランス語)は、中世フランス語において閣下を意味する語で、現在は(爵位など高い位を持たない)全ての男性への敬称として使われる。 ムッシューと表記されることもある。

 


レイモン:「その言い方はダメだぞ」

リュシアン:「すいません、ついうっかりと」

レイモン:
「練習してみろ!さあ!練習しろ」

「まず、わしが先に言う」

「コリニョンはマヌケ」


 

リュシアンは恐る恐るレイモンのあとを繰り返します。

 


リュシアン:「コリニョンはマヌケ」

レイモン:「次はお前だけだ。コリニョンは?」

リュシアン:「コリニョンはアホ」


 

リュシアンは少し楽しくなって笑顔になります。

 


レイモン:「言えたじゃないか。次は何だ?」

リュシアン:「コリニョンはトンマ」

レイモン:
「トンマか、よく出来た」

「コリニョンは?」

リュシアン:「コリニョンはアホ、コリニョンはトンマ、コリニョンはアホ...」


 

リュシアンは興奮しすぎて悪口が止まらなくなり、レイモンは必死に止めます。

 


レイモン:「リュシアン、もう十分だ。今日はこの辺にしよう」


 

レイモンは気が弱く言い返せないリュシアンに勇気を与えます。

言い返す(ファイトバック)というのは現状を変えるためにはとても大事なことですね。

雇われであり、頭も少し弱いのを気にしてか、勇気の出ないリュシアン。

身近で辛く生きていることを黙って見ていられない、良い人たちばかりですね。

世界とつながるとは、自分の身近なことに関わることから始まると思います。

 

 

 

 

 

 

29.集められた幸せシーン

 

 


リュシアン:「そうだ、忘れてた。この小包がドアにありました」


 

レイモンが小包を開けると一本のビデオテープが入っていました。

そこにはTVから録画したたくさんの映像シーンが写っていました。

先程のツール・ド・フランスのシーン。

自転車が三角形にきれいに連なり、小魚の群れのように形が変化します。

世界との一体感を伝えているのでしょうか。

次はサーカス。

男が後転し続ける間、犬がずっと男の背中にちょこんと乗っています。

これも人と動物との繋がり、そして陽気さを忘れてはいけないと伝えているのですね。

次はゴスペルの集団の手拍子に合わせて、黒人の女性が陽気にエレキギターを弾いています。

黒人たちだけというのが、彼女たちが背負ってきているものを想像させます。

それでも賛美歌を歌う彼女たちの強さ。

人の尊厳に胸を打たれます。

どれも楽しく、見ていて胸が爽やかになるような、それでいて温かみのある映像です。

アメリからの贈り物ですね。

これがアメリの世界との関わり方です。

身近な好きな人達を喜ばせてあげたいという優しい気持ちが出た行動です。

寂しく暮らしている人たちに小さな温かなプレゼントを贈り続けます。

世の中には目を凝らせば、楽しい出来事がたくさん拾えます。

何気ない『気づきの幸せ』

人との寄り添いに気づくだけで得られる幸せがたくさんあります。

「視点を変えてみたら楽しいこといっぱいあるよ」というメッセージですね。

 

 

 

 

 

30.恋の炎

カフェの場面です。

ジョゼフとジョルジェットは急接近します。

 


ジョゼフ:
「ちょっと、失礼するよ」

「胸元に何かついてる」


 

ジョゼフはジョルジェットの胸元に手を伸ばします。

ジョルジェットは緊張しながらもジョゼフの腕が触りやすいように身体を寄せました。

 


ジョゼフ:「すごくきれいだ。顔が赤くなってて。野の花みたいだ」

ジョルジェット:「これ、アレルギーなの」


 

ジョゼフは化粧室に入りました。

それを見ていたアメリはふとひらめき画策します。

アメリはジョルジェットにわざと当たってコーヒーを彼女の服の上にこぼします。

 


ジョルジェット:
「ひどいわ。やってくれたわね」

「もう!百発百中ね。最低!」


 

ジョルジェットは大袈裟に皆に聞こえるように叫び、化粧室に行く口実を作りました。

ジョゼフとジョルジェットは密室の中で二人きり。

二人は激しく抱き合い求めあいました。

店中のカップが振動するほど。

アメリは思わずエスプレッソマシンの空気抜きをして ”騒音” をごまかします。

アメリによってついに二人は結ばれます。

愛を繋ぐ行為がアメリがめざす世界との関わりです。

アメリはレイモンを訪ねます。

 


レイモン:「この前話した水を飲む娘のことだが、出会った青年に娘は再会できたのか?」

アメリ:「いいえ、二人の世界が違ってて」

レイモン:
「チャンスとは自転車レースだ。待ち時間は長く、たちまち終わる」

「チャンスがきたら思い切って飛び込まないと」


 

人生の時間は少ないことを教えてくれる素敵なセリフですね。

この短さを歯医者にいる患者に例えてる人もいます。

あれだけ痛みについて心配したのに、終わるのはあっという間だと。

 

 

~PART③ へ続く~

 


①『アメリ』〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

2024-07-20 07:02:33 | 日記

『アメリ』

〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

 

 

 

 

 

00.最初に

心が急停止する。

何もしたくない。何も感じられない。これまで楽しんできたことが楽しくない。

あなたはこれまで頑張ってきました。

よく耐えて来ました。

頑張れば成功して未来は楽になる。

一目置かれ、みんな認めてくれる。

私さえ我慢すれば、組織は上手くいく。

私さえ我慢すれば、お母さん、お父さんは楽しく過ごせて私を愛してくれる。

誰かを忘れていませんでしょうか?

それはあなたの中の子どもです。

あなたの源泉です。

心です。

身体は無理が利かないけれど、精神は成長するし我慢して鍛えるものだ、壊れることは私に限ってないはずと思っていませんか。

それはまったく違います。

身体が病めば心も病みます。

心が病めば身体も病みます。

必死に生きてきたのに生きる意欲をなくす。

そんな状態から解放するのは、心を自由に泳がせてあげることだと思います。

この作品『アメリ』では自由な映像言語、自由なナレーション、自由な空想がたくさん散りばめられています。

アメリといっしょに遊んでいって下さい。

そうすれば、あなたは希望が湧いて来ると思います。

『楽しいムーミン一家 お隣さんは教育ママ』

https://www.youtube.com/watch?v=ONIqq8ZGAw4

こちらも合わせて見てみて下さい。

遊ぶことの大切さをムーミンたちが教えてくれています。

それではエレガントで自由なフランス映画をいっしょに楽しんでいきましょう。

 

~《主な登場人物》~

 

アメリ・・・
主人公。23歳の若い娘。両親ともに神経質。母は幼い頃に死去。空想癖があり人見知り。

ニノ・・・
青年。人付き合いが苦手。収集癖がある。

アメリの父・・・
元軍医。引きこもり。他人に興味がない。

レイモン・・・
老画家。手の骨がもろく、不自由。ルノワールの絵の模写を日課とする。

リュシアン・・・
食料品店の店員。優しい純粋な青年。店長のコリニョンにいじめを受けている。

コリニョン・・・
食料品店の店長。

ジョゼフ・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の客。ジーナと別れるもストーカー行為をしている。録音記録癖。

ジョルジェット・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の売店員。神経質な女性。

ジーナ・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』のウエイトレスの女性。

シュザンヌ・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の店主。初老の女性。

イポリト・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の客。売れない小説家。

ウォレス・・・
アメリのアパートに住む管理人の女性。夫を飛行機事故で亡くしている。

 

 

 

 

 


01.アメリの生い立ち

 

 

 


ナレーション:
「1973年9月3日18時28分32秒、毎分1万4670回で羽ばたく1匹の羽虫がモンマルトルの路上に留まった」

「その時、丘の上のレストランでは一陣の風が吹いて魔法のようにグラスを踊らせた」

「同じ時、トリュデーヌ街28番地の5階で親友の葬儀から帰ったコレール氏が、住所録の名前を消した」

「また同じ時、x染色体を持った精子がラファエル・ブーラン氏の体から泳ぎだし、プーラン夫人の卵子に到達した」

「9ヶ月後、アメリ・プーランが誕生した」


 

主人公のアメリは現在20歳代の女の子。

この世に生を受けたアメリ。

すべての偶然の出来事は重なり、天文学的な確率でアメリという気質を備えた女の子が出来上がります。

この世に来る人、あの世に去る人。

新たな生がまた始まり、今まで同じもののない人生という絵を描きます。

 

 

 

 

02.アメリの父と母

 

 


ナレーション:「アメリの父は元軍医で、今はアンギャンの治療院に勤務」


 

”薄いくちびるは冷淡さの印” とポップ広告のように表示されています。

 


ナレーション:

「プーラン氏の嫌いなこと。連れション、そしてサンダルを軽蔑の目で見られること。濡れた水着が体に張りつくこと」

「好きなこと。壁紙を大きく剥がすこと、靴を並べ磨きあげること、道具箱を空け中を掃除し元通り仕舞うこと」


 

嫌いなことと好きなことのコーピングですね。


人それぞれ感覚が好き、嫌いを感じて人を性格を作ります。

 


ナレーション:「アメリの母、アマンディーヌは元教師で昔から情緒不安定だった」


 

 ”目の痙攣は神経質の印” とまるで落書きのように軽やかに書かれています。

 


ナレーション:
「嫌いなこと。長風呂で手にシワが寄ること。嫌いな人間に近づき触られること。頬にシーツの痕(あと)がつくこと」

「好きなもの。フィギュア・スケートの衣装。床をピカピカに磨くこと。バッグを空け中を掃除し元通り仕舞うこと」

「アメリは6歳。父に抱きしめられたいと思っていたが、その機会はなく月に1度の検診の日に、父に触られて動転し心臓が早鐘のように打った」

「それ以来、父は娘を心臓病だと信じ込んだ」


 

神経症的な出来事や幼少期、父母の性格を面白く軽妙に教えてくれていますが、少し考えてみるととても深刻なことばかりです。

両親に愛されることを願っていたアメリは、気に入られようといつも緊張していたことがうかがえます。

この作品では生い立ちを詳しく説明していません。

ただ神経質な雰囲気で表現することのみです。

作品全体が、快い出来事なのか不快な出来事なのかという視点で描かれているところが面白いですね。

ヨーロッパ映画のとても感覚的で、楽に観れる作品です。

 


ナレーション:「こうしてアメリは学校へ行かず、母からの教育を受けた」


 

母が最初に国語の教科書を音読し、アメリがそれに続きます。

 


母:「めんどりは...しばしば...修道院で...卵を...産む...」

幼いアメリ:「めんどりは...しばしば...」

母:「大変結構!(笑顔で)」

幼いアメリ:「しゅどう...(言葉につまる)」

母:「ダメ!(怒って)」


 

アメリの緊張と母親の不安定な喜怒な性格が分かります。

深刻な幼少期を軽妙に伝えています。

あまり悲惨さを強調していないので、気付かない方もおられると思います。

両親に気に入られるように、怒らないようにしようというアメリの性格のベースとなって行きます。

 

 

 

 

 

03.空想を好む少女

 

 


ナレーション:
「他の子どもとの接触もなく、神経質な母と冷淡な父に挟まれ、アメリは空想の世界に逃避した」


 

アメリの心象風景です。

 


ナレーション:
「レコードはクレープのように作り、意識不明の隣人は自分の意志で目覚めることもできる」

意識不明の隣人:「一生、目を覚ましてることだってできるのよ」


 

要は感情を出すことを止めて、抑圧することで生き抜いてきたということです。

感情を表出出来ないアメリは心のバランスを保つために、心の中だけの空想の世界で育つんですね。

自己治癒的な感じですが、よく考えるととても悲しい解決方法ですね。

 


ナレーション:

「親友は金魚の ”クジラ(名前)”」

「だがクジラは冷たい家庭に絶望し、身投げ」

「クジラの自殺未遂で母のストレスが悪化。その結果...」

母:「もううんざりよ!」


 

母は我慢できず橋の上から金魚を放流します。

アメリは悲しげに "クジラ" の様子を見つめます。

そこに雨が降ってきて、"クジラ"  のいる川に雨の波紋がきれいに散りばめられます。

 


ナレーション:「アメリを慰めようと母は中古カメラを買い与えた」


 

アメリがうさぎやくまの形をした雲を撮影していると、車の衝突事故がおこります。

 


ナレーション:

「隣人はカメラが事故を招いたと信じ込ませた」

「山ほど写真を撮ったアメリは恐怖に襲われた」

「恐る恐るテレビをつけ、大火事の責任を感じた。脱線事故にも飛行機事故にも。」


 

アメリはとても感受性の強い子でそれがまた自己否定と結びつき、世の中の事故を自分のせいにしてしまいます。

 


ナレーション:「数日後、真実を知ったアメリは隣人への復讐を誓った」


 

アメリは隣人のテレビアンテナを抜き差しして、サッカー中継のチャンスシーンを観せないようにしました。

 

 

 

 

 

04.母の死

 

 


ナレーション:
「そして悲劇が...息子が欲しい母はノートルダムで毎年お祈りをして、3分後天から答えが落ちてきた」

「残念ながら赤ん坊ではなく、失恋して身投げしたカナダ人旅行客だった」


 

アメリの母親は運悪く身投げに巻き込まれ死んでしまいます。

 


ナレーション:「アマンディーヌ・プーラン即死」


 

アメリは哀しみを感情に出すことはありませんでした。

くまのぬいぐるみをぶらんこに乗せて揺らすシーンが悲しさを感じさせます。

 


ナレーション:
「母の死後、アメリは父と二人きりになった」

「父は以前に増して自分の殻に閉じこもり、庭にミニチュアの霊廟(れいびょう)を作って妻の遺灰を納めるのだった」

「日が、月が、年が流れていった」

「何も変化のない毎日、アメリは家を出て自立する日を夢見た」

「5年後モンマルトルのカフェ ”ドゥ・ムーラン” へ」

 

 

 

 


05.カフェ、ドゥ・ムーラン

 

 

アメリは大人に成長し、カフェの店員として働きます。

 


ナレーション:
「1997年8月29日、48時間後にアメリの運命が激変するのだが今の彼女には知る由もない」

「カフェの仲間や常連客に囲まれた平穏な日々。女主人のシュザンヌ。足は悪いがグラスは割らない。サーカスは曲馬乗りだった」

「好きなもの、負けて泣くスポーツ選手。嫌いなもの、子どもの前で恥をかく親」

「売店のジョルジェットは病気魔で頭痛がしない日は坐骨神経が痛む」

「嫌いなもの、祝福の祈り」

「アメリの同僚のジーナ。祖母は治療師だ。好きなもの、指を鳴らすこと」


 

常連客に売れない小説家のイポリトがいます。

 


ナレーション:「好きなもの、牛に突かれる闘牛士」


 

その他の常連客では、目つきが悪い男ジョゼフがいて、彼はジーナに振られたばかり。

彼女に恋人がいるかを知るため常に見張っています。

 

 

 

 

06.好きなもの、嫌いなもの

 

 


ナレーション:
「唯一彼が好きなのは梱包材のプチプチを潰すこと」

「スチュワーデスのフィロメーヌ。フライト中はアメリに猫を預ける」

「好きなもの、猫の水入れを床に置く音。猫のロドリーグが好きなのはお伽話を聞くこと」


 

ここまでで皆さんはお分かりかと思いますが、人物紹介時に好きなものと嫌いなものを教えてくれています。

ストレス源としての嫌いなもの、ストレスを解消するための好きなものですね。

これをコーピングレパートリーと呼びます。

特に好きなものの方を皆さんはいくつ言えますか?

多ければ多いほどいいですね。

それらがあなたの興味があるものであり、あなたのなかにいる子どもの遊び心であるからです。

子どもの心を大切にすることです。

人がどんなひとかというのは、地位や職業や経歴ではなく、その人がどんなふうに日々を感じながら生きているかということです。

物語は続きます。

 


ナレーション:「アメリは週末には北駅から列車に乗り実家の父を訪ねます」

アメリ:「人生を楽しめば?」


 

父親は食い気味に言います。

 


父親:「どうやって?」

アメリ:「旅行は?この村を出てみたら?」

父親:「若い頃はお前のママとよく旅行をしたが、その後は...お前の心臓のせいで...」

アメリ:「わかってるわ」

父親:「今はもう...今はもう...」


 

娘のせいだと言うところがどこか思いやりにかける冷たい気質なんですね。

この作品は登場人物たちがどうすれば前向きに生きることができるかの解決法を教えてくれてます。

家庭環境や育った環境、その人の気質、病歴などを持ったその人が、どのようにすれば変化が起き、前向きに生きられるか。

『前向き』。無気力、無感動から抜け出したい。

決してとびっきりの明るさでなくていいと思います。

その人が背負ってきた哀しみもあるのですから。

 


ナレーション:「金曜の夜、たまに映画に行く」

アメリ:「映画を見ている人の顔を見るのが好きなの」


 

皆、顔がにやけています。

 


アメリ:「誰も気づかない些細な事柄を発見することも好き」


 

キスシーンの窓辺にハエが歩いているレアな映画映像。

 


アメリ:「嫌いなのは昔のアメリカ映画で脇見運転するところ」

ナレーション:
「恋人はいない。1、2度試したが結果は期待外れだった」

「とはいえ彼女には彼女なりの楽しみがあった」

「豆袋に手を入れること」

「クレーム・ブリュレのお焦げを潰すこと」

「サンマルタン運河で水切りすること」


 

このようにコーピングレパートリーがたくさん並びます。

『ベルリン・天使の詩』にもたくさん出てきました。

感覚的なもの、子供心というのはとても大事なものですね。

大人になろうが消えることは決してありません。

人は永遠に子供ってことですね。

 

 

 

 

 

07.アメリのアパート

 

アメリのアパートの窓から老画家の部屋を覗くことができるんですね。

アメリには覗き趣味があるんです。

人との温かなつながりを本心では感じています。

 


ナレーション:
「彼はガラス男、先天性の病気で骨がガラスのように脆い」

「家具は全部布張りだ」

「手を握っても骨が砕けるので20年も外出していない」

「成人してもアメリは空想の世界に逃避していた」

「眼下に広がる街に向かってバカな質問をしてみる」

ナレーション:
「そして1997年8月30日の夜、ある事件がアメリの運命をひっくり返した」

TVニュースキャスター:
「ダイアナ元妃がパリで交通事故のため死去、同乗していた友人アルファイド氏も死亡。運転していたホテルの使用人も死亡。ダイアナ妃のボディガードは重体です」

「ダイアナ妃とアルファード氏は昨夜パリに到着。氏の父が所有するホテルを出て...」

 

 

 

 

 

08.タイムカプセル

 

ニュースを聴いたアメリは驚きのあまり、持っていた化粧品のフタを床に落とします。

フタが転げて行った先の一片のタイルが割れて取れてしまいます。

タイルを外してみるとそこには空洞があり、何かが入っていました。

チョコレートの金属の箱のようなものが出てきます。

その瞬間オルゴール調の優しい曲が奏でられます。

 


ナレーション:
「ツタンカーメン王の墓を発見したような感動だった」

「彼女が発見したのは40年ほど前、少年が大切に隠した宝箱だった」


 

その箱の中には誰かの幼い頃、若い頃の写真、マッチ、自転車、カーレーサーのミニチュアなどが入っていました。

その人の思い出の品々です。

 


ナレーション:
「8月31日朝4時、アメリの心にすばらしい考えが浮かんだ」

「持ち主の少年を探し出し、宝箱を返してやるのだ」

「彼が喜んでくれたら自分の世界から飛び出そう。ダメならそれまで...」


 

少し他力なところがありますが若い女性の可愛らしい勇気に、これまでの生きづらさが悲しくも愛らしく思えてきます。

「鬼滅の刃」でカナヲが銅貨のオモテウラで運命を決めるシーンみたいですね。

 

 

 

 

09.未亡人ウォレス

 

アメリはアパートの古くからの住人に40年前の住人のことを訊きます。

 


ウォレス:「5階のお嬢さん、珍しいわね」

アメリ:「40年前、私の部屋に住んでた少年をご存知ですか?」

ウォレス:「男の子ねえ...ポルト酒はいかが?さあ入って。ドアを閉めて」


 

ポルト酒・・・
ポルトガル北部ポルト港から出荷される特産の酒精強化ワイン。日本の酒税法上では甘味果実酒に分類される。ポルト・ワインともいう。 ポートワインは、まだ糖分が残っている発酵途中にアルコール度数77度のブランデーを加えて酵母の働きを止めるのが特徴である。

 


ウォレス:
「男の子ねえ、男の子は沢山いたから。小さい頃は可愛いけど大きくなると憎たらしくて」

「雪玉だのガムだの...」

アメリ:「ここにはいつから住んでいるのですか?」

ウォレス:「1964年よ。私の噂、聞いていない?」

アメリ:「いいえ」

ウォレス:「そう...変ね。座ってね」

「夫が保険会社で働いている頃、誰もが秘書と浮気してるってよく言ってたわ」

「パティニョルの高級ホテル、連れ込みじゃなく秘書ってすぐ股を広げるけど、お金がかかるって」

「夫は会社の金を横領、初めは少し次には一度に5千万。愛人と南米へ駆け落ち」

「さあ、お酒を飲んで」

「1970年1月20日、男が訪ねてきて『ご主人が死んだ。南米で交通事故を起こして』と言ったわ」

「私の人生が止まったわ。”黒ライオン” も悲しくて死んだ。その犬よ」


 

なんと飼い犬が死んだあと、剥製にしていました。

 


ウォレス:「ほら、まだ主人を愛してるのよ」


 

残酷で奇異な行為ですがどことなく可笑しさが伝わるシーンですね。

作品全体がそういった悲しさを可笑しさと優しさで包まれています。

 


ウォレス:「手紙があるの。(アメリが立ち上がろうとすると)いいの、座ってて。まだいいでしょ」


 

ウォレスは誰かに聞いて貰いたかったのですね。

 


ウォレス:「兵役のときの手紙よ。『愛するマド』マドって私のことよ。」

 

手紙の文面:「

眠れない、食欲もない。

人生をパリに残したまま今を生きている。

2週間後の金曜まで帰れない。

駅のホームで待っててくれ、僕のイタチちゃん。あの青いドレスを着て。

君は透けすぎると言っていたね。君にキスを送ります

 

ウォレス:「こんな手紙を貰ったことがある?」

アメリ:「いいえ、まだ恋人は...」

ウォレス:
「私、マドレーヌ・ウォラスよ」

「『マドレーヌのように泣く』んですって。そう言うでしょ?」

「ウォラスって泉もあるし、私って泣いて暮らす運命なのよ」


 

駆け落ちした夫から手紙を貰ったことで夫の気持ちを知り、まだずっと夫を愛しているのですね。

ウォレス:「そうそう、お尋ねのことは食料品店のコリニョンがここに長く住んでるわ」

 

 


10.店長と店員

アメリは雨の中、傘をさしてコリニョンの食料品店に行きます。

 


コリニョン:「やあ、アメリちゃん。イチジクにクルミ3個かい?」

アメリ:「40年前に私の部屋に住んでいた人の名前を知らない?」

コリニョン:「そりゃ難しい質問だ。俺は2歳だぜ。そのバカの精神年齢と同じだ」


 

コリニョンは隣の従業員のリュシアンに冷たく当たります。

 


ナレーション:
「彼はリュシアン。頭はよくないが優しい青年だ。特に野菜の持つ手つき、宝石でも扱うような繊細さは仕事への愛の現れである」

コリニョン:
「なんだその手つき。巣から落ちたヒナでも拾うつもりか」

「ブドウなんか運ばせようとしたら来週までかかる。早くしろ、のろまめ!」

「奥さんがお待ちだ」


 

そんな優しいリュシアンをアメリは気に入ります。

目を合わせて「頑張ってね」と言うように笑顔を授けます。

 


コリニョン:「お袋に会いに行け。ゾウみたいに記憶力がいいんだ。母親ゾウだ」


 

一方、アメリはコリニョンが大嫌いなようです。

睨みつけるように言います。

 


アメリ:「ありがとう...」

 

 

 

 

11.探偵アメリ

アメリはコリニョンの実家を訪ねました。

 


コリニョンの父:「名はプルドトーだ」

アメリ:「えっ?」

コリニョンの父:「探している男の名前だ。だが確かじゃない。わしはもう耄碌(もうろく)しとる」

コリニョンの母:「すっかり耄碌(もうろく)してるわ。見てよ、このローリエの葉」


 

その時コリニョンの母はテーブルのティーセットをグチャグチャに倒してしまいました。

老夫婦はケンカしそうな勢いです。

 


コリニョンの母:
「昔、この人は地下鉄の車掌だったの...」

「3ヶ月前から夜中に起き出してローリエの葉に穴を空けるのよ」


 

登場人物の神経症的な思わぬ行為がとても面白く表現されていて、慈しみが感じられます。

 


コリニョンの父:
「本当はリラの葉がいいが仕方ない」

「人それぞれに心を癒やす方法がある」

アメリ:「私は水切り遊び」


 

アメリは小声で言いました。

 


コリニョンの母:「お得意は記録してあるのよ。全部ね」

コリニョンの父:「何だ。何をだ?」

コリニョンの母:「息子が50歳になっても私が帳簿をつけてやれるわ」

コリニョンの父:「高校生の息子にまだ歯を磨いてやってたろ。過保護だ」

コリニョンの母:
「カミユ、カミュは...2階の右。B階段はプロサール、わかった!これよ」

「プルドトー、5階の右。パ=ド=カレの出身だったわ」

コリニョンの父:「そう、プルドトーだ。それだよ」


 

宝箱の持ち主の名前が分かりました。

 

 

 

 

 

12.ニノとの出逢い

 

 

アメリが地下鉄を歩いているとホームでシャンソンのレコードを聴いているずっと正面を向いたままの盲目の老人がいました。

 


レコードの歌:

♫ あなたがいなければ、生きていけない。

♫ きっと知らずにいたでしょう。この夢のような幸せを。

♫ あなたの腕に抱かれると心が喜びで満ちあふれる。

♫ とても生きてはいけないわ。もしもあなたがいなければ


 

アメリはそっと老人のそばに硬貨を置きます。

 

その先の証明写真撮影機の前で何かを探している青年を見つけます。

 


ナレーション:

「この青年の名はニノ・カンカンポワ」

「アメリとは逆に子供のニノは友達に囲まれていた」


 

彼が子どもの時にいじめられていたシーンが出てきます。

 


ナレーション:「二人は9km隔てた所で、一方は兄を他方は妹を夢見て生きていた」


 

二人は一瞬目を合わせ、アメリは去って行きます。

それぞれの2階から鏡を太陽に反射させて遊ぶ子供の頃の二人のシーンは、感覚的なものが非常に近く ”運命の二人” を感じさせます。

 

 

 

 

 

13.引きこもりな父

 

アメリの父親は白雪姫の七人の小人の陶器に色を塗ったり、きれいに掃除していました。

 


アメリ:「新しいお友達?」

アメリの父:
「いや、前から家にいた。お前のママが嫌がるんで物置に仕舞ってた」

「今から仲直りさせよう」

「できた、いいだろう?」


 

アメリの父は小人を庭に据え付けて飾りました。

 


アメリ:
「ねえ、パパ。子供の頃の宝物が見つかったらどんな気がする?」

「嬉しい?悲しい?懐かしい?」

アメリの父:「ドワーフは子供の頃の宝じゃないぞ。これは退役記念の贈り物だ」

アメリ:「違うの。子供の頃、宝のように大切に隠した物のことよ」

アメリの父:「秋になる前にニスを塗らねばならないな」


 

父親はアメリの話を聞きません。

心が病んでいる人は自分のことにこだわり過ぎたり、精一杯なところがあります。

諦めて話を変えるアメリ。

 


アメリ:「お茶をいれるわ。パパも飲む?」


 

仕事場のカフェの紹介です。

 

 

 

 

14.神経症な面々

 

同僚ジーナがお客の首の関節を鳴らしてほぐしてあげています。

グリーンのカーディガンがとても美しいです。

 


ジーナ:「息を吸ってじっとして」


 

少し神経質で怒りっぽいジョルジェットです。

 


ジョルジェット:「ちゃんとドアを閉めて!すきま風が入るでしょ」

ジーナ:「凍死はしないわ」

ジョルジェット:
「私はアレルギーなの。咳がひどくて昨夜は肋膜(ろくまく)が剥離(はくり)する寸前よ」

ジーナ:「肋膜剥離?」


 

自分は病気を持っているのではないかと思ってしまう病気不安症です。

身近な人の死別によって、自分もその病気になるのではないかと恐れることがあります。

一人の男性客がジーナを監視しています。

録音機を持ってジーナの行動を記録しています。

 


客ジョゼフ:「12時15分、高笑い、動機は男を誘うため」

ジーナ:「あいつ、頭にくるわ」

店主シュザンヌ:「本当にしつこい男ね。他の店に行ってよ!」

ジョルジェット:「シュザンヌさん、グラタンってクリーム入りよね?」

店主シュザンヌ:「それが?」

ジョルジェット:「私、クリームはダメなの。シュザンヌは馬肉がダメでしょ?」

店主シュザンヌ:「私の場合、胃ではなく思い出の問題ね。馬より人を食べるわ」

ジョルジェット:「私は人もダメだわ」


 

この神経質な雰囲気のオンパレードがコミカルでいいですね。

とてもフランス映画らしいなと思います。

そうした人間の弱さをも愛でているところが人間讃歌ですよね。

アメリはカフェの電話帳でプルドトーの住所を調べます。

 


アメリ:「マダム・シュザンヌ、今日早退してもいいですか?」

店主シュザンヌ:「あら、彼氏ができたの?名前は?」

アメリ:「ドミニク・プルドトーです」

 

 

 

 

 

15.調査

 

一人目に訪れた、プルドトーは若い青年で人違いでした。

 


アメリ:「プルドトーさん?」

青年:「そうさ、僕だよ。何の用?」

アメリ:「ええと...ご署名を。目的は...ダイアナ妃を聖女に」

青年:「いや結構」                  


 

幼くして両親が離婚した家庭環境で育った、内気な性格のダイアナ妃にアメリは特別なシンパシーがあるのかもしれませんね。        

二人目のプルドトーの訪問です。

 


アメリ:「欧州連合の国勢調査です」


 

探偵が板についてきています。

 


男:
「上がって、3階だ」

「こんちには、子猫ちゃん」

「アールグレイそれともジャスミン?どのお茶がいい」

アメリ:「お仕事中なので...」


 

男は写真とは面影もなく、女装をしていました。

3人目です。

 


女:「ここよ。何かご用?」

アメリ:「こんにちは、実はプルドトーさんに会いたくて来ました」

女:「お気の毒に、少し遅すぎましたわ」


 

棺が階段を降りて運ばれて来ました。

 

 

~PART②へ続く~