『シザーハンズ』
~人との距離感は難しい。「愛されたい、でも傷つきたくない」~
01.はじめに
こんにちは。皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回の作品は有名なあのジョニー・デップ主演の『シザーハンズ』です。
ハサミ男ですね。いわゆる怪物もの。
『フランケンシュタイン』や『美女と野獣』。
外見はとても恐ろしいけど、内面はとてもナイーブで優しいいい人たちです。
秘められた心の内の純真さに心打たれますよね。
本作品の主人公エドワードはハサミ人間。
孤独で愛されたいという気持ちを持ち続けて何年も独りで生きてきました。
孤独という魔物は皆さまの内にもあるはずです。
わたしもその一人だからです。
いつも申しているのですが、人の孤独感の深さというのは幼少期の育ち方で決まってしまいます。
愛情不足を感じて育ってしまうと、心の内にいつも『愛情飢餓感』を携えながら、孤独な一生を終える人がいます。
幼児のままで...
その人は決して悪くありません。
子どもは皆天使です。
どんなことがあっても世界から守られるべき存在なんです。
そして成長して大人になっても大切な人間として尊重されるべき存在です。
愛情が不足して育ってしまうとどうなってしまうのか。
人の感情はまず「恐れ」から作られます。
外敵から身を守らなければならないからです。
「恐れ」を持って周りを警戒して、安心する保護者の元で安らぎを得ます。
それが母親です。
遠くに冒険しても母親の方をちらちら気にして、居なくならないか見ています。
母親はあらゆるわがままを許してくれる存在です。
泣きわめいても、すねても、おっぱいを噛んでも、何をしても許してくれる人。
そこに「存在そのものを肯定してくれる」という『基本的信頼感』が生まれます。
その信頼感はその後、他の人に対しても広がっていきます。
何をしても許してくれる信頼感はやがて、その安心感からくる節度をもって他の人に接することができるようになります。
母親とは異なり何でも許してくれる訳ではないけど、恐れなくていい人達なんだなと認識していくのです。
ここに良好な人間関係ができあがり、幼稚園、小学校、中学校、高校とたくさんの人との距離のとり方を経験して、適切な距離感を取ることができます。
人との関係性は大まかに分けて3つのグループに分けることができます。
1.『重要な他者』...家族、恋人、親友など。
2.『まあまあ親しい人』...友人、親戚など。
3.『職場、学校、社会上の役割をするときの人間関係』...同僚、上司、知人、隣人など。
これらのタイプの人と自分との『境界線』をはっきりと引くことができるようになります。
とくに3のタイプの人たちには「自己開示」する必要はそれほどないですし、愛されようとする必要もありません。
理想を言えば切りが無いですが、自分を守るためには付き合い方はとても重要です。
今「生きづらいな」と思われている方はこれらを意識して、ムダな心の消耗をしないように心がけましょう。
これからエドワードの心の内に入って行きます。
エドワードの「生きづらさ」「距離の取りづらさ」を感じて欲しいです。
どのようにして解決していくのかも見どころです。
それでは観て行きましょう。
02.温かな家族
物語は架空の町が舞台となっています。
『チャーリーとチョコレート工場』のような現実と幻想が混ざったような世界です。
キムお婆さん:「暖かくしてね。外は寒いよ」
小さな女の子:
「雪はなぜ降るの?」
「雪はどこからやってくるの?」
キムお婆さん:「それはね、長いお話なんだよ」
小さな女の子:「話して」
キムお婆さん:「今夜はもう遅いから眠って」
小さな女の子:「まだ眠くないの。お願いだから話して」
キムお婆さん:
「わかった。じゃあ、話しましょう」
「では...やはりハサミの事から始めなきゃね」
女の子:「ハサミ?」
キムお婆さん:
「ハサミといっても種類はいろいろあるんだよ」
「ずっと昔、ハサミが手だった人もいたんだよ」
女の子:「そんな人がいたの?」
キムお婆さん:「そう、いたの」
女の子:「手がハサミ?」
キムお婆さん:
「そう、ハサミが手だったんだよ」
「あの山の上にお城があるのは知ってるね?」
女の子:「あのユーレイ屋敷?」
キムお婆さん:
「何年も何年も昔...あそこに発明家が住んでいて、いろいろな物を発明していたの」
「ついに人間も作ったのよ」
「何もかも人間そっくり」
「心臓から脳まで人間と同じ」
「ある部分を除いてね」
「その発明家は大変な年寄りで、その人間を完成する前に死んでしまったの」
「その男はとり残されてしまった...」
「未完成のまま、ずっと独りぼっちだったの」
女の子:「名前はあったの?」
キムお婆さん:
「もちろんあったわ」
「その名はエドワードと言ったわ」
そして物語はキムお婆さんの若い頃の過去に遡ります。
03.「愛ある人」ペグ
そこはとても不思議なところで、現実の世界のようだけど、どこか少し御伽の国のような世界です。
家は一軒一軒パステルカラーの外壁、屋根。
住人たちはそれぞれの単色の服を着ていました。
一人の中年女性が家々を訪問して回ります。
その中年女性のペグは化粧品メーカーの販売員でした。
庭の石畳を直線的にくねくねと可愛らしく歩きます。
ペグ:「エイボン化粧品です!」
ペグはいかにもわざとらしい営業スマイルではなく、自然な優しさの籠もった笑顔で呼びかけます。
黄色い服の女性:「また来たの?」
ペグ:「お宅は数ヶ月ぶりよ」
黄色い服の女性:「ソフト・カラーの新製品をご紹介に...」
ペグ:「シャドウ、ほほ紅、口紅。お顔の変化を引き立てる化粧品です」
黄色い服の女性:「こんな私にお顔の変化?」
ペグ:「昔から愛用されてるおなじみの品も鏡台の上に欠かせない化粧品ですわ」
女性はうんざりした表情で言いました。
黄色い服の女性:「ペグ、うちへ来てもムダよ」
ペグ:「ええ、わかってるわ」
黄色い服の女性:「さよなら、ペグ」
ペグ:「じゃあね、ヘレン」
次のお宅はいつも欲求不満な女性の家です。
いつも男性を誘惑しています。
今日は機械の修理工の男性が皿洗い機を直しに来ていました。
修理工:「わざわざ僕を呼ばなくても直せるのに...」
ジョイス:「あたしが?そんなのムリよ」
修理工:
「ゴミが詰まってただけです」
「このバルブをゆるめて外す」
ジョイス:
「皿洗い機の修理人って孤独でしょ?」
「家庭の主婦も孤独な人種なのよ」
修理工:「これをムリせずそっとはめ込んでやって、後はこれをねじ込めばOKです」
ジョイスは修理工に顔を近づけて、食い入るように説明を聞きます。
そこにインターフォンが鳴り、ペグが訪問してきました。
ジョイス:「イヤだ、誰かしら」
ジョイスが窓に近づき目をそらすと、修理工はジョイスに言い寄られて嫌だなという表情をします。
ジョイス:
「ちょっと失礼、すぐ戻るから待ってて」
「芸術家の仕事を見逃したくないの」
ペグ:「エイボン化粧品です♫」
ペグは笑顔でジョイスと顔を合わせます。
ジョイスは不機嫌そうに言います。
ジョイス:
「見えないの?うちの前に車があるでしょ?」
「”お客が来てる”ってことよ」
ジョイスは大きなドアを冷たく閉めました。
とても変わった女性がいます。
家の中には水晶やロウソク、悪魔祓いの道具が置いてあり、パイプオルガンの低音で演奏しています。
ペグは彼女の家の前を通りますが、首を振って訪問しませんでした。
訪問販売が成功せず残念がるペグに、近所の子どもがいたずらを言います。
近所の子ども:「ピンポーン!エイボンでーす!」
黄色のパステルカラーで覆われた大きな車の中でため息をつくペグ。
ふとサイドミラーを覗くと山の上にそびえ立つ、淋しげなお城が見えました。
ペグは思いついて車をお城に走らせます。
04.ハサミ人間
茨で囲まれた門を通って入口まで行きます。
葉が一枚もない木が奇妙に伸び、ゴシック様式の刺々しい形をしたお城がそびえ建っています。
恐る恐る進むペグは中庭に出てきました。
するとどうでしょう、ユニークに刈り込みがなされたファンタジーの植物たちがペグを出迎えました。
あの恐ろしかったお城の外観とは違い、庭にはカラフルな花々、丁寧に刈られた芝生、ダイナミックで表情豊かな植え込みがありました。
ペグ:「すばらしいわ!」
ペグは生気のない木製のドアを、顔より大きな鋳鉄のドアノッカーを持ち上げてノックします。
ノックに応答はなく鍵はかかっておらず、ペグは誘われるかのように屋敷の中に恐る恐る入ります。
ペグ:「こんにちは!エイボンです!」
古びた屋敷に入るとペグは怖さを打ち消すようにいつもより明るい声で訪問を知らせました。
そこには今は動いていない巨大な歯車や実験道具、ロボット、コンベアなどが放置されたーていました。
ペグ:
「何てすごい所!」
「こんにちは、エイボン化粧品の宣伝に参りました!」
1階には人の気配はありませんでした。
ペグは古代生物の背骨のような長い階段を登っていきます。
ペグ:
「勝手に申し訳ありません、どなたかいます?」
「広いお宅ですわね」
「エアロビで鍛えててよかったわ」
ペグは最上階の部屋までやってきました。
そこには雑誌や新聞の切り抜きが大切に貼り付けてありました。
『目を持たずに生まれた少年、手で読む』と書かれた記事と写真や聖母マリアが幼いキリストを抱いている切り抜き。
ペグは部屋の隅っこに誰かいるのを見つけます。
ペグ:
「こんにちは、誰かいるの?」
「なぜ隠れているの?」
「怖がらないで、ペグ・ボックスよ」
「エイボン化粧品のセールスに来ました」
その人影を見てみると多数のナイフを持っているのがかすかに分かりました。
ペグ:「お取り込み中でしたのね、すぐ失礼しますわ」
人の影:「行かないで...」
その影はか弱い声で助けを乞うように言いました。
一人の青年が暗闇から出てきました。
その青年は両手が長いハサミに改造されていました。
ペグ:「一体どうしたの?」
その青年は助けを懇願するように両手をペグの顔の前に指し出して言います。
エドワード:「この手は未完成なんだ」
ペグ:
「それ以上近づかないで!」
「それが手なの?手なのね」
「どうしたの?ご両親は?」
「お母さんは?お父さんは?」
エドワード:「眠ってそのまま...」
ペグはエドワードの境遇に同情を寄せます。
ペグ:
「独りぼっちでここに住んでいるの?」
「その顔はどうしたの?」
その青年は自分の手のハサミで傷つけたのでしょう、顔がアザだらけでした。
この顔のキズは比喩ですね。
エドワードはおじいさんが死んだ後、独り寂しく生きてきました。
愛情不足の人を想像して見るといいと思います。
幼く両親を失った人、過干渉、放置の親、虐待、暴言を受けてきた子ども。
彼ら彼女らは飢えた愛情を求めながら、自分で自分の心を傷つけて生きてきた。
こんなに苦しいのなら生まれてこなければよかった。
何でいつも独りなのだろう。
淋しい...
自分の存在を自己否定して生きてきたのだと思います。
そうすると皆さんの中でもエドワードのような「生きづらさ」を自分に照らし合わせて共感していけると思うのです。
その共感が映画を自分の糧にして観るための入場チケットだと思っています。
ペグはエドワードの身体を興味深く触ります。
エドワードはペグに触れられるのを恐れてビクつきました。
ペグ:
「大丈夫よ、怖がらないで」
「まず新発売のアストリンゼントを使って。バイ菌も予防できるのよ」
《アストリンゼント》
「収れん化粧水」や、「アストリンゼントローション」とも呼ばれる化粧水の一種です。 肌をひきしめ、キメを整える効果があります。 通常の保湿化粧水よりもさっぱりとした使用感なので、過剰な皮脂の分泌や、毛穴にお悩みの方におすすめのアイテムです。 マスクの蒸れにより分泌された、皮脂によるメイク崩れを防ぐことができます。
ペグは脱脂綿につけた化粧水を傷にそっとトントントンと置いていきました。
ペグ:「名前は?」
エドワード:「エドワード」
ペグ:「エドワード?」
ペグは「愛ある人」といった感じの優しい人柄の女性です。
ペグは決断してエドワードに言います。
ペグ:「私の家へいらっしゃい」
ペグの車の助手席にエドワードを乗せて家に帰ります。
05.恐れながら近づく
色々な景色を見ることができて、エドワードは上機嫌です。
ペグ:「外を見ててね。初めて見る景色でしょ?」
エドワードは興奮して窓ガラスに顔をぶつけました。
ペグ:「大丈夫?」
ここは小さな町のようです。
近所のご婦人たちはペグが車に男を乗せているのを見て、噂話に花を咲かせます。
婦人たちは電話で連絡を取り合い、さも大事件のように人の話を話題にしている所が滑稽で皮肉が籠もっていますね。
やがてペグたちは自宅に着き、ペグはエドワードを自宅に招き入れます。
エドワードは家の中の『家庭』の持つ温かな雰囲気につつまれて、何ともいい知れない微笑みをしました。
ペグは家族の写真をエドワードに見せて紹介します。
ペグ:
「彼は私の主人のビルよ」
「ボウリングのチャンピオンよ、分かる?」
「こっちは釣りに行った時よ」
「ケビンはむくれ顔、1日中何も釣れなかったの」
「これはうちの娘よ。名前はキム」
「高校2年のパーティーね」
「今は高3、早いものね」
「キャンプに行ってて数日したら戻ってくるわ。きれいな娘でしょ」
エドワードはキムの写真を見て、とても気に入ったようです。
優しい眼差しと微笑みが写真からこぼれていました。
ペグ:
「うちの中を案内するわ。あとはゆっくりくつろいでね」
「あっちは台所。何でも食べて飲んでいいのよ」
「それはブドウの置物よ。寝室はこっち。タオルと着る物を持ってくるわ」
「ここに何かビルのお古があったはずよ」
ペグはクローゼットから服を取り出しました。
ペグ:「あなたのサイズよ。そこのキムの部屋で着替えて」
エドワードはキムの部屋に行き、鏡を覗き込みます。
そこに自分の顔が映し出されています。
エドワードは恐れながらウォーターベッドに手を触れます。
そのプクプクとした感触、タプタプ響く音を不思議そうに感じています。
そして知らずにハサミでウォーターベッドを刺してしまうのですね。
絶対にやってはいけないやつです。
ウォーターベッドの水が勢いよくエドワードの顔にかかりました。
慌てて傍らのぬいぐるみで蓋をします。
対処の仕方が面白いですね。
ペグがエドワードの様子を見に行くと、まるでザリガニが狭いところでもがくようにワイシャツを着るのに奮闘しているエドワードを見つけます。
ペグ:「ごめんなさいね、手伝うわ」
エドワード:「ありがとう」
ペグ:
「顔を切ったのね。血をふいてあげるわ」
「痛い?」
エドワード:「いいや」
エドワードは優しくか細い声でささやきました。
ペグ:「その服とても似合うわ」
クローゼットを開けて姿見の鏡でエドワードにその姿を見せてあげます。
ペグ:
「素敵でしょ」
「友達に医者がいるの。話してみるわ」
エドワード:「本当に?」
ペグ:
「顔の傷は私が直してあげるわ」
「エイボンの『上級用マニュアル』を読むわ」
夜になり、家族で団らんの食事をします。
息子のケビンと夫のビルもいっしょです。
エドワードにとって皆で食事するのは初めての経験です。
エドワードはお皿のおかずをハサミで上手く取れずに困っています。
ペグ:
「ケビン、そんなに見つめないで。失礼よ」
「自分だって見られたらイヤでしょ?」
「かわいそうよ。見ないで!」
ビル:「こういう食事は初めてか?エド」
ペグ:「『エドワード』と呼んであげて」
ビル:
「あの城に独りで住んでいたのか?」
「確かに眺めはいいだろうな、エド」
ペグ:「エドワードよ」
ビル:「海も見えるだろ?」
エドワード:「時々...」
ペグ:
「ビル、塩とコショーを取って」
「ケビン、見ちゃだめよ」
ケビン:
「こいつ、イカすよ」
「あの手で首に空手チョップをかましたら・・・」
ペグ:「エドワード、パンにバターを付ける?」
エドワードは上手にバターを切って、手のハサミをバターナイフのようにパンに塗りました。
ケビン:「学校でみせびらかしていい?」
ペグ:「ケビン、いい加減にして!」
このビルとケビンの会話がとても自然体でいいなと思いました。
エドワードに対してちっとも構えるところがないですよね。
ペグのようにエドワードの心情を推し量る人もいれば、ビルやケビンのように人は人、自分は自分と考えてさっぱりしている人もいるということですね。
エドワードはキムの部屋で寝るようになります。
慣れないウォーターベッドに戸惑っているようです。
次の日の朝、ペグはエドワードに傷を隠すための上級の化粧をしてあげます。
ペグ:
「まず、しみ隠しのクリームを塗りましょう」
「丹念に満遍なく塗り込むの」
「傷を隠すのよ」
「肌がとても白いのね」
「これはラベンダー色のカバークリーム」
「あなたの肌によく合うわ、ほらね」
「ずっとよくなったわ」
「そうだわ。傷あとをカバーして表面を平らにするの」
ペグはエドワードの化粧の出来をしばらく見て言います。
ペグ:「このクリームだめね!」
化粧品販売員が思わず自社の商品をダメ出しするところが面白いですね。
06.芸術家エドワード
昼間にケビンとビルは庭でベースボールのラジオを夢中になって聴いていました。
近所のご婦人たちのように奇異な目をして興味本位で人の境界線をズカズカと越えてくるようなことがないんです。
とても大切な対比だと思います。
エドワードはビルに倣って植木の刈り込みをします。
二人がラジオに興奮している間に、エドワードは恐竜の形に植木を刈り込んでしまいました。
二人はその植木の出来栄えにとても驚きます。
気を良くしたエドワードは家族をモチーフにした刈り込みを創り上げました。
ビル:「素晴らしいな、エド。それはうちの家族か?」
ペグ:「まあ、私たちだわ。私たちよ!」
エドワードは今まで家族の夢をたくさん描いてきたのですね。
淋しい思いを雑誌の切り抜きや聖母とキリストの絵などを見て、自分を癒やしてきたのだと思います。
ペグたちの笑顔が何より嬉しいんですね。
エドワードはこの家族といることが段々と心地よくなってきます。
そこにエドワードの幸せに不吉を呼び込むかのように、紫色の服を着た女がやってきます。
エズメラルダ:
「そいつは紅蓮の炎の燃える地獄からの使いよ」
「恐ろしい悪魔の化身」
「神の小羊を迷わせる気?」
エドワード:「違うよ...」
エドワードは戸惑い、か細い声で言い返します。
エズメラルダ:「そばへ来ないで」
そう言うとエズメラルダは去って行きました。
ビル:「イヤな女だ、消えろよ」
ペグ:「彼女を気にしないでね」
ビル:「あの女は頭がイカれてるのさ」
07.知らない人たち
エドワードに興味津々なご婦人たちはペグの家に押しかけてきて、ペグに無理やりエドワードのお披露目会を開かせます。
エズメラルダ:
「悪魔の誘惑に乗らないで!」
「まだ遅くない。あいつを早く追い出すのよ」
「自然に背く悪霊よ」
エドワードは食事の支度を手伝います。
楽しくキャベツをチョップするエドワードは誤って自分の顔を切ってしまいます。
ペグ:
「また切ったのね。そんなに緊張しないで」
「エズメラルダは来ないし、他は皆いい人ばかりよ」
「心配しないで。自然のままにしていればいいのよ」
「緊張せず、自然のままに」
ペグが自動缶切り器に乗せられたぐるぐる回る缶詰を見つめていると、エドワードはおじいさんとの過去を思い出します。
素敵な回顧のシーンです。
お城の機械はクッキーを作るためのピタゴラスイッチのような装置でした。
缶詰からクッキーの素が出てきてボウルに注ぎ込まれます。
そこに一個の卵がロボットのか細い手によって割られ、ボウルに入った生地は鋼鉄の人形の泡立て器の手でかき回されます。
また後列の鋼鉄の人形が足で生地をこねて、そのまた後ろの人形が足で型を切り取ります。
後ろに待ち構えているアコーディオン型のオーブンがこんがりとクッキーを焼き上げます。
工場のコンベアのような無味乾燥したものではなく、おしゃれでユーモアのある生産機械でした。
おじいさんは満足げに、出来上がったハート型のクッキーを手に取り、傍にいたロボットの左胸に近づけました。
おじいさんは心を持ったロボットが欲しかったのですね。
なんという雄弁な映像言語なのでしょうね。
言葉のない映像だけの数分間でこれだけのユーモア、驚き、ハートフルな感情を詰め込むことができます。
『いやあ、映画ってほんとにいいものですね』という水野晴郎さんの名文句が言いたくなります。
おじいさんもまた人との接し方が下手だけど、温かい心の交流が欲しかったのですね。
そして愛の結晶エドワードが作られます。
エドワードのお披露目会が開かれ、子どもたちにじゃんけんに誘われたり、医者の紹介を約束してくれたり、たくさんのいい人に囲まれてエドワードは上機嫌です。
ペグ:
「エドワード、大丈夫?」
「おなかは空いていない?何か食べたい?」
ご婦人たちがエドワードを見ながら噂します。
ジョイス:
「信じられないわ。とても謎めいてる」
「冷たい手か温かい手か」
「あのハサミでチョキンとやられたらどう感じるかしら?」
近所の男:
「エディ、金曜の夜にトランプをやりに来ないか?」
「だがカードは切るなよ(笑)」
男は一人満足げにジョークを飛ばしました。
エドワードがジョークの意味を解せずに少し苦笑いをするところが可愛らしいです。
エドワードは長いハサミに野菜や肉などを突き刺し、串代わりにしてバーベキューをします。
ブラジルのシュラスコ料理みたいです。(笑)
そこに身体が不自由な老人がエドワードに同情して話しかけます。
老人:
「俺も身体が不自由だがどうって事はない」
「戦争で弾丸が当たって、このとおり義足をつけとる」
「人に身がい者とは呼ばせるなよ」
ご婦人たちはそれぞれの家で作ってきた料理をエドワードに食べてもらおうと一斉に寄ってきます。
エドワードは大人気でした。
エドワードはおじいさんとの楽しい過去を思い出します。
おじいさん:
「女主人が客にお茶を出そうとしてるよ」
「エチケット上いろいろな問題があるんだ」
「立ってカップを受け取るべきか、指で砂糖をつまんでもいいか?」
「お茶のおかわりは許されるか」
「ナプキンは全部広げてもよいのか、半分に折って使うべきか」
「エチケットはむずかしいんだよ」
「だが正しいエチケットに従えば、人前で余計な恥をかく事をまぬがれるよ」
「お前は退屈しているんだな、エチケットよりも詩を読もうか」
おじいさんは我が息子のようにエドワードをとても可愛がりました。
おじいさん:
「髪の薄い年寄りが薄い絹で服を作った」
「ある人が言った『そんなに薄いと破れるよ』」
「彼は答えた『薄いと手入れが簡単だ』」
「可笑しければ笑っていいんだよ、エドワード」
「笑ってみて」
08.ペグの娘キム
夜中になり、ペグの娘のキムがキャンプから帰ってきました。
キムは鼻歌を歌いながらエドワードが眠っている自分の部屋に入ってきました。
エドワードはベッドの上でハサミをそっと折りたたみ、キムをじっと見つめていました。
キムが鏡で自分の顔を覗いていると後ろに人がいるのを発見しました。
キムは大声で叫びます。
その声にエドワードも大慌て。
ウォーターベッドに無数の穴を勢いよく開けてしまい、パニックになりました。
ペグはキムに事情を説明して、ビルはエドワードに新しいベッドを用意しました。
ビル:
「城にいたから君は知らないんだよ」
「最近の年頃の娘ってヤツは皆イカれてる」
「これを飲むといい。レモネードさ」
ビルはホームバーでエドワードにレモネードと偽ったお酒を飲ませました。
ビル:
「分からん」
「女は年頃になるとホルモンの関係で身体がふくれて、頭がイカれる」
エドワード:「ホルモン?」
ビル:
「そうだよ」
「そう深刻に考えるな」
お酒が入っているとは知らないエドワードはストローで勢いよく飲み、呼吸が止まりかけます。
ビル:「うまいか?」
ビルは何もなかったかのようにエドワードに質問しました。
一方ペグはキムの心を落ち着かせていました。
ペグ:「今夜はとりあえずここで寝るのよ」
キム:「なぜ彼はうちに来たの?」
ペグ:「独りぼっちでかわいそうだったのよ」
キム:「でもなぜ?」
ペグ:「キム、彼を見てかわいそうとは思わないの?」
キム:「それは思うわよ」
ペグ:「じゃあ下に行って握手ぐらいしてあげたら...」
キム:「あの手でどうやって?」
ペグ:「挨拶をしてあげて。あなたは彼を驚かせたのよ」
キム:「それはこっちだわ」
キムは母に連れられて恐る恐るエドワードのもとにやって来ます。
ペグ:
「エドワード、正式に紹介するわ」
「うちの娘のキムよ」
「キム、新しい家族のエドワードよ」
キムは母に肩を抱かれながらエドワードを興味深く見ていました。
ビルにお酒を飲まされたエドワードはグロッキーなゾンビのような顔をして、その場に卒倒してしまいました。
初対面が強烈だったキムはそれ以来エドワードのことをあまり良く思っていませんでした。
エドワードが刈った街中の庭木の刈り込みを気味悪がりました。
食事の時、エドワードがキムのために切ってあげた肉をキムのお皿に乗せてあげるのですが誤って服の上に落としてしまいます。
エドワードはハサミを畳んですまなさそうな顔をしました。
~PART2 へ続く~
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