映画から自己実現を!

映画を通して 人間性の回復、嫌いな自分からの大脱走、自己実現まで。 命をかけて筆をとります。

『フォーエバー・ヤング』~人生を左右する勇気ある愛の告白、53年経っても、あなたが後悔しないために~

2023-09-17 05:24:35 | 日記

 

『フォーエバー・ヤング』

 

 

 

 

1.後悔先に立たず

 

この作品をジャンルで言えば、ラブ・ロマンス映画になります。

この作品の主人公は愛する人への勇気が足りなかったために、とても後悔します。

あの時、プロポーズしておけばよかった。

好きだと告白しておけばよかった。

あなたはそんな経験ありますか?

恋して好きで好きで堪らない人というのは、人生の中に何人も現れないと思います。

すごく貴重な存在です。

その人と話をしているだけでとても幸せ。

もしフラれちゃっても、別れてしまっても、その人を責めたりしないと思います。

”貴重な思い出をありがとう、いっしょに居た時間とても幸せでした”って言える人。

こういう人をかけがえのない人って言うんだろうと思います。

こちらがエネルギーを持って何かを伝えると、結果がどうであれ、相手はそのエネルギーを返してくれます。

そこに自分の後悔は決してないと思います。

それは自分自身のためです。

でないと、過去に囚われて前に進めません。

さあ、勇気を持って当たって砕けましょう!

 

 

2.愛する恋人ヘレン

 

それでは作品に入ります。

舞台は1939年、大戦前のアメリカです。

主人公のダニエルはアメリカ空軍のテスト・パイロットの仕事をしています。

彼には、幼馴染のとても大好きなヘレンという恋人がいます。

セピア色調の映像の中、ダニエルの家で、暖炉の前で二人で寝転んで一皿のピザを仲良く食べたりします。

椅子で居眠りをするダニエルにヘレンはそっとキスをします。

その部屋にはビリー・ホリデイの曲 "The Very Thought of You"  が甘い音色で流れています。

ヘレンがその曲を歌うのを口で押さえてちゃんと歌えなくしちゃったりして。

ヘレンといる時のダニエルはまるで子供のように楽しそうです。

ダニエルにはハリーという軍科学者の親友のハリーがいます。

とあるピクニックで、アイスクリームを持った男の子がずっと、ダニエルの方を見ています。

ダニエルはどう声をかけたらいいのか戸惑っています。

 


ダニエル:「僕をじっと見つめてる」

ヘレン:「きっと好きなのよ」


 

ヘレンはそう言って、ダニエルを諭します。

ダニエルは子供が苦手なんですね。

どう話していいのかわからないんです。

後々、ダニエルは子供と親密に接することとなるんですが...。

そして、その場所でハリーは妻ブランチに子供が出来たことを発表をします。

この子がキーパーソンだったりします。

ダニエルとヘレンは”次は私達ね”という風に見つめ合います。

ヘレンは早くプロポーズしてねと言わんばかりに微笑みます。

 

 

3.雨の降る悲しみのカフェ

 

とある雨の降る午後、ダニエルは行きつけの喫茶店でヘレンと待ち合わせをします。

列車の姿をしたおしゃれな喫茶店です。

先に来たダニエルはプロポーズの予行演習をしています。

 


ダニエル:

「あっという間に1939年だ」

「何を言いたいか君は察してるだろうが...」

「ヘレン、結婚しよう」


 

少し気さくな感じのパターンを試します。

 


ダニエル:「ねえ、ヘレン...」


 

そこにヘレンが急いでやってきます。

ヘレンは塩をこぼしてしまうのですが、その塩を自分の首筋にかけます。

 


ヘレン:

「雑誌社から写真の注文が入ったの」

「でも急ぎなの」

「木曜日が締切なのよ」

「今からすぐ帰って、明日の午後までに揃えなきゃ」

ダニエル:「待って!」

ヘレン:「何?」

ダニエル:「パイを」

ヘレン:「パイはさっき食べたでしょう」

ダニエル:「もう一つ」

ヘレン:「あきれた」

ダニエル:

「なぜか腹が減って」

「(店員に)パイをもう一つくれないか?」

「君は本当に食べない?」


 

二人の間にしばらく沈黙ができました。

 


ヘレン:「何?」

ダニエル:

「別に何でもない、一緒にパイを食おうと...」

「急いで食うよ」

ヘレン:

「悪い知らせね」

「新型ロケットの飛行テスト?」

ダニエル:「ロケット?バカを言うなよ」


 

どうしてもダニエルは勇気が出ません。

急いで食べるダニエルにヘレンは優しくナプキンを差し出します。

ヘレンもダニエルのプロポーズに気づいている様子で、勇気の出ないダニエルに微笑みかけます。

 


ヘレン:「もう行かなきゃ」

ダニエル:「分かってる」


 

ダニエルはプロポーズを言う勇気を出せませんでした。

ヘレンはダニエルにキスをして、カフェを出ていきました。

ダニエルは残念そうな顔をして、カフェ内の公衆電話から、ヘレンにプロポーズできなかったことをハリーに電話します。

その時、顔なじみの店員の動きが慌ただしくなりました。

ダニエルに言います

 


顔なじみの店員:「早く行ったほうがいいですよ。ヘレンさんが大変だ...」


 

何と、急いで喫茶店から出ていったヘレンはカフェの前の道でトラックにはねられてしまいました。

 

 

4.抜け殻のように

 

ヘレンは頭を打ってしまい、意識が回復しません。

毎日ダニエルはヘレンのベッドのそばに居続けました。

そして、時が経ち、半年間ずっとヘレンは意識が回復しないままでした。

医者もサジを投げているようでした。

ダニエルは抜け殻状態になり、家に閉じこもりっきりになってしまいました。

親友のハリ―もダニエルの家に行き彼を慰めます。

 


ハリー:

「あれから半年だよ」

「医者はもう目覚めないと」

ダニエル:

「医者なんか」

「彼女はまたねと」

「またねと言って別れたんだ」

「子供の頃彼女とよく灯台へ行った」

「灯台のそばの古い家で老後を過ごそうと」

「彼女の思い出ばかり」

「彼女は僕の一部だ」


 

そこで、ダニエルはハリーが研究している冷凍睡眠保存の実験のことを知ります。

そして、被験者がいないということを聞き、数日間考えた末、ダニエルは自ら志願します。

 


ダニエル:

「彼女の死はつらい」

「1年眠らせてくれ」

ハリー:「何を言う」

ダニエル:

「よく考えた」

「軍隊に入って12年、健康に問題はない」

「家族もなく、仕事柄テストには慣れてる」

「資格は満点だ」

「そうだろ?」

ハリー:「あれは未完成品なんだ」

ダニエル:

「ハリー、頼む、僕を実験台に...」

「その間に、彼女は...」

ハリー:「医者の間違いかもしれん」

ダニエル:「もし、彼女が目覚めたら起こしてくれ」


 

眠りに入る間、灯台の元でダニエルとヘランとの幼い頃の楽しい情景シーンがスローで流れます。

 

 

5.ようやく目覚めてると

 

実験は1年のはずでした。

しかし、何と53年が過ぎ、1992年になりました。

軍施設の近所に住む10歳のナットとフィリックスは親友で、いつもいっしょに遊んでいます。

こういう寂しい気分の中にもこの作品にはユーモアがたくさんあります。

ナットはフィリックスに「歯医者はいつ行くの?」と言います。

フィリックスはパイの中の甘い所だけを吸い続けています。

次のシーンではフィリックスは歯に詰め物をして、何もしゃべることが出来ません。

フィリックスの兄は空軍で働いていて、車で配達をしています。

奇妙な歌を叫びながら歌い続ける兄を二人は無言で聞いています。

彼の運転する車の後部座席に乗せてもらい、軍施設にやってきました。

じっと車の中で大人しくしていろと言われますが、二人は言いつけを無視して施設を探検します。

とある倉庫で、潜水艦に似たものを見つけた二人は、潜水艦ごっこをし始めます。

 


ナット:「コンピューター、準備OK」

フィリックス:「ジェットエンジン作動」

ナット:「放射線チェック」

フィリックス:「現在の読みは?」

ナット:

「65を維持してる」

「潜水!」

フィリックス:「潜望鏡は?」

ナット:「準備よし」

フィリックス:

「浸水警報だ!」

「酸素を」


 

二人は勢いでバルブを開けてしまいます。

すると装置の扉が開き、中から冷凍人間が出てきました。

ナットは着ていたジャケットを掴まれますが、必死に二人は逃げました。

ナットは母のクレアにジャケットを無くした経緯を説明しますが信じてもらえません。

一方、冷凍睡眠から目覚めたダニエルは、思うようにならない体を引きずりながら、53年経ったまわりの環境に愕然とします。

軍の関係者に説明しますが、頭がおかしいと思われ、相手にされません。

 

 

6.子供たちの助けを借りて

 

ハリーを見つけるしか無いと考えたダニエルは協力者を探します。

つかんでいたジャケットの住所を手がかりに、ナットの家に行きます。

 


ダニエル:「君がナット・クーパー?」

ナット:「死人だ!」

フィリックス:

「冷凍人間が解けた!」

「助けて!」

ダニエル:

「騒ぐな、何もしないよ!」

「何もしないって」

「なぜ、僕がジャケットを持ってた?」


 

ナットとフィリックスはパニックで二人同時にしゃべってしまい、ダニエルは聞き取れません。

ここは面白いです

 


ダニエル:「君が話して」

ナット:

「フィリックスと倉庫へ...」

「中で遊んでいたら、潜水艦のようなものがあって、それを開けたらおじさんがその中に...」

ダニエル:「警備員とか、医者は?」

ナット:「ガラクタだけだったよ」


 

ゾンビだと思っていた彼らの誤解を解き、これまでの歴史やテクノロジーを教えてもらいます。

第二次世界大戦や留守番電話、紙パックのジュースの飲み方など。

ダニエルがパイロットだと聞いたナットは驚き、とても嬉しがります。

3人は53年間の出来事を図書館に調べに行きます。

 

 

7.ナットの片思い

 

そこにナットが恋をしている女の子が来ます。

ナットはフィリックスに勧められて声をかけます。

この場面がとてもユーモラスで面白くて、ナットが女の子の気を引こうとします。

 


ナット:「土曜日にこんな図書館に...イモだと思われる」

フィリックス:

「彼女もいるんだぜ」

「声をかけてみろよ」


 

ナットは女の子に話しかけに行きます。

 


ナット:「ハイ、アリス、元気?」

アリス:「ええ」

ナット:「いい服着てるね」

アリス:「ありがとう」

ナット:「壁紙みたい」


 

女の子は不機嫌な顔をするんですが、「上等の壁紙だよ」とフォローになっていないフォローをします

続けて、ナットはしでかしてしまいます。

 


ナット:「そのマニキュア、血みたい」


 

もはや、アリスに相手にされません。

ナットはダニエルに大丈夫だよと陽気に合図します。

全然大丈夫ではないんですが...。

 


ナット:「自転車で事故ったんだぜ」

アリス:「本当?」

ナット:

「自転車はめちゃくちゃ、ポンコツだ」

「怪我を見せてやる」

「かさぶたははがさないでおく」

アリス:「とても痛そう」

ナット:「ありがとう」

アリス:「それじゃあ、行くわ、またね」

ナット:「僕はイモだ...」


 

怪我して擦りむいだ痛々しい傷口を見せたりして、とんちんかんなことをしてしまいます。

そのやり取りをダニエルはじっと見ているんですが、あまり興味を持っていない様子です。

 

 

8.一人せつなくて…

 

母子家庭で二人で生活している母クレアと子ナット。

ナットは父がいなくて、すごくさみしそうにしていました。

いろいろあって、ダニエルは母のクレアとも仲がよくなります。

 


クレア:

「私、聞き上手なのよ」

「何か困っていることが?」

ダニエル:「心細さの経験は?」

クレア:「私の専売特許よ」

ダニエル:

「目覚めた時にいるはずの友達が、この辺に住んでいたのにいない」

「彼がいないとどうしていいか分からない」

クレア:「自分の家はないの?」

ダニエル:

「愛していた人を失って、金も服も家も何もかも捨ててしまった」

「先のことなど考えずに...」


 

ダニエルも次第にナット親子のプライベートを知ることとなります

ナットは操縦を教えてとダニエルは懇願されます

 


ナット:「明日、暇があったら飛行機の操縦を教えて」


 

気落ちしていたダニエルは、フライトジャケットも飛行機もないと断ります

 


ナット:

「パパは蒸発した」

「知りたかった?」

ダニエル:「僕には関係のない事だ」

ナット:「僕が1歳の時に出ていった」

ダニエル:「そうか」


 

ナットは残念そうな顔をします。

ダニエルはふと、思い出の喫茶店に立ち寄り、二人が座ったテーブルに腰掛けます。

そして、塩を手に取りヘレンのしぐさを真似て首に振りかけ、目をそっと閉じます。

クラシックなカフェが傷ついたダニエルを優しく包み込んでいます。

ナットはダニエルにどうしたら、彼女を自分に振り向かせることができるか相談します。

 


ナット:「一つ聞いても?」

ダニエル:「なに?」

ナット:

「図書館で見たでしょ、アリスって女の子」

「イカす子でしょ」

「顔もかわいい」

ダニエル:「それで質問は?」

ナット:「フィリックスはヤキモチを焼かせるのが一番だって...」

ダニエル:

「君はまだ子供だろ?」

「もっと他のことを」

ナット:

「僕はもう10歳だよ」

「彼女が好きだ」

ダニエル:「僕だったら彼女のことは頭から追い出して、考えないね」


 

ダニエルにとってヘレンを失った後なので、恋愛のことは考えたくないんですね。

ダニエルはリビングでビリー・ホリデイの曲 "The Very Thought of You" のアルバムを見つけます。

ヘレンとのたくさんの思い出がつまったあの曲です。

アルバムを見ながら、ヘレンを思い出し、さみしさが込み上げてきました。

事情を知らないクレアはその曲をかけてしまいます。

 


ダニエル:「今はよせよ」

クレア:「ナットは眠ってるわ」


 

♫ The very thought of you and I forget to do

あなたにずっと思い焦がれているだけで

♫ The little ordinary things that everyone ought to do

やらなければいけない小さなことすらも全部忘れてしまうの

♫ I'm living in a kind of daydream

夢の中で暮らしている

♫ I'm happy as a queen

お姫様みたいな気分

♫ And foolish though it may seem

ばかげているとは思うけど

♫ To me that's everything

これが私にはすべて

♫ The mere idea of you, the longing here for you

あなたにずっと思い焦がれているだけで、いつもあなたにあこがれている

♫ You'll never know how slow the moments go till I'm near to you

わからないかもしれないけど、そばにいないと時間の流れが遅くなってしまう

♫ I see your face in every flower花を見ればあなたの姿を思い

♫ Your eyes in stars above

星を見ればあなたの瞳を探してしまう

♫ It's just the thought of you

あなたのことだけを思い焦がれてる

♫ The very thought of you, my love

大好きな人


 

辛さに耐えきれなくなったダニエルは部屋を出て、涙しました。

ハリーに装置から起こされなかったということは、ヘレンは死んだのだ

あの時、告白していればよかったとダニエルは後悔したに違いありません。

 

 

9.男の友情

 

自分の考えが間違っていたと気がついたダニエルは真夜中に突然ナットを起こします。

 


ダニエル:

「ナット、起きろ」

「僕が間違っていた」

「アリスのことだよ、間違ってた」

ナット:「どうするの?」

ダニエル:

「いい方法を知りたいんだろ?」

「気持ちを彼女に伝えるんだ」

ナット:「どうやって?」

ダニエル:「今度、彼女に会って心臓がドキドキ止まりそうになったら、吐き出せ」

ナット:「吐き出せ?」

ダニエル:「君の気持ちを隠さずに全部ぶつけるんだよ」

ナット:「どうやって?」

ダニエル:

「僕に言ったことを彼女に言うんだ」

「心を開いて歌うんだよ」

ナット:「歌う?」

ダニエル:

「そうだよ、それも早い方がいい」

「チャンスを逃したらそれきりだ」

「いいね?」

「間違っていたってことを言いたかった」

ナット:「ありがとう」


 

 

 

10.ナットの勇気

 

次の日の夜、ナットは彼女の家に行き、木に登って、窓からアリスを呼びます。

アリスは窓を開けました。

 


アリス:「ナット?」

ナット:「そうだよ」


 

ナットは深く深呼吸して目を閉じました。

 


ナット:

♫ 君は僕の太陽 たったひとつの太陽

♫ 曇り空でも 君がいれば幸せさ

♫ 君は知らない 僕がどれだけ君を愛してるか

♫ 僕の太陽を奪わないで


 

ナットは心をこめて歌いました。

ユア・マイ・サンシャインです。

ダニエルは比喩で歌えと言ったのをナットはそのまま歌ってしまいました。

すごくユーモラスで暖かなシーンです。

アリスの後ろから女の子の父親が出てきました。

アリスは恥ずかしそうに顔を隠します。

 


アリスの父「悪ふざけか?」

ナット:

「違います、僕はマジです」

「僕はナット・クーパー、お嬢さんを愛しています」

「教室で毎日見てて、好きになったんです」

「本当です」

アリスの父:「ナット、帰りなさい」


 

ナットはうなだれて家に帰ろうとしました。

後ろを振り向くと、彼女は優しく微笑んでくれました。

ナットは元気を取り戻しました。

 

 

11.これからどうすれば....

 

ある日、ダニエルはナットとクレアの元を去ろうとしていました。

ナットはダニエルにかっこいいフライトジャケットをプレゼントします。

ナットとフィリックスの隠れ家ツリーハウスで、簡単な飛行機のコックピットをつくり、二人で擬似運転しました。

ナットにとって、父親と甘えることができない一時をダニエルと過ごしました。

だんだんダニエルの体に異変が出てきます。

ダニエルは急速に老化し始めます。

ナットは助けを呼び、ダニエルは病院に運ばれます。

軍は冷凍睡眠装置とダニエルの存在に気づきはじめていました。

軍はダニエルを探し始めます。

一方、ハリーの家を探し出したダニエルたちは病院を抜け出し、向かいます。

ノックして出てきたのは、ハリーの娘でした。

 


ダニエル:

「ハリー・フィンリーという人を知っていますか?」

「シカゴ出身の科学者で奥さんの名はブランチ」

「ご存知で?」

ハリーの娘:「父ですわ」

ダニエル:「この家に?」

ハリーの娘:

「父は亡くなりましたわ」

「ここに住んでいましたが、私が生まれる前に...」

「だいぶ昔の事です。何かの間違いでは?」

ダニエル:「僕はハリーの親友です」

ハリーの娘:「ダニエル?」


 

ハリーの娘はなぜか、会ったことのないダニエルの事を知っていました。

ダニエルはハリーの遺品の中から一枚の写真を見つけます。

小さな女の子と写ったヘレンの写真でした。

ダニエルは黙ってその写真を見つめます。

また、ハリーの実験記録を記したノートが見つかりました。

その最後のページには、”老化停止不能”と書かれていました。

ナットはそっとダニエルに触れました。

ダニエルを冷凍した後に、ハリーは被験者の老化を止めることができないことを知ります。

ハリーは装置からダニエルを助け出そうとしますが、その時の火災でハリ―は死んだとダニエルは知らされます。

そのため、53年間もダニエルが助けられなかったのです。

ハリーの研究資料をクレアは受け取りました。

 


クレア:

「彼女がヘレンね」

「その女の子はあなたの娘さん?」

ダニエル:「いや、僕らは結婚していないよ」

ハリーの娘:「その女の子は2歳の時の私よ」

ダニエル:

「そんなはずはない」

「交通事故で死んだはずだ、君が生まれる前に」

ハリーの娘:

「ダニエル!彼女は生きてるわ!」

「7年前に旦那さんが亡くなって、故郷の灯台のそばの家で暮らしているわ」

ダニエル:「そんな!ヘレンは生きてるのか!」


 

老化を止められないことを知って落ち込んでいたダニエルに希望の光が差しました。

 

 

12.翼を広げて、恋人の元へ

 

ダニエルはヘレンの元に向かうことを決意します。

ハリーの家にFBIの追っ手が来ました。

車では逃げれないと悟ったダニエルは飛行機でヘレンの所に行こうと空軍施設へ向かいます。

折しも、昔の飛行機の航空ショーをしていた場所に逃げ込み、飛行機に乗って離陸することに成功します。

後部座席から物音が聞こえてきました。

なんとナットが飛行機に乗り込んでいたのです。

ナットはダニエルに父親の姿を想像し、離れたくない気持ちとダニエルの体を気遣う気持ちから、ダニエルの乗る飛行機に乗りました。

 


ナット:「フライトジャケットを忘れたでしょ?持ってきてあげたよ」


 

ダニエルは呆れ返っていました。

やがて、ヘレンの家近くの灯台が見えてきました。

ダニエルは老化現象がひどく、操縦困難な状態でした。

 


ダニエル:「あの家だ!」


 

ダニエルは操縦をナットの手を操縦桿に乗せ、操縦を託しました。

 


ダニエル:

「そっとだ、そっと」

「バック・プレッシャーを」

ナット:

「チェック、圧力OK」

「死なないで!」

ダニエル:

「右旋回」

「車輪を下ろせ」

ナット:「下りたよ」

ダニエル:

「一緒に着陸させよう」

「時速200キロ」

「フルフラップ」

ナット:「フルフラップ」

ダニエル:「機体を水平に」

ナット:

「ダニエル!」

「機体を水平に!水平に!」

ダニエル:

「機首を上げろ!」

「ブレーキを!」

ナット:「止まれ!」

ダニエル:「よくやった」


 

二人の乗る飛行機は何とか着陸できました。

 

 

13.再会、時を越えた告白の時

 

辺りは風がとても強く、老化してもうおじいさんの姿のダニエルのグレイの髪の毛がなびきます。

この美しい風景、あなたにも是非とも観てほしいです。

ダニエルはヘレンの家のドアを恐る恐るノックします。

しばらくの間待ちましたが誰も出てきません。

するとダニエルは風上からの匂いを感じ取ったのでしょうか。

振り返ると摘み終わった花を運んでいる姿のヘレンを見つけました。

辺りは夕日で昔のあの時と同じようにセピア色に変わります。

かもめが数羽、風に乗って浮遊しています。

ヘレンもこちらに気づきます。

すっかり老体になったダニエルは足を引きずるようにゆっくりとヘレンの元に近づきます。

ヘレンは涙ながらに微笑みながら、言葉を発します。

 


ヘレン:「ダニエル!」

ダニエル:「そう、僕だよ!」


 

この間の時間、ヘレンはどんな思いだったでしょう。

彼女は幼い頃、ダニエルと誓った灯台のそばの古い家で老後を過ごしていました。

ダニエルとの約束通りに。

一度は結婚し、53年経った今も、ヘレンはダニエルを忘れられなかったのですね。

ナットはそばで涙ぐみながら、二人を見守っています。

ダニエルはヘレンに今度は何の迷いもなく告白します。

ずっとずっと後悔し続けた日々を思い出しながら。

 


ダニエル:「僕と結婚してくれるかい」

ヘレン:「喜んで」


 

二人は抱きしめあい、やがてナットが寄り添いハッピーエンディングとなりました。

実は原文ではダニエルは ”So are you going to marry me?” と言っています。

「それで、結婚してくれるかい!」

53年前のあの日のプロポーズの続きのように話しているんですね。

なんて時間をかけたジョークだったのでしょう!

 

 

14.あなたの心がすっとする作品です

 

ほんの行き違いで別れ別れになった二人。

もし、あの日、ダニエルが勇気を出して告白していれば...。

もし、ダニエルが冷凍睡眠装置に入らなければ...。

ダニエルにとってはヘレンとの再会は半年ぶりですが、ヘレンと私達、観客にとっては、53年の月日が流れています。

すごく貴重な貴重な53年間ですが、これから二人が過ごすであろう一瞬一瞬のほうがもっともっとかけがえのない濃密な時間となるでしょう。

この作品は53年という時間より愛情のほうが価値が高いと私達に投げかけています。

フォーエバー・ヤングとは、心のことです。

肉体は衰えますが、心は永遠に持ち続けることができるということを教えてくれます。

また、ほんの少しの勇気の大切さを教えてくれています。

そして、ダニエルとクレアとナットの人のつながりの優しさがにじみ出ています。

ビリー・ホリデイの歌声でエンドロールが終わりました。

アメリカ映画らしい、きれいなきれいなハッピーエンドですね。

この作品を観れば、この拙い文章以上にあなたの心は震えることでしょう。

ビリー・ホリデイ、いいです。

ナットのユア・マイ・サンシャイン、いいです。

あの温かい思い出のカフェ、一度観てください。

ラストシーンの灯台への着陸。

飛行機とかもめの美しい飛行の共演。

摘んだ花を持った美しいおばあちゃんのヘレン。

クレアを演じるジェイミー・カーチスのお茶目でしっかりとした演技。

すべてがうまい具合にブレンドされたラブストーリーです。

あなたの心に必ず残る作品となると思います。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

では、次の作品でお会いしましょう。

さよなら。

 

 


『初恋のアルバム』~父と母を好きになれないあなたに~

2023-09-14 06:20:11 | 日記

 

『初恋のアルバム』

 

 

 

1.あなたは両親の青春時代に興味はありますか?

 

あなたの青春時代はいつですか?

中学生の頃?

高校生の頃?

大学生の頃?

楽しかったですか?

寂しかったですか?

辛かったですか?

何か目標に向かって走ってました?

スキな子に夢中でしたか?

楽しくも苦々しい青春時代は皆あったと思います

それはあなたのお父さん、お母さん、兄弟、姉妹、身近な人それぞれにありました

あなたのお母さん、お父さんの青春時代ってどんな風だったのでしょう?

何に夢中になっていて、何に悩んで過ごしていたか、知りたくないですか?

いつも尊敬できる人

見事に私達を育ててくれた人

悪戦苦闘し、喧嘩し、泣きながら、笑いながら、僕たちを守ってくれて、何不自由なく、すくすく育ててくれたお母さん、お父さん

中には厳しい、弱い、頼りない、お母さん、お父さんもいらっしゃるでしょう

もしかしたら、お父さん、お母さんが大嫌いな人もいるでしょう

そんな彼らのもとに生まれてきたことがイヤに思った人、大勢いらっしゃると思います

他の子の親と比べてみて、頼りない、恥ずかしい、行儀が悪い、貧しい、いつも家にいない、うちは暗いとか

もう、こんな家出ていきたい!

他所の家に生まれたかった!

こんな家に生まれたから、今の自分に自信が持てない

そう思っている人はたくさんいらっしゃると思います

この作品はそんな方々のための映画です

あなたのお母さん、お父さんにも、あなたが知らない子供時代、青春時代がありました

あなたと同じくらいのパワーで子供時代、青春時代を駆け抜けて、大人になっています

そんなお母さん、お父さんの過去を覗くことができ、見終わった後にはすぐに電話をかけたくなるような作品です

登場人物は一人娘のナヨン、その母親のヨンスン、父親ジングク、恋人のドヒョン、ヨンスンの弟で叔父のヨンホです

 

 

2.大嫌いな両親

 

映画の冒頭、お父さんは被保証人に逃げられ、被保証人の葬式で悪態をつく、お母さんのシーンから始まります

お父さんは優しい人で、他人の保証人になってしまって、逃げられてしまい、家には多額の借金が出来てしまいます

そのため、ナヨンは行きたかった大学に行けなくなりました

 


ヨンスン:

「私も調べてみたよ」

「大学は後で金を貯めてからでも入れるって」

「学校には後で」「後からでも行ける」

ナヨン:

「学校には後で...」

「後からでも行ける」

「学校には後で...」

「後からでも行ける」


 

実はお母さんは孤児で、貧乏だったので、学校には行けませんでした

このことはナヨンは知らないんですが、

だから、娘にしかたなく後から行けるからとヨンスンはナヨンに言い聞かせます

子供にとったら、今行きたいんですよね

それに、本当に後から行けるかわかりません

ナヨンの落ち込む気持ちわかります

ヨンスンが娘に大学に行かせたい気持ちも分かります

時が過ぎ、ナヨンは郵便局で働くことになりました

研修で行くことになっているニュージーランドの風景写真を見ながら、とても楽しみにしています

海辺を指でなぞり、その海辺が済州島の海に変わりオープニングが始まります

光り輝く綺麗な海中で海女たちがたくさん泳いでいます

次のシーンで銭湯の湯の中から浮かび上がってきた中年の女性、ナヨンの母、ヨンスンです

ヨンスンは痰を吐くのが癖になっています

海女の時の癖が治らないでいます

ヨンスンは銭湯で垢すり屋の仕事をしています

大好きな赤の服を着ています

銭湯では"be the reds"

サッカー韓国代表サポーターのTシャツです

ヨンスンはとても口がとても悪く、行儀も悪く、お金に執着しすぎる人です

ナヨンにはドヒョンという恋人がいます

ドヒョンはナヨンのお母さんの昔のアルバムを見ています

 


ドヒョン:

「お母さん?」

「綺麗だったんだな」

「海女だったの?」

ナヨン:「そうみたい」

ドヒョン:

「かっこいいな」

「何で言わなかったの?」

ナヨン:「そんなことまで、あなたに?」

ドヒョン:

「当然だよ」

「お母さんにそっくりだな」

ナヨン:「どこがよ」

ドヒョン:

「自分では気づかないものさ」

「似てると言うより全く同じだ」

「年を取ったらお母さんと同じに」

ナヨン:「似てないわよ、全然」


 

ナヨンはムキになってアルバムをしまいます

お母さんのこと嫌いなんですね

お母さんはどこからかタンスを拾ってきて、無理やり娘の部屋に入れようとしますが、ナヨンに拒否されます

そういう強引なところがあり、世話好きなんですね

その横でお父さんは無言でタバコを吸っています

 


ヨンスン:

「吸うんじゃないよ」

「栄養剤のつもりかい」

「娘にすまないと思わないの?」

「こづかいまで人に借りてるのに私だったら申し訳なくて吸えないよ」


 

ナヨンの部屋には古いタンスがあります

それが今の生活の象徴のようになっています

このタンスがナヨンに取っては目障りなんですね

古くて無骨で重々しくて暗いんです

そして何も関心を示さずに、テレビを見る父にもナヨンは嫌気がしています

それでも性格がとても優しいお父さん

娘の誕生日にわかめスープをつくってあげようとして手をやけどします

ナヨンは情けない父を見るのがイヤなんですね

気分晴らしの外食でお父さんは突然泣き出します

 


ジングク:「わしはもう休みたい」

ヨンスン:

「何てこと言うんだい」

「仕事するのがイヤだなんて」

「郵便局の手紙の仕分けすら疲れるってグズグズ言うのかい」


 

 

 

3.父の失踪

 

そして、お父さんは突然会社を辞めてしまいます

ナヨンの同僚はお父さんにお金を借りていました

誰にでも優しいお父さんなんですね

ナヨンはお父さんの机の中に病院からの封筒を見つけます

ナヨンは落ち込み、お父さんを病院で見てもらおうとします

 


ナヨン:「父さん病気なんだって」

ヨンスン:

「そうなの?」

「医者は皆ウソつきだ」

「あいつらは商売で病人を診てるんだ」

ナヨン:「本当よ、だいぶ前からだって」

ヨンスン:

「人は死ぬ時には死ぬんだ」

「あの生き方を見てきただろ?」

「父さんのやることを」

「”もう休みたい”だって?」

「何もしてないくせにまともに給料を持ってきたことは一度もない」

「必死で貯めた金を保証人で取られ、その上給料で穴埋めまで」

「本当にバカだよ」

「のたれ死にしなきゃこっそり帰ってくるさ」

ナヨン:「探さないよね」

ヨンスン:「なぜ探す?」

ナヨン:「私も探さないよ」

ヨンスン:

「そうさ、それが言いたかった」

「誰もお前に頼んでない」

「探すんじゃないよ」

「ニュージーランドとやらに行って鹿の角でも買ってきな」

「全くなんてバカなんだい」


 

冷酷なヨンスンにナヨンは涙を流します

ドヒョンの元に行きます

ナヨンはドヒョンのバイクの後ろで号泣します

 


ドヒョン:「ナヨン、ナヨン」

ナヨン:「もう行って」

ドヒョン:「一緒に行ってやるから」

ナヨン:

「どこへ?」

「探さないんだってば。もう行って」

ドヒョン:「意地を張るな、つらいだろ」

ナヨン:

「私は平気よ」

「もう、何とも無い」

「それで、明日、予定通りニュージーランドに行くわ」

ドヒョン:

「いいから行こう」

「お前の父は俺の父だ」

ナヨン:

「何?何ですって?」

「笑わせないで」

「あの人達は、親になる資格のない人たちよ」

「あなたは孤児の自分が一番不幸だと思ってる」

「私にはうらやましい」

「いっそ、私も孤児だったらと思うわ」

「いくら探してもひとつもない」

「ひとつもよ!」

「いい思い出がないの」

「私には現実しか無い」

「チョ・ヨンスクとキム・ジングク」

「私はあの二人の娘、それが現実なの」

「私はあなたとの関係にも自信がない」

「結婚?」

「うちの親みたいになるわ」

「イヤよ、あんな生活」

「独りで生きる」

「家族なんかなしで気ままに生きるわ」

「わかった?もう行って」

ドヒョン:

「俺のことが嫌なら行くよ」

「でも、今の言葉は信じない」


 

お父さんの失踪後、お母さんは無言で働いています

今までずっと働くことで一人のつらさを我慢してきたのですね

ナヨンは叔父のヨンホに父の居所の心当たりを聞きに行きます

この叔父さんはナヨンが深刻な顔をしているのに、パットゴルフしたり、投資を持ちかけてきたりして、呑気なんです

このあたりがこの作品の面白い所で、切羽詰まった空気を一掃してくれます

 

 

 

4.父を探しに済州島へ、そしてタイムスリップ

 

ナヨンは迷った末に、楽しみにしていたニュージーランド行きを諦め、父を探しに済州島行きの飛行機に乗りました

またもや、両親のせいで、自分のやりたいことができないとナヨンの心は暗くなります

その飛行機のシートにも赤色が使われていますね

 


ナヨン:

「旅行には後で...」

「後からでも行ける」


 

フェリーに乗り継ぎ、母の生まれ故郷に着きます

島に着いたと同時に、このドンヨリした空気が一変します

上陸して、バイクの郵便配達夫とすれ違うナヨン

その瞬間、バイクが真っ赤な自転車に変わり、清々しくて優しそうな青年に変わりました

 


ナヨン:

「すみません」

「ハリってどこですが?」

郵便配達夫:

「ハリですか?」

「その道の先に橋があります」

「渡った先がハリです」


 

若いお父さんとの出会いです

辺りは真っ青な空と海、緑の植物、色とりどりの花でいっぱいです

故郷の家を探し当てたナヨン

 


ナヨン:「ごめんください」「父さん!、父さん!」若いヨンスン:「どなた?」


 

二人は顔を見合わせます

しかしなんとその人は自分と瓜二つの顔をした若い母ヨンスンでした

 


ナヨン:「母さん?」


 

ナヨンは次の朝、寝床で目覚めます

壁にはアルバムに入っていたヨンスンの写真、部屋にはあの古めかしいタンスが居座っています

ヨンスンは満面の笑顔でてんこ盛りの食事を運んできて、

 


ヨンスン:「よく眠れました?」「疲れていたようですね」「お腹すいてますよね」「食べて」「そう、ケジャンをどうぞ」「塩が効いて美味しいですよ」


 

その勧め方が外食で焼肉を食べてる時の卵を無理やり食べさせる感じとそっくりなんですね

ぜんぜん嫌気がありません

寂しがり屋だったのでしょうね

すごく丁寧にお客さんをもてなします

 

 

5.娘が知らない母の姿

 

いつも笑顔で、畑をしたり、海産物を干したり、家の用事をしたり、働き者のヨンスン

ヨンスンは海女で素潜りを生業として生活しています

そこにあの若い青年の郵便屋さんが配達に来ました

ヨンスンは慌てて、外に飛び出します

ヨンスンはこの郵便配達夫のジングクに恋しているんですね

すごく可愛らしい姿を見せます

受け取りのサインを書かないといけないのですが、ヨンスンは字が書けないんです

それを知られないように手を水で濡らして、今は書けないと言って、ジングクに書いてもらいます

ヨンスンと会話するジングクも好意を持っていて笑顔で楽しそうです

 


ヨンスン:

「食べ終わりました?」

「読んでもらえません?」

「字が読めなくて、後で習うつもりです」


 

この”後で習う”っていうのが心打たれるんですね

母も貧しくて、学校に行けなかったんです

母も我慢して生きてきたのだとナヨンは知ります

 


ヨンスン:

「私は出かけます」

「食器は台所へ」

「暑ければ、私の服をどうぞ」

「赤以外なら何でも」


 

海の沖でラッコの群れのように海女たちが浮き輪に浮かびながらこちらに手を振っています

笑顔が素敵なヨンスン

毎日、ヨンスンは弟のヨンホに手紙を送らせ、ジングクから受け取ります

 


ジングク:「チョ・ヨンスンさんですね」

ヨンスン:「はい」

ジングク:

「蓮華の蓮に従順の順でヨンスン」

「合ってます?」

ヨンスン:「ただのヨンスンです」

ジングク:

「ああ、そうですか」

「さようなら」


 

この時、ジングクはヨンスンが字の読み書きができないことをそれとなく知ります

ジングクの足跡を歩き、足が長いなとニヤけています

そんなやりとりをじっと見ているナヨン

その間にもナヨンは色々仕事をして働いています

そこに陽気に弟のヨンホが帰ってきます

 


ヨンホ:

「♪ 帰ってきました、キム兵士」

「♪ 姉のヨンスン大喜び」

「メシくれ!ヨンスン」

「♪ 帰ってきました、キム兵士」

「♪ 好きになってしまいました」

「♪ ベトナム帰りの日焼けしたキム兵士」

「♪ 笑顔でお帰りです」


 

ヨンスンの家の中がとてもカラフルで陽気なんですね

ドライフラワーやほおづき、ピンクのカーテン、藁の飾りもの、流木のアンティーク

いかにも南国って感じです

ヨンホは続けて陽気に歌います。

 


ヨンホ:

「♪ 黒い瞳のお嬢さん」

「♪ 見た目は生意気そうだけど」

「♪ 心は絹のようにきれいだから」

「♪ 僕は本当にほれちゃった」

「♪ 心が美しければ、それが女さ」

「♪ 顔がかわいけりゃ、女なのか」

「♪ 一度、心を許せば変わらない」

「♪ そういう女が本当の女なのさ」

「♪ 心が美しければ、それが女さ」

「♪ 顔がかわいけりゃ、女なのか」

「♪ 一度、心を許せば変わらない」

「♪ そういう女が本当の女なのさ」


 

ヨンホは姉さんが恋をしているのをからかって、恋の歌を歌っているのでしょうか?

島に新しいバスが来て、村民皆で写真撮影をします

そこにジングクが通る自転車のベルが鳴り、ヨンスンはジングクが気になり、よそ見しちゃいます

家中を煙まみれにしていた、ヨンホ

ナヨンにチヂミを焼いてあげていました

 


ヨンホ:

「♪ 金がなければ、家へ帰れ」

「♪ チヂミでも焼いて食べな」


 

ヨンスンはチヂミをたくさん焼いて近所に配ります

ヨンスンは赤色のズボンを履いて、楽しそうにチヂミを配ります

お皿をジングクに渡して返してもらうようにという作戦でした

ヨンスンが赤色が好きな理由がやっと分かるんですね

それは、郵便屋さんの自転車の赤色でした

大人になってもその色を大切にして来たんですね

みんな自分でかごを返してきて、ジングクは来ませんでした

残念がって眠れないヨンスン

そんな、恋煩いを見ているナヨン

あの母親がまさかって感じでしょうね

ナヨンは恋の手伝いを買って出ます

ナヨンはヨンスンに近所の人の危篤の電報を郵便局まで届ける役割をお願いします

ヨンスンは一生懸命、電報の内容を暗記します

バスに乗ってやがて、郵便局に着きますが、字が書けないので電報を記入できません

途方にくれ、外でうずくまっているとジングクがやって来ました

ジングクが電報を打ってくれました

ジングクはその時、ヨンスンが字が読み書きできないことを恥じているのを知ります

そして、優しいジングクは字の先生になってあげます

ヨンスンが、ジングクの優しさの有り難さを誰よりも受け取っているんですね

大人になっても、決して忘れるはずはありません

 


ジングク:

「ヨンスンさん」

「小包ですよ」

ヨンスン:「どこから来ました?」

ジングク:「わかりません」


 

中身は国語の教科書とノートと筆記用具が入っていました

ジングク:「僕が教えます」「名前が書けるまで一緒に勉強しましょう」

ヨンスンは泣きながら何度も頷きました

ジングクはヨンスンを元気づけるために自転車に乗せてあげます

 


ジングク:

「ヨンスンさん、乗ってみます?さあ」

「”オーライ”って言ってください」

ヨンスン:「オーライ(か細い声で)」

ジングク:「オーライってもっと元気よく!」

ヨンスン:「オーライ(か細い声で)」

ジングク:「だめだめ」

ヨンスン:「オーライ(大きな声で)」

ジングク:「さあ、行きますよ!」


 

 

 

6.父と母、先生と生徒

 

ジングクとヨンスンだけの字の学校が始まりました

ジングク先生とのテストのために、ナヨンもヨンスンを手伝ってあげます

お気に入りの赤い服にさらに口紅を塗って、ヨンスンは授業を受けます

最初は20点でしたが、ジングクはヨンスンを励まします

ヨンスンは毎夜、一生懸命に勉強して80点を取ります

ヨンスンはナヨンに楽しそうに話します

 


ヨンスン:

「お姉さんなら見せてもいいか」

「お姉さんだから、見せちゃおう」


 

”80点よくできました”と答案に書かれていました

 


ヨンスン:

「知ってるでしょ、テストは難しいわ」

「”大変よくできました”は初めて」

ナヨン:

「喜んだでしょ」

「キム・ジングクさん」

ヨンスン:

「いいえ、彼はただの先生よ」

「私がかわいそうで、字も教えてくれて、これも買ってくれて」

「いろんなこと知ってるの」

「字もきれいだし、私は足元にも及ばない」

ナヨン:「いい人でしょ?」

ヨンスン:

「もちろん、いい人です」

「すごく、いい人よ」

ナヨン:「優しいよね、だから余計につらい」

ヨンスン:「えっ?」

ナヨン:「いいえ、ただ...」

ヨンスン:「なぜ、いつも途中で黙るの?」

ナヨン:「優しいばかりに周りをつらくさせることもあるかなって」

ヨンスン:

「お姉さん、妙なこと言うね」

「優しくて何が悪いの?」

ナヨン:

「あの人のことじゃないの」

「私の知ってる違う人のことなの」

「違う人なの」

ヨンスン:

「もういいです」

「お姉さん、間違ってますよ」

「誰の話かわからないけど、人はまず、優しくなきゃ」


 

お母さんから、間違っているの否定されるところがいいですね

お母さんは優しいところが欠点だなんて思っていないんですね。

大人のヨンスンもジングクに悪態はつくけど、つらいなんて事は一度も言ったことないんですね

娘はお母さんの心の中をこの時に知るんですね

そして生徒と先生の楽しい時間を二人は過ごします

ヨンスンの天真爛漫な明るさにジングクもだんだん引かれていきます

字がだんだん上達していくヨンスン

 

 

 

7.別れは突然に

 

いつもより、元気がないジングク

ある日、ジングクは自分が転勤になったとヨンスンに告げます

ジングクは音読しながら、

 


ヨンスン:

「6番、ヨンスンはいい子でかわいいです」

「恋しくなるでしょう」

「あの...転勤するんです、本土に」

「一人で勉強がんばれますね?」

(人魚姫という本とこれからの勉強道具を持ってきて)

「これを読むのを聞きたかったのに...」

「必ず勉強を終えて、読むんですよ」

ヨンスン:

「いつですか?」

「すぐですか?」

ジングク:「ええ」

ヨンスン:「わかりました」


 

ヨンスンは自宅の寝床でうずくまってすすり泣きます

どうしようもできず、うつむき、ため息をつくナヨン

ヨンスンは村でジングクを見かけても涙が止まりません

それから二人は疎遠になります

ジングクとの別れが耐えられないヨンスン

ヨンスンは悲しみを忘れようと一心不乱に働いて、素潜りします

息継ぎを忘れてしまい、ヨンスンは海中から浮かんで来ません

ヨンスンは海で溺れてしまいます

ナヨンは”お母さん!お母さん!”と悲痛に叫びます

必死に看病するジングク

奇跡の水と村に伝わる水を海からせっせとヨンスンのために運びます

そんなジングクをナヨンは見つめます

前にお父さんの優しさがつらいと言ったナヨンでしたが、ジングクの必死の看病にナヨンも心打たれたます

お父さんがはこんなにお母さんのことが好きだったんだと思ったはずです

ナヨンもまたヨンスンの手を握り、髪を撫で、必死に看病します

意識を取り戻したヨンスン

 

 

8.母の真実な心の中を知る

 

 


ヨンスン:「こんなことで寝込んでちゃだめね」

ナヨン:「眠ってください」

ヨンスン:「ありがとうお姉さん」

ナヨン:

「ナヨンと読んでください」

「その方が気楽です」

ヨンスン:

「夢で母親に会ったわ」

「私、拾われてきたの」

「初めは知らなくて、おばさんたちの話でわかったの」

「最初は驚いたわ」

「たまに、空しくてやるせなくなって、すごく寂しくなるのは、そのせいだって思った」

「捨て子だったからなんだと思った」

「そう思ってたけど、そうじゃなかった」

「会いたかったからなの、母さんが恋しくて」

「私ね、今度生まれ変わるときはね」

「お母さんと別れたくない」

「海にも潜りたくないし、他の子たちみたいに、学校にも通って」

「ありがとう、お姉さん」

「本当にありがとう」


 

そう言って、ヨンスンはナヨンの膝に泣きつきました

ナヨンはこんなに弱いお母さんを見たのは初めてだったのではないでしょうか?

”今度生まれ変わったら”なんて、とても悲しいことを口にしました

 


ナヨン:

「私の母さんは垢すり屋さん」

「毎日、人の垢をすってお金をもらうの」

「1人1万ウォン、10人だと10万ウォン」

「母さんにはお金が一番大事なの」

「口も悪いわ」

「恥知らずだし」

「父さんにもつらく当たる」

「それが私の母親」

「私、母親が嫌いなの」

「母さんみたいな生き方は絶対しない」

「何度も、何度もそう誓ったわ」

「なのに、どうしてかな」

「母さんが哀れで、母さんが可愛そうで、何度も母さんを思い出す」

「こうして見てるのに、何度も母さんを思い出す」

「子供は、親の弱さを知った時、必ず成長するものですね」


 

ナヨンは、この時、母親の本当の寂しさを知りました。

生まれ変わったら、母のそばを離れたくないと言うヨンスンの思いを叶えてあげたいと思ったのではないでしょうか

自分が母親のそばにずっといることで

年を取った親は我が子のようにあつかえと言いますが、ナヨンは成長したのだと思います

 

 

9.ジングクへの手紙

 

ナヨンは机の上のヨンスンの手紙を見つけます

ジングクは島を去ってしまいましたが、ヨンスンは覚えたての字で必死にジングクへ手紙を書きました

ヨンスンは勇気がなくて、手紙を出せないのかもしれません

 


ヨンスン:

「私は元気です」

「ご飯もよく食べて、今日は海にも潜りました」

「字を教えてくれてありがとう」

「帳面と鉛筆と消しゴムを買ってくれたこと、感謝しています」

「あの時、言えなかったことがあります」

「とても会いたいです」


 

涙して読んだナヨンは黙ってポストに投函します

郵便局の前で、ナヨンは悩みが晴れたかのように、笑顔を浮かべました

 

 

 

10.ナヨン、戻る。父との再会

 

すると、中年の男の声がどこからか聞こえて来ます

 


中年の男:

「♪ 恋人(ニム)という字に点を打ちゃ、他人(ナム)という字になっちまう」

「♪ おかしな人生さ...」


 

釣り道具を持った、現代のヨンホでした

どうやら、父親もこの済州島に来ていて、ナヨンがタイムスリップしている間、何日か経っていたみたいです

 


ナヨン:「お父さんはどこ?」

叔父:「あの丘だよ」


 

それはジングクがいつも素潜りしているヨンスクを見つめていた丘でした

丘を見ると若いジングクが海を見つめていて、ナヨンを見た瞬間に、現代のお父さんに変わりました

 


ナヨン:「やっときた場所がここ?」

父親:

「そうだな」

「なぜ、行かなかった?いい機会だったのに」

ナヨン:「そうよね」


 

ナヨンは、父のところに来るように母に連絡します

一度は断られますが、ドヒョンに連れてきてもらいます

真っ赤なコートを着て、フェリーの中で海を見つめながら物思いにふけるお母さん

島に着き、お母さんはドヒョンに話しかけます

 


母親:「バイク便屋だって?」

ドヒョン:「はい」

母親:「ご両親は何を?」

ドヒョン:「いません」

母親:「いつ?」

ドヒョン:「あの、幼い頃です」


 

それを聞いた途端、ヨンスンはドヒョンの顔を優しく見つめます

 


母親:「2人とも?」

ドヒョン:「はい」

母親:

「結婚するのは大変だね」

「ナヨンが好きなら、たくさん稼ぎな」

ドヒョン:「はい」

母親:「お前たちに何が分かる」


 

いやいやながらも、お母さんはお父さんに会いにいきます

父が寝ている布団が、郵便屋の赤と緑の柄なんですね

ナヨンはそっと二人だけにして、部屋を出てあげます

 


父親:「すまないな、わしのせいで」

母親:

「”すまない、すまない”ばかりもう言わないで」

「”すまない”?」

「あんなことしておいて、何だいその有様は」

「人並みの贅沢もしてないし、人様みたいな息子もいないんだ」

「ねばりにねばって、人より長生きしなきゃ」

「それなのに、何も手に入れないで死ぬの?」

「そんな姿見たくないんだよ」

「私の小言をがまんし続けたのに」


 

二人の会話を聞いて、ナヨンは涙を流します

済州島の故郷には雪が散っていました

そして、少し経ってお父さんは亡くなりました

 

11.父との思い出

 

ナヨンは子供ができ、おじいちゃん、おばあちゃんのアルバムを見せます

村に新しいバスが来た時の記念写真です

バスの片隅に写るジングク

ナヨンは笑っているかが気になり、お母さんに電話します

 


母親:「もしもし、何だい?」

ナヨン:

「母さんの昔の写真で、村の人とバスで撮ったのあるでしょ?」

「覚えてる?」

母親:「それで?」

ナヨン:「お父さんは写ってるでしょうか?」

母親:

「バカな子だね、それで電話したのかい」

「忙しいんだよ」

「写ってるとも」

「ちゃんと写ればいいのに、隅の方に泥棒ネコみたいに」

ナヨン:「知ってたんだ」

母親:「くだらないね、切るよ」

ナヨン:

「母さん、ちょっと待って」

「父さん、笑ってる?」

母親:

「バカな子だ、忙しいんだよ」

「え?笑ってるさ」

「好きで写ったんだ、泣くもんか」

「忙しいんだ、切るよ」

ナヨン:「母さん、待ってよ」

母親:「何なの、また」

ナヨン:「怒鳴らないでよ」

母親:「まったく、お前のせいだよ」

ナヨン:

「今日は早く帰って来て」

「父さんの命日よ、ね?」

母親:「なんてバカな子」


 

ナヨンは母親に負けないくらいしつこく食い下がってます

お母さんに甘えるように

お父さんは優しすぎて、お母さんに言い返せず、言われっぱなしですが、ナヨンは母親に似たのか、決して負けません

ギスギス聞こえるのは、表面だけですね

たぶん、お父さんは聞き流していたんだと思います

こういう形もありだと思います

でなけりゃ、長年連れ添わないと思います

そして、お母さんは明るく、お金を求めて、垢すり屋さんしています

ラストのシーンでもう一度、あのバスの記念撮影が映し出されます

ジングクはバスの後ろから自転車を降り、ヨンスンを見つけると、ほくそ笑んで、写真撮影に加わります

チーズの時でもじっとしていられないヨンスンは、ジングクを必死に探します

写真を撮った後、お互い見つけ、笑顔で見つめ合いました

ジングクが去る自転車の後ろを、ヨンスンは優しく見送ります

垢すりを終えて、銭湯の中でゆったりするお母さん

昔のバス撮影を思い出しながら笑顔で独り言をつぶやきます

 

 

母親:

「バカな娘だよ」

「泣くわけないだろう」

 

 

そう言って、笑顔でもぐり始めます

娘からお母さんへ昔の思い出をプレゼントしたんですね

 

 

12.おわりに

 

この作品は映画的に視覚に訴える所がたくさんあるのが特徴です

特に赤

郵便屋さんの自転車の色

布団の柄

素潜り漁の浮き輪の色

字をジングクに教わる時はいつもお気に入りの赤い服を着ていました

年を取って垢すり屋で働く時にも、サッカー代表の応援Tシャツbe the Redsを着ています

済州島に向かう飛行機の座席も赤色でした

ヨンスンが済州島へジングクに会いに行く時は赤のコート

ヨンスンの恋心を表しているのと、現代の暮らしとの対比に使われています

あと、ナヨンのニュージーランドと済州島の映像対比

現代のグレーや青と対比した故郷の赤

現代の都会の貧しい暮らしと若い時代の済州島の鮮やかな海と植物の対比

弟ヨンホの明るくテンポのいい感じ

いい意味で悪ガキで、故郷のいい時代感を作ってくれています

大事な字の練習帳をちぎって、メンコをつくったり、チヂミを急いで食べて、口の周りが小麦粉だらけだったり

そして、よく食事のシーンが出てきますが、それが、生活感が出ていいんですね

登場人物の素の表情や本心がくっきり現れますね

ヨンスンは麺を口いっぱい入れて食べたり、ケジャンという蟹キムチが足りないと言って怒ったりしています

若いジングクはヨンスンに麺を分けて、その食べっぷりを見て、笑います

ヨンスンがまだ素潜りしたくて、銭湯の垢すり屋をしているところなんか、可愛くていいですね

昔みたいに素潜りが出来る職業をちゃんと選んでいます

ユーモアですね

若い時のタンスをナヨンにあげてるのがあとになってわかりますが、そういう演出もいいですね

最終でナヨンがヨンスンに電話をかけるのですが、それがまた、とてもヨンスンに甘える感じで、何度も何度も質問します

若いヨンスンに出会う前のシーンとは逆でヨンスンの電話責めをとても嫌がっていました

この逆転劇もなかなかいいですね

ナヨンはお母さん、お父さんを理解できていませんでした

生い立ち、馴れ初め、環境を知ります

子供は親の影響をたくさん受けて育ちます

しだいに周りの親と見比べて、自分の親がどういうふうなのか客観的にわかってしまいます

でも、親のすべてを見たわけではありません

心の中は覗けません

過ごしてきた若い時はわかりません

知らないことだらけです

今の親を見て、幻滅しないことです

親にも親がいて、兄弟がいて、友人がいます

歴史があります

いいものも悪いものも

そういうことが積み重なって人格が形成されています

親は完璧ではありませんし、理想的ではありません

寂しさに堪えながら、誰かに依存しながら、誰かと競争しながら、喧嘩しながら、時には自分を犠牲にしながら生きてきました

なので、子供や配偶者や周りに愛情が足りなかったりするかもしれません

親も子供みたいなものでしょう

誰かに頼りたいし、甘えたいのです

大人になると甘えにくいし、甘えさせてくれにくいのです

だから、その手段がいびつに変化して、攻撃的になったり、無気力状態になったりします

でもそんな両親をリスペクトしましょう、許しましょう、認めましょう、あなたの身近な人の歩いてきた道を

ささやかでもいっしょに食事をして、できるだけじっくり話を聞いてあげましょう

それでは、次の作品まで

さよなら

 

 

 


『イン・アメリカ』~映画史上いちばん美しいシーンがあります~

2023-09-12 06:37:11 | 日記

『イン・アメリカ』

 

 

 

1.観てもらいたい人は

 

この作品は、特に親しい人を失った人、生活が苦しい家庭、頑張っているお父さん、お母さんそんな方々に見てほしいです

すべてが上手くいっている幸せな家庭はほとんど無いと思います

皆さん何かしら問題を抱えていると思います

別離、病気、お金、教育、夫婦関係、恋愛、進路、将来、介護、転勤、価値観、地域、学校、職場等いろいろな問題があると思います

作品のサリヴァン家族は特に家族との別離、失業、見知らぬ場所での生活、貧困、出産という問題に苦しんでいます

あなたの問題は何でしょうか?

このサリヴァン一家の生き方を見て、感じるものがあると思います

彼らの成長を見て、考える事があると思います

家族とどう向き合えばいいのだろうと発見することがあると思います

苦しいけれど、子供の成長が見れた時、幸せな瞬間だなと’思います

頑張ってきてよかったなあ、家族がいっしょにいるってありがたいなと思うと思います

では、物語に入りましょう

 

 

2.アメリカに希望を抱いて

 

登場人物たち、サリヴァン一家は4人(5、6人)の家族です

()の人数は、物語が進むに連れて、分かってきます

舞台は現代のアメリカ、ニューヨークの貧困街です

アメリカとカナダ国境付近で、女の子が語りながら、ビデオカメラで撮影しています

最初は小さな光のような、木漏れ日のようなものが映し出されて、その光はだんだん大きくなって、たなびく星条旗が映し出されます

とても希望に満ち溢れている感じです

やさしい光と風を感じさせてくれます

冒頭のシーンは、アイルランドからやって来た移民のサリヴァン家族がアメリカ国境のゲートで入国審査を受けている所です

若い夫婦の夫ジョニー、妻サラ、10才くらいのお姉ちゃんクリスティ、5才くらいの妹アリエルです

ジョニーは売れない舞台俳優なんです

それで失業して、アメリカに一家でやってくるんです

古いワゴン自動車に荷物を乗せてやってきました

 

 

3.お願い、アメリカに入国させて!

 

入国審査官に入国の目的を聞かれます

幼いアリエルはパパが失業しちゃったからと正直に言ってしまうんです

慌てて、サラが「バカンスです」と訂正します

怪しんだ審査官はもう一人の審査官を呼びました

つづけて審査官は質問します

 


審査官:「何人で?」

ジョニー:「5人だ」


 

ジョニーは間違えて言ってしまいます

実は、末っ子の男の子を亡くしているんです

ジョニーの心の中にはまだいるんです

ジョニーもサラもどことなく気持ちが上の空なんですね

この冒頭シーンがとても上手いんです

映画『チャップリンの移民』の中で、船でやってきた移民たちが、自由の女神像を見て、「これでぼくらは自由だ」と叫んで喜ぶんです

ですが、入国したとたん、審査官が鎖で入国を封鎖するというシーンがありました

すごい皮肉が効いています

そんなアメリカン・ドリームと厳しい現実とが対比したシーンがこの『イン・アメリカ』の中にもあります

よそ者への冷たさと一家の温かさとこれから引き起こす問題をそれとなく表現しています

審査官はこの家族を入国させるかを考えています

実は、お姉ちゃんのクリスティは3つの願い事を叶えることができるんです

アラビアの魔法のランプみたいで、詩的で面白いんですね

クリスティは、両親のあの自信無げな話し方じゃ入国できないと心配します

クリスティは、一家の未来がこの入国手続きにかかっていることを分かっているんですね

彼女は心の中で願い事を言います

 


クリスティの心の中:「無事に入国させて、フランキー!」


 

審査官は不信感を顔に出しながらも、姉妹のかわいさに触れて、入国を許可します

 

 

4.初めてのアメリカ、ニューヨーク

 

クリスティは愛用のビデオカメラを持って色々と撮影しているんですね

作品の中にクリスティのホームビデオの映像がちらほら流れます

初めて見るニューヨークの電飾看板、高層ビル、人混み、フリスビーを投げて遊ぶ家族

お父さんは俳優なので、姉妹と遊ぶときは、ゾンビになったり、誘拐犯になったり、強盗で人質を取ったりし子供を楽しませるいいお父さんです

このクリスティのホームビデオが温かな雰囲気をいっそう醸し出しています

アリエルは無邪気にニューヨークの歩いている人に手を振ります

さて、ニューヨークでアパートを借りますが、この家族はお金をあまり持っていないんです

治安の悪いところの古いアパートしか借りることができません

アリエルがエレベーターを見つけ、はしゃぎます

ですが、このアパートのエレベーターは昔に壊れていて、階段しか使えません

上の階から男が叫んだりしていて、いかにも治安が悪そうなんです

ボロボロの階段と手すりと壁を、カメラは鉄のフェンス越しから写します

アリエル:「なぜ、あの人は叫んでるの?」クリスティ:「幽霊を見たのよ」

何個もの厳重な鍵を開けて、一家は新居にたどり着きます

新居の部屋に入るとそこにはたくさんの鳩が住んでいました

 


アリエル:「この鳩飼ってもいい?」


 

無邪気にお父さんに言います

全然、悲壮感が漂わない所がいいですね

クリスティは両親の様子を気にしながら、部屋を撮影しています

 


ジョニー:「ひどい所だ」

サラ:「修理すれば住めるわ」

ジョニー:「その費用がどこにある?家賃の工面も大変だ」

サラ:「車を売ればいいわ」


 

ジョニーとサラで改装を始めます

その間クリスティとアリエルはスケートしながら楽しくみんなで我が家を作ります

「うるさい!アイルランド人!」なんて近所に言われながらも頑張ります

日本の映画のように「こんなに貧しいんだ。悲しいんだ。苦労しているんだ。」みたいな押し付けな所がないんですね。

悲しみもユーモアを混ぜて、楽しくさせているんです

 

 

5.悪戦苦闘!ニューヨークの猛暑

 

サラは教師なんですが、近くには職がなく、しかたなくアイスクリーム屋で働きます

ジョニーはオーディションを受けてまわるのですが、英国訛りがあり、なかなか受かりません

季節は夏、猛暑なんですね

ジョニーはオーディションの練習をしながら、姉妹の面倒を見ています

でもなかなか集中できなくて、シャワーに長く居すぎたアリエルは熱を出してしまいます

 


アリエル:「足がプルーンみたいになって力が入らないよ」


 

とてもかわいい表現ですね

サラはあまりの暑さで階段の途中で休憩を取ります

それを見たジョニーは一念発起して中古のエアコンを買います

50キロくらいのエアコンを汗だくになりながら、担いで5階の家まで運びます

さあやっと家族が涼めると思ってプラグを挿そうと思ったら、形が違うんですね

がっかりして、プラグを買いにいくんですが、24セントお金が足りません

たった24セントですが店主はマケてくれないんですね、よそ者ですから

サラのアイデアでジョニーは空き瓶を売って、プラグを手にいれます

 


ジョニー:「これで2ドルだ、ミスター・アメリカン・ドリーム!」


 

と店主に言い放ちます

ジョニーは家族のために一生懸命ですね

コンセントにプラグを挿し、エアコンからは待望の冷風が出てきて、皆で涼みます

ですが、エアコンがショートしてアパート中のブレーカーが落ちちゃうんです

やけになったジョニーは預金を下ろして家族を連れて涼しい映画館に映画を見に行きます

その映画は『E.T』でした

アリエルは月に自転車で帰っていくE.Tを見ます

 


アリエル:「天国に行くの?フランキーと同じね」


 

 

 

6.亡き息子を幻影を追って

 

フランキーって言うのは、数年前に亡くなった末っ子の男の子です

かわいそうに階段から落ちて、腫瘍が出来て亡くなっちゃうんです

家族はフランキーのことが忘れられないままで暮らしています

ジョニーが子どもたちと遊んでいます

ジョニーはゾンビのマネをして、姉妹を襲う遊びをしている途中、急に悲しみがやってくるんですね

涙が出てきて、フランキーを思い出しちゃって、もう遊べないんです

遊びを止めてしまったお父さんのことを姉妹はちゃんとわかっています

アリエルもクリスティもうつむいてしまいました

 


サラ:「どうしたの?続けて」

ジョニー:「あの子はどこだ?フランキーはどこだ?」

サラ:

「遊びを続けて、ジョニー」

「演技だと思って、お願い!」


 

ジョニーは悲しみを押し殺して遊びを続けます

みんな寂しいんですね

サラもまた、フランキーのことが忘れられません

夫婦の会話の中で

 


サラ:

「あなたの目がフランキーに似ているから、ちゃんと見ることが出来ないわ」

「私を責めてるのね、階段からフランキーが落ちた時、抱きかかえられなかったことを」


 

でも、こんなに貧乏で、家族が死んで悲しくても、この作品はユーモラスなシーンを織り交ぜて、温かさを演出しています

やがて、慣れないニューヨークでも、姉妹はどんどん成長し、ニューヨークの環境になじんでいきます

アイスクリーム屋の同僚マリナが仲良くしてくれて、姉妹を預かってくれたりするんですね

 

 

7.初体験のハロウィン、マテオとの出会い

 

熱波の夏が過ぎ、落ち葉が道路を埋め尽くす秋が来ます

季節感を出して、観客に時の経過を思わせ、家族が続けている頑張りとこの家族どうなったのだろうと思わせる演出がうまいですね

アイルランド人のこの一家はカトリック教徒なので、両親は子供をカトリックの学校に行かせます

そのためにジョニーは夜、タクシー運転手のアルバイトをします

立派な立派なカトリック学校の服をクリスティとアリエルに着せてあげるジョニーとサラ

必死に働くことが、子供の幸せに繋がっていると感じる綺麗なシーンです

僕たちも子供の晴れ姿に日頃の疲れや苦労なんか吹っ飛びますよね

ついこの前まで、移民としてアメリカにやって来た姉妹たち

アメリカ国歌が流れ、アリエルは国歌に忠誠を誓うセリフを言います

 


アリエル:「なぜ、『ホセ』のことを歌うの?」

クリスティ:「聞き違いよ。『ホセ』じゃない。『皆の者』(オーセイ)よ」


 

二人はアメリカという国にすっかり馴染み、しっかり育っています

すり足で落ち葉の絨毯を歩くアリエル

昼寝をしているジョニーにクリスティは食事をつくってあげます

やがてハロウィン祭がやってきます

ハロウィンをはじめてアメリカで体験するクリスティとアリエル

手作りの衣装を来て、近所にお菓子をねだりに行きます

でも、住んでいる所の治安がとても悪いんですね

 


サラ:「周りに住んでるのはジャンキーか女装オカマしかいないわ」


 

皆どこも警戒してドアを開けてくれません

とても残念そうなクリスティとアリエル

そこに、ドアに「入ってくるな!」と粗暴なペンキの字で描いてある家がありました

クリスティとアリエルは怖がりながらも、必死にドアを叩きます

 


クリスティ&アリエル:「トリック オア トリート!トリック オア トリート!」


 

ここは、マテオという絵描きの男の家でした

部屋の暗所で写真の現像をしていたマテオ

サリヴァン一家が来た時から、部屋の中でわめき散らして叫んだり、部屋中の物を投げる凶暴な男です

 


マテオ:「誰だ!」

クリスティ:「部屋に誰かいる!」

マテオ:「麻薬なんかないぞ!」

アリエル:「もう一度ノックをしよう」

マテオ:

「失せろ!」

「何の用だ!」


 

マテオはドアを開けて、凶暴に言います

アリエルは驚き怖がりながらも、勇気を振り絞ってお菓子をねだります

 


アリエル:「こんにちは、トリック オア トリート!」

マテオ:「上の階の子か?」

クリスティ:「そうよ」

マテオ:「ハロウィンか!」「故郷は?」

クリスティ:「アイルランドよ」

マテオ:「お菓子をねだりにアメリカに?」

クリスティ:「そうよ」

マテオ:「お入り」


 

マテオは自分の家にクリスティとアリエルを招き入れます

マテオは玄関のドアを閉める時に、周りに誰か居ないか確認します

不安を呼び起こす効果音が入っています

このシーンは意地悪ですね

ホントに入って大丈夫なの?って観客に思わせていますね

様子を見ていた、ジョニーとサラ

マテオとサラは目が合います

マテオは大丈夫だよとジェスチャーします

 


ジョニー:「大丈夫か?あの男」

サラ:「心配ないわよ」


 

家に招き入れられたクリスティとアリエル

部屋の中は絵と画材だらけです

 


アリエル:「名前は何でいうの?」

マテオ:「マテオだよ」

アリエル:「私はアリエルよ」

クリスティ:「私はクリスティ」

アリエル:「この絵は何?お化け屋敷みたい」


 

輪郭が黒くて太い暗い絵です

 


マテオ:

「お化けは出るが怖くないよ」

「魔法の家だ」

アリエル:「フランキーも魔法を信じてた」

マテオ:「誰のことだい?」

アリエル:

「弟よ。でも死んだの」

「2歳の時、階段から落ちて」

クリスティ:

「助かったと思ったけど、脳の中に何かができて」

「それが脳腫瘍で3年間大きくなり続けた」

「悪性だったの」


 

なんと、マテオはフランキーの話に涙を流して泣きます

マテオの肩に手を寄せるアリエル

 


アリエル:

「泣いてるの?」

「いいの。彼は天国へ行ったから」


 

マテオはアリエルを優しく抱きかかえます

 


マテオ:「何かプレゼントをあげなきゃね」


 

マテオは冷蔵庫を開けます

そこには大量の薬がありました

しまった!と思ったマテオはすぐに閉めてクリスティと顔を合わせます

 


マテオ:

「何もない。何もない。何もない。」

「あったぞ、これはどうだ?」

「マテオのお宝だ」


 

小瓶に貯めていた小銭を見つけました

 


クリスティ:「悪いわ」

マテオ:「いいんだ。入ってきた幸運の天使は追い返せない」


 

そして、小瓶に貯めていた小銭をクリスティにプレゼントし、「ハッピー・ハロウィン!」と言って姉妹と仲良くなりました

この瞬間、マテオの心が救われたのだと思います

マテオは人との関わりがほしかったのですね

ジョニーとサラは、マテオを夕食に招待します

食べた食事の中に金貨を見つけたマテオ

 


アリエル:「おめでとうマテオ!幸運の印よ!すごい!お金持ちになるのよ」


 

パンを食べたマテオはまたその中に指輪を見つけました

 


クリスティ:「おめでとう!結婚するのよ」


 

マテオと姉妹たちはとても仲良しになりました

 

 

8.サリヴァン一家に赤ちゃんが!

 

マテオはお腹に子を宿した母の絵を描いていました

ジョニーとサラはお腹に子供を授かっていました

 


マテオ:「すべて上手くいくよ。お腹の子供が君たちに幸運をもたらしてくれるよ」


 

実はお腹の赤ちゃんがあまり動かないんです

病院での検診の時、ジョニーとサラは産婦人科医に告げられます

このまま赤ちゃんを産めば、母親の命の保証はない

サラはクリスティとアリエルに話します

 


サラ:「あなたたちもロバのように昼も夜も蹴ったのよ」


 

クリスティはビデオカメラで撮影します

不安そうなジョニーの顔と後ろの家族のスケッチを写します

スケッチには『フランキー』と書いてありました

このビデオカメラの映像を通して、クリスティの意識や気持ちも乗せているんですね

クリスティはサラとジョニーをとても心配しています

ジョニーは悲しくてお腹の中の赤ちゃんが蹴ったと嘘をつけませんでした

サラの命が心配なジョニーは赤ちゃんを産もうとするサラと口論になります

そして堪らず家を飛び出したジョニーは、マテオに八つ当たりしてしまいます

 


ジョニー:「お腹の子が幸運をもたらすなんて、適当なこと言いやがって!」

マテオ:「君は信じていないんだ」

ジョニー:

「何を?神か?」

「俺はあの時祈った。『あの子の代わりにおれの命を』と」

「でも神は両方を奪った。」

「今の俺は肉体だけ。俺はゴーストだ。存在していない」

「何も考えられず、笑いも泣きもできず、感じることもできない!」

「そういう俺になってみたいか?」

マテオ:

「君と代われるなら」

「それでも、俺はお腹の子を愛してる。君のことも愛してる。美しい奥さんと娘たちを愛している。君の怒りも愛している。命あるすべてのものを愛している」


 

マテオは心の底からジョニーたちを愛していたんですね

そこでジョニーはマテオの命が長くないことを知ります

ある日ジョニーはサラに言います

 


ジョニー:「ずっと怖かった。もうだめだ。もう誤魔化しきれない」

サラ:

「生きることが幻想みたい。この暮らし、息をしているのも幻想みたい。」

「でも子どもたちのために幸せを装って。」


 

ある日、男が演劇のセリフを練習していました

 


男:「忍苦の冬がやっと去り、ヨーク家の太陽が輝く夏をもたらす。一族の上に垂れ込めていた暗雲はリュートに合わせて踊っている」


 

 

 

9.ジョニーの葛藤

 

そんな折、マテオが階段で倒れ、アリエルとクリスティが駆けつけます

 


アリエル:「レモンのドロップよ。なめると魔法のように治るの」

マテオ:

「本当かい?」

「んー。俺も助かったようだ。」


 

冬になり、クリスティのホームビデオには雪で遊ぶ家族とマテオが写っています

雪をジョニーに投げつけるマテオの楽しそうな笑顔に癒やされます

マテオは最後にいい思い出を残そうとしているのでしょうか?

疲れて息が切れるマテオにジョニーは寄り添います

 


マテオ:「フランキーの話をしてくれるかい?」

ジョニー:「勇者だった。」

マテオ:「マサラ、マッセーラ」

ジョニー:「どういう意味だ?」

マテオ:「恐れず、対岸を渡る者」

ジョニー:「何の対岸だ?」

マテオ:「この世界...」


 

マテオはどんどん病状が悪くなります

ある日、マテオのお見舞いに行ったサリヴァン一家

心配そうなアリエルを見て、マテオはアリエルを手招きして呼び寄せます

 


マテオ:「秘密を言うけど、誰にも言わないと約束できる?」

アリエル:「ええ、言わないわ」

マテオ:

「俺はエイリアンなんだ。E.T.のようにね。」

「別の惑星から来て、地球の空気が肌に合わないんだ。」

「気温も俺には暑すぎる」アリエル:「E.T.のように帰るの?」

マテオ:「そう、お家に帰る」

アリエル:「いつ?」

マテオ:「もうすぐ」

アリエル:「私にサヨナラを言う?」

マテオ:「言うよ」アリエル:「約束して」

マテオ:「ああ、約束する」

アリエル:「赤ちゃんが生まれるの。何かいい名前ある?あなたの名前をつけるわ。」


 

いよいよ出産の日が近づいてきました

病院の事務員は、「金曜日には5000ドル払ってください」と言います

アリエルが心配します

 


アリエル:「入院費って高いんでしょ?」

クリスティ:「ビデオカメラ売る?」

ジョニー:

「まさか、売るもんか」

「そんな心配するな。パパが何とかするよ」


 

何とも健気ないい子どもたちです

就寝の時に

 


アリエル:「お祈りは?」

クリスティ:「私が言うわ」

アリエル:「パパ、ひざまずいて」

ジョニー:「パパはひざまずかない」

アリエル:「ママはひざまずくわよ」

ジョニー:「パパは違う」


 

ジョニーはフランキーが死んでから、神を憎み続けているんですね

ジョニーにはいつも心の平穏がありませんでした

 

 

 

10.サラの思い

 

そしてついにサラが赤ちゃんを産む時が来ました

難産の末、赤ちゃんは生まれました

しかし赤ちゃんには輸血が必要な危険な状況でした

看護婦はすぐに赤ちゃんを集中治療室に連れていきました

出産後のサラは興奮し情緒不安定でした

サラはパニックのあまり、なだめるジョニーにひどいことを言ってしまいます

 


サラ:

「輸血の血は汚染されているってマテオが言ってたわ」

「悪い血をやらないで」

「悪い血を輸血したから、フランキーは死んだのよ」

ジョニー:「新しい赤ちゃんだよ」

サラ:

「柵を越えようとして落ちた。」

「なぜあんな柵をしたの?」

「私の赤ちゃんを奪わないで!」

「あの子はどこ?フランキーよ」

ジョニー:「あの子はもういない」

サラ:

「あの子があの柵を越えた。あなたのせいよ。柵を立てたから。」

「あの子はどこ?」

「私のフランキーは?」

ジョニー:「落ち着くんだ、サラ」

サラ:

「あなたのせいで階段から落ちた。なぜ柵を外さなかったの?」

「お願いだから、赤ちゃんに合わせて。私から取り上げないで」

ジョニー:「取り上げないよ」

サラ:「赤ちゃんを死なせないで」

ジョニー:「約束する」

サラ:「もし死んだら、私も死なせて」


 

サラは今まで必死に堪えてきたんですね

出産で押し殺してきた気持ちをで一気に吐き出してしまいました

それがよく分かるシーンです

 

 

 

11.クリスティの思い

 

クリスティが赤ちゃんの輸血の血を提供をすると言いました

よく言ってくれたとクリスティを褒めるジョニーにクリスティは言います

 


クリスティ:

「私を子供扱いしないで。フランキーが死んでから1年、私が家族を支えてたのよ。」

「私の弟だった」

「なぜか弟は死んで、私は生きている」

「ママは息子を亡くして泣いた。だけど弟だもの私も泣いたわ。独りの時に。」

「毎晩フランキーに話しかけた。」

アリエル:「本当よ」

クリスティ:「毎晩話しかけたけど、本当は自分にだったの」


 

クリスティも辛かったんですね

彼女も気持ちを押し殺していました

クリスティはみんなで乗り越える覚悟を人一倍持っていました

日本の映画で『ふたり』という作品があります

しっかり者で我慢強いお姉ちゃんと自由奔放な妹

周りの人は自由奔放な危なっかしい妹の方をとても心配するのですが、

実はしっかりものの姉の方が色々な悩みを溜め込んでいたんですね

姉の死後、それが分かってくるんです

クリスティもそんなお姉ちゃんです

 

 

12.マテオと赤ちゃん

 

ジョニーはマテオの病室にやって来ました

昏睡状態のマテオが眠っています

 


ジョニー:

「息子が死んだ時、俺は神を呪い二度と涙など流さないと誓った」

「だからもう泣けない」

「でもここへ来たら、君が目覚め、手を握ってくれて泣けるかと」

「そうすりゃ赤ん坊は助かりすべてが良くなる」

「頼みは奇跡だけだ」


 

ジョニーは神を信じないけれど、マテオには心を許しているんですね

家族には弱さを見せたくないつらいジョニーの気持ちがわかります

『イン・アメリカ』の登場人物は堰を切ったように心の中の感情が発露します

イングマール・ベルイマン監督の『秋のソナタ』のようです

苦しみか、うなされているのか、聖なる言葉かをマテオは口にします

すると、先程まで身動きしなかった赤ちゃんが元気に泣き出しました

赤ちゃんが元気になったのを待っていたかのように、マテオは亡くなりました

この作品ではマテオは生まれてくる赤ちゃんの身代わりなんですね

サリヴァン一家にお礼のプレゼントを渡すかのように旅立って行きました

病院の治療費は300万ドルまで膨れ上がっていました

しかし、何とマテオが全額支払っていました

赤ちゃんはマテオ・サリヴァンと名付けられました

 


アリエル:「約束したのに。サヨナラを言わななかった」


 

アリエルはマテオが死ぬ時にさよなら言ってくれるって約束したのにと悲しみます

赤ちゃんの退院パーティーが開かれましたが、アリエルだけは寂しそうでした

 

 

 

 

13.悲しみを乗り越えるサリヴァン一家

 

ニューヨークのきれいな夜景を見ながらクリスティとジョニーは話します

 


ジョニー:「空に何が見える?」

クリスティ:「満月よ」

ジョニー:「他には?」

クリスティ:「お星さまかな」

ジョニー:

「マテオは見えない?」

「自転車で月の前を横切って、サヨナラを言いながら手を振ってる」

「アリエルに教えよう」

クリスティ:「アリエル!見て。マテオが自転車で月の前を横切っているわ」

アリエル:「どこ?」

ジョニー:「お前に手を振ってる」

アリエル:「嘘!」

ジョニー:「あそこだよ!」

クリスティ:「月の前を飛んでるわ。見えない?」

アリエル:「何も」

ジョニー:「お前にサヨナラと手を振ってる。約束通りにね」

アリエル:「本当だ。サヨナラ、マテオ!」

ジョニー&クリスティ:「サヨナラ、マテオ!元気でね」

アリエル:「マテオ!フランキーによろしくね!」

クリスティ:「パパ、フランキーにもサヨナラを言って!」

ジョニー:「何?」クリスティ:「フランキーにも!」

ジョニー:「さよなら、フランキー」

クリスティ:「聞こえないわ」

ジョニー:「さよなら、フランキー」


 

ジョニーは涙を流しながら呼吸をしました

アリエルはジョニーの頭を撫でました

そこで、優しい表情のマテオや笑顔のフランキーがホームビデオに流れます

アリエルは幼いけれど、ちゃんとマテオの死に立ち向かいました

 


クリスティの心の中:

「悪性腫瘍に耐えてフランキーは笑顔を見せた。パパも同じように自分に打ち勝って涙を見せた。カメラはもう切ろう。このフランキーはもう見たくない。」

「私の顔を描ける?フランキーの面影もそれと同じ。私の頭に永遠に焼き付いてる。現実の世界に戻ったらフランキーに言おう。『お願いだから私を自由にして』と」


 

クリスティはお父さんにフランキーのことを忘れると約束させました

このクリスティのたくましい表情に心打たれます

クリスティは成長したんですね

家族はやっとのことで悲しみを乗り越えました

 

 

 

 

14.映画史上最も美しいシーン

 

カトリック学校の音楽祭の時に、クリスティはきれいな声でイーグルスの『デスペラード』を歌います

その歌声とともにクリスティが撮影した家族のホームビデオが挿入されています

僕は映画のシーンでこんなに泣ける所を今まで見たことがありません

クリスティの家族への愛情、クリスティが家族を見守ってきたと分かるシーンです

誰かを諭す歌、見守る歌、包み込むような歌です。

 

 


~『デスペラード』~

 

Desperado,

君ってどうしてそうなんだ

 

Why don't you come to your senses?

そろそろ気付いてもいい頃なんじゃないかな?

 

You been out ridin' fences for so long now

いつまでもフェンスの上で座り込んだままで

 

Oh, you're a hard one

本当に頑固者だな

 

But I know that you got your reasons

君にしか分からない理由もあるんだろうけどさ

 

These things that are pleasing you

悪気なく良かれと思ってやっていることが

 

Can hurt you somehow

結局は君自身を傷つける結果になることもあるんだから

 

Don't you draw the queen of diamonds boy

 

見た目だけのダイヤのクイーンだけは引いちゃダメだよ

 

She'll beat you if she's able

きっと彼女は君を脅かす存在になるから

 

You know the queen of hearts

ハートのクイーンにしとくべきだってもう分かってるんだろう

 

is always your best bet

君にとっての最高の相手になるはずさ

 

Now it seems to me, some fine things

今、君のテーブルには

 

Have been laid upon your table

十分なカードが揃ってるように見えるのに

 

But you only want the ones that you can't get

君は手に入らないものばかり求めたがるんだ

 

Desperado, oh, you ain't gettin' no younger

分からず屋だな、君はもう決して若くなんてないんだから

 

Your pain and your hunger,

今感じてる痛みや飢えは

 

they're drivin' you home

懐かしい記憶ばかりを連れてやってくるんだろうね

 

And freedom, oh freedom well,

自由、自分らしさなんて

 

that's just some people talkin'

確かにそんなことをいう奴もいるだろう

 

Your prison is walking through this world all alone

君はそんな檻に閉じ込められたままでこの世界を独りで生きていくのかい

 

Don't your feet get cold in the winter time?

君の両足はちゃんと冬の寒さを感じられているかい?

 

The sky won't snow and the sun won't shine

空からは日差しも注がれない雪さえも降らない

 

It's hard to tell the night time from the day

昼と夜の区別もつかないような状況で

 

You're losin' all your highs and lows

君は人生の最高の瞬間も最低な瞬間さえも味わえずに生きているのさ

 

Ain't it funny how the feeling goes away?

そんな何もかもを捨てて生きていくなんて何かおかしいって感じないのか?

 

Desperado, why don't you come to your senses?

君ってどうしてそうなんだ?そろそろ気付いてもいい頃なんじゃないか?

 

Come down from your fences, open the gate

そろそろそこから降りてここまで歩み寄ってこいよ

 

It may be rainin',

雨が降るかも知れない

 

but there's a rainbow above you

けど君の上にもいつか虹がかかるはずさ

 

You better let somebody love you(Let somebody love you)

君が誰かに愛されて生きていくのもいいんじゃないかって思うんだ

 

You better let somebody love you

君も誰かに愛されて生きていくべきだって思うんだ

 

Before it's too late

手遅れになってしまう前に

 


 

この歌詞がこの映画の作品の主題をすべて物語っています

クリスティは両親が心の奥底でフランキーのことを忘れないでいるのを感じ取っているんですね

そのことがこの家族の重荷になっていました

自分が家族のために頑張らなきゃと思い始めたんですね

だから、クリスティは3つの願い事を家族のために使うことで家族を支えてきた

クリスティはこの願い事を死んだフランキーのプレゼントと思い込んでいました

クリスティもまた、フランキーの死から抜け出せないでいなかったんですね

心の中で死んだフランキーと会話しているんですね

とても家族思いのいいお姉ちゃんです

そして、クリスティはホームビデオからフランキーの映像を消して物語は終わります

映画は終わりましたが、エンドロールがすべて小文字なんですね

僕ははじめて見ました

この作品は子どもたちが主役だよと言っているようです

子どもたちの両親への思いがつまったいい作品でした

 

 

15.終わりに

 

僕がこの作品をあなたにおすすめする理由は

一つは登場人物たちがアメリカではめずらしく下流階級なんですね

特別な才能がある人ではなく、特殊能力のない一般の人なんですね

何かを成し遂げて、成功したというものでもありません

その代わりに精神的な成長がくっきり現れて、いっそう感動を呼ぶんですね

観客に自分にも身近な出来事だと思わせてくれます

日常のよくありそうな苦労話です

リアリティがあり、人情的なイタリア映画のようですね

テーマだけで言うと、日本の映画に近いものがあります

もう一つは子どもたちの可愛さですね

この子たちのためなら、どんな辛いことだって頑張れると思わせる所です

お父さん、お母さん世代なら共感できますね

そして、その他には、アメリカが移民という存在をどう認識しているのかが分かる作品です

アメリカは先住民を除いては、アメリカン・ドリームを持って新大陸にやってきた人たちの国です

この作品では、現在住んでいる人たちは、異国から夢を持ってやってきた人たちを、どのように迎えなければならないかを、マテオを通じて訴えていると思います

夢を持ってやって来る移民にもっと寛容になれ!親切にしろ!夢、チャンスは平等であるべきと言っているようです

というわけで、『イン・アメリカ』いい作品ですよ

それではまた、次回の作品でお会いしましょう

サヨナラ

 

 

16.関連作品

 

『チャップリンの移民』チャールズ・チャップリン監督

『ふたり』大林宣彦監督

『秋のソナタ』イングマール・ベルイマン監督

 

 

 


『ベルリン・天使の詩』 ~人生につまづいた時、君のそばには天使がいるよ~

2023-09-11 04:55:58 | 日記

『ベルリン・天使の詩』

 

 

 

1.はじまりはじまり


これは天使と人間とそして世界の語り部の物語です

あなたにこの作品から感じてほしい事は、

「悩みがいっぱいな日常でも、子供の頃の純粋な気持ちを思いだせば、とても美しいよ」ということです

「生活に追われる大人になっても、子供の頃の知らないことだらけな、あのドキドキ感をもう一度取り戻せば、楽しくて幸せだと感じるよ」ということです

ちょっとここで、ヨーロッパ映画を簡単にお伝えします

アメリカ映画のようにストーリーがきちんとしていたり、不自然でない展開だったりしないんです

だから、あなたには自分の思うように、自由に感じてほしいんですね

主人公は自分です、登場人物ではないんです

登場人物の行動や言葉に自分に当てはめてみて、「そういう感覚あるね」って感じで見てください

では、物語に入りましょう

 

2.天使、詩を歌う


映画のはじめに、天使のすばらしい詩が奏でられています

 


天使:
「子供が子供だった頃、腕をぶらぶらさせ、小川は川になれ、川は河になれ、水たまりは海になれと思った」

「子供が子供だった頃、自分が子供とは知らず、すべてに魂があり、魂はひとつだと思った」

「子供が子供だった頃、何も考えず、癖も何もなく、あぐらをかいたり、飛び跳ねたり、小さな頭に大きなつむじ、カメラを向けても知らぬ顔」


 

子供の頃のあなたのお気に入りの想像は何でしたか?

僕は両腕で目を押さえつけた時に広がる、宇宙のような漆黒と星のような光が網膜に入ってくるのが大好きでした

時間がぴたり止まったような無限と自分だけの世界を感じました

同時に、暗闇で怖かったですし、一人でいたくないと思いました

ゆっくりとした流れる音が聞こえたりもしました

子供ってこういった感覚に敏感なんですよね

あなたにもきっとあるでしょう?

作品に戻りましょう

 

3.天使の仕事って?


舞台はベルリンの街、二人の天使が街を見守っています

やさしいやさしい天使の目で、女神像の肩からベルリンの街を俯瞰しています

天使という異世界の存在なので、映る景色をモノクロにしてあるんですね

でも、冷たく明暗のはっきりとしたモノクロではなく、少し緑がかったやさしい色なんです

天使たちは人間の心の中が分かるんです

そんな悩んでいる人の肩に手をそっと乗せて、少しささやいて癒やしてあげている

そういう仕事をしてるんですね

もし、あなたが急に楽しくなってきた時、天使がささやいてくれたかもしれませんよ

 

4.人は悩む、恐れる、後悔する


そうしていると、女の子が天使のやさしい眼差しに気づき、交差点で立ち止まります

立ち止まった女の子に冷たくぶつかる大人、群衆

子供には天使が見えるんですね

ピーター・パンや星の王子さまの世界のようです

一方、大人には天使が見えません

子供と大人が対比して描かれます

飛行機の中、疲れて眠りこける大人たち

天使に気づいた女の子はキラキラした目でウインクします

別の女の子はきれいなお家の絵を描いたことを事細かく天使に教えてあげています

自分のスキなこと、夢中になっていることならいくらでも話せるんですね

心の中での順番が子供と大人ではまったく違うんですね

子供は驚きや楽しみに夢中ですが、大人は不安や予定で頭がいっぱいです

ここから少し、人々の苦悩、心の中が分かるシーンが出てきます

 


・ごちゃごちゃした街中の広告文字
・実家に帰ってきた男は、昔と変わらず散らかった部屋を見て、物を捨てられない母親を嘆く
・失恋した男
・老夫婦は、孫がロックに夢中で呆れ返っている。そのうえ楽器を買えとせびられる
・お金のことを心配している女性「今月の支払いどうしようか」
・救急車のけたたましいサイレン
・混雑した高架橋の車の流れ
・運転中に喧嘩する夫婦
・後部座席の子供のうるささにうんざりする父親


 

そして、対称的に子供の純粋なシーンが出てきます

 


・笑顔で天使を見つめる、歩行器をつけた歩行障害の女の子


 

その上で、やわらかな詩が歌われます

 


ナレーション:
「子供が子供だった頃、いつも不思議だった。なぜ僕は僕で君でない?なぜ僕はここにいて、そこにいない?」

「時の始まりはいつ?宇宙の果てはどこ?」
「見るもの聞くもの嗅ぐものは、この世の前の世の幻?」
「悪があるって本当?悪い人がいるってほんと?」
「いったいどんなだった?僕が僕になる前は」
「僕が僕でなくなった後、僕はいったい何になる?」


 

僕らの子供の頃って、知らないことだらけでしたよね

でも、それを夢想するのが楽しかったりしました

救急車の中、女性が出産でとても苦しんでいる場面です

 


女性:
「お腹で息をするの、赤ちゃんのために」
「痛いけどもうすぐよ」
「もう大丈夫、楽しみだわ」
「どんな顔かしら」


 

一人の天使、ダミエルが体にそっと触れると、女性の苦痛がやわらぎ、安心します

 

5.天使はどんなことを考えている?


二人の天使が車の中で話し合っています

ダミエルとカシエルです

その内容がとても面白く、スピリチュアルな出来事や美しい光景を報告しているんです

 


・日の出、日没、月の出の時刻、川の水位
・過去の今日の日に起こったこと(ソ連軍の戦闘機が湖に墜落、オリンピック、熱気球飛行)
・人が壁に頭をぶつけて死ぬ前に「今だ!」と叫んだこと
・地下鉄の車掌が「動物園前」というところ「火の島」と言い間違えたこと
・老人がオデュッセイアを読んでいると、そばにいた子はまばたきしなかったこと
・雨の中で女が傘をたたみ、ズブ濡れで歩いていたこと
・小学生が先生にシダの発生を説明して感心させたこと
・盲目の女性がダミエルに気づき、時計を探したこと


 

そんな天使ダミエルにも望みがあります

人間になりたいんですね

人間になって、五感を使って世界を感じたいと思っています

 


ダミエル:
「永劫の時に漂うよりも自分の重さを感じたい」

「僕を大地に縛り付ける重さを、歩くごとに、風が吹き付けるごとに、今だと言いたくなる。永遠の昔からとか永久にではなく」

「トランプに加わり、うなずくだけの挨拶をされてみたい。僕らはいつだって永遠に幻なんだから」

「誰かと夜中に格闘した、あれも幻、魚をつかまえたのも幻、テーブルについて酒を飲んだのも幻、食べたのも幻」

「子羊の肉を焼き、酒を注いだ、荒野の天幕の外、あれも幻」

「子供を作り、木を植えるとまで言わないが、いいもんだろうな。長い一日の後、家に帰りフィリップ・マーローのように猫に餌をやる」

「体温を持ち、新聞で手が汚れる」

「霊でいるだけでなく、食事をしたりうなじに見とれ、耳に触れる」

「真っ赤なウソを付く」

「歩くと骨の動くのを感じる」

「全知ではないから予感を味わえる」

「”ああ”とか”おお”とか言う。アーメンではなく」

「きっと気持ちいい。靴を脱ぎ足の指を伸ばす。裸足の感触を味わう」


 

当然ですが、人間だからこんなことができるんです
いつの間にか僕たちが慣れてしまった、こういった感覚を感じてみたいって言ってます

 

6.マリオン登場


さて、もう一人の主人公である、人間の女性が登場します

マリオンというサーカスのブランコ乗りです

ダミエルはこの女性に恋をします

映画の伝道師の淀川長治さんによると、

天使が空中曲芸の人間に恋をするのは、よくある題材なようです

飛んでいる姿に親近感が湧くからですかね

「この子、美しい!」って思っちゃったんです

マリオンの空中ブランコの練習をじっとじっと見つめるダミエル

ここで、すばらしいとても綺麗なカラー映像になるんです

この作品、こういう色使いやカメラワークがとてもよく登場人物の心情を表現しています

まさに天使の心が人間になったようです

このマリオンという女性にも悩みがあります

サーカス団が不況で客入りが悪くて、解散になってしまうんですね

次が最後の公演

打ちひしがれ、人生、孤独、自分の存在価値にマリオンは苦しみます

そんなマリオンにダミエルは寄り添います

すると、象が逆立ちなんかしたりして、マリオンは少し笑顔になるんですね

それでも、まだ不安に襲われるマリオンを癒せないことに、ダミエルは苦しみます

ダミエルは衣装を脱ぐマリオンに肩を触れます

その瞬間また、綺麗なカラー映像になります

人間の肌に触れちゃいます

ダミエルのマリオンへの愛情が現れたシーンですね

ダミエルたち天使の救済の仕事はまだまだ続きます

男が交通事故で死にかけているんですね

瀕死の男性はこれまでの人生を悔やみ、泣き悲しみます

ダミエルは男性に、美しいもの、楽しいこと、愛すべきものを思い起こさせて、心を安心させようとします

ここで天使の本気を発揮します

 


ダミエル:
山に登り
霧の谷から光の屋根に
草原に火
灰の中の芋
はるか湖の艇庫
南十字星
極東の地
北極圏
ワイルドウエスト
ヘーレン湖
トリスタン・ダ・クーニャ
ミシシッピーの三角州
ストロンボリ
シャルロッテンブルクの古い家並み
アルベルト・カミュ
朝まだきの光
子供のまなざし
滝の中の水浴び
雨の一滴のひろがり
太陽
パンと葡萄酒
けんけん跳び
復活祭
葉脈の息づき
風にそよぐ草
石の色
川底の小石
戸外の白い卓布
家の夢
隣に眠る親しき隣人
のどかな日曜日
地平線
室内の光がこぼれる庭
夜間飛行
手放しで乗る自転車
美しい未知の女
わが父
わが母
わが妻
わが子


 

みなさんはどれくらい心安らぐシーンを思い出すことができるでしょうか?

多ければ多いほど、豊かな人生になりそうですね

そのようなきれいで神秘的なシーンを映像で見たい方に

アンドレイ・タルコフスキー監督の『鏡』『ノスタルジア』を見ていただきたいです

 

7.母国ドイツへの思い


この映画の監督、ヴィム・ヴェンダースはドイツ人です

母国への思いが作品に込められているんですね

作品中に様々な第二次世界対戦中や戦後のシーンがあります

戦死者たち、瓦礫の山、途方に暮れる市民、いまだに残るユダヤ人差別、ちらつくナチスの鉤十字旗

ドイツ国民に対する怒り

彼らが選んだ孤立、疑心暗鬼、他者排斥、利己主義に対する怒り

とても怒りに満ちた映像です

映像作家として言わなければいけないという責任を全うしているかに思えます

はっきりと、戦時中の母国にNO!を叩きつけています

 

8.最後のサーカス劇場、悲しみを吹き飛ばして


さて、最後のサーカス公演が始まります

公演がとてもとても待ち遠しい子どもたち

そこにサーカス団が大行進でわいわい演奏しながら登場します

観客の子どもたちは大喜び

イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニが描いた映像を思い出させます

きっと、彼の作品をオマージュしているんでしょうね

子どもたちは団員たちの追いかけっこ、ナイフ遊び、玉乗り、曲芸に拍手喝采します

フィナーレにたくさんの風船が現れると、子どもたちは一気に客席から飛び出して、割りに行きます

 

9.人はいつから大人になってしまった?


ここで、大人視点の詩が流れます

 


ナレーション:
「子供が子供だった頃、ほうれん草や豆やライスが苦手だった。カリフラワーも今は平気で食べる。どんどん食べる」

「子供が子供だった頃、一度他所の家で目覚めた。今はいつもだ。」

「昔は沢山の人が美しく見えた。今はそう見えたら僥倖」

「昔ははっきりと天国が見えた。今はぼんやり予感するだけ」

「昔は虚無など考えなかった。今は虚無に怯える」

「子供が子供だった頃、子供は遊びに熱中した。今はあの熱中は自分の仕事に追われる時だけ」


 

『虚無』って何でしょう?

作中のセリフに何度か出てきます

大人になるにつれて、『虚無』はどんどん膨れ上がるんですね

未来に待っている死、存在のちっぽけさ、自己肯定感の欠損、他者と決して分かり合えないということでしょうか

舞台は変わって、ダミエルとカシエルが今までの歴史の変遷を語ります

海からはじまって、川になり、植物、自然、動物が生まれ、そして人間が現れた

そこには笑顔、言葉があったが、同時に争い、戦争、都市が出現した

ダミエルは自分たちが何も関与していないことを嘆きます

 


ダミエル:
「我々は少数で、傍観者でさえなかった!」

「自分の歴史を手にする!天上で眺めながら得た知恵をこれからは地上で生かしていく」

「間近に見、聞き、嗅ぐ事に耐える。外はもう十分だ。不在はもういい。外の世界はもういい。世界の歴史に入っていく。りんごを掴むのさ」

「世界の背後の世界など御免だ!」


 

次に天使たちの無力感を象徴するようなシーンが映し出されます

自殺願望の男性が、他者、自己、世界を呪いながら、ビルの屋上から飛び降りようとしているます

カシエルはとっさに肩に触れ、ささやきますが、その甲斐なく男性は飛び降りて死んでしまいます

カシエルは自分の無力さに発狂し、打ちひしがれます

その心理描写がすさまじく、そのカメラワークと効果音が心に刺さります

(フラッシュ、早送り、激しいカメラ揺れ、大量のコマ送り、子供の叫ぶ声、夫婦喧嘩、戦闘機が爆弾を落とす、空襲警報、火事、逃げまとう人々)

 

10.サーカス団解散、別れ、そしてひとり


ついにサーカス団が解散してしまいます

団員たちは不安を持ちつつも、陽気にふるまい歌い踊ります

すごく物悲しくもあり、同時に陽気にふるまう姿に人の強さを感じます

団員に別れを告げ、マリオンはあてどなくさまよいます

とあるライブ会場に入るマリオン

そこは、メランコリックなロックバンドとその音楽に一体となる観客がいます

まるで中世ヨーロッパの『カタコンベ”』のような、不安・恐れ・逃避・眠り・救済など、様々な感情が伴った麻薬的な薄暗い雰囲気です

やがて寝床につき、マリオンは夢を見ます

夢の中にダミエルの姿が現れます

鎧をまとい、翼で浮遊し、両腕を広げ、心配ないよと見つめています

夢の出現は偶然なのか、ダミエルの力なのか分かりません

寝言でマリオンは一言、「いっしょにいて」とささやきます

 

11.人間界への誘い、決意


場面変わって、ダミエルはカフェでアメリカから来た俳優のピーターを観察しています

「この人いつも楽しそうだな」「美味しそうにコーヒーを飲むなあ」と思います

すると、見えないはずのダミエルにピーターが話しかけます

 


ピーター:
「見えないがいるな?感じてる。ずっと感じてる」

「君の顔が見たい。こっちがどんなにいいか教えてやりたい」

「冷たいものに触る。いい気持ちだよ」

「煙草を吸う。コーヒーを飲む。一緒にやれたら言う事なしだ」

「絵を描くのもいい」

「鉛筆を持ち、太い線を引く。それから細い線。二本でいい感じの線になる」

「手がかじかんだら、こすり合わせる。これがまたいい気持ちだ!」

「素敵なことが山ほどある」

「でも君はいない。僕はいる。こっちに来たらいいのに。話ができたらいいのに。友達だからさ、兄弟!」


 

そして、見えないダミエルに手を出し握手をします

ダミエルもまた手を出し握手し、不思議そうに立ち去ります

いよいよ、ダミエルは人間になる決意をします

カシエルに人間になったらしてみたいことを楽しそうに話します

 


カシエル:「それで?」

ダミエル:
「流れに降りるよ」

「ことわざの意味がようやく分かった」

「瀬に降りるべし 岸などない 流れに降りてこそ瀬があるのさ」

「時の瀬 死の瀬に立つ」

「天使の望楼から降りるんだ 見下ろすのでなく、目の高さで見る」

「まずは風呂に入る」

「それから床屋に行く トルコ人の店がいい」

「指の先までマッサージをしてもらう」

「新聞を買い、一面から星占いまで読む」

「最初の日は特別待遇だ」

「頼み事は断り、誰かが僕につまづいたら謝ってもらう」

「ぶつかられたらぶつかり返す」

「満員の酒場で悠々と席につく」

「公用車が止まり市長が僕を同乗させる」

「誰も僕を他人とは思わない 僕は黙って耳を傾けるだけ 初日はそんな具合だ」

カシエル:「そんな絵空事を!」


 

瀬とは川の浅いところっていう意味ですね

つまり、岸辺で傍観していないで、川に入り、流れを感じ、身を任せたいということですね

その瞬間また、辺りは鮮明なカラー映像に変わります

どんどんどんどん、ダミエルは人間に近づいていくんですね

 

12.誕生、世界初体験!


そしてついに、ダミエルは気を失い、カシエルに抱き抱えられます

今、一人の天使が死にました

そして、一人の人間が誕生しました

背後のベルリンの壁には、ムーミンのようなキャラクターが無数描かれています

先程までのモノクロとは全く違った、カラフルた色彩で描かれているのが見えます

これから楽しいことがどんどん現れるよっていう暗示でしょうか

歴史の暗部であるベルリンの壁に、今生きる人によって希望に満ちたデザインでペイントされています

悲惨な過去を今から乗り越えていくよって感じがしていいです

そして、意識をなくして倒れているダミエルの頭上に「ゴツン」と、中世の鎧が落ちてくるんですね

天使が死んだというメタファーでしょう ユーモアがあります

さあ、いよいよ人間ダミエルが世界を歩きはじめます

けたたましいヘリコプターの騒音にダミエルは起こされ、楽しさのあまり苦笑します

鎧がぶつかった頭の血に気づいたダミエルは

「これが血か!」

血の鮮やかさ、味を五感で感じることによって、生命を得たとダミエルは感動します

私達にとってもなぜだか喧騒の中の街の看板や広告が、とても人間くさく、温かみをもって感じられます

ダミエルは驚きと嬉しさのあまり、通りすがりの男性に声をかけて、血を見せ、質問責めです

 


ダミエル:
「これは赤い?」

「あなたは元気ですか?」

「このパイプの色は?」

「あの壁の犬の落書きは?」

「隣は?」

「その隣は?」

「とても寒い?」

「コーヒーいいだろうな」

「今日は実にいい日だ」


 

そして、救急車のサイレンや看板広告の色の鮮やかさに感動しながら、カフェに行きます

そのカフェには優雅なBGMが流れています

ダミエルは、さっそくコーヒーを注文します

匂いを感じ、カップの温かさ、まん丸い形を確かめながら、口に含みます

さっそく手を擦り合わせ、肌の感覚を楽しみます

ここで、喜びの詩が流れます

 


ナレーション:
「子供は子供だった頃、リンゴとパンを食べればよかった。今だってそうだ」

「子供は子供だった頃、ブルーベリーがたくさん降ってきた。今だってそう」

「胡桃(クルミ)を食べて舌を荒らした。今も同じ」

「山に登る度にもっと高い山に憧れ、町に行く度にもっと大きな町に憧れた。今だってそうだ」

「木に登りサクランボを摘んで得意になったのも、今も同じ」

「やたらと人見知りをした。今も人見知り」

「初雪が待ち遠しかった。今だってそう」

「子供は子供だった頃、樹をめがけて槍投げをした。ささった槍は今も揺れている」


 

大人だって『今も』子供といっしょだよと教えてくれています

さあ、子供の頃の感覚を再び思い出そうと歌っています

ダミエルは、アンティークショップで鎧を売ります

この辺りが後悔なくて潔くて気持ちよく、ユーモラスです

躊躇なくカラフルなジャケット、ネクタイ、時計、帽子を揃えて、店から出てきます

このように人物の気持ちを映像で分かりやすく見せるのがよくできていますね

とってもバエてます!

すると通りすがり、男の子に道を尋ねられます

言葉遊びを楽しもうとダミエルは、男の子にいじわるをします

わざとたくさん固有名詞を列びたて、男の子を困惑させますね

こういうユーモアな描写が、物語の雰囲気をとっても明るくしてくれています

 


男の子:「アカシア通りはどこ?」

ダミエル:
「クライスト公園を右に行き、グルネヴァルト通りを行き、ゴルツ通りを右でなく、左に折れたところだ」

男の子:「オー・マイ・ガー」


 

13.元天使と元天使


人間になったダミエルは、この感動をピーターに早く伝えたくて、会いに行きます

 


ダミエル:「兄弟!」

ピーター:
「君か、嬉しいな!」

「どうだい?」

「なぜだか、ノッポだと思ってた」

「いつから人間になった?」

ダミエル:
「いつだって?」

「分、時間、週、月、タイム!これが時間か!」

ピーター:「金が要るだろう」

ダミエル:「金はある!物を売った」

ピーター:「鎧だな?いくらで?」

ダミエル:「200マルク」(※13500円くらい)

ピーター:
「安売りしたな。いいかい、30年前の事だがニューヨークの23番街の角の質屋で500ドル(※47500円くらい)だったよ」

ダミエル:
「あなたが?」

「あなたも?」

ピーター:
「結構たくさんいる」

「君だけじゃない」

ピーター:「で、これから?」

ダミエル:「恋人がいるんだ」

ピーター:「恋人。いいねえ!」

ダミエル:「もっと話を!」「知りたいんだ、何もかも」

ピーター「自分で発見しろ。面白いよ」


 

そうなんです、ピーターは元天使だったんです

ダミエルの先輩ですね

人の肖像をスケッチするのが大好きな人です

さっそく、ダミエルはマリオンを探しに行きます

 


ダミエル:
「空の太陽とは別の太陽があるんだよ、カシエル」

「夜の深みに明けていく春。僕らが知らない新しい翼。びっくりするような翼」


 

惑星の太陽というより、陽光や夜明けという意味の陽ということでしょうか

マリオンは夢でのダミエルとの出会いから、徐々に希望を膨らまします

 


マリオンの心の中:
「自分が誰か分からない、素性の知れない誰か。過去も国もないけどそれがいい」

「私はここ。私は自由。何でも思い描ける。すべてが可能」

「目を上げるだけで世界に溶け込む。今、ここで感じる、いつでも感じられるはずの幸せ」


 

鮮やかなカラー映像に変わります

キラキラした瞳で希望に満ちた顔をしています

夢に天使を見るという効力でしょうか

明らかにマリオンが霊的な力で満ち溢れていますね

マリオンもダミエルを探し求め始めます

カフェで偶然ピーターと出会います

名刑事のコロンボに人探しを依頼するところが、粋ですね

 


マリオン:「刑事さん、人を探すのが得意なんでしょ?」

ピーター:
「迷宮入りの事もあるけど」

「誰かを探してる?」

マリオン:「誰かを探したい気分なの」

ピーター:
「誰を?男の子?女の子?男性?女性?」

「男だね」

「名前は?」

「住んでいるところは?」

マリオン:「何も分からない」

ピーター:「そりゃ難事件だ」


 

ピーターは気配を感じ取って、ひとり寂しそうなカシエルに話しかけます

 


ピーター:
「見えないがいるな?」

「感じるよ」

「君の顔が見たい。君には話す事がいっぱいある。友達だからさ、兄弟!」


 

そう言って、ダミエルと同様に握手をします

マリオンは夢の中のダミエルがいると確信しているようですね

 

14.互いに惹かれ合って


一方、必死に互いを探すダミエルとマリオン

やがて、ライブ会場に行き着きます

そばのバーの椅子に腰を掛けるダミエル

観客を掻き分け、ダミエルがいるのを感じます

そして吸い込まれるようにダミエルのもとに近づいて、はじめて二人は出会います

 


マリオン:
「いつか一度は真剣になる」

 

「私はほとんど一人だった」

 

「でも完全に一人じゃなかった」

 

「人と一緒にいたし楽しかったけど、偶然のせいだと思ってきた」

 

「私の両親にしても、他の人でなかったのは偶然」

 

「なぜ、弟が茶色の瞳の子で、向かいのホームの緑の瞳の少年じゃない?」

 

「タクシー運転手の娘と親友だった」

 

「彼女と肩を組んだけど、馬が友達でもよかった」

 

「恋人がいたこともあるけど、彼をおいてきぼりにして、ゆきずりの男に付いて行かなかったのも偶然」

 

「私の目を見つめる?」

 

「私の手を握る?」

 

「いえ、手も握らず、目も見つめないで」

 

「今夜は新月。かつてない静かな夜。街に流血のない夜」

 

「今までだって遊びではなかった。でも今度こそ真剣って気になった事もなかった」

 

「ようやく今、真剣」

 

「そんな年になれたのね」

 

「私ひとり真剣でなかった?」

 

「時だって真剣だわ」

 

「ひとりでも人といても、私は寂しくはなかった」

 

「寂しさを感じたかった」

 

「寂しさって自分をまるごと感じることだから」

 

「今、ようやくそれが言える。寂しさが分かる」

 

「偶然はもうおしまい」

 

「新月は決断の時。先の運命が分からなくても決断する時。決断するの。私達、今がその時よ」

 

「私達の決断は、この街のすべての世界の決断なの」

 

「今、私達ふたりはふたり以上の何か」

 

「私達は広場にいる 無数の人々が広場にいる。私達と同じ願いの人々」

 

「すべてが私達次第」

 

「私は決心している。今はあなたの決心次第よ」

 

「今しか時はないわ」

 

「あなたは私が要る。私が必要になる」

 

「ふたりが作る歴史はきっと素晴らしいわ」

 

「男と女の大いなるものの歴史。目に見えなくても伝わっていく、新しい始祖の歴史」

 

「見て、私の目を、写っているでしょう?必然が、広場の人々の未来が」

 

「昨夜、夢に知らない男の人が現れたわ。私の夫」

 

「その人と初めて寂しさが分かり、私は初めて私のすべてで迎え入れた」

 

「その人をそっくり迎え入れ、迷宮をはりめぐらせた一体でいる幸福の迷宮を、分かってる」

 

「あれはあなた」


 

このマリオンの独白の中に、人間の孤独・寂しさ・時の流れ・情熱・歴史・共存・未来が語られているように感じます

今まで、大人より子供でしたが、ここにきて必然を感じるくらい成長し、孤独を自覚した大人が幸福を作り出すと言っています

そして、偶然から必然へ、寂しさを感じれることができるから、誰かと一体になれる

今から世界の歴史が始まろうとしています

とてもとても、女性らしい世界観だと思います

女性がこういう風に考えているってことを、男性は知らないとダメですよね

そして、ダミエルは、天使だけではなく人間の中にも、『永遠』『無限』完全なものがあることを知ります

 

15.ダミエルとマリオン、その後


屋敷の中で、マリオンがロープを掴んで、空中芸の練習をしています
ダミエルは下でロープをピーンとひっぱって、補助しています

まるでフィギュアスケートのペア競技みたいに、ふたりは一体となっています

 


ダミエル:
「何かが起こった。今も起こり続けている。抗い難い力で」


「起こったのは夜。それが昼の今もますます鮮明だ」


「誰が誰?僕は彼女の中。彼女は僕をくるんだ」


「一体だったなんて誰が本気で言うかな。僕は一体だ」


「ふたりは有限の生命の子でなく、永遠のイメージを孕んだ」


「驚くという事も知った」


「彼女は僕を家に連れ帰った。僕にも家がある」


「昔々あったとさ。昔々あった事。だからこれからもあるだろう」


「ふたりで孕んだイメージ、それは僕の命。一生の伴侶だ」


「ふたりだという事の驚き。男と女の驚き。それが僕を人間にした」


「僕は今、知っている。いかなる天使も知らない事を」


 

恋した時のあの何とも言えないせつない不安感と、相手といる時の心地よい安心感とが入り混じった感情というのでしょうか

相手が自分の利き腕のように、何本もの運動神経で繋がっていて、離れてしまうといてもたってもいられなくなる

S極とN極が引っ付いた2つの磁石のように、科学証明のように絶対に覆すことができない一体感

そのなかにダミエルは天使とは違う形の完全体を見たのでしょう

 

16.生きるって何でしょう?


言葉にし辛いですが、人間にはもっと奥深さというか可能性があると思います

人間は一人で生まれ、一人で生を終えます

それは孤独で、不条理で、とても不安定な状態です

寿命が限られているからこそ、見るもの、聞くもの、触るものすべてを美しく、いとおしく思うことができます

寿命が限られているからこそ、永遠なるもの、完全なるものを求め、心の中にそれを作りだしていく気がします

それを動物の本能なんじゃないのと思ってしまうとなんかもったいない気がするのです

何か貴重な体験をした時のあの恍惚感は本能的なものでしょうか

僕は霊的なものだと信じます

食物とは別の生きるエネルギーだと感じます

全身の神経信号が走り回り、全筋肉が震えるような感動と情熱、その高揚感

自分は最高だと思える、この場所は最高だと思える、自分に関わってくれる仲間は最高だ思える、この時間は最高だと思える

そういうエネルギーをどんな悲惨な時でも発電できる力を僕たちは持っていると思います

そして、そういったエネルギーは人から人へ伝播します

年上の世代が、エネルギッシュに楽しく生きることで、下の世代もああなりたいなと思い、早く年をとって、色んな世界を知りたいと思うようになります

楽しみましょう、限りある生命を

 

17.語り部とは

 

さて、この作品にはもう一人、登場人物がいます

老人が語り部として、思いを綴っているところです

この語り部というのは、作者が理想とする天使なんだと思います

人間の悩みを理解し、共感し、癒やす者

歴史、過去、現在、未来に思いを馳せ、深く考え、人間のために、よりよく伝える者

人間という生き物を哀れみ、慈しみ、ともに生きる者

そういった存在が、どの時代にも必要だったですし、これからも大切だということです

さあ、彼の思いを聞いてあげましょう

 


老人:
「語れ、詩の女神よ。世界の果てに流れ着いた、幼児にして老人。万人の鏡である語り部ホメロスを」


「わが聞き手は時とともに読み手となり、もはや車座にならず、孤独に机に向かい、他人に意を介さない」


「私は老い、声もしゃがれたが、物語は今もなお深淵より立ち昇る」


「開かれた口は力強く繰り返す」


「万人に意味があますところなく理解され、伝わりゆく物語を」


 

語り部とは、鏡のように世界を言葉やイメージなどの手段をもって、語り尽くす者であり

孤独に耐え抜き、万人のために、世界の優美を語り尽くす者です

芸術作品だけなんて言いません

仕事でもSNSでも地域活動でも、手段は何でもいいので、五感をもって人々を感動させる人

「ああ!」「これか!」「そういうことか!」のように、僕たちに感嘆符をくれる人

あなたもたくさん見つけて教えてください

次は、語り部が語り続けなければならないものは何かを力説します

 


老人:
「世界は黄昏れていくようだが、私は語りつづける。」


「昔と変わらぬ歌の調子で。」


「歌に支えられ、物語は現在の世の混沌に足をとられず、未来に向かう。」


「幾世紀をも往来する、かつての大いなる物語はもう終わった。」


「今は一日一日を思うのみ。」


「勇壮な戦士や王が主人公の物語ではなく、平和なもののみが主人公の物語。」


「乾燥たまねぎでもいいし、沼地の渡り木でもいい。」


「誰一人、平和の叙事詩をまだうまく物語れないでいる。」


「なぜ平和だと誰も昂揚することがなく、物語が生まれにくいというのか。」


「諦めろだと?」


「私が諦めたのでは人類は語り部を失う。」


「語り部を失うという事は人類の子供時代もなくなる事だ」


 

悲惨を語るのでなく、美しさを語ろう、過去を語るのでなく、未来を語ろう、孤独を語るのでなく、一体を生み出そうということでしょうか

そして彼は、人々が多大な犠牲を払った戦争に対して、無力だったと後悔しています

 


老人:

「ポツダム広場が見つからない。ここか?」

 

「こんなところじゃない。」

 

「ポツダム広場ならカフェ・ヨスティがある。」

 

「午後はみんなで歓談しコーヒーを飲み、道行く人を眺め、葉巻をくゆらせた。」

 

「広場の向かいのローゼ・ヴォルフ商会のあの葉巻。」

 

「これがポツダム広場なものか!」

 

「誰に聞いたって違うというよ。」

 

「にぎやかな広場だった。」

 

「市電や乗り合い馬車が行きかい、自動車も二台、私のとチョコレート屋のと。」

 

「ヴェルトハイム百貨店もここにあったのに、ある日突然、旗だらけになった。」

 

「広場が旗でうずまってしまった。それ以来、人が人を嫌い始めた。」

 

「警察は言うまでもない。」

 

「私は決して諦めないよ。」

 

「昔のポツダム広場を見つけるまで。」

 

「私の主人公たちよ、子らよ、どこへ行った?」

 

「私の人物たちはどこに消えた?」

 

「物語の最初の主人公たちは?」

 

「詩の女神よ、哀れな不死の詩人たる私を呼べ。」

 

「かつて詩を聞いた人々に棄てられ、声を失い、かつて語りの天使であったのに。」

 

「今は無視され、あざけられつつ、無人地帯のはざまで歌う、この辻音楽師」


 

戦争のために『孤立、疑心、排他、利己、無関心、偏見、差別』が生まれてしまった

これらに対して語り部はなにをしていたのだと嘆いています

それほど、世界は痛めつけられ傷つき、今も傷跡が残っている現状

そして、おおらかに語り部の復活を宣言しているんですね

まさに、ルネッサンス、復古です

 


老人:
「いつの日か私を探す、男、女、子らの名を、語り部にして歌い手たる私に告げよ」

「人々には語り部が要る この世の何よりも」

「乗船完了!」


 

18.希望をもって


この乗船完了!っていうナレーションの声がまた、すごくいいんです

ぜひ、聞いてみてください

ダミエルが人となり、地に降り立って、世界を感じ始めました

マリオンがやっと自分自身を本当の意味で見つけました

語り部がもう一度、世界のために語り始めます

さあ、これから世界の船は出発します

希望を持ちましょう!

人生を歩んでいるとたくさんの不安があります、悲しみがあります

『寂しさ、孤独、苦悩、恐れ』

負な面が一気に私達に襲いかかってきます

それでも、生きることは素晴らしい

『暖かさ、希望、ユーモア、つながり、変化、共存、一体』

正の面がたくさん待っています

限りある命があるからこそ、傷つけば、痛い思いをするからこそ、

その感覚がたくさんであればあるほど、この不安定な寂しい人間が、とってもいとおしく感じられます

自分と同じように、世界も永遠なものでないことを知ると、貴重で儚くて美しく思えます

そんな思いをさせてくれる作品です

ぜひ、この素晴らしい語り部の、ヴィム・ヴェンダースの本編を見てください、見直してください

生きることがつらい人、必ず心を何か動かされると思います

天使の目で感じてください

どれだけこの世界が貴重なものかを、楽しいものかを

織田裕二さんの名言「地球に生まれてよかったー!!」って、なるかもです

いっしょに、スキなことをたくさん思い出してみませんか?

私はというと、

 


・雨の日に、カフェでコーヒーを飲みながら、外を眺める
・夏の日の急な夕立のアスファルトの匂い
・図書館の本の匂い
・本屋のポップ広告
・昔、電気屋さんに展示してあったオーディオコンポを眺める
・雨の日に、ハンバーグなどジュウジュウ音を立てるグリルを食べる
・近所のガソリンスタンドのアポロの顔が怖かった
・朱色が怖かった
・洗剤のにおいが残るタオルが
・スーパーボールのバウンドについて行けず、アタフタするのがスキ
・ラジオ体操第二がスキ
・猫のゴロゴロとウインク
・キスした時のような少し厚みのあるマグカップ
・柔道の受け身
・長髪の女性
・たこ焼きを串でひっくり返している時
・カルピスの原液
・田んぼの畦道
・川に飛び込む
・焚き火
・休みの終わりを告げる笑点がさみしい
・土曜夜市
・花火大会
・地域のクリスマス会でのプレゼント交換
・藁の上で寝たらかゆいこと
・毛布がスキすぎて、夏でも愛用
・他の枕で寝れない
・友人と肩を組み合うこと
・UNOでドロー4連発
・300円までの遠足のおやつ選び
・筋トレ中のインターバル休憩
・首をひねって関節を鳴らすこと
・ニット帽
・ひざかっくん
・バスのアナウンスの完コピ
・列車、電車のガタンゴトンの音
・駅の切符をわざわざ、駅員から買う
・後ろ歩き
・新学年の教科書をもらった時



まだまだ出てきそうです


あなたの乗船切符をたくさんみつけてください


それを僕に教えてください


「友達だからさ、兄弟!」


ではまた次回まで


サヨナラ
 

 

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