地理講義   

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103.エルニーニョ現象

2013年11月05日 | 地理講義

平常時             
太平洋赤道海域では、北東貿易風・南東貿易風の東風が常に吹き、海水温の高い海水が太平洋の西側に吹き寄せられる。
インドネシア近海で暖かい海水が蓄積する。
東部の南アメリカ沖では東風と地球の自転効果によって深海から冷水が海面近くに湧き上がり、海水温度が低下する。
海面水温は西で高く、東で低くなる。海面水温の高い太平洋西部で、降水量が多くなる。
海面水温の低いペルー・チリ沖合では、強い寒流ペルー海流が北上し、海岸砂漠をつくる。

下図はクリック有効(別ページで拡大)

エルニーニョ現象
ペルー・チリ沖合では北東貿易風・南東貿易風が平常時より弱くなり、冷水の湧き上りが弱まる。
太平洋西部インドネシア海域の暖かい海水が、チリ・ペルー沖合の赤道東部海域に押し寄せる形になる。
太平洋赤道域東部で海面水温が高くなり、積乱雲が東に移り、南アメリカ太平洋岸の海岸砂漠で降水量が増加する。
ペルー・チリでは寒流(ペルー海流)に生息するアンチョビーが不漁となり、海岸砂漠は縮小する。

ラニーニャ現象
北東貿易風と南東貿易風が平常時よりも強くなると、インドネシア近海では、高温の海水が蓄積する。
南アメリカ太平洋岸では低温の海水が大量に湧き上がり、ペルー・チリでは低温乾燥し、海岸砂漠が拡大する。
インドネシア近海で積乱雲が大量に発生して多数の台風ができる。
インドネシア海域と南アメリカ太平洋岸とでは、交互に海水温が上下する(南方振動ENSO)。

南アメリカ赤道海域の海水温変動周期
南アメリカ太平洋岸を北上する寒流ペルー海流は、海岸砂漠を形成する。
しかし、南東貿易風と北東貿易風が弱まるとペルー海流が弱まり、海水温が上昇する(エルニーニョ現象)。
ペルー海流の水温が、平年値より0.5℃より高い場合はエルニーニョ現象と定義される。
貿易風が強まり、ペルー海流の海水温が平年よりも0.5℃以上低下すると、ラニーニョ現象といわれる。
エルニーニョ現象の期間は、砂漠に雨が降って草原になる。
アンチョビーは深海に移動して不漁になる。
世界各地で、豪雨、干ばつ、高温、低温などの異常気象を起こす原因と考えられている。

ペルー海流
南極環流から分流し、南米沖合を北上する強い寒流である。チリとペルーの海岸地域はペルー海流の影響を受けて霧におおわれる。その霧が日射を妨げるので、上昇気流が発達せず、雨雲ができない。海岸は降水量が少ないため、アタカマ砂漠・ペルー砂漠ができる。


例えば、ペルーのリマの場合、南緯10度にあり、熱帯雨林気候に該当するような位置にありながら、砂漠気候BWである。年平均気温19℃は鹿児島市とほぼ同じである。年降水量3.5mmでは植物は生育しない。
ペルーの沖合を北上するペルー海流は、アンチョビーを運ぶ。アンチョビーが異常繁殖をして大群となって、チリ・ペルーの海岸に押し寄せて、漁獲と加工が間に合わないほどになる。
1960年代、ペルー海岸ではアンチョビーの豊漁が続いた。海岸に押し寄せるアンチョビーを陸地に引き揚げ、すぐにそれを蒸して腐敗を防ぎ、肥料・飼料として世界中に輸出した。1970年にはペルーの漁獲高が1000万トンを越え、世界第1位になった。


アンチョビーの不漁

 ※アンチョビーは漁獲量は減ったが、飼料・肥料用として現在も重要

1970年からはペルー海流の海水温が上昇し、海岸には死んだアンチョビーが打ち上げられて硫化水素が大発生した。
ペルーのカヤオを拠点とする漁船のペンキが、硫化水素を含む海水で黒く変化し、[カヤオ ペインター]と揶揄された。
1970年以後、ペルーのアンチョビーの大量漁獲はなかった。
原因は、ペルー海流が弱くなって、海水温が上昇したためであった。この海水温度の異変がエルニーニョ現象である(1972年確認)。
エルニーニョ現象つまりペルー海流の海水温の異常高温は、10年間のうちで4年~5年続いた。ペルー海流の海水温上昇(エルニーニョ現象)が正常であるとの見解もあった。
エルニーニョ期間中、ペルー海流の海水温上昇のため、アタカマ砂漠・ペルー砂漠に雨が降り、砂漠の下で眠っていた植物が4年~5年ぶりに芽を出し、海岸砂漠は緑豊かな草原になった。アンデスの高地からは、インディオの一部が草原地帯に移住し、エルニーニョ現象の終わるまでの、低地の緑の中の生活を楽しんだ。
エルニーニョの続く4年~5年は、アンチョビーの漁獲量は半分以下になり、ペルーの沿岸アンチョビー漁は、経済的に成り立たなかった。しかし、ペルー海流の上流にあたるチリ沖合ではアンチョビー漁は可能であった。ペルーはチリとのトラブルを避けるため、ペルー漁船はチリ沖合200海里内で細々とアンチョビーの密漁を続けた。

グアノ


 ※ 海鵜は集団営巣をし、グアノをつくる。

cormorant(海鵜。海のカラス)は集団営巣(コロニー)をつくる。アンチョビーなどの大量に生息する魚を主食とした。
海鵜の糞・死骸・卵、それにエサなど残骸集積物がペルーの海岸に、数万年をかけて堆積して固まった。
それがグアノである。ペルーの乾燥地域におけるグアノは窒素が多く含まれ、すぐれた天然肥料として輸出される。
20世紀はじめまでは、ペルーとチリのグアノは、「チリ硝石」として軍事用火薬原料として輸出された。両国ではグアノ採取のため、黒人奴隷を大量に雇った。
グアノの枯渇が進むと、20世紀にドイツでは化学的に窒素を得る方法が発明され、火薬原料としてのグアノは不要になった。グアノは肥料用・飼料用として輸出されるようになった。
なお、アメリカ合衆国にはグアノ島法(1856年連邦法、現在も有効)がある。グアノの存在する島嶼は、所属国が不明の場合、アメリカ合衆国領土とする、という身勝手な法だが、それほどまでにグアノが軍事用・肥料用として重要であった。

 


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