地理総合の研究 付2018年センター地理AB本試・追試解説 

「地理講義」の続き。「地理総合」に「2018年センター試験地理AB本試・追試の問題と解答解説」を追加。

4. アメリカの養豚業 中国資本の進出 地理総合

2019-01-28 17:54:17 | 地理講義

中国が注目したアメリカの養豚業

米国ノースカロライナ州デュプリン郡で飼育される食用豚からの排泄量は1日あたり1万5700トン。ニューヨーク市民が排出する約2倍の数字である。
中国は米国の緩い規制を利用し、米国に安価な豚肉の生産を下請け生産させるとともに、養豚業に伴う環境問題や人的被害も押し付けている。

2013年7月1日、米国最大の豚肉加工企業スミスフィールド・フーズのCEOラリー・ポープは、中国のコングロマリット(現WHグループ)への企業売却について証言するため、上院の委員会に召喚された。同様の企業買収額としては過去最高の71億ドル(約8015億円)という金額が関心を引いた。

 売却先の中国側の豚肉加工会社の経営は不安定で、食用豚に違法な化学薬品を与えている噂もあった。さらに米国スミスフィールド社は長い間、環境問題を抱えていた。数千件の水質汚濁防止法違反により1200万ドル(約13億5500万円)の罰金を科されたこともある。
しかし懸念はそれだけではない。中国政府は、名目上の民間企業に国家の代理を務めさせた過去がある。「中国の食品会社が、米国の食肉大手企業を株主に説明責任せずに、中国資本の傘下に置くことに、懸念が感じられる」と、共和党上院議員のチャック・グラスリーは述べた。「安全な食品の供給は、国家安全保障上の重要事項だ。米国スミスフィールド社の中国への売却は、米国の安全保障にどれほどの影響を及ぼすだろうか?」とも述べた。

 米国スミスフィールド社のポープは、「わがの売却では、全員が利益をうける」と説明した。米国内の豚肉市場が衰退する一方で、中国は世界最大の豚肉消費国になった。米国スミスフィールド社売却で中国を新市場とすることにより、米国の南部には新たな雇用が生まれるだろう。
「売却が中国政府主導で行われているのか」という上院議員たちからの念押しを、ポープは笑い飛ばした。ポープは米中両国企業が、コミュニティの健全性や豚農場周辺の環境を守ることを約束した。上院委員会から数か月後、企業の売却が承認された。

やがて米国スミスフィールド社売却に関する疑問が沸き起こった。中国経済は、中国政府が策定する五か年計画に沿って推進され、民間企業もこの計画に従うことが期待されている。2011年、10数億人の人口を擁する中国の中間層が堅調に豚肉を消費する中、中国政府は、中国企業による海外の食品メーカーや農場の買収を推進する計画を発表した。米国スミスフィールド社の買収を含め、2年の間に中国系が所有する米国の農場は、8100万ドル(約91億4900万円)規模から約14億ドル(約1580億円)にまで拡大した。

 

 スミスフィールド社売却に関して、同社のポープは中国政府関与を否定
 
米国スミスフィールド社のポープは中国政府の関与を否定したが、中国中央銀行は、この買収に対する40億ドル(約4520億円)の貸付を承認した。買収は、2013年の年次報告書で社会的責任として処理されている。調査報道サイトのリヴィールは、中国系WHグループが中国政府からの指導を受けているとする文書を公開したが、WHグループ幹部は「中国では、豚肉を国家安全保障事項にあたるために、中国政府の指導を受けた」と説明している。

 現在、米国スミスフィールドは自社加工した豚肉の4分の1以上を、中国を中心とした海外へ輸出している。2016年の中国への輸出量は約30万トンだった。スミスフィールド社が買収先として魅力的だった理由は、豚を育てるコストが中国と比較してノースカロライナ州の方が約50%低いことにある。安価な飼料と広大な農場が主な理由だが、特に共和党支持者の多い州における取引や環境に関する規制が緩いことも挙げられる。中国企業にとってはコストとリスクを下げる進出先として、米国は魅力的な場所になっている。

ノースカロライナ州デュプリン郡は米国内でも最大級の食用豚の産地で、豚の数と人口の比率が約30対1だ。テーダマツの生える田舎の広大な砂地に、フットボール場ほどの広さの金属製飼育施設が数百軒あり、約200万頭の豚が飼育されている。1平方マイル(約2.5平方キロメートル)あたり約2450頭いる計算になる。飼育豚の排泄物も大量だ。豚1頭あたりの排泄量は、1日あたり14ポンド(約6.4キロ)。デュプリン郡全体では、1日あたり約1万5700トンもなる。ニューヨーク市民が排出する約2倍の量である。

 各飼育施設の裏にある屋外の巨大な肥溜めには、数百万ガロンの豚の液状排泄物が保管されている。肥溜めの多くは下にコンクリートを打ったりビニールを敷いておらず、単に土に穴を掘っただけの構造だ。排泄物が溢れ出るのを防ぐため、各農場は排泄物を農作物の肥料として撒いている。散布の際に霧状になった排泄物は周辺の住宅にも降りかかり、住民が吸い込むこともある。結果、呼吸器や健康上の様々な問題を引き起こしている。さらに、地中に染み込んだ排泄物は地下水面に達し、1996年や1998年のようにハリケーン来襲に伴う洪水で周辺地域に溢れ出したりしている。

 

ノースカロライナでは多数の住民が排泄物による健康被害を受けている
 
ノースカロライナ州東部には、900万頭以上の豚が飼育されている。州内で養豚の盛んな郡のトップ5だけでも、年間1550万トンの排泄物が出ている。環境問題のアナリストは、同地域に住む16万人が豚の排泄物による健康被害を受けている可能性があることを発見した。また、ノースカロライナ大学による研究によれば、被害者たちは黒人などマイノリティに偏っているという。ノースカロライナ州東部では、文字通り貧困層に糞(困難)が降りかかっている。

グローバリゼーションの拡大により、米国をはじめとする裕福な国々は、公害を伴う各産業の生産を貧困国へ下請けさせてきた。しかし、中国が裕福かつ独断的になるに従い、「中国は、汚れ仕事を米国にさせることで自国内における公害を減らし、完成品だけを自国へ持ち帰る」と、民主党上院議員のコリー・ブッカーは言う。米国の環境や健康が危険にさらされているだけではない。

ウエストバージニア大学の研究者は、中国による米国の農業資源の奪取について
「豚の処理や繁殖などの低収入の仕事は依然としてデュプリン郡などの地方に残る一方、高収入の管理業務やマーケティングの仕事は国外へ流出してしまうだろう」
「中国は、豚農場の周辺に住む人々の健康のことなど気にしない。自国の利益だけを考えて、公害を米国内に残しながら、高価でクリーンな豚肉だけを中国へ持ち帰ろう」

仕事や才能が米国の各都市部へ集中する一方、かつて裕福だった南部農村地方は、低収入の汚れる仕事も厭わないまじめな住民が多く、地元共和党議員を頼りとする。米国企業は長い間、この傾向を利用してきた。地元にとって好ましくない廃棄物処理会社に土地が提供された。
1980年代のレポートによると、南部の田舎町の長年の居住者、保守的な人、共和党員、自由市場の提唱者は、土地の好ましくない利用に抵抗が最も少ない。

 

 中国以外の国々も利用するアメリカの「労働力」
 
ここ数年、海外のコングロマリットも、米国の従順な労働力を利用してきた。2011年に発行された米国農務省の最新統計によれば、国外の事業体が米国内に所有する農地は増え続けており、調査時点の広さはバージニア州とほぼ同じだった。以降、サウジアラビアとUAEの投資家が米中西部の1万5000エーカー(約61キロ平方メートル)の乾燥地帯を購入し、灌漑農業で栽培したアルファルファの干し草を家畜用として母国へ輸出している。
米国スミスフィールド社を買収した中国WHグループもそれにならい、地元農場主たちに借金させて食用豚の飼育施設の建設を促進した。その結果、WHグループは成長した食用豚という最も利益の上がる部分を手にし、ノースカロライナの農場主には糞と環境問題を残した。経済政策を扱うノースカロライナ・ルーラル・センターの上級研究員ジェイソン・グレイは、「貧しい者は何度も欲しがるのが、農村経済の抱えるジレンマだ」と言う。

 「ここにはほんの数分しか滞在できないの」とルネ・ミラーは、家族の墓地の前に駐車しながら言った。ミラーは、約1km先にある南北戦争時代から家族が所有していた農場で育った。農場を最新式にするために彼女の母親が融資を申し込んだが、ミラー曰く、銀行や米国農務省から却下されたという。
ノースカロライナのアフリカ系米国人の農場主に対する同様の差別は、日常茶飯事だ。現在はミラーの親族が葬られている土地の所有者だったミラーの家族は、テレビで広告を流していたミスター・キャッシュという業者を利用してローンを組んだ。農場が抵当流れになった後、ミラーの所有した土地は、白人農場主の手に渡った。
現在ミラーは、親族の墓参りにのみ農場を訪れることを許されている。

バンのドアを開けると、家畜と糞便の悪臭でむっとするような空気だった。臭いのもとは100メートルも先にある飛行機の格納庫のような形状をした6軒の金属製飼育施設で、そこには4300頭の食用豚が飼育されている。飼育施設の裏には、液状の豚の排泄物を溜める広さ3エーカー(約1万2000平方メートル)の肥溜めがある。ミラーは、祖母と母親の墓と、次に最近癌で亡くなった甥の墓石の上に溜まった松葉を払いのけた。墓の前にひざまずいた彼女は、「甥っ子の亡くなった原因は、あれだと思う」と私に向かって言った。

 彼女の意味するものは、豚の糞尿のことだ。1日約30トンもの排泄物が、飼育施設のすのこ状になった床から肥溜めへ流れ出している。溜められた排泄物は、工業用の噴霧器で農作物の肥料として散布される。噴霧された排泄物は、ミラー曰く、田舎の道を超え、甥も一緒に住んでいた彼女の家に降りかかった。私の2度の訪問時、道路の向こうの敷地にある噴霧器は稼働していなかった。ミラーは家の窓にダンボールで目張りしていたが、悪臭は家の中でも強烈に感じた。

 業界では飼育している豚の排泄物を有機肥料と呼ぶが、実際には死をもたらす危険性がある。豚を過密状態の飼育小屋に押し込めていると、病気がたちどころに蔓延するため、豚に抗生剤やワクチンを投与したり殺虫剤で対応している。それら化学薬品は糞尿として屋外の肥溜めに流出することになる。肥溜めからは、有毒な化学薬品、硫酸塩、ウィルス、抗生物質の効かない耐性菌(サルモネラ菌、レンサ球菌、ジアルジア等)が検出されている。豚の排泄物により、人々は悲惨な死に方をしている。2015年、アイオワ州に住むティーンエイジャーが、豚の排泄物から発生するメタンガス、アンモニアや二酸化炭素が原因で肥溜めに倒れ込んだ。さらに助け出そうとした父親もまた、排泄物の中で溺れてしまった。


排泄物に関する、米国政府の調査結果とは?
 
2008年、米国政府説明責任局による調査により、畜産農場から出る排泄物の健康問題に関する15の研究が明らかになった。養豚場周辺に住むことで、呼吸器の問題、下痢、思考や呼吸の障害等のリスクが高まる。豚の排泄物が喘息、サルコイドーシスや心臓病の原因になったとされる。畜産農家の人々は、慢性気管支炎や抗生物質耐性ブドウ球菌感染症など、呼吸器系の病気にかかりやすいことがわかっている。

 養豚場から遠く離れた場所に住む人々でも、風で飛ばされてくる排泄物が原因で健康被害を被る可能性がある。ノースカロライナ州保健福祉省の調査によると、養豚場から3マイル(約4.8キロ)以内に住むミドルスクールの学生は、喘息を患っている比率が高いことが判明している。悪臭を感じるだけでも、緊張が高まり、怒り、憂うつ、疲労を感じ、混乱をきたす。肥溜めの底から地中を通り染み出した排泄物により、地下水や周辺の井戸に大腸菌が蔓延する可能性もある。豚の排泄物と癌との関係はこれまで証明されていないが、デューク大学の研究員たちは現在、両者の関係性について幅広い研究を行っている。米国環境保護庁の元エンジニアで、現在はクラークソン大学で教授を務めるシェイン・ロジャースは、同問題についての広範囲な研究を行ってきた。「幅広い調査により、養豚場周辺の住民は健康被害を負うリスクの高い可能性があることがわかった」という。

2017年、米国スミスフィールド社からの被害に対して約500人の原告から26件の訴訟が起こされている。その中にはミラーも含まれる。原告の大半は有色人種だ。ノースカロライナ州立大学による2014年の研究によると、養豚関連施設の周辺に住むのは、白人よりもアフリカ系米国人やその他マイノリティの方が1.5倍多いという。ミラーの住む地区を通る田舎道沿いに住む約20人は、アフリカ系米国人またはヒスパニックだという。一方で農場の白人オーナーは、ミラー曰く、遠くに住んでいるという。「このような分布パターンは、環境の人種差別といえる」と同研究は結論付けている。

米国スミスフィールド社の反論
 
米国スミスフィールド社は、被害者たちによる訴訟を、弁護士や活動家にそそのかされたゆすりと表現している。スミスフィールドの主要関連会社で当時広報担当役員を務めていたドン・バトラーと共に農場を訪れた際、彼は悪臭に関する問題をほとんど否定し、養豚場は周辺住民に悪影響を及ぼすという科学的判断に疑問を呈した。バトラー曰く、「会社はミラーや周辺住民からいかなる苦情も受けていない」としている。しかし私がミラーの近所に住む5世帯に取材したところ、全員が似たような呼吸器の問題を訴え、農場からの悪臭への不満を漏らした。住民の誰もバトラーの会社へ問題を報告していないが、やり方がわからなかったのと、それで会社が何かしてくれるとも思っていなかったのだ。ミラーの亡くなった甥の妻ルース・ボイキン・ウェブは、バトラーが彼の会社は「何のクレームも受けていない」と話した際に指差した家に住んでいるが、「私も引っ越したい。でもお金がない。養豚場のオーナーもここへ来て我々と一緒に過ごしてみるといい。オーナーは養豚場の近くには住んでいない」と私に語った。

ノースカロライナ州デュプリン郡における豚の排泄物による問題は、全国的な問題に広がってきている。米国環境保護局の人権問題担当部門は、ノースカロライナ州に対して書面で深刻な懸念を表明した。また、議会へ提出された豚の排泄物に関する現行の管理制度の緩和案は、委員会で棚上げされている。前出のブッカー民主党上院議員は同地区を2度訪れ、産業公害がマイノリティのコミュニティに大きな悪影響を及ぼしている惨状を訴えている。「米国民は、中国の企業が豚肉製品を米国外へ輸出する目的で、我が国の土、水、人を汚染している現状を知らない」と彼は私に語った。「私は驚愕し、怒りを覚えた。我々がこのように大量な排泄物を処理しなければならない現実は、信じ難かった」

2017年の爽やかなある秋の日、デュプリンの郡政担当官マイク・アルドリッジは私を、整然と管理された5800頭規模の養豚場へ案内し、丁寧かつ誇らしげに説明してくれた。彼はもともと小さな農場で主にタバコを栽培しており、両親から受け継いだ土地で働き続けたいと願っていた。
しかし1980年代の後半、デュプリンはタバコの価格の暴落と農業危機により打撃を受けた。多くの家族経営の農場は借金を抱え、大企業に太刀打ちできず、破産していった。
養豚で十分稼いだアルドリッジは、土地を手放す必要がなかった。彼は、肥溜めから風に乗ってわずかに臭う程度まで離れた干し草畑へ私を案内しながら言った。「養豚はデュプリン郡の多くの人々や経済を潤してきた。養豚のおかげで人々はここに留まってこられた。養豚がなければこの土地を離れねばならなかったろう」という。彼曰く、デュプリンの農家ではこの土地特有の悪臭をお金の香りと呼んでいるという。

その日遅くアルドリッジは、デュプリン郡の郡庁所在地ケナンズヴィルへ徒歩で案内してくれた。ケナンズヴィルは人口855人の赤レンガの街で、まるで1950年代へタイムスリップしたようだった。通りすがりの顔見知りと挨拶を交わしながらアルドリッジは、何十年も続く農業洋品店や理髪店、その他の店を指し、仕事や若者が都会へ流出し米国の田舎を荒廃させる中、デュプリンを支えたのが養豚であることを説明した。
翌日、養豚で潤っていないノースカロライナ州東部の田園地帯を車で走りながら、私はまた別の状況を目にした。大通りのほとんどが板張りでさびれていたのだ。養豚産業を研究するノースカロライナ州立大学のケリー・ゼーリング教授によると、「豚や家禽の飼育をしていないノースカロライナの田園地帯と比べ、養豚業の盛んな地域は活気があり繁栄してきた」という。ノースカロライナ・ルーラル・センターで調査員を務めるグレイは言う。「養豚場の近くに住みたいとは思わない。でも好き嫌いにかかわらず、養豚はデュプリン郡を経済的に支えている」

 

デュプリンの農場のあり方を変えてしまった養豚業
 
しかし、養豚がデュプリン郡の家族経営の農場を救った訳でもない。本来の農場の形が変わってしまったのだ。デュプリンで養豚業を営むウェンデル・マーフィーは1970年代、技術革新に乗り、1人で数千頭の豚を管理できる自動餌やりシステムを導入した。彼の会社マーフィー・ブラウンは、現在ミラーも参加する訴訟の被告となっているスミスフィールドの関連会社であり、これまで農家に対し、多額の金を貸して食用豚の飼育施設を整備することを推進してきた。契約農業では、農家は土地と納屋と餌やりの施設だけを持ち、家畜は企業が保有する。

20年強の間にノースカロライナの食用豚の数は4倍の1000万頭にまで増え、経済も活気づいた。マーフィーは運良く州議会議員に選出され、養豚業の活性化につながる法案を支持してきた。
彼が賛成したある法案では、1万頭までの業者を小規模家族経営の農場とし、区画規制の対象から外した。また、河川へ豚の排泄物を垂れ流すことへの罰則を実質無効化する改正案にも、彼は賛成した。さらに、養豚施設の建設資材を免税にする2つの法案にも賛成した。

ノースカロライナ州ポーク協議会によると、同州における養豚業は今や29億ドル(約3300億円)規模に成長し、4万6000人の雇用を創出しているという。家族経営の養豚業のネットワークが、州東部の砂丘地帯の経済を支える屋台骨となっているのだ。しかし、そのような状況も完璧ではない。同地域の養豚場は、小規模の家族経営の農場を食い物にして規模を拡大してきた。1986年、ノースカロライナ州には1万5000件の養豚場があったが、現在は約2300件を残すのみとなっている。養豚業界に関わる人々が問題について証言する際、匿名を条件にする場合が多い。米国スミスフィールド社は、些細な理由で農場との関係を断てる契約になっているためだ。しかし養豚場の農場主たちは長い間、「企業から十分な支払いを受けていない」と訴え続けてきた。農場には長時間の労働が必要とされるにもかかわらず企業との契約には諸手当が含まれず、フルタイムの収入を保証するものでもないため、前出のデュプリン郡政担当官アルドリッジを含む多くは副業を持っている。米国スミスフィールド社の競合他社と契約している農場主のトム・バトラーは言う。「企業が、自分のビジネスを持ちたいという我々のアメリカン・ドリームを食い物にしたため、我々は大きな負債を抱えることになった。企業いからの収入では各種支払をするのが精一杯で、借金を返すレベルではない」


養豚場経営の経済的メリットは?
 
バトラーの農場へ続く未舗装の道を車で進むとき、環境やビジネスに関する彼の受賞歴を宣伝する看板の横を通り過ぎた。バトラーは私を、緑色のビニール製防水シートで覆われた肥溜めの上に案内した。我々の足の下には糞尿が溜まっているはずだが、ほとんど臭いはしなかった。防水シートはバイオガスプラントの一部で、ガスを電気に変えるエンジンへメタンガスを送り込むパイプがつながっている。バトラーは、電力会社へ電気を販売しているのだ。彼曰く、バイオガスプラントへの投資により、よりクリーンで収益性の高い養豚を実現できるという。

2000年、米国スミスフィールド社は、豚の排泄物処理のより環境にやさしい方法を模索する研究に、1700万ドル(約20億円)を投じた。しかし最もコストの低い方法でも、1農場あたり5万2000ドル(約600万円)かかると試算された。そこで米国スミスフィールド社は、同社の元チーフ・サステナビリティ・オフィサーが最新技術と主張していた肥溜めシステムの開発を続けた。バイオガスプラントはより安価になっており、米国スミスフィールド社は150億ドル(約1兆7000万円)の年間売上からいくらかの利益を削ることで、より良い企業市民になれるはずだ、と非難する声もある。

 この処理システムは、米国スミスフィールド社にとって各地で適用するのに高価過ぎるとはいえない。ユタ州にある同社の農場では、バトラーのものと類似した嫌気消化プラントを採用している。中国WHグループでは、中国の農場で2基のバイオガスプラントを使用し、屋外の肥溜めよりもずっと進歩した乾燥肥料工法を採用している。さらに中国農業部は、バイオガスプラントの使用を推進してきた。私はスミスフィールドの元広報担当役員ドン・バトラーに、WHグループが中国で採用している方法を他の地域にも適用しない理由を尋ねた。彼は、「ノースカロライナの暖かい気候には肥溜めが向いている。別のシステムを導入しようとして破産に至った農家を見てきた」と主張した。とにかく米国スミスフィールド社は、株主に対する責任がある。それが米国のルールだ。

 米国経済では長い間、規制緩和がビジネスにとって有効だとされてきた。企業の成長が雇用創出と繁栄につながり、米国を強くする、という考え方だ。しかしその理論は、米国がグローバリゼーションの重要部分を握り続ける、という仮定に基づいている。養豚業がデュプリン郡にとって有益かどうかは、その見方によるだろう。しかし、間違いなく中国政府とWHグループには利益をもたらし、中国WHグループは2016年版フォーチュン・グローバル500に初めてランクした。米国スミスフィールド社の買収成功に続き、ルーマニアとポーランドでも同種の企業を手に入れている。

さらに中国WHグループは最近、カリフォルニア最大の食用豚処理会社のクラファティ・パッキングと、アリゾナ、カリフォルニア、ワイオミングで養豚場を展開する関連企業2社も買収した。「中国は価格に対して非常に敏感で、グローバルでの影響力を高めるための戦略を常に探し求めている」と、ウエストバージニア大学のヘイリー教授は言う。「中国は米国内に弱点を見つけ、そこから搾取しているのだ」

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。