多発性内分泌腫瘍症2型のレビュー
1. MEN2A
MEN2 は30歳台で甲状腺髄様癌を発端として発症することが多い。原発性副甲状腺機能亢進症が発端になることは稀である。
MEN2A は遺伝性甲状腺髄様癌の8割を占める。髄様癌は必発で、RET変異のタイプによるが褐色細胞腫は~5割、副甲状腺腺腫は~3割で出現する。他にも皮膚苔癬アミロイドーシスやヒルシュスプルング病、稀に角膜神経過形成を認める。
髄様癌は神経堤由来C 細胞から発生する。孤発性髄様癌はふつう片側性だが、遺伝性髄様癌は多中心性で両葉の上中部に多発していることが多い。
褐色細胞腫は MEN2A および MEN2B の50%で出現する。診断時の年齢の平均は36歳で、髄様癌が先行する場合が50%、同時の場合が40%、褐色細胞腫が先行する場合が10%。65%は両側性・多発性で、片側の場合でもふつう10年以内に対側に褐色細胞腫が出現する。
副甲状腺機能亢進症は MEN2A の 20-30%で出現する。診断時の年齢の平均は 36歳で、髄様癌と同時に発見されることが多い。副甲状腺機能亢進症が先行するのは 5%未満である。高 Ca 血症はふつう軽度で、85%は無症候性である。1~4腺が腫大している。
皮膚苔癬アミロイドーシスは MEN2A の 10%に出現する。T2-T6 のデルマトームの背側、つまり肩甲骨のあたりの皮膚に出現することが多い。小児期に出現することもあり、最初の症候になり得る。
ヒルシュシュプルング病は MEN2A の 7% に出現する。神経堤由来の細胞が腸管神経叢にうまく分化できなかったことによって起こる。面白いのは、髄様癌や褐色細胞腫は RET の恒常的な活性化で起こるが、腸管神経叢の分化は RET の作用不足で起こる。矛盾しているようだが、神経前駆細胞の変異 RET は細胞表面の発現量が低下するので、神経への分化誘導に十分なシグナルが入らないためだろうと考えられている。
2. MEN2B
MEN2B は小児期に診断されることが多く、予後不良。50%は家族歴がなく、特徴的な身体所見から疑えることが重要。
MEN2B は遺伝性髄様癌の5%を占める。診断時の平均年齢は 14.2 歳。褐色細胞腫を合併し、口唇が厚い特徴的な顔貌(リンク2参照)とマルファン様体型、眼の異常(角膜神経肥厚、乾性角結膜炎、涙を流して泣くことができない)、筋骨格系の異常(四肢の屈曲、大腿骨頭すべり症)、全身の神経節神経腫(リンク3参照)を認める。
90%以上で消化器症状(腹痛、便秘ときに下痢、腹部膨満、巨大結腸)があり、特に小児、若年成人で顕著。しばしば外科的治療が必要になる。
MEN2B の髄様癌はたいへん悪性度が高く、治癒切除が期待できる時期は限られている。したがって、小児科医は特徴的な身体所見から MEN2B を疑えることが大切。しかし、ベストなタイミングで手術できたとしても予後は厳しい。
50%が新規の生殖系列細胞の変異によることも早期診断を困難にする。この場合、変異遺伝子は父親由来である。
3. 家族性甲状腺髄様癌
遺伝性髄様癌の15%を占める。MEN2A や MEN2B に比べると発症年齢が高く、予後も 良い。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5399478/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5399478/
MEN2B の顔貌
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0278239114013846
MEN2B の神経節細胞腫
https://www.semanticscholar.org/paper/Multiple-endocrine-neoplasia-type-2.-Lodish/e5c0fec49cc6e8674e1846029a2b2aa5d4752e58/figure/0