内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/04

2022-01-04 22:01:03 | 日記
5.DPP-IV阻害薬

基本事項

・236のRCT (176310名)の結果を統合したメタ分析では、GLP-1受容体作動薬およびSGLT-2阻害薬で有意な全死亡率低減(それぞれ絶対リスク -0.6%, -1.0%, HR 0.88 (95%CI 0.81-0.96), 0.80 (95%CI 0.71-0.89)を認めたのに対し、DPP-IV阻害薬では認めなかった(絶対リスク -0.1%, HR 1.02 (95%CI 9.94-1.11) (JAMA 2018 319: 1580-1591)。

・単独投与では低血糖を起こしにくく、体重を増やさない。

・テネリグリプチン(テネリアⓇ)とリナグリプチン(トラゼンタⓇ)は腎機能によって用量調整する必要がない。

・血糖降下作用は強くない(HbA1c 0.5-0.8%)(Diabetes care 2009; 32: 193)。製剤間の差もどんぐり背比べ。

・薬価が高い(ジャヌビア 50mg 129.5円/錠, テネリア 154.6円/錠, トラゼンタ 155.4円/錠)。

・ジャヌビアとテネリアは増量可能だが、追加の血糖降下は-0.1%程度であり費用対効果は非常に悪い。

6.a-グリコシダーゼ阻害薬

基本事項

・小腸刷子縁細胞の細胞膜上に発現するa-グリコシダーゼの活性を阻害することによって小腸粘膜からのブドウ糖吸収を遅らせる。吸収されなかったブドウ糖は腸内細菌が代謝するので、腸管ガスが増える。

・a-GIは二糖類の分解を阻害するので、低血糖時の rescue は原則としてブドウ糖を用いる。

・血糖降下作用は強くない(HbA1c 0.5-0.8%)(Diabetes care 2009; 32: 193)。

・薬価は高い(ベイスンⓇ 0.3mg 42.7円/錠)。

・稀に重篤な肝障害を起こす。

・糖尿病の発症予防効果が示されている(STOP-NIDDM)

・日本人を対象にしたRCT (VICTORY trial) でも糖尿病の発症予防効果が示されている。

・この結果を受けて、低用量のベイスンⓇ(0.2 mg ×3 /日)はIGTに対する2型糖尿病予防に保険適応がある。


7. スルホニルウレア

基本事項

・SU薬は b 細胞膜上に発現するKATP チャネルに結合し、閉鎖させることによって b
細胞の細胞膜電位を脱分極させる。その結果、電位依存性 Ca チャネルが開口し、細胞質 Ca 濃度が上昇する。細胞質 Ca 濃度上昇が引き金となり、インスリン分泌顆粒が開口放出される。遺伝子発現を伴わないので、効果発現が早い。

・強力な血糖降下作用(HbA1c 1.0-2.0%)を示す(Diabetes care 2009; 32: 193)。

・副作用として体重増加と低血糖が多い。とくに腎機能が低下している患者では低血糖を来しやすい。

・緩徐進行1型糖尿病では、SU 薬の使用はインスリン依存性となる時期を早める可能性がある(Cochrane Library 2011)。

・UKPDS57 ではインスリンと併用した場合(basal oral therapy)、インスリン単独と比較して、血糖コントロール、低血糖発現、体重増加で優れることが示されている(Diabetes Care 2002; 25: 330-336)。


8. グリニド薬

基本事項

・SU薬と同じく b 細胞のKATP チャネルに結合し、インスリン分泌を促進する。SU薬よりも効果発現が速やかで作用時間も短い。

・血糖降下作用以外の付加価値を示すエビデンスがない。

・薬価は a-GI より高い(シュアポスト 0.5mg 59.5 円/錠)。



9. チアゾリジン

基本事項

・中性脂肪を蓄積して大型化した脂肪細胞はアディポカイン(FFA, TNF-a, IL-6, MCP-1)を産生し、インスリン抵抗性を惹起する。チアゾリジンは脂肪細胞分化ではたらく転写因子であるPPAR-g の agonist であり、脂肪細胞分化を誘導する。その結果、脂肪細胞が小型しアディポカイン産生が低下する結果として、インスリン抵抗性を改善させると考えられている。

・チアゾリジンの心血管イベントの抑制効果を検討した大規模臨床試験としては PROactive がある。本試験では、心血管疾患の既往がある2型糖尿病患者を対象とし、通常の治療にピオグリタゾンまたはプラセボを追加し、心血管イベントの発生頻度を比較した。一次エンドポイント(全死亡+非致死性心筋梗塞(無症候性含む)+脳卒中)については有意差を認めなかったが、二次エンドポイント(全死亡+非致死性心筋梗塞(無症候性除く)+脳卒中)についてはピオグリタゾン群で有意に発生頻度が低下した。一方、うっ血性心不全はピオグリタゾン群で有意に増加した(Lancet 2005; 366: 1279-1289)。

・フランスで行われた後ろ向きコホート研究(CNAMTS)では、ピオグリタゾン投与によりわずかに膀胱癌が増えることが示された。この報告を受けて米国で行われた前向きコホート研究(KPNC)では、中央値2年の観察期間でピオグリタゾン投与による膀胱癌発生頻度の有意な上昇は認めなかった(Diabetes Care 2011; 34: 916-922)。

・副作用として、しばしば浮腫と体重増加を認める。体重増加についてはSU治療群よりも有意に大きい(+1.2 kg CI 0.6-1.8 kg)(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・10件のRCT(被験者 13715名)を統合したメタ分析(CMAJ 2009; 180: 32-39)の検討では、ピオグリタゾンまたはロシグリタゾンを1年以上投与した群では有意に骨折の頻度が増加した(OR 1.45, 95%CI 1.18-1.79)。特に女性では骨折頻度が増加した(OR 2.23, 95%CI 1.65-3.01)。男性では骨折頻度の有意な増加は認めなかった(OR 1.00, 95% CI 0.73-1.39)。

・HbA1c低下についてはメトホルミンおよびSU薬に劣らない(Ann Intern Med. 2017; 166: 279-290)。

・薬価はメトホルミン、SU薬よりも高い(ピオグリタゾン 15mg 24.0円/錠)。