内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/03/09

2022-03-09 08:20:43 | 日記
野菜・果物の摂取量と終末期腎不全のリスクとの関係を検討した前向き観察研究
Am J Nephrol 2021; 52: 356-367

研究の背景

慢性腎臓病の有病率は 2000年から 2016年の間で急増しており、一般集団の 10-15%となっている。慢性腎臓病の危険因子としては、加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、食事摂取量が少ないことが同定されている。慢性腎臓病の予防のための食事療法については知見が少なく、高血圧と心血管疾患の予防が慢性腎臓病の予防につながるだろうという考えで、減塩が勧められている。

地中海食や DASH食 (dietary approaches for stop hypertension: DASH) 、菜食主義、植物性食品を中心とした食事パターン (provegetarian) は、一般集団において慢性腎臓病の頻度が少なく、罹患率も低いことが示されている。

また、慢性腎臓病の患者においては上記の食事パターンが終末期腎不全 (end-stage kidney disease: ESKD) への移行を遅らせ、合併症を減らす可能性が報告されている。

いずれの食事療法も果物、野菜、豆類/レンズ豆、ナッツ、全粒粉の摂取を推奨し、動物性蛋白の摂取量を制限することが共通しているが、個々の食品の摂取量、たとえば果物および野菜の摂取量と ESKD 進展のリスクとの関連についてはよく分かっていなかった。

高血圧と顕性蛋白尿をともなう慢性腎臓病 G3-4 を対象にした小規模なランダム化比較試験では、果物および野菜の積極的な摂取は重曹と同程度、腎機能低下の抑制効果があると報告されている。

以上のように、果物および野菜の摂取については慢性腎臓病に対する好ましい効果が示されているが、高カリウム血症の懸念から摂取を勧めるべきではないと考えられてきた。しかし、野菜および果物の摂取により慢性腎臓病の進行が抑制できれば、患者および医療の負担が軽減できるかもしれない。

そこで著者らは野菜および果物の摂取量と ESKD 進展のリスクとの関連をコホート研究で検討することにした。

2. 方法

著者らは国立健康統計センター(National Center for Health Statics: NCHS) が 1988年から 1994年にかけて行った第3次健康栄養国勢調査 (Third National Health and Neutrition Examination Survey: NHANES III) のデータ (n = 18825) を対象にコホート研究を行った。

NHANES III のデータは合衆国腎臓データシステム (United States Renal Data System: USRDS) のデータと、アメリカ疾病予防管理センター (Centers for Disease Contfol: CDC) および NCHS による死亡統計にひも付けられている。

18825例のデータのうち、4100例のデータを解析対象から除外した。内訳は、20歳未満 1225例、食事についてのデータが失われている 61例、妊娠中 105例、データが適切に紐付けられていない 2709例である。最終的に、14725例のデータを解析対象にした。

野菜および果物の摂取量は過去 30日間の野菜および果物の摂取頻度についての質問に対する回答から評価した。

被験者は、野菜および果物の摂取が 1. 週2日未満、2. 週2日以上3日未満、3. 週3日以上4日未満、4. 週4日以上6日未満、5. 週6日以上のカテゴリーに分けた。

また、データは開始時の年齢、性別、人種、社会経済的状況、肉および魚の摂取量、HbA1c、収縮期血圧、eGFR、アルブミンクレアチニン比で調整した。

3. 結果

被験者の平均年齢は 50.1±0.8歳で 49.3%は女性だった。eGFR の平均は 100.1 ± 14.2 mL/min/1.73 m2 だった。野菜および果物の摂取頻度の平均は週3.6日だった。

週6日以上野菜および果物を摂取する人々は、週2日未満の人々と比べて、より高齢で女性の割合が高く、収入の少ない人、教育の程度が低い人の割合が少なかった。また週6日以上野菜および果物を摂取する人々の方が週2日未満の人々よりも HbA1c の値が高く、収縮期血圧が高く、BMI が低かった。

中央値 9.2年間の観察期間で、1.5% (n=230) の人が ESKD になり、9.3% (n=1370) が心血管疾患で死亡した。

調整前のデータでは、野菜および果物の摂取が週6日以上の人々と比べると、それより少ない人は慢性腎臓病の発症リスクが高かった。

年齢、性別、人種、社会経済的状況、肉および魚の摂取量、HbA1c、収縮期血圧、eGFR、アルブミンクレアチニン比で調整しても同様の傾向が認められた (P for linear trend = 0.01) 。

週6日以上野菜および果物を摂取する人々と比べると、ESKD のリスクは週2日未満でリスク比 1.45 (95%信頼区間 1.24-1.68)、週2日以上3日未満で 1.40 (95%信頼区間 1.18-1.61) 、週3日以上4日未満で 1.25 (95%信頼区間 1.04-1.46) だった。

同様の傾向はもともと慢性腎臓病G 1-4 がある場合でも認められた。慢性腎臓病 G3-4 がある場合に限ると、野菜および果物の摂取量と腎機能悪化との間の線形の相関は認めなくなり、各カテゴリーの調整後リスク比上昇は有意ではあるものの慢性腎臓病がない場合と比べて小さくなった。

4. 議論

野菜および果物の摂取頻度が少ない方が、ESKD のリスクが高い傾向が認められた。このことから、野菜や果物を積極的に摂取することで ESKD 進展のリスクを抑制できる可能性が示唆される。

慢性腎臓病の患者でも同様の傾向を認めたことは新しい知見である。顕性蛋白尿を認める慢性腎臓病 G3 患者 108名を対象に、重曹またはアルカリを豊富に含む野菜および果物の積極的摂取の腎保護効果を比較したランダム化比較試験の結果が報告されている。いずれも標準治療と比較して eGFR 保持について同等の良い効果をもたらした。ただし、この試験では高カリウム血症の懸念から、血清カリウム 4.6 mEq/L 超で糖尿病の患者は除外されている。

野菜および果物の積極的摂取が ESKD のリスクを減らすメカニズムはいくつか考えられる。

ひとつは、体のアルカリ化を促進するためだろう。肉と精製された穀物を多く摂取すると、尿の pH が低下し、血清の重炭酸イオン濃度が上昇すると報告されている。この傾向は慢性腎臓病がある場合により顕著になる。健常者では食事由来の過剰な酸は中和されて腎から排出される。しかし、慢性腎臓病患者では酸の中和と酸およびアンモニアの排出する能力が低下している。そのため、慢性腎臓病患者ではしばしばアシドーシスを認める。そして、アシドーシスは慢性腎臓病を進行させる増悪因子であることはよく知られている。果物に多く含まれるクエン酸やマレイン酸は体内で代謝されると重炭酸イオンになるので、食事由来の酸を中和することで腎保護効果をもたらすのかもしれない。

他のメカニズムとしては野菜および果物に含まれる食物繊維やビタミン C、カロテノイド、抗酸化物質、カリウム、そしてフラボノイドなどによる抗炎症作用や抗酸化作用が腎保護効果をもたらす可能性が考えられる。

果物の摂取により、コレステロールおよび血圧が低下し、炎症や血小板の凝集作用が低下し、血管および免疫の機能が改善することが示されている。

また野菜や果物に含まれる食物繊維は腸内細菌の増殖を促し、短鎖脂肪酸 (アルカリ) やその他の抗炎症物質を産生させ、尿毒素を減少させる。尿毒素のうち、p-クレゾールやインドキシル硫酸は腎の線維化を促進し、慢性腎臓病の発症と進行に関与する。果物や野菜に含まれる抗酸化物質は活性酸素種を中和し、DNA 損傷を防ぐ効果があるかもしれない。またアブラナ科の野菜(キャベツやブロッコリー) に含まれるグリコシノレートは解毒酵素 (detoxyfying enzymes) の発現を誘導する。さらに、野菜や果物の摂取はステロイドホルモンの濃度や代謝を調整する作用もあるかもしれない。

野菜や果物を積極的に摂取するように心がけるとは飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、塩、糖質が多い不健康な食品を避けるようになり、間接的に ESKD 進行のリスクを低下させる可能性も考えられる。

今回の研究では、CKD G3-4 では野菜および果物の摂取による ESKD のリスク低減効果は減弱した。これには様々な要因が考えられるが、進行した慢性腎臓病患者では高カリウム血症を防ぐために野菜および果物の摂取を控えるように指導されることが多いことも原因のひとつかもしれない。

1994-2006年の質問票に基づく評価では、年が下るにつれて野菜や果物の摂取量が減り、肉や加工食品を摂取する頻度が増えている (β =-1.53, Ptrend 0.001未満)。同様の傾向は 米国農務省からも報告されている。

野菜および果物の摂取量が減少している現代においては、野菜および果物の積極的摂取が腎機能保持に与える好ましい効果はさらに大きくなっているかもしれない。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8263504/