内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2021/12/25

2021-12-25 15:28:08 | 日記
甲状腺癌のレビュー
NEJM 2016;375:1054-1067

最近10年で甲状腺癌の分子病態生理が明らかになってきており、分子標的薬は進行甲状腺癌の治療を大きく変えつつある。

甲状腺癌は大きく濾胞細胞由来のものと、傍濾胞C細胞由来のものに分けられる。前者には乳頭癌、濾胞癌、低分化癌、未分化癌がある。後者には髄様癌がある。

髄様癌では RET 変異による RET シグナルの異常な活性化が起こっている。

濾胞細胞由来の癌には共通の分子病態生理がある。

乳頭癌では、BRAF 変異を多く認める。特に BRAF-V600E 変異は乳頭癌の45%で認める。この変異によりBRAFのキナーゼ活性は恒常化する。BRAF が活性化すると、ヨウ素の取り込みに必要な蛋白群の発現が抑制される。放射線抵抗性の再発乳頭癌では、BRAF-V600E 変異を高率(75-90%)に認めることから、BRAF 変異が放射線抵抗性の原因ではないかと考えられている。

濾胞癌では RAS 変異を多く認める。しかし、RAS を恒常的に活性化させても腺腫にしかならない。癌化には RAS 変異だけでは不十分で、PTEN やPIK3CA など他の遺伝子変異が必要。

低分化癌、未分化癌では多様な変異が蓄積していて、BRAF、RASの両方のシグナル経路が活性化している。


1. 乳頭癌のサブタイプ

乳頭癌はMAPK 経路で働く遺伝子の変異によって発生する。乳頭癌は変異遺伝子によって臨床的特徴の異なるサブタイプに分かれることが分かってきた。

全体の60%を占める BRAF V600E 変異は組織病理学的には古典型および tall-cell-variant と関連している。BRAF V600E 変異を持つ乳頭癌はリンパ節転移しやすく、術後再発が多い。さらに、放射性ヨウ素療法に対する反応が悪いことが特徴である。これは BRAF の恒常的な活性化により MAPK 経路の亢進し、ヨウ素の取り込みに必要な遺伝子群の発現が抑制されるためと考えられている。

増殖因子の受容体である受容体型チロシンキナーゼ(RTK)の融合遺伝子(RET>NTRK>その他)も古典型と関連し、15%を占める。MAPK経路の最上流の変異なのでネガティブフィードバックがかかりやすく、BRAF V600E 変異をもつ乳頭癌と比較すると分化度は高い。

全体の13%を占める RAS 変異(NRAS>HRAS>KRAS) は組織病理学的には濾胞型と関連する。濾胞型乳頭癌はリンパ節転移が少なく、ヨウ素取り込みに関わる遺伝子群の発現は低下していないので、放射性ヨウ素療法が効く。

RAS 変異をともなう濾胞型の6割以上は皮膜に覆われていて、血管浸潤をともなわない。これらはかつて乳頭癌の17%を占めていたが、転移しないので癌ではなく異形成として定義し直された。


2. 濾胞癌

濾胞癌は甲状腺癌の2-5%を占める。濾胞癌および濾胞型乳頭癌は RAS 変異または PAX8-PPARG 融合遺伝子と関連している。

Hurthle(u にはウムラオトがつく)-cell-carcinoma は濾胞癌のサブタイプに分類されていたが遺伝的には濾胞癌とは異なる。

Hurthle-cell-carcinoma は被膜外浸潤や血管浸潤が特徴であり、しばしば肺や骨に転移する。また放射性ヨウ素療法にも抵抗性である。


3. 遺伝性甲状腺癌

高分化甲状腺癌のうち 3-9%が遺伝性である。1親等以内に甲状腺癌の家族歴がある場合を遺伝性甲状腺癌という。稀には、Cowden's 病や家族性腺腫性ポリポーシス、Werner's 症候群など遺伝性癌症候群が背景にあることもある。

遺伝性高分化甲状腺癌と関連する染色体領域にはFOXE1とNKX2-1がコードされている。これらは甲状腺の発生・分化を制御するマスター遺伝子である。

成人の一般集団の30%以下で長径 1 cm 未満の乳頭癌が見つかる。しかし、これら小さな乳頭癌が臨床的に問題になることは稀である。リンパ節浸潤や甲状腺外への浸潤がなければ、細胞診は必要ない。


4. 診断とリスク予測

細胞診の2-3割は良悪性の判定不能だが、遺伝子検査を組み合わせることで診断能を向上させることが期待されている。

高分化甲状腺癌の疾患特異的な10年間の死亡率は5%に満たない。しかし、中には転移し、再発を繰り返すものもある。そこで、リスクの層別化が重要になる。

遺伝子検査でリスク予測できるようになることが期待されているが、容易ではない。BRAF V600E 単独ではリスク予測には役立たないことを多くのグループが報告している。いくつかの遺伝子の組み合わせで予測するのが良いかもしれない。


5. 放射性ヨウ素療法

最近まで高分化甲状腺癌の術前に放射線ヨウ素療法が行われていた。しかし、大規模な後ろ向き観察研究で術前放射性ヨウ素療法の効果は確認できなかったので、現在は推奨されていない。

しかし、術後もサイログロブリンが高値であったり、残存病変を認める場合には術後の放射性ヨウ素療法は検討しても良いかもしれない。

術後放射性ヨウ素療法では 30-100 mCi (1.1-3.7 GBq) の放射性ヨウ素を用いる。残存病変の焼灼と同程度の効果が期待できる。

BRAF V600E 変異を持つ乳頭癌は放射性ヨウ素療法に抵抗性だが、MAPK 経路を抑制するとヨウ素の取り込み低下が解除されて放射性ヨウ素療法が効くようになる。

MAPK 阻害薬であるセルメチニブの放射性ヨウ素療法抵抗性の転移乳甲状腺癌対する効果を検討したパイロット研究では、20例中14例で放射性ヨウ素の取り込みを認め、うち8例で臨床的に治療効果を認めた。

同様の効果は BRAF の阻害剤であるダブラフェニブでも認められた。

6. 転移甲状腺癌の治療

FDA は放射線療法抵抗性の転移甲状腺癌の治療薬として、レンバチニブとソラフェニブを承認している。両者の比較は行われていないが、レンバチニブの方が明らかに効果が高い。

いずれもマルチキナーゼインヒビターだが、何を阻害した結果として効果を発揮しているのかはよく分かっていない。おそらく、VEGF受容体以下の経路を阻害することによる血管新生の阻害によって抗腫瘍作用を発揮するが、他の機序もあるかもしれない。

低分化甲状腺癌でも BRAF V600E 変異が病態生理で中心的な役割を果たしているが、BRAF の阻害薬であるベムラフェニブ単独では治療効果は高くない。おそらく、他の薬との組み合わせが必要だが、癌ごとに変異が異なるので、それぞれの変異に合わせて薬の組み合わせを変える必要があるかもしれない。

7. 低分化癌・未分化癌

低分化癌は甲状腺癌の6%を占め、平均余命は 3.2年。放射線療法には抵抗性で化学療法が必要になることが多い。

未分化癌は甲状腺癌の1%を占め、平均余命は6ヶ月。可能なら切除+局所放射線療法+化学療法(タキサン±カルポプラチン or ドクソルビシン)。切除不能の場合は姑息的治療。気道の確保が重要。Advanced Care Planning を行う。


8. 髄様癌

髄様癌は甲状腺癌の3-5%を占める。75%は孤発例で40-50歳台での発症が多い。髄様癌の25%以下が遺伝性の MEN2 がある。MEN2 の95%は MEN2A で、残り 5%が MEN2B である。

髄様癌の主な原因は RET 変異である。RET の機能獲得変異として報告されているものは 100 種類以上あり、変異によって表現型は異なる。

髄様癌は CEA、カルシトニンを放出しており、これらの濃度と腫瘍のサイズとは相関している。そのため、これらは術後再発の発見や治療効果判定、遺伝性髄様癌のリスクがある血縁者に対するスクリーニングの目的には有用である。欧州の多くの施設では、甲状腺結節に対してルーチンでカルシトニンが測定されており、0.4%で髄様癌が見つかる。しかし、このようなスクリーニングが妥当なのかは分からない。

MEN2B の RET変異を持っている子どもは予防的に甲状腺を摘出することが検討される。摘出時期は8歳以下であれば転移のリスクが低いと言われている。

MEN2B の髄様癌は悪性度が高いので、診断された場合は乳児であっても甲状腺摘出を検討する。手術を行う前には褐色細胞腫を除外する必要がある。

手術後は半年~1年の間隔で、診察とカルシトニン測定でフォローする。5年間カルシトニンが測定感度未満なら治癒と考えて良いだろう。

進行性または症候性の転移性髄様癌に対しては化学療法を検討するが、あまり良い薬はない。FDA はバンデタニブとカボザンチニブの2つのマルチキナーゼインヒビターについて転移性髄様癌への使用を承認している。これらは無増悪期間を延長させるが、生存期間は延長させない。高額で副作用が多いのもネック。RET のキナーゼ活性を特異的に阻害する薬の開発が期待される。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5512163/

2021/12/25

2021-12-25 15:06:23 | 日記
バセドウ病のレビュー
JCEM 2020;105:3704-3720

1. ラジオアイソトープ治療(RAI)

RAI は 1. 抗甲状腺薬(ATD)で12-18ヶ月治療しても寛解に至らない、2. 再発、3. 服薬アドヒアランス不良、4. ATD の副作用出現、5. 患者の希望で検討。

禁忌は 1. 妊娠・授乳中、2. 活動性の眼症、3. 甲状腺癌が疑われる結節がある、4. 眼症のハイリスク(TRAb 高値、喫煙者など)。

RAI を行うと、TRAb が上昇する結果、15-20%の頻度で眼症の増悪または新規発症が起こる。また、甲状腺機能亢進症が増悪し、甲状腺クリーゼを来すことがある。

ATD はRAI の効果を妨げるので、RAI の1週間前に中止、RAI 後数日経ってから再開。妊娠は男女ともに RAI 後6ヶ月以上経過してから許可する。

甲状腺癌の患者にRAI を行うと2次性の癌の発生が有意に増える。バセドウ病に対する RAI では結論は出ていないが、25年以上の縦断的観察研究では乳癌、腎癌、胃癌の増加を認めた。


2. 甲状腺摘出術(TX)

TX は 1. ATD で寛解に至らない、2. 甲状腺癌疑い、3. 甲状腺腫(容積 50-60 ml 以上または圧排症状あり)、4. 甲状腺結節および眼症あり、5. 妊娠中期で検討する。

周術期合併症を減らすために 術前は ATD が必要。さらに経静脈的にヨウ化カリウムを投与しておくと、甲状腺への血流が減るので術中の出血が減らせる。

起こり得る合併症としては喉頭浮腫、反回神経損傷、低Ca血症、副甲状腺機能低下症、出血がある。あらかじめ Ca 補充をしておくと、周術期の低Ca血症を減らせる。

熟練した耳鼻科医が手術すると、低Ca血症は10%以下、反回神経損傷は1%以下。

術後は体重に基づいて LT4 を補充する。


3. 抗甲状腺薬(ATD)

チオナミド抗甲状腺薬(MMI, PTU) はアジア、欧州、南米ではポピュラー。米国は RAI がポピュラーと言われていたが、最近はそうでもない。ATD が60%、RAI が 35% である。理由は RAI は眼症が増悪したり、新規発症したりするから。

甲状腺に取り込まれた無機ヨウ素は濾胞上皮に発現しているサイロペルオキシダーゼによって酸化されて有機化される。ATDはこのステップを阻害して甲状腺ホルモンの合成を抑制する。

PTU は 活性が MMI の 1/10 だが、末梢でのT4 から T3 への変換を抑制する作用がある。そのため、甲状腺クリーゼの治療では PTU が好まれる。

MMI は甲状腺への移行性が高く、甲状腺内の濃度は投与から22時間は安定している。だから、1日1回投与で良い。

米国および欧州のガイドラインでは ATD の治療期間は 12-18ヶ月とされる。甲状腺機能が正常化し、TRAb が陰性化すれば、ATD 中止を検討する。欧州のガイドラインではATD開始から 18ヶ月後に TRAb 陽性ならもう1年低用量で ATD を継続するか、RIA または TX を検討する。

ATD で完全寛解に至るのは 5割に過ぎない。18ヶ月 ATD を継続して寛解導入できない場合は通常は RIA または TX が検討される。

しかし、最近は低用量で ATD を継続するのも悪くないのではないかと言われている。長期ATD(95ヶ月)と標準ATD(19ヶ月)を比較したランダム化比較試験では標準ATDの方が長期ATDの4-5倍累積再発率が高かった。また、低維持量(MMI 5-2.5 mg/day)では、重度の副作用の頻度は 1.5%と低かった。さらに、長期ATD と、標準ATDまたはRIA とを比較したランダム化試験では、長期 ATD の方が甲状腺機能が安定していて、コストは低く、甲状腺機能低下が少なく、ATD の副作用が少なかった。さらに、寛解率(63%)も優れ、体重増加、眼症悪化が少なかった。


4. ATD の副作用

ATD の副作用で最も多いのは軽度の皮膚反応(皮疹、掻痒、蕁麻疹)で、服用開始早期に多く、頻度は数%。

重度の副作用としては無顆粒球症、肝障害、血管炎がある。

無顆粒球症は0.2-0.5%の頻度で出現し、服用開始から3ヶ月間で多い。突然の発熱と激しい咽頭炎で発症する。MMI については高用量で発症頻度が増えるが、PTU については用量と発症率の間に関連はない。

肝障害は MMI では 0.3%、PTU では 0.15% と MMI の方が多いが、肝不全に陥るのは PTU の方が多い。

PTU の副作用としての ANCA 関連血管炎は PTU 服用開始後数年経過してから出現することが多い。


5. 妊娠中の管理

MMI も PTU 胎盤を通過する。ATD に関連する奇形は MMI で 3-4%、PTU 2-3%。MMI に関連する奇形としては、皮膚欠損症、食道閉鎖、後鼻腔閉鎖がある。PTU に関連する奇形としては鰓瘻と腎嚢胞がある。

感受性がある時期は妊娠5-6週から10週まで(妊娠に気づいた時には感受性のある時期は過ぎている。計画妊娠が必要)。

ガイドラインでは妊娠初期の ATD としては PTU を勧めている。妊娠前に MMI 10 mg/day 以下で甲状腺機能正常な妊婦なら、妊娠5週で休薬して毎週 free T3、free T4 を確認しながら経過を見ても良いかもしれない。リスクが高い(MMI 10 mg/day 超、眼症あり、TRAb 高値)なら、最低量のPTU (50-100 mg/day) に切り替えて経過を見る。

妊娠中期以降は PTU に関連する肝障害のリスクを回避するために MMI に切り替える。

自己免疫性甲状腺疾患と診断されている全ての女性は妊娠前と妊娠中に TRAb を測定するべき。再発の恐れがない患者(RAI, TX 後)でも測定するべき。なぜなら、お母さんは再発しなくても、赤ちゃんが甲状腺機能異常に陥るかもしれないから。

6. バセドウ眼症

TRAb だけでなく TSH も TSH受容体を発現している眼窩組織を刺激するので、甲状腺機能低下も眼症を悪化させる。

TSH 受容体が刺激されると、親水性のムコ多糖と炎症性サイトカインが放出される。糖質コルチコイドは炎症をともなう場合は疾患の活動性を抑えるのに有効。しかし、既にある眼球突出や複視の症状を改善させる効果は乏しい。

そのため、眼球運動障害をともなう場合は球後照射や眼科手術が必要になる。

眼窩組織の線維芽細胞には TSH 受容体だけでなく、IGF-1 受容体が発現しており、両者が協調してはたらくことで眼症が起こると考えられている。

最近、米国で抗 IGF-1受容体モノクローナル抗体であるテプロツムマブがバセドウ眼症の治療薬として承認された。活動性のバセドウ眼症患者に3週間毎に8回投与すると、24週後の評価で眼球突出、臨床的活動性スコア、複視、QOLのすべてがプラセボ投与群と比較して有意に改善していた。

テプロツムマブは日本では未承認。大変高価で、ステロイドパルスとの比較も行われていない。また、活動性のない眼症への効果は期待できないので、手術の代わりにはならないだろう。

軽症の眼症ではセレンが有効。


テプロツムマブの臨床試験
https://www.nejm.jp/abstract/vol382.p341

セレンの臨床試験
https://www.nejm.jp/abstract/vol364.p1920

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7543578/

2021/12/25

2021-12-25 14:47:45 | 日記
妊娠糖尿病についてのレビュー
Nat Rev Endocrinol 2012;8:639-649

妊娠糖尿病の周産期合併症の頻度を検討した観察研究であるHAPO study では健常妊婦と比較してわずかでも血糖が上昇すると、周産期合併症が増えるという結果だった。

そのため、経口ブドウ糖試験で1点陽性であれば、妊娠糖尿病と診断することになった。この結果、妊娠糖尿病と診断される人が2倍に増えた。

たしかに周術期合併症は増えるが、絶対リスクは高くなく、いずれも数%の増加に過ぎない。生活習慣指導や自己血糖モニター、インスリン注射で介入した場合、肩甲難産、児の過体重は数%減らせるが、とても効果的とは言えない。

妊娠糖尿病と診断された妊婦は産後5-10年に3-5割が糖尿病を発症する。生活習慣の改善で糖尿病発症リスクを~5割減らすことができるので、妊娠糖尿病の診断・介入は将来の糖尿病の発症予防に効果があるかもしれない。

妊娠糖尿病は子どもの肥満・糖尿病発症のリスクらしいが、母親に対して妊娠糖尿病の診断・介入することが子どもの肥満・糖尿病発症予防につながるかどうかは不明。母乳育児は子どもの肥満予防に有効かもしれない。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4404707/

2021/12/25

2021-12-25 13:37:50 | 日記
慢性腎臓病を合併している2型糖尿病患者に対するフィネレノンの心血管イベントの抑制効果を検討した偽薬対照ランダム化比較試験(FIGARO-DKD)
NEJM 2021; 385: 2252-2263

慢性腎臓病(慢性腎臓病 G2-4A2またはG1-2A3) を合併している2型糖尿病患者7437名が対象で最大量の ACEI/ARB を投与した上で、偽薬またはフィネレノンを追加して中央値 3.2年観察した。主要評価項目は心血管複合イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、心不全入院)、二次評価項目は複合腎イベント(ベースラインからの eGFR の40%以上の低下、腎死亡) 。

心血管イベントはフィネレノン投与群の 12.4%(458/3686)、偽薬投与群の14.2%(519/3666)で起こった(HR 0.87, 95%CI 0.76-0.98, P = 0.03)。

内訳を見ると、主に心不全入院の頻度がフィネレノン投与群で少なかった(HR 0.71, 95%CI 0.56-0.90)。

腎イベントはフィネレノン投与群の 9.5%(350/3686)、偽薬投与群の10.8%(395/3666)で起こった(HR 0.87, 95%CI 0.76-1.01)。

有害事象の報告はフィネレノン投与群と偽薬投与群の間で差はなかった。高カリウム血症による投薬中止はフィネレノン投与群の方が多かった(1.2% V.S. 0.4%)。

以下、考察

FIDELIO-DKD (主に CKD G3A3 を対象) よりも腎機能の良い慢性腎臓病患者 (60%以上は eGFR 60 以上) を対象にしているが、心不全入院の抑制効果を認めている。有意差こそつかなかったけど、腎イベントの抑制効果も FIDELIO-DKD と矛盾しない結果だった。

EFrHF は除外されているのに、3.2年間で心不全入院を3割減らせるのは悪くない。

SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体阻害薬はそれぞれ 1割弱の患者で使用されていて、両薬剤を使用している患者でも心不全入院は少ない傾向があったので、相加効果がありそうと。今後は SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬と併用した場合の心腎イベントの抑制効果を検討するそう。

フィネレノン 10 mg とスピロノラクトン 25-50 mg を比較するとフィネレノンの方が高カリウム血症が少なかったという報告があるそうだが、フィネレノンの常用量が 20 mg で、スピロノラクトン 25 mg では高カリウム血症は少ないという報告がある。フィネレノン 10 mg とスピロノラクトン 25-50 mg を比較するのはフェアではないだろう。フィネレノンの方が高カリウム血症を来たしにくいというのは眉唾だと思う。同様の効果があるなら、スピロノラクトン 25 mg で良いのではと思ってしまう。

FIDELIO-DKD と FIGARO-CKD の結果を合わせて考えると、糖尿病性腎症3期の患者では腎症進行抑制と心不全の抑制のために最大量の ACEI/ARB を使用した上で、SGLT-2阻害薬(と GLP-1 受容体作動薬) を使用する。なんらかの理由で、SGLT-2阻害薬が使えない場合は高カリウム血症に注意しつつ、SGLT-2 阻害薬の代わりにフィネレノンを使用。今後、SGLT-2阻害薬とフィネレノンの相加効果が示されれば、ACEI/ARB、SGLT-2阻害薬に次いで使用する…という感じになりそう。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2110956

2021/12/24

2021-12-24 18:24:52 | 日記
子癇前症のレビュー
Nat Rev Nephrol 2019;15:275-289

子癇前症は妊娠後期に高血圧+蛋白尿を認めるもので、子癇の危険因子として同定された歴史があるのでこの名がある。HELLP症候群は子癇前症に含まれる。

全妊娠の4-5%と頻度は高い。興味深いことにヒト以外の哺乳類では子癇前症は認めない。

子癇前症は胎盤の虚血が原因と考えられているが、ヒトは脳が発達しているために妊娠後期の酸素需要が他の哺乳類より格段に多い(ヒトでは胎児の酸素需要の6割を脳が占めているのに対し、他の哺乳類では2割程度)。このことが、子癇前症がヒトに特有である原因だと考えられている。

子癇前症の病態生理は完全には解明されていないが、胎盤の虚血→血管新生/抗血管新生のインバランス(特に抗血管新生作用をもつタンパク質の血中濃度上昇が重要)→母体の血管内皮障害が病態の中心だろうと考えられている。

高血圧に対してはRAA系の関与はないだろうと考えられている。その根拠は子癇前症の患者では、RAA系は健常妊婦よりも抑制されているからである。高血圧の原因とwしては抗血管新生因子やアンジオテンシンII タイプ1受容体に対する自己抗体の関与が想定されている。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6472952/