無題

　　少年サッカーのコーチを引き受けて、やがて十数年が経っていた。

当時は、まだ息子と親子で参加していたが・・・

 

　　サッカーを教える前に、大人になる前に教える事が優先だと思い信じて来た。

　　　子は親の鏡　　礼儀正しい父兄は、その子も大人びてしっかりしているものだ。

 

しかし、自分の気分で子供を怒ったり、八つ当たりしてしまう時は辞めようと思ったりする。

　　それでも子供は私の周りに集まってくるので、何とか言い聞かせて続けてきた。

　　男の子は乱暴な事が好きで、両腕を掴んで回してやったり、逆さまにしてやったりすると

言葉と裏腹に大半は喜んでいる。

　　やたらと私の体に触ってくる子は、父親とのスキンシップに飢えているのかなとか、

色々考えてしまう事も多々ある。

　　　近所に住んでいるY君は、小４の男の子。

　　母親と祖母は会ったことが有っても、父親の姿は見たことが無い。

大人しい子で口数も少ない。　感情を表に表す事も少ない。

１年生の頃から教えているが、心からの笑顔も・・・

　　　そんな彼が、４年生大会に出場した。

　　同級生でチームメイトのS君も一緒に出たが、その子は他に剣道やら何やら習い事を

　　複数こなしている。　当然、サッカーの練習にも来れずに試合だけ来ていた。

いきなり来て試合で結果を出せる程、サッカーも甘くない。

　　散々な試合結果に、私は彼を責めてしまった。　二兎を追う者一兎もえず

S君は下を向いてしまい、それから彼は練習に来ていない。

　　その後、ちゃんと練習を続けてきたY君が、突然辞めたいと言い出した。

　　S君を叱った事で、チームの一員としての責任感を感じたのだと思う。

今まで、楽しんでサッカーをしていたのに、そんなに責められても？

　　彼にしてみれば、そんな気持ちだったのかも知れない。

　最近の子供は体育会系とは程遠く、やる気も感じない。

　　　一人くらい私のようなコーチは必要だと思うが、子供は鬱陶しく感じ嫌っているのか？

　　監督のモットーは楽しくサッカーを！だが、ふざけてプレイするのとは違う。

　　見極めて叱っているつもりでも、度を越して怒鳴る事もしばしば・・・

そろそろ、辞めてもいいのかな。　ふと思う。　

　　　　　　そんな考え事をして、車で出かけた。　Y君の自宅の前で、偶然彼の姿を見た。

　　　　一瞬こっちを見た彼は、気まずいのか視線をそらす。

　　　しかし、気になるのか再び私の車を確認した。

　　　　　　　　　チームを退団したからと言って、無視する事もない。

　　　　　　　　笑顔でバイバイをすると、小学生なのに会釈をした。

　　　　　　・・・　まだ８～９歳なのに、成長を感じた瞬間だった。

　　父兄の人間関係や送迎の都合やらで、退団する子が増えてきた。

　　　本当に原因がそうならば良いが、私が原因でなければ。。。

　　　　　　『八日目の蝉』で泣いた、日曜の午後だった。

｛おまけ｝

　　息子は、千葉の大学に行っているらしい。　隔世遺伝で良かった・・・