歌う狸ブログ

街角狸マニアがあらゆるマニアについて歌う「マニアソングス」誕生秘話

オリジナルジャズソング『月を眺めましょう』について

2020-08-01 22:40:45 | 自己紹介
マニアブログフェスタにも参加されているマニアの人たちの世界観を歌ったアルバム「マニアソングス」の曲解説をやろうということで記事を書いてきました。順番的に次は路上園芸学会について歌った『路上園芸学会歌』の解説になりますが、書き出すと長くなりそうなので次回の予告としておきます。(年表を作って馴れ初めから書き出すのか、意外とさらっと書けるのかまだ方向性が定まりません。)

村田食堂の新曲『月を眺めましょう』

このところバンド活動は全然出来ていませんが、過去に作った曲を録音したり、録音した曲の再ミキシングをひたすらやっていて、私がやっている村田食堂というバンドの為に作った新曲をデモ用に録音してみました。およそ100年前の女性が歌う恋の歌という設定です。早速お聴き頂きたいと思います。(下の埋め込みの三角ボタンを押すと再生されます。)


着想と解説

何度か書いていますが、村田食堂というバンドはジャズソングという、ジャズに日本語の歌詞を当てて歌う戦前に流行ったジャンルの曲をこよなく愛するバンドです。古き良きジャズのメロディーやリズムが心地よいのはもちろんですが、英語を一度日本語に置き換える訳詞によってもたらされる世界観が素晴らしいと思っています。さらに言うと、戦前の曲が多いので、訳された日本語が現代の言い回しや感覚と違っている、という二重のずれを味わうことが出来るのが魅力です。例えば1928年に作られた"Get Out and Get Under the Moon"は『月光値千金』という訳でエノケンやディック・ミネに歌われ大ヒットした、ジャズソングを代表する曲ですが、まず「値千金」という言葉自体今ではプロ野球中継ぐらいでしか聞かない言葉ですし、「楽しき思いを我に寄せる」という言い回しはどんなに頑張っても今の我々には出てきません。ジャズソングの女王と呼ばれる川畑文子さんのレコードを蓄音器で再生したバージョンがありましたのでお聴きください。


一方、エノケンバージョンは全く月が出てこない訳詞ですが、相手を誘って外に出るという原曲のエッセンスを元にイメージを膨らませた歌詞になっています。歌う人のイメージに合わせて変わる訳の幅みたいなものも非常に面白いです。


そうなると訳詞ではなくても当時の人の感覚が滲んでくるような歌はもうジャズソングと言ってもいいかもしれません。例えばこちらの『泣かせて頂戴』は上に書いた川畑文子さんが歌ったヒット曲ですが、女だから泣くみたいな超ストレートな歌詞は現代ではちょっと考えられません。この歌詞の現代的な意味での良し悪しはさておき、この曲は当時の女性の立場という背景があるからこそ生まれた曲なのだと思います。(カメラの性能のせいか顔が全く見えませんが、以前ライブで演奏した動画がありましたので下に貼り付けておきます。)


そんなジャズソングの精神を引き継いだ名曲が上々颱風の『メトロに乗って浅草へ』です。古き良き浅草の風景がその時代の人の言葉として登場してきます。日本初の地下鉄が開業したのが1927年のことだそうで、当時の人にとってメトロに乗って浅草へ行くことがどれほど心躍る体験だったのかを想像すると本当にウキウキしてしまいます。上々颱風といえば狸好きとしては平成狸合戦ぽんぽこのエンディング曲『いつでも誰かが』が真っ先に出てきますが、リーダーの紅龍さんが作る楽曲は心を掴んで離さない名曲ばかりです。東京のライブハウスでライブ活動をしている紅龍さんと対バンさせて頂いて、アンコールで共演させてもらったり、出番前に一緒にラーメンを食べたりしたのは私の音楽活動の中でも数少ない自慢話です。


こうして種明かしをしてしまうと分かりやすすぎるオマージュですが、もはや過去のものになってしまったジャズソングに対する憧れを詰め込んだ、新しいジャズソングが出来たと思います。早くバンドメンバーで集まってお披露目出来る日を楽しみに待ちたいと思います。


月を眺めましょう
作詞作曲:むらたぬき

あなたにもらった恋文の返事も書けずにいるうちに
胸の振り子は早鐘に打たれて壊れたの

いっそメトロになんか乗らないで
今夜の月が綺麗だねと
そっと私を連れ出して
月を眺めましょう

甘い煙草の煙など本当は好きでもないけれど
あなたの隣にいるうちに心に染み付いた

いっそジャズなんか聴かないで
今夜の月が綺麗だねと
そっと私を連れ出して
月を眺めましょう

アイラブユーなど言われても
あなたの気持ち見えなくて
淡く輝くお月様二人で眺めていたい

いっそメトロになんか乗らないで
今夜の月が綺麗だねと
そっと私を連れ出して
月を眺めましょう

いっそジャズなんか聴かないで
今夜の月が綺麗だねと
そっと私を連れ出して
月を眺めましょう


ジャズソング的アプローチ『スリップ・スライディン・アウェイ』

2020-07-12 21:53:44 | 自己紹介
今回はオリジナルソングの紹介ではないのですが、ずっとやってみたかった曲を録音したので勢いにまかせて記事にしてしまおうと思います。以前の記事で書いたのですが、私は村田食堂というバンドをやっていましてジャズソングと言われる戦前のジャズの名曲をレパートリーにしています。ジャズが初めて日本に伝わった当初、英語の歌詞を分かりやすく日本語に訳して歌われたのがジャズソングですが、その日本語訳自体が今となっては昔の言葉なので、二重にクッションを挟んだような独特な感覚を味わえます。

ジャズソングというジャンルは戦後廃れてしまったのですが、この英語の歌を訳詞して歌うというスタイルは一部のフォークシンガーに引き継がれたようです。特に私は浅川マキさんの訳詞が好きで、Gerry Goffinさんの"It's not a spotlight"を訳した『それはスポットライトではない』は常に心のヒットチャートナンバーワンです。友部正人さんが訳したBob Dylanさんの"I shall be released"も素晴らしくてバンドで歌っています。

訳詞とは言ってもあまり原詩とかけ離れた訳ではなく、基本的に原詩に忠実に訳しつつ、訳者の気持ちも乗っているというのが素晴らしいのですが、日本語は英語に比べて音に対して文字を詰められないので、これは結構至難の技なのです。私も偉大な先輩方にならって好きな歌を訳して歌う練習をしていますが、今回はついにPaul Simonさんの"Slip Slidin' Away"に挑戦してみました。

Paul Simonという人は音楽の神様みたいな人ですが、やはり言葉のセンスが凄まじいと思います。1981年にニューヨークのセントラルパークで開かれたサイモンとガーファンクルの再結成コンサートには50万人が詰めかけたそうです。そのアンコールで、「今日は本当は花火を打ち上げたかったんだけど、消防法の関係で出来なかったので代わりにとっておきの音楽で盛り上がろう!最後の曲は、サウンドオブサイレンス(沈黙の音)」という最高のMCを決めてくれていました。

Slip Slidin' AwayはそんなPaul Simonさんが1977年に作った曲で、当時の心境を歌っているのだと思いますが、最新のステイホーム中に配信された動画でも歌っているので、今も同じような気持ちを持っているのでしょう。タイトルのところはうまく訳せなかったのですが、「いいところまで来て足をすくわれる」というか結局ゴールにはたどり着けないという意味にとらえました。

マニア活動でも、音楽でも、やってもやってもどこかにたどり着ける気がしない、というのは常日頃感じていることです。泣き言を言ってるんじゃない!って言われそうですが、音楽の神様Paul Simonですらこう感じているのですから我々も自信を持って泣き言を言ってもいいのです。

それでは、セントラルパークでアートガーファンクルと一緒に歌っているバージョン、最新のステイホームバージョン、そして私の訳詞バージョンの動画を貼り付けておきますのでお時間ありましたらご覧ください。





Slip Slidin’ Away
訳詞:むらたぬき

Slip slidin’ away
Slip slidin’ away
どれだけ歩いても
どこにもたどりつけやしない

男がいた
私と似た男
全身全霊で女を愛した
聞いてくれ怖いんだ
愛が強すぎて自分が消えてしまいそうだ

女がいた
妻になった女だ
彼女はいつもこう言っていた
晴れた日が好き
雨が降らない日
あなたが横になっている日は
人生を悔やむから

父親がいた
どうしても伝えたいことがあった
遠くからやって来て
眠りについた息子を見ると
静かに帰っていった

神のみぞ知る
神のなすがまま
もろすぎる人間に知るよしもない
せいぜい働いて糧を得る
順調に歩いているようで
一歩も進んではいない

今たぬきについて話そう!別視点チャンネルでインタビューして頂きました!

2020-06-03 21:19:43 | 自己紹介
マニアフェスタを主催している別視点のYoutubeチャンネルで街角狸のインタビューをして頂きました!30分ぐらいですがひたすら狸のことを話せて、しかもいい感じに編集して頂けたのでとても嬉しいです。このブログでも度々紹介している日本タヌキレコード大賞の話や、マルシェルに出品している小便小狸の話だけでなく、信楽狸の歴史や日本たぬき学会、トークイベント「タヌキ大学」の話も出来たので話したいことをほぼ話せたかなと思います。是非ご覧頂けたら幸いです。


序盤からいきなり松澤さん、斎藤さんの茶番「でもそれってお高いんでしょう?」「1000円ですよ」「安っ!」が見れたので笑ってしまいましたが、狸が落ちてきたら「ホームアローンの泥棒みたいになる」とか、例えが素晴らしくて最後まで笑いっぱなしでした。

でも普段こんなに狸の話を聞いてもらえる機会がないので、最後の方は頭が真っ白になってしまって、今後はもっと狸を広める活動をしたい、みたいな大それたことを口走ってしまいましたが、本当は狸のみならずもっと色々なマニアの方とコラボしまくりたい、というのが正解でした。


(頭が真っ白になっている狸の図)

別視点の松澤さん、斎藤さんと言えば別視点ラジオという大人気Youtube番組でずっとパーソナリティをやっていて、私は大ファンなのでこのお二人にお話を聞いてもらえたのが格別に嬉しかったです。そんな別視点ラジオの神回も下に貼っておきます。松澤さんの神がかり的なあらすじ力と斎藤さんのあいづち力が際立った回で、私も話を聴きながらこの作品がめちゃめちゃ気になってしまい、思わず映画を見に行ってしまったほどでした。


猫と狸のシリーズ

2020-05-15 21:07:47 | 自己紹介
このブログをご覧の皆様は薄々感づいていらっしゃると思いますが、私は狸が好きです。狸と言っても置物の狸、動物のタヌキ、昔話やことわざに登場するたぬきなど様々な姿で我々の日常生活に溶け込んでいます。(注 狸研究者の間ではそれぞれの狸を区別する為に「狸」「タヌキ」「たぬき」と使い分ける場合が多いですが、統一された見解は無いように思います。そういう視点で世の中に溢れる「狸」「タヌキ」「たぬき」を見てみるとまた新たな発見があるかもしれません。)そんなわけでただでさえ色々なジャンルに渡っている狸ですが、その中でも私が特に好きなのが異種間友情モノです。いきなりなんのこっちゃという感じですが、実は狸は色々な動物と触れ合ったり、比較されたりしてこそ光り輝く役者なのです。

狸と狐と熊と人間と天狗

狸とセットにされる動物No.1はやはり狐ですね。昔から時として比較されることでお互いの存在感を際立たせてきた腐れ縁と言ってもいいでしょう。狐はスマートで狸はどこか抜けた性格、いやいや、狐はずる賢くて狸は愛嬌がある!とお互いの推しメン論争が繰り広げられてきたわけです。日本人にとってはどちらも身近な存在だったということでもありますが。

そんな長年の論争に別の視点から切り込んだのが「タヌキとキツネ」です。狸と狐のステレオタイプなキャラクターを活かしつつ、結局「どっちもかわいい」という結論に落とし込む超人気作品です。ちょっとツンデレなキツネと純粋なタヌキのコンビですが、めちゃくちゃ仲が良くて羨ましくなります。

 
異色の取り合わせでいくと「クマとたぬき」という作品もあります。こちらは社交的なたぬきと孤独なクマという組み合わせで、身体の大きさも生活スタイルも全然違うからこそ一緒にいると面白いという視点が取り入れられています。お互いに相手のことを思いやりまくるところが最高に心温まります。

 
たぬきときつねの組み合わせに人間が複雑に絡み合う作品がこちら。アマビエの漫画でも有名になったトキワセイイチさんが描いている「きつねとたぬきといいなずけ」です。里山に暮らす動物たちと都会に暮らす人間が急に出会うとどうなるかというコミカルながらちょっと複雑な関係を描いていますが、たぬきの男の子ときつねの女の子の幼馴染がいつも一緒に登場します。そこまで遠くに住んでいる訳ではないけど(動物たちは高尾山に住んでいる)普通なら交わることのない野生動物の生活と人間の生活がちょっとずつ近づいていく(?)のがドキドキする作品です。両方の視点から物語が進むので人間しか出てこない(仕事の人間関係とか)回があったりして新鮮です。ちょうど今週末エアコミティアに出品されるということですので、気になった方は是非ご覧ください。


そして、異種ごちゃ混ぜ大活劇といえば「有頂天家族」ですね。アニメ化もされた超人気作品ですが、京都を舞台に狸と人間と天狗が織りなす愛憎劇で、どの視点から見ても間違いなく楽しめる大傑作です。京都は狸と人間と天狗が入り混じって暮らしている、という設定ですが、なんか京都なら本当にそんなこともあるのかも、と思わせてしまうところがありますね。ブログマニアフェスタにも参加中のけいおうタヌキ研究所さんの研究フィールド狸谷山不動院も重要なスポットとして登場します。

 
猫と狸のお月見日和

さて、狸の異種間友情物語をご紹介してきましたが、ありそうでない組み合わせが猫と狸ですね。(長くなりましたが、これが言いたかったのです。)前々回記事を書いたバンドThe Worthlessのリーダー鷲見豪くんが無類の猫好きを公言していることから(苗字に鳥の名前が入っていたり、実家の犬にメロメロだったりしてキャラがブレるところもありますが)、2018年に「猫見豪とむらたぬき」というユニットを結成しました。「猫と狸の」で始まる曲名で異種間友情物語をテーマにするというコンセプトで曲を作り、2018年には「猫と狸のさざなみ模様」で見事日本タヌキレコード大賞を受賞しました。翌2019年にも新曲「猫と狸のお月見日和」を作ってエントリーしたのですが、残念ながら受賞を逃してしまいました。(注 2019年の大賞は今年メジャーデビューされたネクラトーキーさんの「ぽんぽこ節」という曲でした。これもめちゃくちゃいい曲なんですが大賞3連覇がかかる年だっただけに残念でした。)それはさておき、個人的には結構気に入っている曲なのでお聴きいただけたら幸いです。次回はいよいよ島が狸だらけになってきたどうぶつの森「たぬき島通信」をお届けしたいと思います。



猫と狸のお月見日和 
作詞・作曲:むらたぬき

今夜は晴れるかな 
人間はなんで天気予報を見るのかな 
ヒゲの感じでわかるのに 

狸は月を見る 
狸はなんで月を見るのかな 
いつの時代もおんなじことなのさ 

夜になったら月を見よう 
昼間は昼寝で忙しいから 

今夜はきっとお月見日和 
君の住む町でも 
遠く離れて見えないけど 
君も今夜は月を見てるだろう 

今夜は雨上がるかな 
人間はなんで天気予報を見るのかな 
なんとなく匂いでわかるのに 

猫は月を見る 
猫はなんで月を見るのかな 
どこかの誰かとおんなじことなのさ 

夜になったら月を見よう 
昼間は眠くてかなわないから 

今夜はきっとお月見日和 
君の住む町でも 
遠く離れて見えないけど 
君も今夜は月を見てるだろう 

今夜の月に照らされて 
君の姿もまんまるさ 
今夜の月に照らされて 
君の瞳もまんまるさ



ジャズソングと狸(後編)

2020-04-14 22:07:49 | 自己紹介
信楽狸のブレイク

前回は信楽狸が生まれた頃の話を書きました。この信楽狸が全国的に知られるようになったきっかけはもちろん皆様ご存知のことと思いますが、1951年の昭和天皇信楽行幸です。この時沿道に日の丸の旗を持たせた信楽狸を並べて歓迎したのですが、それをご覧になった昭和天皇がいたく感激され、次のような歌を詠まれたことが新聞で報じられました。「をさなきとき あつめしからに 懐かしも 信楽焼の たぬきを見れば」つまり、昭和天皇が狸コレクターだったということが全国的に報じられたのですが、これにより信楽狸が一躍有名になったのでした。また、翌年1952年には石田豪澄和尚が伝承をもとに「信楽狸の八相縁起」を考案し、信楽狸の特徴(徳利や通帳、笠など)に縁起を当てはめて宣伝したことで、ますます信楽狸が有名になっていきました。

戦後のジャズソング

信楽狸がブレイクしていた頃、ジャズソングは姿を変え、失われたジャンルになっていきました。戦後、進駐軍と共にカントリーなどの多様なアメリカ音楽が日本に入ってきたことと、スイングジャズ自体が下火になっていったこともありますが、ジャズから流行歌へと姿を変えていきました。笠置シズ子さんが歌う東京ブギウギのようにジャズをもとにした大ヒットもあり、ジャズソングがさらに発展していったという見方もできるかもしれませんが、やはり戦前のようなジャズソングは完全に途絶えてしまったように思います。

ジャズソングと狸

大人気となった信楽狸はさらに時代のニーズに合わせて様々に形を変えていきます。最初は野生的な表情でシュッとした細長い姿だったのが、より太い腹に、よりデフォルメされた可愛らしい姿に変わっていきます。それは売れるための努力で、時代ごとに変わっていく様は非常に興味深いのですが、やはり古い狸に出会うととても興奮してしまいます。歴史的にも骨董品としても貴重な物ですので当然と言えば当然ですが、古いジャズソングのように手探りで道を模索しているような心意気に惹かれているのかもしれません。最近このような狸ファンの声を受けてか分かりませんが、古い狸の型を再現した復刻狸が製造され始めているようで、早く実際に見てみたいと思っています。

信楽狸が大ブレイクするところを書いたのになんだか湿っぽくなってしまいました。東京ブギウギでも演奏しているところを紹介したかったのですが、終戦直後に歌われた「港が見える丘」という曲を歌いましたのでお聴きいただけたら幸いです。なんだか今年は桜もよく見ないうちに散ってしまいましたね。