書店で政治や軍事のコーナーへ行くと、週刊誌の目次にあるようなセンセーショナルな題名がずらりと並んでいる。半分は胡散臭い。その中で幾分地味な本書が私の目についた。手にとってぱらぱらめくった。『警察予備隊? なんだ、だいぶ前に退官した人だな。ほう、調査部別室で勤務した人なのか……』。興味は湧いたが、話が古そうだし積読の本がまだたくさんあるしで、棚に戻した。
で、私にはよくあることだが、また手にとった。『なんだ¥1500くらい。何かしら得るものはあるはずだ。読書に時間と費用を惜しむもんじゃない』と。
というわけで本書は予定外の買い物だったが、躊躇しただけあって私のカンは外れていなかった。“情報戦争”といい“教訓”というのだから、論理的な分析がなされているかと思いきや、概ね著者の回想録、自伝に過ぎなかった。まあ面白く読めたから文句はないし、職務柄、退職後も守秘義務が課せられているだろうから、仕方ないとも思う。
ただ、やはり気になるのは販売促進的な部分だ。帯には『「ミグ‐25」亡命事件では、「対空情報幹部」として現地函館に特命を帯びて急行した著者』とある。しかし実情はパイロットの尋問どころか警察の警戒線によって空港にすら入れず退散している(自衛隊らしい話だなとは思う)。
まあ風変わりな人生を歩んだご老人の自伝なんだから、と割り切って読めれば良いが、“情報”に関する期待を抱いて紐解いた人には残念だろう。なにしろ著者自身、あとがきで本書は自伝みたいなものになってしまったと書いている。自伝としては良品だと思う。
