中国人民解放軍は当初、共産主義を体現する軍隊として、階級制度を伴わなず、しかし厳正な規律が保たれていたと聞く。興味があったので、日本人による体験談である本書を古書店で見つけた私は、積ん読本たちを押しのけて本書を通読した。
満蒙開拓青少年義勇軍に参加するため、弱冠14歳で家を出た著者の辿った数奇な運命は、まるで“大冒険”のように飽きさせない。視点も、是々非々で客観的、中国共産党の幹部まで務めた人物とは思えぬほど発想は自由で公平だ。中国共産党にも祖国日本にも肩入れしない姿勢に感心させられた。
読んでいて、著者の強さ、したたかな生活力に驚かされた。ソ連軍の侵攻で地獄の敗走を経験したからか、宿と食べ物さえあれば幸せだというスタンスが、とんとん拍子に著者を八路軍へ、人民解放軍へ、共産党幹部へと誘っていく。おそらく妙なプライドなどが邪魔をしたら、生きてはいけなかったろう。そのバイタリティには驚きの連続だった。
たとえばソ連軍から逃れる道中、このような修羅場を著者はくぐっている。
【一人の母親は子供の口を必死で押さえ、声が外に漏れぬようにするあまり、窒息死させてしまった。ぐったりしたわが子を見て、殺してしまったことに気づき、幼児の胸に顔を埋めて声を殺して泣いている母親の姿を見ると、いっそのこと、ソ連軍に見つかり、全員が一気に撃ち殺されたほうがましではないかと思ったくらいだ。】
悲惨である。戦後、日本人がソ連アレルギーを持ち、共産主義革命が成らなかったのは、ソ連軍の不法行為が少なからず影響しているだろう。
次に中国の国民性を窺わせる一節
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【「今日の敵は明日の友」で、中国の解放戦争において、国府軍の捕虜兵士は、共産軍兵力増強に大きな役割を演じたと言える。中国人の考えは「己れを利するもの全てを利用する」であるから、これを裏返せば、「今日の友は明日の敵」にもなり得るわけである。】
なるほど、と思う。急激に勃興する大国・中国を知るために、有意義な読書ではあった。
著者は中国共産党で幹部党員を務めながらも、日本への帰国を希望した際はすんなり承諾された。当時の中国の大らかさが窺えた。帰国に際して中国の学校の同窓生がカンパしてくれたエピソードも、心温まるものだった。
こうしたエピソードを掘り起こし、いまの険悪な関係の改善に役立てられないだろうかと思った。
