反原発、戦争法案反対、そういった場面で最近よくメディアに登場していて、思えば著書を読んだ記憶がないと思い至った。若い乱読期に何かしら手にしたかもしれないが、少なくとも覚えてはいない。
法話や新聞での対談など様々なところで、恋多き若い頃が語られている。出家の要因になったのも、そういった不倫やららしい。そういう逸話だけが氾濫していて、作品を手にしていないのが不如意で、今回ようやく手にした。逆にいえば、逸話の氾濫とメディアへの露出が、私の読書欲を今まで削いでいたともいえそうだ。
『あふれるもの』
『夏の終り』
『みれん』
『花冷え』
『雉 子』
以上の五編を収録する。このうち『雉子』を除く四編は連作となっており、本人らしき「知子」、八年間関係を続けている「慎吾」とその妻「あの人」、そして「知子」がかつて夫と子供を捨ててまでして不倫した相手「凉太」。これら4人の複雑な四角関係が描かれる。
「知子」は「あの人」を、「あの人」は「知子」を公認している。その上、「知子」が再び男女の仲となった「凉太」は、「慎吾」と友人のような付き合いをしており、旅行から戻る「知子」を二人して出迎えるのだ。
滑稽でさえある。うんざりしそうになる。阿呆な女だと思う。しかしそれを第三者的に小説化してしまうのが、なんだか恐ろしい。しかもどろどろして、めそめそした面倒な話なのに、意外に読後感がドライなのだ。
当初、こりゃ出家するしかなかったろうなと勝手な感想を抱いたが、出家しなくたって、十分に達観できていたのだろうと思い返した。でなきゃこうまで描けないはずである。
だが、描かれた人々ははたして? 車谷長吉風にいえば、この著者は「おとろしい女」である。
