見つけてすぐ、迷わず手にして買う本というのがたまにある。本書はそれだった。1988年に翻訳が出て、この度の原発事故を契機に新装版が出た。福島とこれからの日本を考える上で、チェルノブイリは最大の教師である。また、著者ゲイル氏は骨髄移植の世界的権威であり、その方面の知識を得たい私には、読まない理由はなかった。ドナー登録したはいいが、白血病や骨髄移植について、大した理解もしていなかったのである。今後、もしかしたら福島の事故に起因する発病が増えないとも限らない。本書は多くの示唆を与えてくれそうに思えた。
と、過大な期待を抱いたのが良くなかった。著者の意図は私の思い描いていたものとだいぶずれていた。医師としてのレポートというよりは、紀行文みたいな雰囲気の中、彼の体験が綴られていく。事故や健康被害の真相などは二の次で、事故を契機に米ソが手を携えていこうという動機が本書の方向性であり、政治的なニオイは否めない。
それでいて最後に演説調の提言が挿入される。突飛である。、主張はもっともなようで、実は誰も傷つかないし困らない書き方をされている。医師として支援にあたるうちに難しい政治的立場に立たされ、その渦中で流れに乗ったような格好だ。
ソ連人医師や患者とのやりとり、ゴルバチョフとの会談は興味津々に読んだが、著者の自伝的な話まで添えられていて余計だった。この本は早くも古本屋に並んでいた。きっと前の持ち主も、私同様がっかりしてすぐに手放したのだろう。
