「ダメだ、俺は運のない男だ」
「ボクが運を持ってくるよ」
(「老人と海」から老人と少年の会話)
あらすじ
老人サンチャゴ(スペンサー・トレシー)は一人小舟を操り、魚を釣っていた。最近84日間は一匹も釣れなかった。前半40日間は少年マノリン(フェリペ・パゾス)が、手伝ったが、それ以後少年は別の舟に乗り、3匹釣った。5歳から釣りを老人から習った少年は、老人が好きで、出港準備と帰港後の後始末や夕食を提供してやっていた。
不漁で帰港した老人の舟を迎えに出た少年は、老人と一緒に帆や網・モリを自宅に運んだ。自宅は小屋で、ベット・テーブル・椅子・台所のみで、棚にはキリストとマリアの絵が飾ってある。亡き妻の写真は寂しくなるので、飾らず棚に置いた。食べ物はないのに老人は少年に食べるかと聞く。少年はない事を知っていて、港の食堂から食べ物をもらって来る。老人は食べながら野球の話をする。「デマジオと釣りに行きたい。親父は漁師だ、わしらのように貧しかった」と話す。
眠りにつくと老人は、アフリカの海岸の夢を見る。海岸で遊ぶライオンが好きだった。老人は早起きで、近くに住む少年を起こしに行く。そして出港の準備を手伝ってもらい、「幸運を」と言葉を交わし、薄暗い海へと漕ぎ出してゆく。朝食は一杯のコーヒーのみ。弁当はない。持ち物は一ビンの水だけだった。老人は海が大きな恩恵を与えるものと信じている。また、月が海を支配しているものと思っていた。
老人は早朝の海へ一人で漕ぎ出して行った。日の出から2時間「びんなが」が捕れる。これは食料になった。そのうちに、網が大きく引かれた。「食え。食いつけ。手ごたえが十分だ」と魚が浮き上がるのを待った。しかし、4時間経っても舟を引き続けた。「あの子がいれば」と老人はこぼす。だんだん日が沈みはじめる。寒く汗は引いた。イルカが2頭泳いでいる。「わしらの友達だ。あの子がいたら」とまた呟く。
魚はやけに冷静だった。「飛べばな」「飛ぶんだ」と叫ぶ。すると魚が海面を飛び上がった。
魚は巨大なカジキだった。「でかい。舟より大きいぞ」小雨も降ってきた。体は苦痛で疲れていた。そして夜に入る。網を引きつつ、老人は別のことを考えてみた。カサブランカのドックで、最強の黒人と腕相撲していた。一昼夜勝負は続いた。引き分けにするかと審判は聞いた。そのとき老人は力を振り絞った。勝ってチャンピョンと呼ばれた。
2日目に入る。魚は浮いてこなかった。夜になったが老人は一睡もしていない。ボーっとして眠る。夢はイルカの大群、老人のペット、鯨の群れを見た。そのときグーッと網が引かれて老人は目を覚ました。血の滲んだ手で引く。「あの子がいたら」と思うが魚はまだ回遊した。3日目の太陽が昇った。魚は舟の周りを回り始めた。思い切り網を引くと魚は舟の横に来たため、老人はモリを使って魚の心臓を刺した。
カジキは巨大で小舟には乗せられなかったため、小舟の横に紐で縛りつけ、曳航してゆくことにした。こんなとき鮫が襲うことは知っていたが、来ないことを祈った。しかし、鮫は2匹来た。老人はモリで突いたが、モリを持って行かれてしまう。そのためオールの先にナイフを縛りつけ対戦したが半分を食い千切れられた。老人は「遠くへ行きすぎた」と後悔した。
遠くにハバナの港の灯りが見えたが、もう夜になっている。そこへ鮫が血の臭いを嗅ぎ、大群が襲ってきた。老人は夢中で戦ったが倒れてしまう。カジキは骨だけになっていた。港に着いた老人は、帆とマストを担いで小屋へ向かった。小屋に入ると老人はベットに転がり込んだ。翌朝、少年は小屋を訪れ、老人の痛んだ手を見て泣いた。そしてコーヒーを買いに行った。港には老人の舟に横たわるカジキの残骸を見た。
少年は昨日2匹の魚を捕った。コーヒーを買うと小屋に戻り、老人にコーヒーを飲ませた。老人は「ダメだ、俺には運がない」という。少年は「ボクが運を持っているさ」と次は一緒に行こうと力づける。老人は再び眠る。そしてライオンの夢を見ていた。
感想など
l キューバのハバナ海岸に住む老いた漁師が、不漁続きの後、一人漁に出て、巨大なカジキを仕留めますが、曳航しているとき鮫の群れに遭い、残骸だけで持って帰港するという残酷ですが、生命力溢れる作品でした。
l たった一人で巨大なカジキを仕留める戦いは、3昼夜に及びます。老人の諦めない根性や意志に人間の逞しい生命力を感じます。魚との戦いの合間に老人は、若い頃カサブランカ港で゛一昼夜続いた腕相撲の勝負の夢を見ます。老人には勝つことが、即生きることのようです。
l ナレーションによると老人は「白い髪、深い皺、手には網が食い込んだ傷がある。若々しい目、海と同じ明るく、くじけない目」と評します。スペンサー・トレシーはそんな老人を素晴らしい演技で表現していました。
l 広大な海の上に老人は、一人小さな舟でただよいます。鳥類やトビウオ、イルカが友達のようです。夕暮れ、朝と太陽の海上の色彩は美しいですが孤独で過酷です。
l 巨大なカジキを仕留めるために、二昼夜に亘り、忍耐強い戦いを繰り広げます。戦いを制した後、舟の胴体にカジキを括り付けますが、鮫が襲ってきて、カジキの肉を食いちぎります。老人はモリやオールに取り付けたナイフ、棍棒等で防戦しますが、骨だけの残骸だけになり帰港します。
l 老人を慕う少年の思いやりや優しさ、素朴な村人は老人を嘲笑しますが、温かく食べ物など与える優しさがあります。老人は「俺はツイていない」と自信を失いますが、少年は「ボクがツイいるから今度は一緒に行こう」と優しく力付けてくれます。
l 老人にとって漁は生きることです。長い間の不漁と巨大魚を鮫に食われたことによって挫折感を味わいます。少年は慰めますが、この打ちのめされた敗北は残酷なものです。老人は若いライオンが海岸で戯れる夢を見ています。老人は老いたライオンになりました。寂寥感に充ちています。
l 私も最近自転車でふらつき道路に転倒しました。そんな出来事があると体力に自信を失います。いい年をして無理はするなと言われそうです。映画の老人の「人間は破戒されるが、敗北することはない」という強がりの言葉が胸に響きます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます