第五章 裏切りの聖職者 P3-7
「無礼者!」
チョコリクシャはクレウを睨んで言い放つと、森に向けて駆け出した。
「本意ではないが仕方あるまい」
クレウは追いかけようとしたが、次の刹那飛び下がった。
ドガン
轟音とともに地面に何かが衝突し、土くれを巻き上げてえぐれて爆ぜた。
「虚をついたのだが流石に勘がよいか」
水煙の中に立つバーバリアン、ツンドラがつぶやく。
「こっちは大丈夫。怪我はないワ」
クレリックのナツンがチョコリクシャを抱えて叫ぶ。
「急ぎ合流地点へ」
ツンドラは背後のナツンに声をかけると、クレウを遮って向かい合った。
「武の心得があればわかろう。弱き者よ。それでも我が前に立つか?」
クレウはツンドラを値踏みするように眺めてから言った。
「退けぬ時とてあろうよ」
ツンドラが拳を固める。
「武運を!」
ナツンは古代パナ語による祝福を唱えると、チョコリクシャを伴い足早に森の中に消えた。
クレウは身にまとう闘気を増しながら無造作に歩いてきた。
「退かぬ」
ツンドラは自分に言い聞かせるように叫ぶと、下がりそうになる足を踏ん張った。
クレウは小さく気を吐くとツンドラに向けて飛びかかった。
二人が交差する瞬間、森の奥に潜んでいたラトンガの魔術師がクレウに向けて呪文を放った。
閃光がクレウの動きを封じ、ツンドラの右拳がその胸を貫いた。
「そうか・・貴様らがTSUNOか・・」
クレウはおびただしい量の血を吐いて倒れながら言った。
「強兵よ。卑怯と罵られても構わぬ。それほど彼我には差があったのだから」
クレウの骸の横で膝をつくツンドラの右腕は、肩からちぎりとられていた。
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夜空をふたつの月が照らす。
ネクチュロス・フォレスト・・鬱蒼とした森の中、野営のテントのまわりには数人の武装した男達が動き回っている。
「たしかに今夜だと?」
ラファルは兵士の一人に尋ねた。
その時、森の木々を薙ぎ倒して巨大な白い獣が現れた。
赤い目をした巨大な犬、それは咆哮を響かせてテントの近くにいた兵士に噛み付き、その体を引き裂いた。
「やーたんやめなさい!」
森の奥から凛とした女性の声が響くと、白い獣は動きを止めた。
歩いてきた女性は兵士の傷口に手を当てると、癒しの呪文を唱えた。
ほどなくして兵士の傷口は閉じて、痛みもなにもかも回復してしまった。
ラファルは女性に歩み寄り一礼する。
「フラウ将軍、まさかあなたほどの方が出奔されるとは、この目で見た今も信じられないくらいです」
「私が身命を賭したOsanpoは、今ではもう別の国になってしまったのです」
憂いを含む美麗な面立ちに銀色の髪を両サイドに束ね、白色の鎧で身を包んだウッドエルフの女性。
Osanpoの四大将軍の一人であるフラウ将軍である。
「同胞に追われ、時として刃を交わすことになるかもしれない。そのような覚悟が本当におありなのですか?」
ラファルは鋭い眼差しで射るようにフラウを見やる。
「迷うならばこの場にはいませんわ」
フラウも強い視線を返す。
「形式として聞いたまで、将軍の覚悟は理解しています」
ラファルは表情を崩し、フラウに手を差し出した。
それから数時間後、ラファル、チョコリクシャ、フラウの三人は、ネクチュロス港から出航した黒い帆船の上にあった。
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つづく
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