【阿波の国 発心の道場】
2006年5月9日(火)
風邪のせいで起きると全身寝汗でぐっしょりとなりこの先に少々の不安を覚える。
気合いを入れて起き出し風呂に入って着替えると少しはましな気分になる。
ゴロゴロしているうちにほぼ定刻に徳島に到着するが、船内で見た天気予報の通りまだ雨は降ってはいない。
とりあえずよく寝たおかげで元気になり食欲もでてきたため、札所(お寺)より先に昼食のために徳島方面に走り出すが、探し当てたお目当ての店に臨時休業の貼り紙が…力が抜けてしまう。
あきらめて徳島駅の裏の「いのたに」で徳島ラーメンに小ごはんをつけて食べていると雨が降り出してきた。
この雨は一番札所 霊山寺に行く途中は弱いながらも降り通しだったが、駐車場でお参りの準備をしている間に止んだのでほっとする。
誰もが立ち寄る一番札所だが3時過ぎという時間のせいか「お遍路さん」の数も少なく閑散とした感じがしている。
輪袈裟、数珠、経本、灯明、線香等々のお遍路グッズを身に付けお参りを始める。
初回ということもあり少々緊張しつつ師僧に教わった通りのお参りをするが、ぎくしゃくした感じは否めない。
勝手に合格点を出して、まあこの先百回以上同じことをするのだからと自分を慰める。
真新しい「南無大師遍照金剛」ベストや山野袋が気恥ずかしいが、いよいよ四国巡礼の開始となる。
番号順に寺を打っていく(遍路ではお参りすることを「打つ」と言う)予定で、初日は一番の後、二番 極楽寺、三番 金泉寺と回ったところでタイムアップ。
この三ヶ寺は県道沿いに並んでいるので道も分かりやすく、まあ順調なスタートだ。
本日のお宿は民宿「道しるべ」。
三番札所のすぐ近くだが看板が出ていないので少し分かりづらいが、どうにか到着してほっとする。
今回は相部屋を選択したのだが、同宿者ゼロなので広い部屋を独り占め!
建物は新築できれいな上に気配りのある過不足のない設備で大満足だ。
風呂に入るのと平行してフェリーで寝汗をかいた衣類の洗濯をする。
1000円で元がとれるのか?という美味しい夕食をいただいた後、宿主さん、スタッフとしばし歓談する。
オーナーは元ユース協会の職員の方で、その前には固い仕事の経験もあるとかだが、で理想の宿を営むべく数年前に故郷の近くにこの宿を開業したとのことで、なるほど気配りが行き届いている。
看板がないのはオーナー方針で地元の人に旅人宿という少し特殊な存在をあまり知られたくないからとのことだ。
ワシも旅三昧の日々の中で色々な宿に泊まっているので旅人宿の話題で10時近くまで盛り上がる。
しかし、この先どんな宿に泊まるのやら…。
2006年5月10日(水)
昨日のフェリーに続いて寝汗をかき眠りも浅かったが、なんとか早起きして7時にスタート。
本日の打ち始めになる別格一番 大山寺は結構な山の中にあり、山門の手前にバイクを停めてからこれも結構急な石段を登ってようやく到着する。
実は山門脇の細い道を登れば境内のすぐそばまで来ることができたそうだが、山門を通って参道からお参りできてよかったことにしよう。
朝が早いこともあるが森閑として人影もなく、「別格はこんな山の中ばかりにあるのか?」と思う。
勿論、八十八ヶ寺も別格も町中のお寺もあれば山の中のお寺もあるのだが、やはり別格は辺鄙なところにあることが多いのだ。
四番 大日寺、五番 地蔵寺を打った後、昨夜の宿で教えてもらった小川製麺所でうどん三昧の昼食をとる。
何故か麻雀屋の庭先にある小屋に毛が生えたような店だが、美味しさにつられ「しょうゆ、かまたま、かけ、ざる」の4杯を完食する。
それでも合計で700円也。 徳島県でこのような製麺所系の美味しいうどん屋に出会えるとはうれしいことだ。
小雨が降ったり止んだりの天気の中、ようやくお参りにも慣れてきたような気がする。 ワシは師僧の教えに従いフルセットのお参りなのでけっこう時間がかかるので、雨はさすがにしんどい。
六番 安楽寺でお参りをしていると若い…いやたいして若くもない男が「停めてあったバイクの人ですか?」と声をかけてくる。
お参りの途中(ひとつの札所の2個所でお参りするのだが、その移動の間)だったので生返事を返したが、駐車場に戻ってから少し話をする。
彼は区切り打ちの四国遍路の初日(雨風の中を夜通し東京から高速を走ってきた)とのこと。
えらく洒落たハーレーのカスタムに乗っているのだが、元々バイク絡みの仕事をしていて普段はなじみのバイク屋の店頭にディスプレイされているそうだ。
ひそかな自慢の我が伊式二号機は見た目こそ地味だが、見る人が見ると結構な改造をしているので仲間と思ったのかもしれない。
ちなみにその彼が後の「警視K」そのヒトである。
遍路同士はとりあえずべたべたしないのが「お約束」なので、別々に7番 十楽寺へ向かうが所詮同じところに行くのですぐに再会する。
「お参りに時間がかかるから待ってなくていいよ!」と言うが、道に自信がないらしく八番 熊谷寺、九番 法輪寺、10番 切幡寺を一緒に回る。
自分だけなら道を間違えても気楽だが、後につかれると少々緊張する。
最初は知ったかぶりでもなんとかなったのだが、結局10番への途中で道に迷い、畑仕事中のおじさんに教えてもらって無事にたどり着く。
案内の看板はそこかしこにあるのだが、歩き遍路向けのつくりなのか小さいものが多く、バイクで走っていると見落としがちだし、案内地図もかなりラフなので結構道に迷いやすい。
そもそも寺の規模も大小様々だし、大通りに面しているものから田んぼの真ん中、山の中、路地を入ったようなところと場所も様々だ。
自動車ならナビがあれば楽かと思ったが、クルマ遍路の人の話を聞いてみるとそれ相応の苦労もあるようだ。
切幡寺の参道は結構長くてハーレーの彼(以降、警視K、敬称略)と歩きながら色々と話をする。
いざお参りをする段になって警視Kがお賽銭の小銭が無いことに気づく。
「お賽銭は人から借りたり貰ったりしない方がいいよ。」と言うと納経所まで両替しに戻っていったが、石段が結構あったのでいくら(ワシより)若いとはいってもきつかっただろう。
別に意地悪をした訳ではないが、納経を済ませたところでご苦労様でジュースのお接待をしてあげる。
10番を打ち終えて再び降り出した雨の中、11番 藤井寺を本日の打ち止めとする。
宿を決めていない警視Kは納経所で近場のビジネスホテルを教えてもらうが電話すると満室とのこと。
雨も再び降り出すし、冗談に「近場がアウトだったら徳島市内のワシの泊まるホテルに来ればいいよ。」と言っていたのが本当に!
予約電話を入れたらOKだったので、同行、同宿(別室だよ)することに決定。
ここでようやく、お互いに自己紹介。
警視Kは38歳の独身男で刺繍屋をやっているそうで、お店の移転に合わせて長めの休みをとって四国に来たとのこと。
すっかり仲良くなったが、大人同士適度な距離は保てそうだし、この先しばしの間道連れとしてお付き合いいただくこととなる。
朝の予報では夕方から雨が強くなるとのことだったが、逆に雨足も弱まり「逃げ切れた!」とヘルメットの下で笑いつつ徳島市内へ向かう。
ちなみに高知方面は凄い雨だったようで、「四国は豪雨」の報に師僧やその奥様、我妻にご心配いただいた様子。
予想通り(?)道に迷いつつも無事にビジネスホテル「ふじしま」に到着。
楽天予約でシングル素泊まり3800円だが、アウトバスであること以外は問題なし(大浴場ではないにしても湯船で手足が十分のばせる広い風呂なのでかえってマル)。
おばちゃんは親切だし連泊して、明日は軽量空身でガンガンの打ち放題(数多く回ること)を目指すことにする。
夜は下調べしてあった「丸二寿司(← 2007年に閉店)」へ二人で行く。
風邪がなかなか抜けないので途中で風邪薬を購入。
「薬よりもアルコール!」と調子よく飲み喰いしつつ、何かあると「ワァーオ!」と叫ぶ店の面白いご亭主と歓談。
ご亭主に問われたので、遍路をやっていると言うと、20番 鶴林寺の近くのご出身で小さい頃からお遍路さんは身近な存在だし店にも時々来るとの談。
名物「丸二巻き」と「タコの半殺し」なるものを初接待としてちょうだいする。 合掌。
2006年5月11日(木)
寝る前に見た天候回復のニュースに期待して5時起きしたのだが、結局雨が上がる8時までおばちゃんにコーヒーをご馳走になりながら待機することになってしまった。
警視Kは前の日が東京からほぼ徹夜走行だったとのことでワシが出かける頃にようやく起き出してきて「後で追いかけます」とお見送りいただく。
一号機では荷物の重さなどあまり感じたことはないのだが、二号機だと荷物を積んでいないと軽々と走れてとても嬉しい。
まずは人気(ひとけ)のない別格2番 童学寺を打ち、序盤のヤマの12番の焼山寺へ進行!
前面に立ちこめていた暗雲の示す通りにお山は雨で、道幅の狭いワインディングを濡れ落ち葉を巻き上げて走り抜けようやく到着する。
この山寺へ向かう道は「遍路ころがし」の別名を持つそうで、歩き遍路さんは大変だろうななどと思いながら駐車場にバイクを停めた。
参道を長々と歩き本堂に着く頃には雨は止んでいたので落ち着いてお参りができてなによりだ。
お参りを終えるのと入れ替わりで警視Kが到着。
彼も同じ宿に連泊するので荷物は宿に置いてきたとのこと。
どうせ後で追いつかれるからと先に出発して山を下っていく。
13番 大日寺でお参りを終えた頃に警視Kに追いつかれる。
この辺りは寺と寺の間が近く14番 常楽寺、15番 国分寺と続けて廻った後、うどん休憩(遍路休息所も兼ねている手打ちの店)を挟み、16番 観音寺、17番 井戸寺と一緒に調子よく打っていける。
ワシは急ぐ旅でもないので早めに宿に戻って洗濯をしたり、散髪したりすることにする。
警視Kは18番、19番まで打ち終えたいとのことでとりあえずお別れする。
風呂に入ってから、宿の紹介の理髪店に行って短めの髪にする。
せっかくの巡礼なので短髪にしようかと思ったのだが、妻の強烈な反対を思い出し断念する。
近くのコインランドリーでの洗濯も終え、部屋でゴロゴロしているうちに「18番までしか廻れませんでした。」と戻ってきた警視Kと連れだって夕食に出かける。
一鸛(横浜にも支店あり)という店で「阿波尾鶏(あわおどり)」を食べるが、「親鳥」というメニューの固さには閉口する。
その後で徳島ラーメンを食べたことがないという警視Kと東大でラーメンを食べたのだが、あれほど食べたのに小ライスもつけて食べるのが徳島式だと言って警視Kに笑われてしまう。
テレビで明日の天気は回復するでしょうという予報を聞きつつ夢の中へ。
2006年5月12日(金)
天気も回復し体調もほぼ元に戻ったため、早起きしてパッキングをテキパキと済ませ7時過ぎに出立!
順調に18番 恩山寺を打ち終えると、19番立江寺で後から出発の警視Kと合流、別格3番に向かうか20番を先にするかで悩むが、20番 鶴林寺まで警視Kと同道する。
かなりきつい登りであったが、この程度の坂であれば二号機には全く問題なく、ぐんぐんと登っていく。
警視Kの読経も少し様になってきた。
「読経の基本はツービートだよ。」と偉そうに教えると「はぁ~?」という顔をしつつも素直に頑張っている。
そこからワシは別格3番に向かうので、警視Kとはひとまずお別れ。
向かった慈眼寺はかなり僻地にあるにもかかわらず何故か人が多くて穴禅定体験はパスすることにした(2007年に再訪)。
21番 大瀧寺へはロープウェーで上るのだが、ちょうどお参りを終えて下山してきた警視Kと駐車場で再会! 「奇遇だ~。」「さすがに今日はもう会えないよね。」などと言いつつ再びのお別れ。
彼は区切り打ちなので阿波を打ち終えて明日のフェリーで東京に帰るため今日も徳島泊まりとのこと。 気持ちの良い人だったので一緒にいても楽に過ごせたし、いろいろな意味で旅のアクセントになりました。 感謝&合掌。
ロープウェーの発車まで時間があったので食堂で「観光地のカレー」を食べる。
すると隣の席のご夫妻遍路のおばちゃんの方が突然にワシに向かって「福々しい顔をされていらっしゃる…」などと言い出すのでよっぽど「拝んでもいいですよ~、でもお布施を忘れないでね!」と言ってやろうかと思うが、自粛してそそくさと退散。
乗り場で待っていると19番、20番と顔を合わせた歩き遍路の女性とばったり出くわす。
追いつかれる訳はないので聞いてみると、彼女は19番から20番はお接待のクルマで移動、ワシが別格を打っている間に20番から歩いてきたとのこと。
お参りを終えて下りのロープウェーを待っている間に職員の方にお茶をお接待していただく。
歩き遍路と違ってバイクで回っているとお接待をいただく機会が少ないからというわけではないが、一杯のお茶でも応援されている気持ちをいただいて嬉しいものだ。
このロープウェーは距離が長く景色も素晴らしかった。
その後、22番 平等寺、23番 薬王寺と順調に打撃成績を伸ばすが、雲行きが少々怪しくなってくる。
今日中の阿波の国の制覇を目指し別格四番まで足を伸ばしそこの宿坊に泊まろうとしたのだが、電話をしたところ宿坊営業は休みと言われる。
少々考えたが、途中で泊まれそうなところもないので、かなり手前の日和佐の国民宿舎「うみがめ荘」に予約を入れる。
建物は古いが、眼前砂浜独り占めで波の音が子守歌という場面設定で、一泊夕食付き6000円也。
宿の支配人はバイク好きでビモータを所有し、その昔はドカのMHRを持っていたとのことで受付の後でしばらくバイク談義をする。
風呂に入り夕食の時間を待っていると、警視Kから携帯に電話あり。
どうやらワシも徳島の宿に戻ると思いこんでいたらしく「遅いですね」と心配してくれている。
ニュースを見ると明日の雨修行(←師僧の好きな言葉です)はほぼ確実だ。
明日のメインは室戸岬だというのに、なんてこったい…。
(つづく…)
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