小出裕章氏が
講演の度、
原発の財務諸表へと
話が
及ぶと必ず
出された名前が
立命館大学国際関係学部教授
大島堅一氏でした。
以下、
同氏のインタビュー記事を
転載します。
■資料
「原発を全廃すれば電気料金は値上げせずに済む」
☆ NPO法人 九州・自然エネルギー推進ネットワーク 取材(2012年 6月 11日)
記事リンク:http://nonukes.exblog.jp/16028982/
~総括原価方式で東電は6000億円余分に儲けていた電気料金値上げの前にまず電力会社の財務調査を~
全国の原発が停止するなか、東京電力は4月からの電気料金値上げを申請。原発を止め続ければさらに電気料金は上がるのか?資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本問題委員会で原発のコスト問題に切り込んでいる、立命館大学国際関係学部教授の大島堅一さんに話を聞いた。
―4月から燃料費高騰を理由に電気料金が値上げされますね
原発を止めて火力発電を稼働させると、化石燃料の焚き増し分が生じることは事実です。しかし、同時に問うべきなのは、「原発を止めたのになぜその経費は浮かないのか」ということです。
原発を止めても、維持・管理のための固定費は全然減りません。人件費や修繕費、維持管理費はそのまま必要になる。その上に火力の燃料費が上乗せされるわけです。
もし原発を止めたらほとんど固定費がいらないとすれば、電気料金の値上げなど必要ないかもしれない。具体的には電力会社の財務資料を詳しく分析しないと分かりませんが、いずれにしても原発は発電しなくても膨大な経費がかかるシステムであり、電気料金値上げのもう一つの重大な理由はそこにあります。
止めていてもお金がかかるのですから、今一番無駄なお金がかかっているといえます。もし中途半端に止めるのではなく、全廃すると決めれば、こうした費用のほとんどは必要なくなります。残る必要経費は廃炉や放射性廃棄物の処分だけで、これは今止めようが後に止めようがいずれ必ず必要とされる経費です。
―推進側は原発再稼働の口実にしたくてたまらないのでは
経産省にしろ電力会社にしろ、本音はそうでしょうね。原価償却が終わった古い原発などは、動かせば動かす分だけ儲けになるわけですから。しかしそれは3・11前には通用したかもしれませんが、もう無理だと思います。
少なくとも現在の野田政権も、原発への依存度をできる限り減らしていくと表明しているわけですから、電気料金値上げを脅しにして無理矢理再稼働するのは難しいでしょう。
本来なら、具体的データに基づいた中味のある議論が行われるべきです。電気料金についても、原発を全廃したらどうなるのか、一部再稼働したらどうなるのか、再稼働せずに止めておいたらどうなるのか、それぞれシミュレーションすれば分かるはずです。
私は、廃炉せず、原発を適当に止め、それに火力を上乗せしている現在の状況は、電気料金のピークではないかと思います。それでも10%~15%の値上げだと言っているわけですから、「この程度なのか」とも思います。10%~15%節電すれば同じ電気料金で済むわけですから。
ですから、仮に「原発を止めたら電気料金が上がる」という議論に乗ったとしても、この程度の値上げ負担と、万一の事故の際に被るリスクを比較すれば、私は原発を全部止めてもいいと考えています。全部止めれば膨大な固定費のほとんどは無くなるわけですから、これ以上電気料金が上がることはないはずです。
具体的なデータなりシミュレーションを国民に開示していけば、多くの人が納得できる結論が出ると思います。
―総合資源エネルギー調査会基本問題委員会での議論は?
先日も電気事業連合会の方のヒヤリングが行われて、原発必要論を主張されました。その内容は従来と変わらないものでしたので、いくつか具体的なことを質問しました。
「どの発電方式をどのような比率でいつ稼働させているのか、そして電力がどのような使われ方をしてどのくらい足りないのか」と。残念ながら私の質問には一切答えてくれませんでした。
震災後、ようやく各電力会社は発電能力と需要予測を公開するようになりましたが、それでも、ある特定の時間にどのような電力構成となっているのかは一切ブラックボックスのままです。深夜の余剰電力を利用する揚水発電がどう動いているのかも分かりません。
さらに私は、「国民に大きな不信を抱かせている原子力ムラの構造を変えるつもりはあるのか?立地自治体への寄付など止める意思はあるのか?」と問いましたが、真っ赤な顔をして原発の必要性を主張するだけで、肝心の質問には全然答えてくれませんでした。一番大きな問題はやはり、冷静な議論の前提となる具体的な情報について開示しようとしないことです。東電についてはさすがに、第三者委員会である経営財務調査委員会が財務状況についてメスを入れ、その報告書が昨年出ました。ところが未だに他の電力会社については一切メスが入っていません。
東電の財務状況の精査で分かったことは、11年間で6000億円も余分に電気料金を徴収していたことです。加えて、3000億円以上のお金が事業報酬として余計にとられていました。違法ではないとはいえ、適切とは到底いえない状況でした。
当然他の電力会社も同じシステムで電気料金を徴収しているわけですから、同様のことがまかり通っている可能性は十分にあります。ですから、原発を止めたことで財務状況が悪化しているから電気料金を値上げしたいと言うなら、当然第三者委員会のような組織が財務状況の調査に入るべきです。本来なら自らすすんで公表すべきことだと思いますが。
表に出ている財務状況だけ見ても本当のことは分かりません。東電の場合は、総括原価方式で電気料金を申請する際の費用と、実際にかかった費用がずれていた。11年で6000億円もです。
現在の総括原価方式とチェックシステムには、こうした抜け穴がいっぱいある。経産省も分からなかったわけですが、チェックする能力がないのでしょう。そもそも過去に財務状況の精査などやったことがないわけですから。しかしこれからはきちんとやるべきです。
―委員会では新しいエネルギー計画を策定するのですか?
委員会では2030年までの電源構成をどうすべきかと、各委員に意見を聞きました。原発を30%にするとか10%にするとか意見を出せと言うわけです。しかしこれは余りにも愚かな問題設定です。こんな数字遊びでエネルギー政策が成り立つわけがありません。
仮に原発を0%にすると決めたとしても、肝心なのはそれをどう実現するのかという具体的政策の中味です。それを議論するのが基本問題委員会のはずですが、まったく機能していない。
総合エネルギー調査会・需給部会で将来のエネルギー需給をシミュレートすることは今まで何度もやってきましたが、そんな見通しなんて一度も当たったことはありません。それと同じことをまたやろうとしているわけです。
はっきり言って2030年のエネルギーミックスなど分かるわけがありません。原発を再稼働するかどうかすら決まっていないわけです。つまり半年後のエネルギーミックスすら分からないのに、なぜ何十年も先のことが分かるんでしょうか?
具体的政策を出すためには、まず目の前にある本質的問題について深く検討することが不可欠です。現在最大の焦点となっている再稼働問題にしても、まずどの原発が一番危険なのかを議論することは、推進派にしろ反対派にしろ可能だと思います。その上で一番危険な原発から順次廃炉にしていく選択肢もあり得ます。
少なくとも40年も稼働し老朽化している美浜原発1号を止めたのに、定期検査して再稼働を待っているなんてあり得ない話ですね。国は40年経過したら廃炉にすると表明しているわけですから。「いくらなんでも美浜は廃炉でしょう」という話ぐらいはできるはずなんですが、委員会ではこうした本当に焦点になっている問題には一切触れようとしません。
例えば先ほど指摘した電力会社の財務体質の問題なら、今後どのようなチェックシステムをつくり健全化させるのかが問われます。これが健全化しないと、原発を止めて電力会社の経営がどれほど影響を受けるのかも実際には分かりません。本当にデータを出してみたら、せいぜい電気料金が10%上がる程度なのかもしれない。だとすれば多くの国民は、原発事故のリスクよりもこれぐらいの負担なら我慢できると考えるかもしれません。
こういう具体的事実を一つ一つ積み上げていかないときちんとした政策など生まれるわけがないのですが、「原発を止めたら大変なことになる」と脅しのようなかたちで再稼働が主張されている。本当に不毛な議論に終始しています。
私は具体的なデータ、事実に基づいて大いに議論したいのですが、多分今までそうした議論をやったことがないんでしょうね。
―3・11をターニングポイントにするには何が必要ですか?
やはりドイツなどヨーロッパ先進諸国のように再生可能エネルギーが普及するための効果的制度を整備することです。ドイツの経験からすれば、正しく制度設計すれば爆発的に普及しますから、原発の再稼働の議論は吹っ飛ぶはずです。具体的には現在行われている調達価格等算定委員会での議論がどうなるのかにかかっています。
もちろん基本問題委員会でも、再生可能エネルギーの普及について否定する委員は誰もいません。ただヨーロッパの様なドラスティックな変化を経験していないので、産業界の人たちは今ひとつピンとこないようです。
私は正しい制度設計により、再生可能エネルギーが新しいビジネスになると確信しています。そうなれば産業界も一斉に動き出しますよ。
例えばドイツでも当初、電力会社は再生可能エネルギー導入に反対し、できる限り抑え込もうとしました。しかし国民世論に押されて固定価格買取制度が成立してみれば、これが新しい産業として急成長することが分かった。ビジネスチャンスが生まれた途端に、電力会社は反対どころかどんどん導入する側に変わりました。その点からすると、日本は本当に10年、20年遅れているので、全然実感が湧かないんでしょうね。
ではどのような制度が必要なのか。まず第一に再生可能エネルギー電力の買取価格を適正な水準まで高めることです。もうひとつは優先接続、つまり再生可能エネルギーによる発電施設をつくった場合には、電力会社は必ず送電線に接続しなければいけないと義務化することです。
日本ではこの二つがどうなるか、まだはっきりしていません。買取価格については調達価格等算定委員会が議論していますが、買取価格も買取期間もどうなるかまだ分かりません。優先接続にしても、一応法律には明記されていますが、設備要件など実際の運用に関しては経産省の省令にかかっているので、せっかく発電施設をつくっても確実に接続できるかどうかは分かりません。
それにしても経産省は本来、日本の産業を発展させるために存在しているはずですよね。こうした制度設計を早くやればやるほど新しい産業が爆発的に成長して新しい雇用も生まれるのに、一体全体何をしてるんだと言いたいですね。現状ではむしろ足を引っ張っている有様です。
ヨーロッパは「環境にいいから」とモラルにだけ訴えて再生可能エネルギーを普及させているわけではありません。「儲かるからやる」となれば、国が上から号令をかけなくても自然に普及していくし、それによってこそ社会は大きく変わると思います。ぜひ今後の制度設計の動向に注目してもらいたいと思います。
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