「メリークリスマス! 白ワインだぁ。ドイツワインだね」
「大事な料理のお供には白ワイン、だろ?」
「嬉しい・・・ ・・・美味しい」
「良かった。 だけど本当、折角時間を取ったんだから、今日ぐらい贅沢しても良かったんだよ。 駅ビルのリーズナブルなお店じゃなくてさ」
「うううん。 ここは春に立ち寄った思い出のお店だもん。何ものにも代えられないのです。 それに料理も美味しいしね」
テーブルには前菜の生ハムとサラダ。それからアルミホイルに包まれて、バターがのっかったジャガイモが運ばれてきていた。 そのひとつひとつが、私の目に焼きついて 思い出になっていく。
「でもあの時、怪訝な顔して食べてたじゃない? アイスヴァイン」
「あ、うん・・・ ・・・友達から美味しいって話聞いてたし、話題になったこともあったよね。でも 豚肉の身が赤いっていうのは・・・ ・・・あっ、味は美味しかったのよ。本当に」
「うん。実は僕もあの時初めてだったからさ。美味しいんだけど、なんか恐る恐るというか・・・ ・・・」
「え~!? 嘘だぁ。あの時食べた事あるって言ってたよ」
「あれ?そうだっけ? や、じゃあ実は・・・ ・・・カッコつけてたんだ」
「あの頃はカッコつけてくれてたんだね、私にも」
「今は・・・ ・・・ダメ?」
「そんな事。 好きだよ。ありのままのあなた。それから、カッコつけてた頃のあなたも。全部本当のあなただもの。 こんな素敵なクリスマス、初めて」
「あれ? 去年のクリスマスは? 僕たち、もうつき合っていたろう?」
「覚えてないの? っていうか、つき合ってたのか私の方が訊きたかったくらいだよ」
「え?え?」
「12月14日」
「14日って?」
「14日に・・・ ・・・キスされた・・・ ・・・」
「あっ!」
「ちゃんとつき合おうって言われたのは12月27日。私、まだ期待しちゃいけないんだと思いながらも・・・ 友達の誘い断ってアパートでひとりで過ごした。バカみたいだけど一番小さいクリスマスケーキ買って。 なんか思い出したら、泣けてきちゃったじゃないかぁ・・・」
「や、なんかそれって・・・ ・・・ひどい奴だな・・・ ・・・俺って・・・ ・・・」
「別にね、よくお酒飲みには誘ってくれたし、バイト先の 話の分かる人って感じだったし・・・ ・・・ キスされた時もお互いお酒入ってたし、ノリっていうのも分かるんだけどね。 でもその頃は私もう・・・ ・・・だから去年のクリスマスは一応予定空けてたの」
「で、でもこの一年そんな話一度も・・・ ・・・」
「だから、つき合う前の事だもの・・・ ・・・多分。仕事忙しいの知ってるしさ。実際去年のクリスマス、貴男仕事だったもん。 それでも夜中まで連絡あるかなって、携帯が鳴るの待ってた・・・ ・・・ただ、あの時まだ携帯の番号も教えて無かったんだけどね。 わー、なんて可哀想な女の子なんだろう、あの頃の私!」
彼女の気持ちになってみれば、いや、端で聞いてたって酷い話だ。そりゃあ僕は初めて飲みに誘った時から 彼女のことが好きだった。でもちゃんと告白するタイミングを逃してたんだな。思えばクリスマスの日も接待がある事判っていたから 彼女との材料にする事さえ最初から考えて無かったんだ。そうだ! 27日は休みだったから 彼女のバイトが終わる時間を見計らって・・・
「飲もう! しょうがないよ、あの頃は。まだ、始まってなかったんだもの」
「ごめん。その代わり今日はどんな償いでもするよ」
「いいよぅ、こんな素敵なクリスマス、プレゼントしてくれたんだし。今日 私、嬉しいんだからね」
「失礼いたします」
メインディッシュが運ばれてきた。
「うわぁ、美味しそう」
「特別な日にハンバーグっていうのもどうかと思うんだけど・・・ ・・・」
「私はこっちの方がいいな。なんとなくお腹を気にしながら食べる、食べつけない料理より」
「一応そう思ったから頼んだんだけどね」
「おこちゃまだからね、私。 それに、こんな豪華なハンバーグ。良い匂いしてるよ。食べよう!」
「うん。 あ、美味いね。君のハンバーグには敵わないけど」
「え~、私にはこんな美味しいの作れないよー」
「いや、初めて作ってくれた時のハンバーグだよ。あれは別格」
「ああ、まだつき合う前のね」
「そ、そういう事になるのか・・・ ・・・」
「ゴメンゴメン、怒ってないって」
「どうかこの白ワインで流して頂いて・・・ ・・・」
「アハッ! 香りがマスカットみたいだよね。甘くて飲み易い。えーと、カイザー・・・ ・・・ リー、リープフラウミルヒ・グロッケンシュ・・・ ・・・」
「リープフラウミルヒ・グロッケンシュピール。 本当はそんなに高く無いポピュラーなワインなんだ」
「あー、読めるのにぃ。私一応第2語学語、ドイツ語専攻」
「あ、そうだよね」
「ヴァルムス大聖堂にちなんでるんでしょ? マリア様のお乳よね。クリスマスに縁がないと飲めないワインだ」
「この間ワインの話を聞かされていたので、ここで食事したいって言われた時に もう決めていたのです」
「お酒詳しいもんねぇ。でも、あんまり飲み過ぎるなよ」
「大丈夫だよ。ただ、お酒は好きだけどワインはね、とても覚えられないよ」
「たまに飲むくらいがいいのよ」
「ここ出たら、バーにでも行こうか?」
「うん。でも空いてるかな? 席?」
「どこかしらあるでしょう」
「よーし、今日は飲んじゃうぞ。覚悟しとけよ」
「ハハッ! いいさ。今日はマリア様に懺悔するから」
「えー!? 懺悔するような悪いことしてるのー!?」
「それはどうかな?」
「あー、イジワルだなぁ」
二人で暮らしてもうすぐ丸一年。 だけどこんなに落ち着いた時間を過ごせるようになったのは最近の事だ。 僕は彼女に感謝しなければならないな。 世界中の誰もが、世界で一番幸せだと思ってる。 さっき彼女が言ってたけど、僕だって負けてない。そんな風に思わせてくれるのは 間違いなく、彼女の笑顔が目の前にあるから なんだから。
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