介護:Long Term Care vs. Nursing Care

2011-07-17 11:36:34 | 医療用語(看護、医学)
 通訳者が現場で、「介護」といわれたとき、nursing care をよく使っている。また通訳の資料として出てくる、日本語翻訳(翻訳会社に出したもの)の資料も、nursing care になっていることが多い。おなじことなのだが、「老人ホーム」は、nursing home を使っている。辞書には、そうなっているから仕方がない。通訳現場で、この訳を聞く外国人は、だいたい、「高齢者のケア」なのだと分かるので、問題は起こらないでやり過ごすことになる。でも、厳密にいうと、違っている。具体的な介護システムを各国間で比較するような文脈だと、細かく訳し分けることが不可欠になる。

 nursing care を直訳すると「看護ケア」になるように、nursing を使う場合、身の回りの世話だけでなく、例えば、与薬、喀痰の吸引を始めとした医療的処置を伴う場合を意味する。特別養護老人ホーム(Special Homes for the Aged)は、その意味で、本当の nursing home になる。

 日本語の「介護」は、nursing care、nursing home で表されるよりも、もっと広い。介護は、軽度の通所サービスから、特養まで、ケアや施設も段階によって異なっている。それがどの段階のケアでまた施設なのか、文脈を考えて、訳を当てる必要があるのだ。

 介護全体を指す場合は、long-term-care だ。現在の介護システムは、介護保険法(Long-Term-Care Insurance Law)に基づくものである。世界に類を見ない高齢者のケアの法律である。高齢化を国民全員の問題ととらえて2000年に施行された法律だ。デイサービスという通所サービス(軽度から中程度の認知症、また一般の支援から軽度の介護認定を受けている人対象のもので、レクリエーション活動を中心に、生活を楽しく規則正しく過ごさせるもの)から、本当の意味での医療ケアの必要な老人ホーム(nursing home)まで、すべてを含んだものをいう。

 老人保健施設(Health Facilities for the Elderly)は、病院と従来からの老人ホームの中間の施設として、短期リハビリテーションを中心にできた施設だ。

 ちなみに 厚生労働省では、介護・高齢者福祉は、Long-Term Care, Health and Welfare Services for the Elderly になっている。


 通・翻訳を勉強するとき、よくあるのは、まず、日本のことを説明できるようにする。日本の文化、歴史、システムなど、海外と異なるものを説明する。通訳ガイドの勉強では、歌舞伎や能、茶道や華道を始めとしたいろいろなものをどう説明するか、検討する。その段階のあと、環境や社会全般の問題を経て、政治経済を学ぶ。そのあと、医学やITなどの技術的なものを扱う。これが、民間のスクールのおよその学習順序である。

 日本の歴史や文化、政治経済状況を説明することはよくやるのだが、医療については敷居が高いのか、教える人がいないのか、どうしても、辞書の言葉をそのまま、写すように訳してしまう。ただ、日本の保健医療、福祉ほど、世界から見ると特異的で、文化的な特徴を持っているものはないので、注意が必要だ。


 辞書に載っている言葉は限られている。関連の本を読んでおく必要はあるが、緊急処置として、仕事のときは、もう一度、Googleなどで、今使われている用語/訳語、コロケーション(活用)などを確認した方がよい。
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