IOMレポート『看護の未来:変化をリードし、医療を強化する』

2012-02-05 10:27:10 | お奨めの本
 この何回かのブログは、先日のケアの質の会議の話から、標記のIOMの看護レポートの話になっていた。

 IOMのケアの質に関するレポートは安全で質の高い医療という文脈でこの10数年、いくつかのものが出されている。最初は、クリントン政権で医療の質に関する委員会があってそのあとIOMから、To Err is Humanが出された。そのあと、Crossing The Quality Chasmというレポートが出て、ケアの質には大きな欠損があってそれを早急に埋めなければならないと提言している。この2つのレポートは非常に有名で影響力を持ったものであった。Chasmのあと、関連する内容のレポート、たとえば医療職者のコンピテンシー(能力、到達目標)など、いくつか関連の内容のものが出ている。その中にあるのが標記の『看護の未来:変化をリードし医療を強化する』である。ケアの質に特化したものではないが、アメリカの21世紀の医療の質安全を確保するための大きな役割が看護の未来にあるという主旨である。700ページの大分のレポートなので、中にあった8つの勧告のみ訳しておく。

IOM『看護の未来:変化をリードし、医療を強化する』の8つの勧告
1.実践の範囲にある障害を取り除く
2.多職種協働による改善対策をナースがリードし、それを普及させていく機会を広げる
3.卒後研修プログラムを実行する
4.2020年までに大学卒業のナースの数を全体の80%に増やす
5.2020年までに博士号を持つナースの数を今の2倍にする
6.ナースが生涯学習を進められるようにする
7.ナースが変革をリードし、保健医療を強化できるように教育を行って能力を身に着けさせ、それを実行できるようにする
8.医療で働く多職種専門職者の労働力データを収集して分析できるインフラを整備する


 このレポートでは、特に医師とAPNとのケアの質に差はないという表現が随所に出てくる。アメリカというAPN先進国で、APNの是非の議論はすでに終わり、APNの有効性を前提にその運用をさらにどのように強化するかが議論されている状況で、まだあえてそれを繰り返し出してくるのは、注意を絶えずしておく必要があることなのだと感じる。医師の確固たる業務独占の部分を切り分けるようにAPNが権限を獲得していく過程で生じるバトルはどこの国も同じだ。IOMのレポートでは、APNについては、これまでもそしてこれからも政治的な活動が必要であるだろうと記している。

 
 このIOMの勧告を受けてすでにアメリカの連邦および州政府ではいろいろなことが進められている。


 このIOMの看護の未来に関するレポートは、先のブログでIOMのサイトからフリーダウンロードできるといったが、単行本として購入できる↓

http://www.amazon.co.jp/Future-Nursing-Advancing-Institute-Medicine/dp/0309158230/ref=sr_1_fkmr0_1?ie=UTF8&qid=1328408510&sr=8-1-fkmr0

 ちなみに、私は、To Err is HumanCrossing The Quality ChasmHealth Professions Educationとともに、この看護レポートもアマゾンで購入した。もう一つ、Teaaching IOM Implication of the Institute of Medicine Reports for Nursing Educationというアメリカ看護師協会から出版された本も購入した。パトリシア・ベナーが序文を寄せている。IOMのレポートを看護教育でどう教え、反映させていくかという本である。

 日本とアメリカでは文化が違い、医療制度が異なるなど相違点はある。ただ、なぜ、アメリカを見るかというと、理屈の整理がきわめて明快にされていることだ。そしてその論理は、常に先を見据えた戦略的なものだ。今この現状を次にどうつなげていくのかが明瞭に見える。一つの分野のこととしてでなく、あらゆるものに当てはまり、具体的な考え方としてとても参考になり、興味深い。
 
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