迷走する枕茶屋

アダルティックな夜



にぎわう繁華街のある北口とは反対の南口。

ひと気がぱったりと途切れる薄暗い通りにある小さなホテル。

その一室の丸いベッドの上で、お互いなんらかの事情を抱えながら

僕らは身体で慰め合っていた。


「ねぇ…   私みたいな女、なんで好きになったの…」 と、

 ベッドの中で君は不安そうな目で僕に聞いた」


子供の頃、近所にからたちの生垣があって、

僕はその生垣の小径を通るのが好きだった。

通学路から少し離れてるんでけど、

わざと遠回りして、行きも帰りもからたちの小径を通った。

「僕はからたちが好きなんだよ」

「それはわたしの苗字が「橘」だから?

  わたし… からたちって嫌い」


そう言いながら君は、天井の薄暗い照明をぼんやりと見つめる。 


「子供の頃、わたし勉強できなくて頭カラッポのタチバナで

 カラタチって ずっとバカにされてた。

 知ってる? からたちの花って、花びらが細くて少なくて

 とても貧相で見栄えが悪いんだよ。

 果実はタネばっかりで苦くて不味いし、とても食べられない。

 それに鋭いトゲで触ると怪我をするから、生垣にするしか使い道がないって、

 わたしのおばあちゃんが役立たずだって言って嫌ってた。

 まるでわたしみたいでしょ。

 わたしなんかといると、あなたを傷つけちゃうよ…」


そう言いながら君は、毛布を包むように僕に背を向ける。


「大丈夫 どんなトゲも僕には刺さらない。

 それに僕は、からたちの果実の匂いって大好きなんだ。

 からたちのあの甘酸っぱい、いい匂いに包まれていると 

 嫌なことも辛いことも忘れられる。だからいつもからたちの小道を通ってたんだ」


僕に背を向けた君の肩甲骨を覆い隠すように、そっと後ろから抱きしめた。


「君は人にされた嫌なことを人には絶対しない。 だから優しい。

 それはあの優しいからたちの芳香と同じで、

 こうやって抱きしめていると、とても心が安らぐんだ」 




あとがき 
昭和歌謡の名作「からたちの花」や「からたちの小径」のオマージュのつもりで書いてみた。
 どっちかというと井上陽水&流れ星犬太郎版の「からたちの花」の世界観の方が強いみたい

これは去年このブログに載せたい短編「からたちの香りの中で」の再掲載です。
イラスト(絵)に関するものは一旦全て消去したのは、海外で私の画像が勝手に出回ってる
ことを知ったので、ヘタレの私は厄介ごとを恐れて消したのです。 今考えるとそんなことする必要はなかったんだけどね。 (苦笑) いまだに消したページへのアクセスが結構あるのでせっかく探してくれてるのに何もないのは申し訳ないので、もう一度戻していきます。
出したり消したり何度もスンマせん。 一度見た人(読んだ人)もいると思いますけど、お許しくだされ。


「からたち〜」は、本当はこっちの絵を載せるつもりだったんだけど、なんだか水商売の姉ちゃんと不倫してるみたいなので没にしました。 もっと庶民的な女性ということで、上のような絵になりました。 やり直しなので描き方がちょっと雑になってます。

タイトル 「氷華」



タイトル 「想いが届いた日」


私の描く女性は、大体寝そべったり寄りかかってるのが結構多い。 な〜ぜ〜?






朝顔 昼顔 夕顔 

人にも花にも 三つの顔がある

夜の幕が引かれる前 もう一つの顔が現れる

朝日が照らすよりも早く

霧がかった垣根の間から

私の蕾にそっと触れた指

体が動かなかったのは 怖いだけじゃない

きっと私自身が前から望んでいたこと  

そして自ら胸のボタンを

震えながらゆっくりと外す


夜明け前に見せる私だけの素顔

 タイトル 「朝霧顔」 より




 あだるとだろぉ?

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