さて、私のあまり面白くない技術(?)講座も最終回、低音再生編です。
参考になるかはわかりませんが、低音再生に関する私の考察を述べてみます。
よろしければ読んでみてください。
実はこのブログの下書き段階では前面バッフル、密閉箱、バスレフと解説していました。
かなりのボリュームになりましたが、よく考えてみるとこれは皆様には釈迦に説法、今さら私ごときが解説しても仕方がないので、思いきって割愛します。
(ただ単にタブレットに打ち込むのが面倒なだけだろう、という外野の声は、事実ですので、無視します。)
ただ、一つだけ私の意見を言わせてもらうと、いずれの方法も振動板自身、空気バネ、あるいはバスレフダクトの共振を利用しています。
共振を利用して振動させるということは、同時に振動が止まりにくいということも意味します。
低音再生を欲張ると、ブーミーで締まりのない、鈍重な低音になる可能性があります。
やり過ぎは禁物です。
(特にダブルバスレフ。)
では本題に入ります。
低音を出すために、全てのスピーカーが共振を利用しているのかというと、そんな事はありません。
共振を使わないで低音を増強するスピーカーもあります。
想像がつくと思いますが、バックロードホーンです。
では、バックロードホーンはどういう原理で低音を増強しているのでしょうか?
例えばバスレフの場合、ポートに耳を寄せれば盛大に低音を放射しているのがわかります。
一方、バックロードホーンの開口部からはもう少し高い、中音から低音が出ていますが、特に重低音を増強しているようには感じません。
イメージとして、バックロードホーンは、ユニット、開口部、そして箱そのもの(箱鳴り?)と、全体が一体となって低音を再生しているような気がします。
(私見です。ただし、比較したバックロードホーンはフォステクスの10㎝フルレンジ、今となっては型式名不明の「かんすぴ」ですので、異論は受け付けます。)
以前のブログで、私は長岡鉄男先生の言葉を引用しました。
再掲します。
「バックロードホーンは、ユニット振動板の小口径、大振幅の振動を、大口径、小振幅の振動に変換する、変換器である。」
当時も書きましたが、これは私のうろ覚えの記憶ですので、もし間違っていたら謝罪いたします。
私は長岡先生の著作を持っていませんので、どういう文脈だったのかはわかりませんが、ユニットの振動を大口径、小振幅に変換したら、どうして低音が増強されるのでしょうか?
小口径ユニットで重低音を再生するのは、基本的には困難です。
これを実現するためには、ユニット振動板は入力された電気信号よりも大振幅で振動しなければなりません。
あるいは開口部から重低音を放射するというのなら、大口径、小振幅では駄目で、中振幅くらいは必要だと思います。
もちろん振動板自身、あるいは空気バネによる共振での低音増強はあるでしょうが、これは密閉型でも同じです。
ここからは私の、バックロードホーンの解釈です。
私が読んだ(大昔です)オーディオ誌には、バックロードホーンは切れ味の良い低音が出る、などと結果が書いてあるだけでその理由には触れていません。
専門書には書かれているのかもしれませんが、私なりに考えたバックロードホーンの低音増強原理を述べます。
正しいかどうか、判断は読者の方々に任せたいと思います。
バックロードホーンはユニットの付いた空気室があり、そこから後方に長大なホーンが付いているのが基本構造です。
高い周波数では動作は密閉型と変わりません。
一部の音が後ろに洩れますが。
そして特定の周波数以下になると、ホーン内の空気全体を、振動板が押したり引いたりする動作に変わります。
つまり、ホーン内の空気の重量が振動板にかかり、大きな負荷となります。
これはユニットの振動系(振動板+ボイスコイル)を重くしたのと同等の効果を生みます。
具体的に言います。
振動板が空気を押すと、その圧で空気が動きます。
次に振動板が逆方向に動こうとしますが、空気の方は自らの自重ですぐには止まれず、そのまま振動板を引っ張って動かします。
つまり、振動板は重い空気に振り回されて、フラフラと大振幅の振動をするのです。
これがホーンロード効果の正体なのではないかと思います。
そしてさらに周波数が低くなると、ホーンロード効果は次第に下がっていきます。
なぜなら、周波数が下がるという事は振動板の振動スピードが遅くなることを意味します。
振動スピードが遅くなれば、空気も振動板の動きに付いていけるようになるからです。
つまり、空気が振動板を振り回さなくなるのです。
振動の波長がホーン長を越えるくらいになると、ホーンロード効果は失われ、単なる空気抵抗になるのではないかと思います。
もしこれを嫌って、重低音までホーンロード効果を確保しようと考えるなら、ホーン長を増大させる(長くする)という方法があります。
こうすればホーン内の空気の自重が増すので、空気の動きが渋く(動きにくく)なり、振動板のスピードが下がっても付いていく事ができず、振り回し続けます。
ただし、これにも限界があります。
振動板にかかる負荷がどんどん増えるので、あまりやり過ぎるとホーン内の空気を動かすこと自体が困難になってしまうからです。
では、あらためて結論です。
バックロードホーンは開口部が重低音を放射しているのではありません。
振動板が大振幅で振動することによって低音を増強しているのです。
以上が私の解釈です。
私は正しいと思っていますが、どうでしょうか?
それでは次に、私の魁スピーカーです。
このスピーカーが低音増強する理由を述べます。
もちろんこれも推定ですが、おそらく間違いないと思っています。
魁1a型は、箱の容量が極めて小さいのが特徴です。
ユニット振動板のすぐ後ろに、ゴム製の弾性振動板が張られた構造です。
ではまず、ユニット振動板の立場で考えます。
振動板が音楽信号で振動すると、後ろの弾性板も動きます。
自然振動ですので、ユニット振動板と同相、同じ向きに振動します。
彼ならきっとこんな文句を言うでしょう。
「なんで後ろに重いゴム板があるんだ!」
「これも動かさないといけないじゃないか!」
「普通の箱だったら、軽くて楽なのに!」
次に、後ろのゴム製弾性板の立場に立ちます。
こちらから見ると、立場が逆になります。
重いゴム製の弾性板は、軽量アルミ製の振動板を軽々と動かすでしょう。
さしずめこんな感じでしょうか。
「どけどけ! 俺が動くと止まらんぞ!」
「逆らうやつは力ずくだ!」
そして最後に、ユニットのボイスコイルの立場で考えます。
こちらから見ると、ユニット振動板とゴム製弾性板を同時に動かしている事になります。
きっと盛大に愚痴っているはずです。
「何て重い振動板なんじゃ!」
「制動力が足りん! フラフラじゃ!」
「足腰立たんようになったら訴えてやるぞい!」
完全に三文寸劇になりました。
でも、ここまで書けばわかると思います。
そうです。
魁スピーカーは、バックロードホーンと同じ原理で低音を増強しているのです。
空気の自重による負荷が、ゴム製弾性板の重量に置き換わっただけです。
レスポンスの良い低音が軽々と出る、という特長も同じです。
でも、比較すると魁スピーカーの方がメリットが多いのではないかと思います。
何と言っても超小型で箱鳴り、内部定在波が(ほぼ)存在しないというのは大きいです。
逆に大型化してしまうバックロードホーンは箱鳴り、定在波対策に頭を悩ます事になります。
次にバックロードホーンは周波数が下がると次第にホーンロード効果が失われ、最後はスルーになってしまいます。
でも、魁スピーカーにはこれがありません。
なぜですかって?
当然です。
重いゴム板が、振動板のスピードに付いてこられると思いますか?
例え20㎐でも10㎐でも無理でしょう。
魁スピーカーは最低再生限界までホーンロード効果がかかり、かつスルーにもならないのです。
ただし、現状の魁1a型ではこの特長が生かされていません。
ユニット振動板とゴム製弾性板が同相で動き、かつその距離が近いため、回り込んだ低音が干渉、打ち消し合ってしまうからです。
これを解消するためにはバッフルボードを設置、双方の放射音を分離する必要があります。
前回のブログに書きましたが、もう一回言います。
「次のスピーカーではバッフルスカートを採用します。」
おそらく効果大なのではないかと予想しています。
話を戻します。
逆にバックロードホーンの方が有利なのは、大口径ユニットが使えるという点です。
音道も自由に伸ばせますし、重低音追及ならば間違いなくバックロードホーンの方です。
魁方式では、大口径ユニットは物理的に入りません。
かと言って容量を増やせば、魁スピーカー最大のメリットを損ないます。
現状では、魁スピーカーは8㎝フルレンジの一本槍です。
でも、将来的には容量を増やして2Way化を検討するかもしれません。
(一応魁スピーカーを名乗るなら)なるべく箱内に高音を入れないようにクロスオーバー周波数を低くとり、かつ急峻なハイカットとかなるでしょうか?
次に、少し先の話です。
おそらく次の次になるとは思いますが、魁スピーカーの低音増強策としてバスレフの追加を考えています。
(別にバックロードホーンに対抗しようと考えている訳ではありません。)
実は実験的に試作したスピーカーがあるのです。
4式試作スピーカーです。
バスレフ併用でさらに低音を増強できるか、可能性を探るために製作しました。
結果は一応成功です。
8㎝フルレンジで、市販の10㎝2Wayバスレフ以上の低音が出ることが確認できました。
これを受けて、一時はこのまま発展させて次のスピーカーにすべく動いていました。
4式スピーカー「標(しるべ)」と名前まで考えていたのですが、結局断念しました。
理由はこのスピーカーが2式魁1b型(密閉タイプ、いずれこのスピーカーの詳細も記事に上げる予定です。)の構造をベースに容量拡大、バスレフダクトを追加したものだったからです。
前にも書きましたが、魁スピーカー最大のメリットを失ってまで低音増強にこだわる気はありません。
製作したとしても低音だけが優れた、平凡な中高音のスピーカーになったことでしょう。
でも、可能性だけは示すことが出来ました。
これは次の宿題にしておきます。
(夏休みの宿題は、最後までやらないタイプだった気が····)
最後に言っておきます。
少し前のブログで、魁1a型の低音増強はバックロードホーンの原理ではないと私は断じています。
ここに慎んで謝罪、訂正させていただきます。
何が変わったかというと、前記事の段階ではバックロードホーンの作動原理を考察しておらず、バックロードホーンは開口部から重低音を放射していると、単純に思い込んでいたからです。
この記事を上げるために、バックロードホーンの「かんすぴ」を久し振りに引っ張りだしてきて鳴らしました。
これを入手した当時には既に魁1a型が出来ていました。
メインスピーカーと同じく、やはり箱鳴りが気になって倉庫行きになっていたものです。
でも、改めて聞いてみると、何かアナログ的な良さがあります。
自由を満喫、謳歌しているような伸びやかさを感じて、これはこれで魅力的でした。
魁1a型に戻ってみると、こちらはデジタル的です。
精密、精緻で余計なものは一切加えないというイメージで、美しさも感じますが、比べてみると生真面目です。
結局、どちらが上という問題ではなく、好みの問題になると思います。
私もバックロードホーンよりも魁スピーカーの方が上だ、などと誇る気はありません。
興味の有る方は参考にしてください、というだけです。
ちなみに魁スピーカーはすごく単純な構造なので、製作は簡単です。
これで小難しいシリーズは終了です。
次回から実践編に戻ります。
さて、どこから手をつけましょうか?
(おまけのアイデア)
この世にダブルバスレフがあるように、ダブルホーンロードは可能でしょうか?
バックロードホーンでは絶対無理ですが、魁方式では少なくとも構造的には可能です。
振動板を後ろのゴム板が振り回し、それをさらに後ろのゴム板が振り回す·····。
暇な時にでも実験してみます。
(いや、サボるかも····。)
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