NHK「坂の上の雲」は第2回。
この月の最初の土曜日は、雨だった。子規は学校から下宿にもどると、
-正岡常規殿
と、見おぼえのある筆跡でかかれた封筒が机の上にのっている。
(なんぞな)
とおもってひらくと、はたして真之の手紙であり、子規はおもわず窓ぎわへ走った。
障子をあけ、そとの雨あかりを入れてひらくと、手紙は数行であった。
「予は都合あり、予備門を退学せり。志を変じ、海軍において身を立てんとす。
愧ずらくは兄(けい)との約束を反故にせしことにして、いまより海上へ去る上はふたたび兄と相会うことなかるべし。自愛を祈る」
という意味のもので、この年齢の若者らしく感傷にみちている。
子規は、しばらくぼう然とした。やがて、壁の上をみた。そこに鉛筆の線で大きな人のかたちが描かれている。
かつて真之がかいたものであった。
真之は徹夜勉強が得意で、寄席などへ行ったあとはかならずこれをやった。
あるとき子規も、「あしもやる」と言い、
-さあ徹夜の競争じゃ。
といいながら机を並べたのだが、夜半になると子規の体力が尽き、ついに壁にもたれてねむりこけてしまった。
真之はのちの証拠としてその人がたを鉛筆でとった。
(あげなことをしおって)
と、その壁の線描をみているうちに、真之の手紙の感傷がのりうつったのか、涙があふれて始末にこまった。
なにやらこれで真之とは今生のわかれであるような、そんな気がした。
-司馬遼太郎「坂の上の雲」より。
活字でもいいシーンなのですが、ドラマにするとほんとこんなに泣けるものかって思うよね;
ドラマって、役者ってすごいわー
この第二回は本当に感動的なシーンがいっぱいで。
って、この回で私の中で一番感動的だったのは実はこのシーンではなく。
正岡律(子規の妹=菅野美穂)、台詞はそんな多くはないんだけど、表情だけでものすごく気持ちの動きが伝わってきて。
いい女優さんになったなー;
本木雅弘も阿部寛もカッコイイぜ。明治の男!
感情ってものがあるじゃないですか人間だもの。
いろいろと言いたい、伝えたいことがあると思うんですよ。
が、男のプライドというかなんというか、要するに彼らなりにこういうことを人前でしたら、特に女性の前でしたらカッコ悪い、というような美学とでもいいましょうか。
例えば涙を見せるとかね、本当はとても辛いけど、そういう揺れを見せたくないと。
そこでクルリと背を向けたり、あえて何も言葉にしなかったり。でも伝わるものがある。
やせ我慢ですよ。
立派な人間であろうとするためには、まぁもっと単純にいえば、カッコつけるためには私情は律しなければならないのだ!
昭和の男もかっこよくあらねばなりませんよねぇ。
私はそういうキャラにはどうもできていないようですけど。
司馬さんは歴史学者ではなく小説家ですから、登場人物たちの恋も描きます。
たいてい、そこに出てくる女性たちは、この菅野美穂のように元気で明るく活発で利発で気が強いというか芯が強い。
そしてその恋はいつも淡いんです。
そのあたりが特長なんかなと思います。
もうひとつ司馬さんの特長は、余談が多いこと。
解説というか、司馬さんなりの歴史の解釈というか。
それが面白いし、物語の根幹の背景の理解に欠かせないところでもあり、「司馬史観」という言葉を生むことになる所以でもあるところです。
で、その余談が好きなんですけど、こういうドラマでは、それを視聴者に説明するのは難しいだろうなと思う。
脚本家が苦労して何とか伝えようとしてるなーというのが伝わってはくるのですが、その部分を余すところなく表現できているかというと、どうにもやっぱり難しそう。
ドラマみて興味もったら原作読んでね。
日本の歴史がおもしろい、日本の歴史は、他のどの国にもひけをとらないくらい、本当に美しい、素晴らしいものだと思えるのではないかと。
この、「坂の上の雲」のあたりまでは。
終盤に出てくる松山の風景。真之が江田島から休暇をもらって帰ってくるところ。
ほんとうにきれい。美しい!田園風景、小川、花、瀬戸の海!
そして松山の巡査さんがいい感じ(笑)
故郷ってのはいいもんだなぁ、と思いました。
第三回の次週は、日清戦争の前夜あたりまでになるのでしょうか。
丁提督と東郷提督が予告編に登場。こうご期待。
ではでは、また。