「The Enemy Below」。1957年製作の、昔のアメリカの戦争映画です。
近年の戦争映画にありがちな、どっかの国の国威発揚のための映画でも、殊更に声高に反戦を主張する映画でも、悲壮感を前面に押し出して何かに殉じるさまを描いて涙を誘う映画でもありません。
あれだ、古き良き名作ってやつ。
舞台は駆逐艦とUボート(=ドイツの潜水艦)と三次元の海だけ。
アメリカの大統領とかドイツの指導者とか、奥さんとか子どもとか、そういう人たちは背景としては多少出てきますが、 人物としては一切登場しません。
出てくるのはアメリカ人の駆逐艦艦長、Uボートのドイツ人艦長。
あとそれぞれの乗組員だけ。
2人の艦長がその頭脳の限りを尽くして、相手の行動の意味を考え、その先を読み、的確に対応をしつつ、さまざま手を打って主導権を握ろうとし、 相手を追い詰めようとします。
あたかも将棋の名人同士が棋譜の先々を見通すような・・・
そんな数日間にわたる見応えある攻防がメイン。
のっけの遭遇から、いきなり高度な頭脳戦が始まります。
駆逐艦のソナーに一瞬現れた異常な反応。
ほんのちょっとの反応でしたが、それを見逃さず、警戒を始める駆逐艦艦長。
ほぼ同時刻に、Uボート側も、相手のスクリュー音を探知。
艦長は、相手に発見されないよう、慎重に行動を偽装します。
互いに相手が見えているわけではありません。
計器に出現する情報や、ソナーの音から、互いに相手の姿や動きをありありと頭の中に浮かべているんだろうなと思えるような。
「見えないけど想像できている」というのを実にうまく表現していると思います。
Uボート側には、ある任務のため、ある一定の進路に向けて航行しなければならないという制約があって、それがためにのっけから主導権を握られ、駆逐艦側が有利な状況で戦闘が続きます。
が、Uボートはしぶとく立ち回り、なかなか致命的な打撃を与えることができません。
互いに自分が打った手に相手が敏感に反応してきます。
自分の意図に対して、明確な意図をもって対応してくる。
そうした先に、互いに相手に対して「なかなかやるな」、「どんなヤツなんだろう」というところでしょう。
敵同士、互いに敬意のような感情が生まれていきます。
Uボート側は駆逐艦側の激しい攻撃に心理的に消耗しながらも、その中からある行動パターンを読み取り、次の行動の予測をし、そう出る可能性が高いと判断し、それを基礎にある起死回生の作戦を試みます。
勝負の行方は?
その先の結末は?
みたいな。
とても印象に残ってるシーンがあります。
駆逐艦の激しい攻撃に神経を磨り減らしながら耐え続けるUボート。
1人の乗組員が耐えかねて冷静さを失い、艦を危機にさらすような行動に出ます。
このときの艦長の対応がね。カッコイイ台詞で諭すとかじゃなくて、言葉はないのです。
ある行動に出て、見事に落ち着きを取り戻させる。
このUボートの艦長役をやってるクルト・ユルゲンスっていう俳優さんがいいんです!
実にいい。
ラストもいいんですよ。割とアッサリしてて。最後の掛け合いも気が利いてます。
この映画には、近年の戦争映画にありがちなメッセージ性というのはないです。
なんというか妙なドロドロ感というか、重さを押しつけられている感というかね。
それがハナにつかないところが、私にとってはいいんだろうと思います。
そういう意味では、「トラ・トラ・トラ」とか「空軍大戦略」とかも好き。
じゃあ2人ともこの戦いを楽しんでいるのかというとそうも見えません。
戦争の行方や意味について疑問を抱いています。
ただし、現在の自分の置かれた状況を受け入れていて、自分のできるベストを淡々と尽くそうとしている感じ。
「これは自分の仕事だ」と割り切っているような。
「真夏のオリオン」は、この「眼下の敵」を意識して作られたそうです。
そう聞くと、どんな映画かな?って気になるじゃんね。
「日本よ、浮上せよ」ってサブタイトルが私はどうも気に入らないのですが、それも見なきゃわからんし。
今週土曜日は空くかな?
見たい映画がたまっています。