「囚人のジレンマ」って有名ですよね。
共同で犯罪を行ったと疑われる2人の囚人に、
「お前だけ自白したらお前だけ懲役1年にして相手は懲役15年。相手だけ自白したら相手だけ懲役1年でお前は懲役15年。ちなみに2人とも黙秘だったら2人とも懲役2年。2人とも自白したら2人とも懲役10年ね。あ、これ相手にも同じこと言ってるから。それから相手と相談するのはなし」
っていったら、2人とも
「相手がどうするかワカラン・・・」
相手が自白すると仮定した場合:
自分が自白したら懲役10年。
自分が黙秘したら懲役15年。
相手が黙秘すると仮定した場合:
自分が自白したら懲役1年。
自分が黙秘したら懲役2年。
どっちに転んでも自白した方が得だ!と考えるから2人とも自白しちゃう、という理論です。
2人とっては、互いに裏切りあって懲役10年よりは、互いに協調しあって懲役2年になった方が得なんだけど、そうはならないと。
経済学は、世の中の人はみんな自分の利益のために動いている!っていう考え方を基礎にしています。自分の利益を度外視して、自分が損になるのに他の人の利益に奉仕するような行動をとるアホはいないこととして・・・と。
例えば、「神の見えざる手」という言葉、聞いたことあると思います。マラドーナの手のことではありません。アダム・スミスというひとの言葉で、要するに市場に全部任せとけば、みんな自分の利益を合理的に追求しようとして動いて、結果として万事うまく運ぶはず、というような経済学の考え方のひとつです。
ケインズって人も有名です。マクロ経済学っていいます。税金でダムとか作りまくったらダムを作る業者が儲けて、失業者もそこで働けて、そこで働く人の給料も増えて、増えた給料でモノをたくさん買うからモノを作る会社が儲けて、その会社で働く人の給料も増えて、また仕事が増えて、さらに失業者が減って・・・国全体でみたら、最初に使う税金分よりめっちゃたくさん豊かになるじゃん!とか。
預金の金利を下げたら投資した方が貯金するより得だから市場にお金が出るはずとか、そういうのも基本的には、人は合理的により利益を得られるような行動をする「はず」っていうのが前提になっています。
が、行動経済学では、「いやいやそうとは限らないぞ」というところに注目します。ひょんなことから興味を持ち、調べ始めたらおもしろくて、いろいろ考え始めたら止まらなくなってます。この考え方を提唱したダニエル・カールマンという経済学者が2002年にノーベル経済学賞を受賞して、とても注目を集めているみたいです。
問1.AとBのどちらを選びますか?
A.必ず800万円もらえる
B.85%の確率で1000万円もらえるが15%の確率で0円になってしまう
問2.CとDのどちらを選びますか?
C.必ず800万円支払わなきゃいけない
D.85%の確率で1000万円支払わなきゃいけなくなるが、15%の確率で
支払わなくてもよくなる(0円)
私だったらAとDを選びそうだなぁ。
これは、期待値で考えると、両方とも850万円なので、問1は800万円もらうより85%に賭けた方が得。問2は800万円支払う方が期待値で考えればよりリスクが少なくすむ。ゆえに問1はB、問2はCを選ぶのが合理的なのだと説明されますが、いや、どう考えてもAとDでしょ。
今も昔も、現実の経済って学問通りには都合よくコントロールできないようです。
タクシーの台数を自由化したら、街がタクシーで溢れて、運転手さんは給料が減って、じゃあタクシーの値段を上げたら、今度は客が減るとか。
今の世界で、例えば原油が高いから産油国がめっちゃ石油を増産したら価格が安くなるはず!いやいやそういうわけには・・・とか、食糧価格が高騰してるのは、さとうきびをバイオ燃料にしすぎだから!とか、いやいやそういう需給の話ではなくて投機マネーがきてるからダメなんですとか、関税なくして自由な貿易できるようにしようぜ、いやいやそれしたらうちの産業が死ぬからダメ!なにぃ!って揉めるとか、財政再建派か、景気上げ潮派か!?とかとか。
そういう話を最近よくテレビなどで見ます。
要はこれまでの経済学じゃ説明しきれないことがあって、よくワカラン。こういう政策をしたらこうなるはずなのに、ならない。こういう状況だからこうしなきゃいけないのになんで逆のことをやるんだ!
いろんな意見がありますが、どうすればいいのかは誰にも判らない状況です。こんなに長い歴史を経て成長してきた学問でも解けません。
経済学って結局人の集まりのやることだから、難しいんですよねきっと。宇宙の謎クラスの難しさ!人類永遠のテーマなんだと思います。行動経済学も、少しでも経済の真理に近づこうとする学問なんだろうな。
・・・で。
さっきの800万の話ですが、この選択も人間なりに「自分の利益を追求」した結果なんだといえなくない?
さっきの囚人のジレンマ。
世界の核開発競争とか、泥沼価格競争とか、環境保護がうまくいかないのはなぜ起きるのかとかはこの理論で説明できるそうです。
自分だけ核もってたり、自分だけ安く売ったり、自分だけ環境破壊して経済成長できる状況にうまく持っていけたら得だし、逆に自分だけ律儀に核廃絶したり、自分だけ「潰れないギリギリ価格」を維持したり、自分だけ環境を壊さないようにしたりしている状況になると自分だけ潰れる。
みんなが協調して約束を守れば共存共栄できるのに、結局みんな自分の利益を追い求めて、みんな共倒れしてしまう・・・
ってパターンは全部この理論が当てはまります。
いやいやそうとは限らない!「なんかこうした方が得な気がする・・・」とみんながみんな疑いなく思えるようなっていう状況をうまく作り出すにはどうしたら?
この学問が発展したら、なんだか人間が関わるとても多くのいろんな分野に応用できそうで、なんだか行く末楽しみな気がします。