On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

1-17

2009-12-13 18:36:05 | OnTheRoad第1章
ピザ店勤務の最終日は、思ったより早くきた感じだった。ピザ店にいる間はお母さんに作ってもらった弁当をサトウさんに届けてから出勤した。サトウさんは恐縮したけど、弁当を作ると言いだしたのはお母さんで、僕もサトウさんにはせめて1日1食でも普通の家庭料理を食べてほしかった。
「サトウさんがカレーなんて、シャレにもなりませんよ」と僕が言うと、「うまいこと言うな」とサトウさんが笑った。このシャレはお父さんの受け売りだ。

デリバリーの新しいスタッフには、ナカムラ君が紹介した野球部の後輩と定年退職をしたオジサンが入った。元野球部のイノウエ君はバイクを買うために、オジサンは生活のために、働く気満々だ。

「お世話になりました」と店を出ようとすると、店長がピザの割引券と、スタッフからの寄せ書きをくれた。あまり話したことないキッチンの女の子やオバサンからのメッセージもあって、クマやウサギやカバやアンパンマンがピザを食べている絵も描かれていた。店長からのメッセージは「ガンバレ!君ならできる。でも、いつ帰ってきてもいいゾ」だった。

第2章につづく

1-16

2009-12-12 12:36:21 | OnTheRoad第1章
ついでに和菓子屋の店番に転職すると言ってみた。お父さんはべつに驚かなくて、僕のほうが驚いた。「コージが自分で決めたんだし、ピザ屋も和菓子屋も似たようなモンだ」
お父さんはお母さんに内緒でビールをもう1本開けて、カンパイすると言って、僕のグラスにつぎたした。「飲まなくてもいい。カンパイするだけだ」。だから僕はカンパイのあとの一口だけ飲んで、それ以上飲まなかった。
お母さんもお風呂から出たみたいで、ビールの飲み過ぎを怒られると思ったお父さんと僕は緊張した。でも、お母さんは自分のグラスをテーブルに置いて、「私ももらっちゃおう」と言った。
「コージ、ついでやれ」とお父さんが言った。お母さんにビールをつぐなんて、生まれてはじめてだった。

アリエナイことだらけの1日だった。いつもより2時間も早く歯みがきをして、僕はノートに詩を書いた。

アリエナイけどアリエルこともある
アリエナイって決めたのは
自分だったりするから

机の引き出しから小学生の時使っていた色エンピツを出して、よくできましたと花マルを描いた。ベッドに入って目をつぶると同時に眠っていた。

1-15

2009-12-12 12:32:05 | OnTheRoad第1章
ヨシユキさんもあまり酒に強くないから、ビールは1本以上開けられることはないまま、お父さんが帰ってきて、ヨシユキさんはちょっときまり悪そうに帰っていった。
「コージがビールなんて珍しいな」とお父さんが言って、自分のグラスを出して座った。お父さんがまだ残っていたビールをついで一口飲んだところで、「お風呂に入ってからにすれば?」とお母さんが言った。お父さんはイッキでグラスをカラにして風呂場に向かった。

お父さんのあとで僕もお風呂に入った。ゆっくりと浴槽に体を沈めたら、少し酔いがまわってきた。でも、気持ち悪いわけじゃなくて、不思議だけど気持ちよく疲れているのがわかった。
お風呂から出ると、2本めのビールを飲みはじめていたお父さんが僕にもついでくれた。あと1杯だけ付き合おうと思った。話をしたい気もした。サトウさんやアキエさんのことも。

1-14

2009-12-11 20:04:28 | OnTheRoad第1章
僕は買い物を済ませて病院へ向かうサトウさんに車で家まで送ってもらった。和菓子屋は明日が定休日で、サトウさんは明日は朝から病院へ行く。
売れ残った和菓子をサトウさんが包んでくれた。早めに食べたほうがいいと言われたので、アネキに電話しようと思った。サンタがかわいそうだと砂糖菓子を食べなかったユリナちゃんが、和菓子を食べるかどうかはわからない。

晩ご飯はしょうが焼きで、冷や奴とサラダとバターコーンが付いていた。サトウさんはまたカレーを食べているのだろうか。鍋にはあと1食分カレーが残っていた。食後にお母さんが入れたお茶の葉は、僕がサトウさんの台所で入れた量の半分くらいだった。

僕が電話をしたから、アネキのダンナのヨシユキさんが会社の帰りにウチに立ち寄った。「なでしこ」の包みを受け取ってすぐ帰ると言ったヨシユキさんに、お母さんがビールと湯豆腐を出した。僕は湯豆腐は好きではなかったけど、ヨシユキさんとビールを飲みながらつまんでみた。ビールを飲むのも何か月ぶりだろう。

1-13

2009-12-11 20:03:04 | OnTheRoad第1章
掃除機が見つからなくてアキエさんが寝ていた部屋の掃除に手間取っていると、7時閉店の少し前にサトウさんが1人で帰ってきた。アキエさんは気管支炎を起こしていて、肺炎になりかけていて、もっと早く病院へ連れて行くべきだった、とサトウさんは言った。アキエさんはそのまま入院して、サトウさんはアキエさんの着替えを持ってすぐ病院へ行くのだそうだ。しばらくタンスの引き出しを探していたサトウさんは何がどこにあるかわからないと言って、近くの洋品店で買うことにした。

「ハブラシとか化粧品も持って行ったほうがいいですよ」と僕は言った。「女の人って、そういうの気になるみたいだから」
「タカハシ君の彼女は優しい彼氏がいて幸せだな。オレにはとても思い付かねーや」サトウさんは「カレシ」というのとは違うアクセントで言った。
「彼女なんていませんよ。オフクロとアネキがすぐ気にするから」僕も「カノジョ」ではないアクセントで言った。