On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

6-27

2010-03-15 21:52:16 | OnTheRoad第6章
 スピーカーからレリビーとくりかえす声が聞こえる。僕は勇気を出してあずに言った。「なりゆきに任せてじゃ責任もてない。僕はまるっきり初心者だし」

 「ありがとう」あずはうなずいて僕のセーターを見て、「緑のカエルさん、卒業式は終わったから次は入学式で会いましょう」とまた笑った。

 「はい、ママ」と僕も笑った。お風呂で髪の砂を落としたら、久しぶりに詩を書こうと思った。書けたらあずにメールを送ろう。ヘタに決まってるけど、あずはきっと喜んでくれる。


On The Road -完-

あとがきへ

6-26

2010-03-15 21:11:26 | OnTheRoad第6章
 バス通りを車が風を起こして走る音が聞こえた。真冬の公園はきっとすごく寒いはずだ。でも、あずがいてくれるだけで熱い気持ちになれて、涙が出そうになった。

 「待ってるから。迎えにきてね」。あずが顔を僕の胸にうずめてくぐもった声で言った。
 「待てなくなるまえに言って。僕はニブいから」

 「公園を出たら私が家まで送る」とあずに言われた僕はあずにキーを返した。あずは運転席に座ってシートやミラーをあわせなおしてエンジンをかけ、オーディオをつけた。
 さっきかけたCDの曲はプレーヤーに記憶されていて、あずは慣れた手つきで曲を選んだ。

 車が走り出して僕は帰り道を説明した。なでしこが見えて、あずは説明したとおりゆっくり通りすぎた。僕の家はもうすぐだ。

 「今夜、あずの夢を見ていい?」と僕は聞いた。「きっと夢のなかで会えるね」。あずが笑った。「夢のなかの僕がキス以上のことをしようとしても」と僕が言いかけて、「カエルがなんで投げつけられたか知ってる?」とあずに聞かれた。
 「カエルは一緒に食事をしてからお姫様のベッドで一緒に寝たいって言ったんだよ」

6-25

2010-03-15 21:09:26 | OnTheRoad第6章
 「花火を見てタコ焼きや焼きソバやかき氷を食べて、コージ君はひとりで片付けてた」
 「役に立つことをしていればジャマにはならないからね」

 「女子部員のあいだでは、コージ君はけっこう人気あったんだよ。スマップでいえば草薙君みたいな感じで」
 それを知っていたら僕の人生はすこし変わっただろうか。結局、同じだったような気がする。

 「今日の僕たちの道は海に行ってこの公園までで終わりだね」。公園のなかは明かりはあるけど暗くて、入口近くの広場を歩きながら僕が言った。
 「いつか内房へ行こうね」。あずは後ろから僕の腕につかまった。「内房だって北海道だって行くよ」と僕はあずを抱きよせた。「二人で道を作ろう」

 公園に入ったときは真っ暗に見えたけど、目が慣れてくると高い木や低い木が見えた。木から目を離して腕のなかのあずを見た。僕を見上げていたあずは、何かささやいて目をとじた。僕はあずの顔の角度をすこし変えて「ずっと一緒にいたい」と言って唇を合わせた。
 あずは僕の頭に手を伸ばして僕が離そうとした唇を引きよせた。

6-24

2010-03-14 20:44:04 | OnTheRoad第6章
 あずの家は僕の家や高校やなでしこのある駅より2つ上った駅から、木村さんの高校のほうに行ったところにあるとあずが教えてくれた。お父さんは公務員でお母さんは専業主婦だそうだ。
 神社には関係ないおまつりが開かれる公園には、駐車場も売店もない。僕はバスが通らないわりと広い道に車をとめた。花火の夜は路上駐車の車がズラーッと並ぶけど、冬の夜に公園に来る人はいないみたいでとまっている車はない。
 道路側から降りるあずはドアミラーを見てドアをあけた。僕はあずが歩道に来たのを見とどけて車を降りた。

 「1年の夏に花火を見たんだよね」。あずは小さいバッグにハンカチを戻しながら言った。そういえば人気のあった短距離のモリ君が女の子たちに声をかけて、花火を見にきたことがあった。女の子たちはモリ君と話したくて、モリ君と中学からの友達だった僕はシートやジュースを持って女の子たちのあとを歩いた。
 有望な新人だったスズキさんは女の子の後ろのほうを歩いていて、僕とすこし話した。「私は走るのが楽しいだけなんです」
 17歳の僕にはわからなかったけど、あずはホントは記録にしばられて走るのはイヤだったのかもしれない。

6-23

2010-03-14 20:43:05 | OnTheRoad第6章
 あずの涙が止まるまで、ドリカムの曲で3曲分の時間がかかった。僕は何も言わずに車を走らせた。だんだん見慣れた景色が見えてきて、ドライブがもうすぐ終わるんだと思った。
 あんなに急いで走ってきたのに、もうすぐ別れてしまうと思うとあわててソンした気もする。泣いているあずを見たのははじめてだと思うけど、絶対守るから泣いてもいいよって思うほどイジラシイ。
 「昔飼ってた犬が死んじゃったことまで思い出しちゃった」と切れ切れにあずが言った。
 「犬のためにも泣いてあげなよ」と僕が言って、「うん」とあずは答えた。

 「僕は昔からけっこういい子だったんだ。それなのに志望の大学に落ちて、好きな女の子にフラレて、就職に失敗して。ちょっと恨んでた。僕のまえに道を用意してくれなかった親とか学校とか社会とか」。あずのせいとは思ってない。
 「でも、道は自分で作るものかなって気付いたら、甘かったなーって」

 「今日、私たちはなでしこから一宮まで行ったよね」。あずがハンカチを目からはなした。「砂浜で走って」「僕が転んで」「砂浜で抱き合って」「あずはやわらかかった」「コージ君は大きかった」。そんなに大きくないけど。

「遠回りだけど、夏に花火をやる公園まで行って」。商店街主催の花火大会が開かれる公園は僕の家から車で5分くらいのところにある。もちろん僕にイゾンはない。