開催場所:大磯町立図書館2F小会議室、参加者:4名
課題図書:藤まる著 「時給三〇〇円の死神」 双葉文庫 (2017)
衝撃的な表題のこの物語は、こんなプロローグで始まる。
「人生の中で少しだけ不思議な時間を過ごしたことがある。雪の降りしきる中。白く儚く失われた世界にて。虚ろな彼に、俺はそう語りかけた。これは、俺が死神のアルバイトをしていた時のお話だ。(中略)。このアルバイトは最悪だった。でも、同時にかけがえのない何かを手にすることもできたんだ。俺の前から消えていった、たくさんの人々。誰もがみな、煌めく希望をくれたんだ。知っておいて欲しいんだ。この世界に素敵な人たちがいたことを」(後略)。
ストーリーは、生前にやり残した思いを持って死後のロスタイムを過ごす「死者」と、それに寄り添って話を聞き、やり残した思いをかなえる手助けをし、「死者」をあの世に送ってやる役割を果たす「死神」との交流の物語である。
4章の終わりに予想外の展開があり、最後の5章で高校2年生の主人公佐倉真司とパートナー花森雪希との2人の死神の交流を通して感動的な物語が展開する。
藤まる氏は1988年生れの若い作家で、2012年「明日ボクは死ぬ、キミは生き返る」でアスキー・メディアワークス主催の第19回電撃小説大賞金賞を受賞し、ライトノベルの世界にデビューした。本作は第2作目である。
最初に、石井コーディネーターから次のような解説があった;
仏教では、死者が次の新しい生へ向かうまでの49日間のことを「中陰」といい、この間に7日間ごとに故人の生前の罪に関する裁きが行われ、生まれ変わる世界が決められるとされている。この物語に出てくる「死者」のロスタイムはこの概念を思い起こさせる。「死神」は「幽霊」に似た人物の成仏を助ける役割をする存在と言えるかもしれない。
読書会では次のような意見が出た;
この小説は何を物語っているのか良く理解できない。若者の死生観は年寄りの感じとだいぶ違うようだ。
表題に驚いて、最初読むのをためらったが、読み始めたら面白くなった。文章も表現の仕方がユニークで引き付けられた。若い世代は自分の経験したことのないこのような話に惹かれるのかもしれない。
大人の知らない現代社会のひずみに、高校生が気づいてくれているようだ。
アルバイト終了後の「死神」に与えられる「何でも好きなことを一つだけ叶えることができる」という特典の使い方が素晴らしい。
さらっと読める物語ではあるが、花森の役割以外は、想像力をかきたてるような内容ではない。人の死に対する作者の考え方も浅い。
この物語には、ライトノベル特有の若者言葉がたくさん出てくる。「リア充」、「ぼっち」、「ゲームのラスボス」、「ギーク志向」など・・。文中には、若者特有のユニークな表現もたくさん出てきて面白く楽しめた。
この物語を介して、石井コーディネーターはじめメンバーの間で、若者と老人の死生観の違いについて活発な議論が交わされた。さらに、出版業界の現状についても議論された。
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