横浜イチバのおさかな職人 村松享のブログ

横浜市場の水産仲卸 プロのおさかなマイスターが 魚のあれこれをお伝えします。

魚の旨み8 熟成とK値③

2022-06-14 13:52:41 | ムラマツ式 魚の話

横浜中央市場 水産物部仲卸 村松です。

 魚の熟成について説明しています。

「コリコリ食感=鮮度=うまいという感覚」

 一方、日本人は、コリコリした触感を鮮度が良いと好む(勘違いしている)ので、K値である頂点のAMPにいくちょっと前の段階で料理人が刺身としてお客様に出すことをよく見かけるが、実はこの段階(死後硬直)までは身の味はしない。

 また、PHはアルカリ性なので味に関しては美味しいとはならず、不味いとなるはずだが、これを醤油や紅葉おろし等の調味料で誤魔化していることが多い。

 本来は、頂点のK値をちょっと過ぎた段階で、お客様に提供することが好ましい。

 特に硬直した魚は、硬いだけでうまくない。

     ギンポの硬直比較写真です。「夏の代表的な天ぷら食材江戸前の逸品」

 養殖業者に多く見られるが、鮮度保持で売ることが、魚の味を良くすることではない。味の良いものを売らないと魚屋の将来はないと思う。

 ちなみに養殖の魚は大海で運動をしていないので、細胞組織の繋がりが弱く、ATPからAMPまでの変化が早い。舌触りがネットリとして身が柔らかい。脂も乗る。K値の曲線はシンメトリー(対称)となるので、K値(死後硬直)までの時間が早く短いということは、頂点のK値からHx(腐敗)までの段階も早い。

 したがって、天然と比べて養殖は持ちが悪い、という理由がここにある。温度が0で酵素の働きがほとんど止まるので、氷で0まで冷やして輸送させることが鮮度を保持する(腐敗させない)ことにつながる。

 また、冷やすと細胞が細くなり、身も引き締まる。固くなりすぎるという欠点もある。

 さきほど、PH(ペーハー)の話をしたが、魚のPH7.1である。魚が暴れると尿酸値が上がるとPHは低く落ちる。PH5で魚はエサを食べなくなる。PH6以下では美味しくない魚とされ、低いほど味がなくなる。

 とはいえPH7.1を上回っても、魚の味は美味しくはないということも知っておいて欲しい。

 注意して欲しいのは、魚を獲るときは、魚を暴れさせてはいけないということだ。静かに、穏やかに、苦しませずに獲ってあげるのが良い。

 PHが低いとATPからAMPまでの変化も早くなってしまう。

 したがって、獲ってから水槽で一日休ませてから〆ると、もとのPHに戻るので良い。

 養殖のタイは、関東の小売店に売られるまで36時間、ずーっとカゴに入れられている。そのため身が白く悪い。産卵期の浅瀬にいるタイはこの色であり、4月のタイの色である。

 カゴから生け簀に出してからは、一日自由にさせて落ち着かせ、PHを元に戻すことを行う方が良い。

 関西のタイは生け簀からその都度取ってくるので、身が飴色で良い。

 魚は脂がのると黄色くなる。冬場のタイは海の深いところにいるので、身がクリーム色となり良い。

 余計な話もしたが、鮮度と旨味の認識の違いを分かってもらえたであろうか。

 K値は鮮度の求め方であり、旨味の求め方でないことは分かって欲しい。

 

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魚の旨み7 熟成とK値②

2022-05-27 14:24:54 | ムラマツ式 魚の話

横浜中央市場 水産物部仲卸 村松です。

 魚の熟成について説明しています。

(2)熟成とK値②

 前回で、分解される速度は魚種によって異なるが、イノシン(HxR)までの経路は一定であると書いた。

図を使って説明したい。

 魚は〆てから以下のように変化する。

 アデノシン三リン酸(ATP)は、全てのエネルギーの元であり、ATPの消滅は完全な死を意味する。

 魚は死後、体内酵素の働きによりATPADPに分解変化し、更にAMPへ分解変化して、ATPが完全になくなり完全な死を迎えて死後硬直の状態となる。

 そして、さらにイノシン酸であるIMPへと分解変化するのである。この段階でグルタミン酸を足すと味はさらに増すが、勘違いしてはいけない。

 AMPからIMPの段階が熟成ではない。ここを間違えてはいけない。

 ここまでは核酸系の旨味成分であり、本来の熟成は次の段階である。HxRとなって、一旦無味になってから、これ以降の段階でたんぱく質が様々なアミノ酸に変化し、味が多様化する。

 いわゆるアミノ酸系の旨味成分に代わることが本来の熟成である。そしてHxRHxという臭み成分に変わっていくと腐敗になる。

 ちなみにヒラメやタイは、IMPがずーっと残っている(一週間はある)。したがって、Hxに変化しずらいので味が長く持ち、これが「腐ってもタイ」という語源である。タラに関しては2日後には無くなっている。

 IMPからHxRに代わる線を日本では鮮度とされているが、外国人の鮮度の感覚は、Hx=腐敗が鮮度の最終線であり、腐敗して食べられなくなるまでが鮮度という認識である。

 これが日本のお店の売場にならぶ鮮魚と、外国のお店の売場にならぶ鮮魚の違いになっている。

 そうなんだょ、日本人は鼻つまんでさかな食わないからなぁ・・・。

次回はもうちょっと深めます。

 

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魚の旨み6 熟成とK値①

2022-05-22 18:17:41 | ムラマツ式 魚の話

横浜中央市場 水産物部仲卸 村松です

(2)熟成とK値①

 日本人は鮮度の良い魚を好む傾向にある。この鮮度は、K値という数値で表すことができ、値が小さいほど鮮度が良いことを示す。

 まずK値とは何か。

「魚の鮮度を示す生化学的な指標の一つ.鮮度が落ちるに従ってATPが減少し,AMPやイノシン酸が生成することを指標とする。」 ネットでK値と検索すれば出てくるはずだ。

 このK値を式で表すと以下になる。

 K値は、ATPと体内酵素によるATPの分解生成物全量(ADP+AMP+IMP+HxR十Hx)に対する(HxR十Hx)の割合である。

 魚の筋肉中には、アデノシン三リン酸(ATP)という運動のエネルギー源となる物質があり、魚の死後には体内酵素の働きにより、次のように分解されることが明らかになっている。 

  (この分解プロセスは、広島県食品工業技術センターでも紹介している)

 ちなみに、イノシン酸(IMP)に変わる前までは無味であり、イノシン酸(IMP)で旨味という味がつく。そして、イノシン(HxR)へ変化するとまた無味に戻る。

 分解される速度は魚種によって異なるが、イノシン(HxR)までの経路は一定である。 

 難しい話が続いたちょっと休憩。

 昔ブラックエンペラーに追いかけまわされていたころが懐かしい。

 真剣に仕事をしていたから、いつの間にかこんな難しい算式を覚えてしまった。

  次回は魚を締めてからの変化を説明したい。

 

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魚の旨み5 うま味成分 グアニル酸

2022-05-18 11:46:51 | ムラマツ式 魚の話

横浜中央市場 水産物部仲卸 村松です。

 魚の旨みについてお話ししています。

グアニン酸(グアニル酸)

 干しシイタケに含まれる成分で、ニンニクにより増強される(引きだたせる)。

 ちなみに生シイタケ含まれているのは、グルタミン酸である。グアニン酸が含まれている食材は少ない。

 干しシイタケを約5くらいの冷蔵庫で水戻しすることで、より強く感じることもできようになる。アミノ酸系のグルタミン酸を含む食材と組み合わせて使うことで、相乗効果を得る。

  つまりグルタミン酸だけが多かったり、イノシン酸ばっかりだと直線的な風合いの味になってしまい、味の深みがなくなってくる。

 もちろんグルタミン酸とイノシン酸だけで満足はできても、大満足にはならないだろう。

 これにグアニル酸が一緒になってくると、より良い味に仕上がってくる。

(日本うま味調味料協会)

 

 食材の選択も調理方法も、それぞれの持つ旨みを知り、調理を通じてそれをバランスよく引き出していくのが、まさしく調理人の力だろう。

 調理しているときのカッコよさが先に立つようでは、料理人としては中途半端となる。魚にしても肉にしても、その食材を見極め、最高のうまさを引き出して提供する。それを口に入れた時のお客の満足顔を、材料を見た時に想像してもらいたいものだ。

 店先で忙しくしているときに、あーたらこーたら説明している暇はない。

 プロの買い出し人なら、そのあたりを理解してから来てもらいたいものだ。

 

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魚の旨み4 腐敗する

2022-05-15 10:04:41 | ムラマツ式 魚の話

横浜中央市場 水産物部仲卸 村松です

 これまで魚の旨みとは何ぞやということを、魚屋や料理人に向けた話を伝えたいため、いろいろと書き連ねている。

 前回、イノシン酸の説明で腐敗に触れたので、少しだけ説明したい。

「腐敗するという現象」

 多くの細菌は10℃以下で増殖は低くなり、-15℃以下で停止するとされている。ご家庭では、10℃以下は冷蔵庫内の温度、-15℃以下は冷凍庫内の温度となっているだろう。

 ただし、-15℃以下でも細菌は死滅しているわけではない。したがって、温度を高くすると増殖をはじめる。食中毒に関する細菌は、人間の体温に近い約35℃が最も増えやすいとされる。

 細菌を死滅させる方法で最もポピュラーなのは、加熱である。食品の中心部温度を75℃で1分間以上、しっかりと加熱することが必要だ。また、ウイルス対策においては、約90℃で90秒間以上の加熱が望まれる。

 しかし、80℃前後になると、魚は臭みが出てくることが多い。

 このため、昔は臭みを出さないようにするため、90℃以上になるように加熱していた。獲れてから調理に取り掛かるまでの時間が昔と比べると劇的に短縮され、鮮度の良いまま調理に取り掛かれるようになっている。

 さらに調理の技術、調理設備の改良がされているため、適した温度帯で調理することができるようになってきている。これをもとに、「臭みの出る80度前後の温度帯を避けて調理する工夫」が加わり、味の出し方、うま味の引き出し方にバリエーションがもてるようになってきている。

 ちなみに臭みのもとになるのは、魚の脂、雑菌、水、魚の食べているエサに起因することが多い。近年、脂のある魚が好まれており、脂の多いサケ、ブリ、サンマ、下りガツオ、サバの消費量が多く、日本人の魚離れを抑えている要因である。

 特にサケ(サーモン)は、海のない地域でも養殖(陸上養殖)が開始されおり、今後も消費量は増えるであろうが、やはり調理の段階で、臭みを抑える工夫も忘れてはならない。

 しょうがを利用して臭みを抑えるというが、臭みを誤魔化すことはできるが消臭ではない。消臭は酒(日本酒)で行うことが一般的である。

 臭みの一番の原因であるのは雑菌で、ヒレに多くいる。したがって、魚をよく洗いぬめりを取ることが最良である。

 鮮度が良い魚は香りも高い。魚の香りは温度(熱)に弱く、生で食べる日本人だからこそ分かる感覚であろう。加熱調理が基本の外国では、魚の香りを楽しむという感覚がない。

 彼らにとって、これまで経験したことのない感覚なので、和食や刺身が注目される要因の一つになっているのではないだろうか。

 魚は、香りを通じてほのかに潜む味を感じ、楽しむもの。魚のおいしさの究極は、まさしく香りにあると思う。

 この香りを利用すれば、魚(魚料理)はいくらでも演出ができる。肉からは香りは出ず、香りで肉料理は演出できない。

 ちなみに魚を熟成させると香りはなくなる。一方、肉と違い魚の脂は味がなく、どの魚の脂も基本的には同じである。

 また、魚の脂は寒くても溶けない。だから冷たい海でも自由に泳げるのである。

 

次回はグアニル酸に少しだけ触れたい。

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