魚のおいしさは、次の5段階で、順番に感じられるものである。
魚を料理に使う場合、この5段階のどこを売りにする料理なのか、どこに力点を置くのかが大切である。いわゆるどこで勝負する料理なのか(五味の説明ではない)。
食べ始めから終わりまでを上げると、次のようになる。
①見た目、②香り、③(口全体での)食感、④(舌で感じる)味、➄(飲み込んだときの)余韻
まず、魚の色つやがきれいで、程よく形が整っていれば、それだけでおいしそうに感じられる。これが血だらけだったらどうだろう。
「この魚を料理します:と目の前で見せられた時、血だらけ・・・。まあ普通の料理人ならそんなことはないでしょう。
なので、目の前に出された料理の見た目。
出来がよくない? 盛り付けが雑だったり見た目だけで食欲を損なったり、まず第一に入ってくる情報だ。見た目の印象が悪ければ、食べようという気持ちもなえてくる。
次に香り。2番目に感じるのは、その香りである。香りが最も脳を刺激する。
香りでおいしさを感じる食材の代表格はマツタケである。
実は、マツタケは身を食べてもそんなに味はしない。あの香りと希少性による価格でおいしさを感じるのである。
国産マツタケの香りは随一であるが、外国産マツタケに香りスプレーをかけておいしさを増して販売させて販売している様を見かける。
魚に関しては、血から香りがでる。獲ってすぐ血を抜くと、保存は良いが、見た目と香りが損なわれることになる。日本人は鮮度を好むので、獲ってからすぐ血抜きを行うことが近年多いが、そこで、香りが失われてしまう。
したがって、消費者が香りの良い魚を見かけることが近年は少なくなっている。
3番目には口全体での食感である。
3番目が柔らかさやコリコリ感などの食感。香で脳が刺激された後で、食感が反応してイメージが形成される。
近年、日本人に好まれるのはコリコリ感であり、鮮度を保つのが好まれる。しかし、食感はコリコリの他に、厚みや冷たさ・暖かの温度によっても違ってくる。お客様にどのように味わってもらいたいか、その魚はどのように食べてもらうのが良いか、これは目利きによる魚の状態によっても違ってくる。
その魚をどのような漁法で獲り、どのような状態になっているかの目利きができなければ、食感を引きだたせることはできない。
4つ目は味。まさしく下で感じる味。ここに5つの味が来ている。
旨味は魚の口意に入れ、舌で感じる。
獲ってからすぐに血を抜く手法は、鮮度は保てるが旨味をなくすというデメリットもある。
鮮度の良い白身魚に味(旨味)が感じられないことがあると思うが、何でもかんでも取ったらすぐに〆て血を抜く、まさしく馬鹿の一つ覚えをやってしまう結果が、うま味をもたらさないということになってしまう。
鮮度を優先した結果である。
鮮度の良いヒラメの薄造りなどは、味がないからポン酢で食べている。
人間が感じる5つの基本の味は、①甘味、②酸味、③渋味・苦味、④塩味、➄旨味である(中国は生ものを食べない文化なので辛味がくるが)。
料理人には、旨味を引きだたせる技術を持って魚に接して欲しいと思う。
最後の5番目は、飲み込んでからの余韻である。和食の澄まし汁等のみ終わった後に感じるふわーっとしたものである。余韻は骨から出る成分が関係する。魚を獲ってからすぐに骨を外すと余韻のない魚となってしまう。
ちなみに、この余韻はすーっと消えるものである。喉の奥に余韻がいつまでも残っていることがあると思うが、それは化学調味料のせいである。化学調味料の味に慣れ切ってはいないか。
魚には、「新鮮さ」という思い描くおいしさもあれば、熟成させた「食べ頃」を舌で味合うおいしさもある。魚は海で食べている餌の状況によって身質が違うし、魚の種類によっても熟成される時間が変わる。血合いの部分が平均20%ある赤身に分類されるイワシやサバは、白身魚に比べて熟成の時間も短い。