昨日、寝るときにどういう訳かしきりとジョーンズさんの事が思い出されたのよね。ジョーンズさんは、私が結婚前に勤めてた会社の上司で、家族で赴任していたイギリス人だった。私は3年程で退職してヨーロッパに遊びに行ったんだけど、その後もクリスマスカードの交換が続き、それは彼が定年退職後、イギリスに帰ってから亡くなるまで続いた。私は彼から英国人とはどういうものかを学んだと思うわ。
海の見える小高い丘の上に住み、勿論ガーデニングが趣味。特にバラがお好きだった。誰かが彼の執務室に入っていくと、必ず"What can I do for you?" と笑顔で言いながら招き入れ、何か難しいことが起きると"Dear me, dear me, life is hard!" と言ってたわ。パイプを好み、甘い臭いをたゆらせながら、仕事をしてたのを思い出す。今、そのタバコの匂いまで感じた気がする。何時も全てのことを"properly"に行い、実施する、というのが口癖のようだった。そう、だから私も物事を"in proper manner" にするのが好きになったわ。正しく、だけでもなく、proper way よね。
それから、紳士のスポーツ、サッカーとラグビーがお好きで、雨でもやるのは当然だった。KRACという主として外人向けのスポーツクラブの会長も勤めて(ネームプレートがクラブにあるの)、ラグビーは審判員の資格を持っていたわ。ある日、仕事中に郊外のラグビー場に連れていってくれたの。当時ニュージーランドのオールブラックスが来日中で、その練習試合の審判をするため抜け出したのよね。それが私のラグビー観戦の最初だった。彼が南アに転勤後来日時に連絡があり、会った時も、奥様が、「腰痛があるのにまだラグビーを続けてて、汚いウェアの選択が大変」とこぼされていた。趣味に生きる、だわ。
イングランドがイギリスを指すというのは間違い、というのを教えてくれたのもジョーンズさん。封筒の宛先にイギリスという意味でEnglandと書いていたら、違うって、英国という場合はG.B. とするべきだ、と。そこで初めてスコットランド、ウェールズ、アイルランド、そしてイングランド4っつ合わせて英国、つまりG.B. Great Britain だって知った訳。
質素で経済観念が優先的だったけど、決してケチではない。クリスマスカードも多分大量に発送していたとは思うけど必ず船便で、11月にはもう届いてたわね。頂いた色んなクリスマスプレゼント、私まだ持ってる。石鹸は使ってしまったけど、外箱は大分長いこと使ってた。彼の眼鏡は揺りかごから墓場までのイギリスだからか、健康保険で作れるとかで、車はカローラで燃費にご満悦、イギリスに持って帰りたいともいってたわ。食器洗いの洗剤もガソリンスタンドでポリタンクで買ってたのよね、経済的だって。その後私が退職してイギリスに行った時には、彼は日本にいて不在だったけど両親の家に泊まるよう手配してくれて、何日か泊めて頂いたわ。バス停までご両親が迎えに来てくれた事を思いだした。トライフルってお菓子の作り方を教えていただいたり、ね。
ジョーンズさんは奥様に先立たれ、腰痛でラグビーもままならぬ状況の中パーキンソンを発症、ある日お嬢さんから亡くなられたとの手紙がきたのよね。直ぐにお花をネットで送ったら、墓地でお供えしてくれた写真を頂いたわ。
今でもあの"Dear me, dear me, life is hard, "と言う声がきこえるわ。ジョーンズさん、会いたいわ。