黒の国のエディア⓭/20

カサバ村は今日も白黒の風景が広がり、黒と白の微妙なコントラストが息づいていた。エディアは、いつものように静かに村の広場を歩いていた。10歳の小さな魔女である彼女は、無口で人前であまり感情を表に出さない性格だが、心の中ではさまざまな思いを巡らせている。

「姉さん、また市場に行くの？」エディアは、近くで大きなカゴを持っている姉のシヴィーに声をかけた。彼女は17歳で、容姿端麗で、村の男性たちの憧れの的だった。

「そうよ。今日もグレゴールおじいさんのお店で新しい魔法の道具を見つけられるかもしれないし、赤龍亭でフェリンスさんが作る特製スープを買って帰ろうと思ってね。」シヴィーは笑顔で答え、手を振った。「エディアも一緒に行く？」

エディアは少し考えてから、首を横に振った。「今日は行かない。まだ魔法の練習をしたいから…」

シヴィーは軽く肩をすくめた。「そうね、無理強いはしないわ。でも、あんまり遅くならないでね。夕方には戻ってきて。」

エディアは頷き、シヴィーを見送った。その後、彼女は市場に行く代わりに、カサバ村の近くにある森に向かうことにした。静かで落ち着いた森の中で、彼女は心を整え、魔法の練習をするのが日課だった。今日は特に、姉から習い始めた攻撃魔法の威力を少しでもコントロールできるようになりたいと思っていた。

### 森での出会い

森の中は、黒い木々と白い葉が風に揺れる音だけが聞こえる静かな場所だった。エディアは小さな手を広げ、集中して魔力を集めた。彼女が練習しているのは「炎の矢」と呼ばれる攻撃魔法で、通常は相手に向かって火の矢を飛ばすものだ。しかし、エディアが使うと、その威力が尋常ではなく、木々を焼き尽くしてしまうこともあった。

「炎の矢…」彼女は小さく呟き、手のひらに火の玉を作り出した。しかし、思ったよりも大きくなりすぎてしまい、すぐに消し去った。「また失敗…」

そのとき、森の中から誰かが彼女を呼ぶ声がした。「お嬢ちゃん、また魔法の練習かい？」

エディアは振り返り、見慣れた小さな影が近づいてくるのを見た。それは、シースクワット・エリ・ポンジャット、小人族の冒険者だった。彼はエディアとほぼ同じ背丈で、陽気な性格が特徴の男だ。

「こんにちは、エディアちゃん。今日は何をしているんだい？」エリはにこやかに話しかけた。

「攻撃魔法の練習をしているんだけど、うまくいかないの。」エディアは小さな声で答えた。

エリは軽く笑った。「そうか、それは大変だね。魔法ってのは、集中力とコントロールが大事なんだ。おれも剣術や弓術を練習してきたけど、何でも思い通りにいくわけじゃないさ。でもさ、一つ言えることがある。」

「何？」エディアは少し興味を持って彼の方を見た。

「一人でやるのもいいけど、たまには誰かに手伝ってもらうといいんだ。そうすれば、違う視点から自分のやり方を見つけられることがある。」エリはそう言って、ポケットから小さな短剣を取り出し、見せびらかすようにクルクルと回した。

エディアはしばらく考えた後、頷いた。「そうかもしれない…。ありがとう、エリ。」

「どういたしまして。じゃあ、また村で会おうな！」エリは元気に手を振り、森の中へと消えていった。

### 市場での出会い

その後、エディアは村に戻り、魔法の道具を見に市場へ向かった。そこには、グレゴールおじいさんの店があった。グレゴールはカサバ村で一番の魔法の知識を持つ老人で、エディアにも魔法の基礎を教えてくれた恩師だ。

「よう、エディア。今日は何か探し物かね？」グレゴールは店の奥から顔を出し、彼女に声をかけた。

エディアは少し迷った後、「攻撃魔法の威力を少しでも抑えるための道具があれば…」と、恥ずかしそうに呟いた。

グレゴールは深く頷き、しばらく棚を探し始めた。「ふむ、それなら…これがいいかもしれない。」彼は古びたペンダントを取り出し、エディアに差し出した。「このペンダントは、魔力の流れを調整してくれる。集中して魔力を込めると、必要な量だけを引き出してくれるんだ。」

エディアはそのペンダントを手に取り、じっと見つめた。黒と白の石がはめ込まれた美しいデザインだった。「ありがとう…でも、私に使いこなせるかな？」

「もちろんだとも。お前ならできるさ。」グレゴールは優しく微笑んだ。「失敗を恐れるな、エディア。魔法使いというのは、失敗から学び、成長するものだ。」

エディアはその言葉を心に刻み、ペンダントを首にかけた。何となく、少しだけ自信が湧いてきたような気がした。

### セラーとの再会

市場を出ると、セラーがこちらに向かって駆けてきた。「エディア！お前、何をしていたんだ？」彼は息を切らせながら笑顔で問いかけた。

「ただ、少し買い物をしていただけ…」エディアは素っ気なく答えたが、セラーは気にせずに笑っていた。

「いつも無口だな、エディア。でも、今日はちょっと嬉しそうに見えるぞ。何かいいことでもあったのか？」

エディアは少し戸惑ったが、「うん…少しだけ自信がついたから…」と、小さな声で答えた。

セラーは大きく頷き、エディアの肩を軽く叩いた。「そうか！それは良かった！じゃあ、これからもっと強くなって、俺と一緒に冒険に行こうぜ！」

「冒険…？」エディアは驚いたように彼を見つめた。

「そうさ！俺たちはまだ子供だけど、いつかきっと世界を旅するんだ。そして、村のみんなを守れるくらい強くなるんだよ！」

エディアはセラーの言葉に少し驚きつつも、心の中で温かい何かが芽生えるのを感じた。彼の無邪気な言葉に、どこか未来への希望が見えた気がした。

### 新たな決意

その夜、エディアは姉のシヴィーと夕食を囲んでいた。タマ吉も膝の上で丸くなっていた。

「今日は、少しだけ成長できた気がする…」エディアはふと、姉に打ち明けた。

シヴィーは優しく微笑んで、「そう、エディアはどんどん強くなっているよ。私も誇らしいわ。でも、焦らずゆっくり進んでいこうね。」と言った。

エディアは小さく頷きながら、心の中で新たな決意を固めた。彼女はまだ10歳の小さな魔女だけれど、いつかきっと自分の力でこの村を守り、そして姉や友人たちと共に新たな冒険へと旅立つ日が来ることを信じていた。