白の国の青々とした草原に、一行は息を殺して進んでいた。エリオン、セリカ、ダリス、そしてロキの四人。彼らの足元に広がる白い地は、美しいがどこか冷たい。これまで仲間としてともに旅をしてきた彼らだが、心の中にはそれぞれ不安と疑念が入り混じっていた。
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前話の終わりで、彼らは灰色の地で魔族に遭遇した。戦いは激しく、命を落とす危機にも直面したが、何とか生き延びることができた。しかし、エリオンの心にはある疑念が芽生えていた。ダリス――自分が信頼していた仲間が、魔族と密接な関係を持っている可能性が浮上したからだ。
「どうして、ダリスが?」エリオンは頭の中でその疑問を繰り返したが、ダリスの普段通りの振る舞いに、言葉を飲み込むしかなかった。
セリカは違っていた。彼女はダリスの行動を鋭く見抜き、彼が何かを隠していると確信していた。
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「エリオン、少し話したいの」
セリカは静かにエリオンに呼びかけ、二人は他の仲間から離れた。彼女の顔は険しく、その眼差しは迷いのないものだった。
「ダリスが怪しいと思わない?」セリカは率直に切り出した。
エリオンはすぐに答えることができなかった。ダリスの行動が最近少しおかしいと感じていたのは事実だ。しかし、それだけで彼を疑うわけにはいかない。これまで共に戦い、信頼を築いてきた仲間なのだ。
「僕は、ダリスを信じたい。彼が裏切るなんて、信じられないよ」
「でも、何かがおかしいのよ」セリカは冷静に言った。「もし彼が魔族と通じているなら、私たちは全員危険にさらされる」
エリオンは言葉を失った。彼の心には、セリカの言葉の裏にある真実への恐れがじわじわと広がっていた。
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旅の途中、一行は小さな村にたどり着いた。この村は白の国の外れにあり、灰色の地との境界に近いため、魔族の脅威も常に隣り合わせだった。
「しばらくここで休もう」ダリスが提案した。だが、その声には普段のような余裕が感じられず、セリカの疑念はますます強まっていた。
「どうしてこの村に立ち寄る必要があるの?」セリカが問いただすと、ダリスは笑みを浮かべながら答えた。「この村には、魔族について詳しい者がいると聞いたんだ」
エリオンは一瞬躊躇したが、結局ダリスの言葉を信じ、村に滞在することを受け入れた。しかし、セリカは彼に対する疑いを完全には捨てられなかった。
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その夜、セリカは密かにダリスを尾行する決意を固めた。彼女は物陰に隠れながら、ダリスの動向を注意深く見守っていた。ダリスが村の外れにある古びた小屋へと足を運んでいるのを目撃したとき、セリカの心臓は激しく鼓動した。
「何をしているの…?」
彼女は息を潜め、小屋の中を覗き込むと、そこには驚くべき光景が広がっていた。ダリスが魔族の一人と密かに話していたのだ。
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翌朝、セリカはエリオンとロキに事実を告げた。
「ダリスは魔族とつながっているわ。昨夜、彼が密会しているのを見た」
エリオンは信じたくなかった。しかし、セリカの言葉に重みがあり、何かを無視することができない現実があった。ロキは冷静に聞いていたが、その瞳には危機感が宿っていた。
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「ダリス、お前は本当に…魔族と関わっているのか?」エリオンはついに問いただした。
ダリスは驚いた表情を浮かべたが、すぐにその顔を引き締めた。「どういう意味だ?」
「セリカが見たんだ。昨夜、お前が魔族と話しているところを」
沈黙が流れた。ダリスは視線をそらし、ため息をついてから静かに口を開いた。「…隠していて悪かった。でも、これはお前たちを裏切るためじゃない。俺は魔族に仕えることで、家族を守るために戦っていたんだ」
ダリスの告白に、エリオンとセリカは息を呑んだ。
「魔族は俺の家族を人質に取っているんだ。俺には選択肢がなかった。従わなければ家族を殺される…だから、俺は奴らに協力していた。でも、俺は今、越強者になることで家族を解放し、魔族を倒すつもりだ」
エリオンはしばらく黙って考えていたが、ついに決心を固めた。「…僕はお前を信じる。過去じゃなく、今のお前を」
その言葉に、ダリスの目には涙が滲んだ。セリカも深いため息をついてから言った。「まだ完全には信じられないけれど…これからの行動で証明してもらうわ」
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こうして、一行は再び団結し、旅を続ける決意を固めた。しかし、この先に待ち受ける試練は、これまでのどんな困難よりも大きなものになるだろうということを、誰もが感じていた。
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### 続く
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