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2022年に没後100年を迎える森鴎外。森鴎外が文壇に再デビューした明治四十二年末以降の全創作(小説、戯曲のみ)を時系列に読んだメモ。(テキストは『鴎外全集(岩波、1971~75)』)
大塩平八郎(T3)・・鴎外は平八郎を米屋こわしの雄であり、その思想は、未だ覚醒せざる社会主義とする。平八郎が生き延びる選択をした理由を鴎外流に書いてほしかったが、、。
堺事件(T3)・・封建制下の武士の論理と対外関係を配慮する新政府の論理の間で翻弄される土佐藩の下級藩士。後年、彼等が「御残念様」と「生運様」と呼ばれて参詣されるのが何とも皮相だ。
曽我兄弟(T3)・・鴎外が自身の考えのもと曽我兄弟を改作した歌舞伎脚本。私は曽我物語といえば、『対面』しか知らず、この『敷皮の五郎』を知らなかった。
安井夫人(T3)・・後半は史実ばかり書いているのに前半が生きていて妙に心に沁みる話だ。鴎外がお佐代の一生を振り返る一節は透徹していて出色。
栗山大膳(T3)・・江戸初期の黒田騒動を扱う。非は概ね主君黒田忠之にあり、栗山大膳の深謀が福岡藩を救ったと言える。鴎外は出来映えに不満らしいのだが、そういえば話にテンポが欠けるしスリリングじゃないかなぁ。
山椒大夫(T4)・・著名度では『高瀬舟』と一二を争うだろう。安寿が次第に覚悟を決める緊迫感と厨子王との別れの件りが白眉。二人の会話が日本語として美しい。掛け値なしの名作。(溝口映画(昭和29年)は見ていないが、安寿役は香川京子。聡明感があり適役じゃなかったろうか。)
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